図書館-J

自分の為に、読んだ本の感想メモ

本と出合いを大切に

『日本沈没(上)』/小松左京

2006-07-31 13:42:21 | 小松左京
【2006.7.31】
小松左京『日本沈没(上)』再読了。(2度目)
(光文社文庫)

何故再び読む気になったかって、映画化のせいです。

どうでもいい話ですが、僕が持ってる本は「光文社」の文庫です。
でも、映画化に伴って最近発売されたのは「小学館」の文庫なんです。
なんで出版社が変わってしまったんでしょう?
何か違いがあるのかと、小学館文庫の方を少し立ち読みしてみたら、最初に著者の言葉がないですね。光文社文庫の前書きには、小松さんが「阪神大震災」に言及したコメントがあります。(震災の後に光文社文庫で再版されたんですね)

さて感想。まだ上巻だけですが。
再読というのもあってか、あんまりドキドキ感がなかったです。
5年ぶりくらいですが、けっこう覚えているもんですね。

▼主人公
意外と影が薄かった。
いや、この話の主人公って別に小野寺じゃないのか。
下巻でどんな活躍してたっけ?覚えてないなぁ。

▼探査
潜水艇の描写がいまいちつかみにくかった。
バラストとか専門用語もあって、ややこしや。

▼沈んだ島
大長編『ドラえもん雲の王国』の冒頭を思い出した。
似てる!

▼時代設定が古い
小松さんの作品、いつもこれがひっかかる。なんとかしてうまく受け入れたい。
でも、ヒッピーなんて見たことないもん。ゲバ学生って何さ?

▼地震
関東や関西が大被害です。
東海は?

▼竹内均
田所博士の解説で使われた図は、竹内均さんの著書を参照とのこと。
おぉ、知ってる名前があるのは面白い。以前は気付かなかった。


さてと。
速やかに下巻を読んで、出来たら映画を見に行きたい。

『アミターバ 無量光明』/玄侑宗久

2006-07-17 11:25:11 | 玄侑宗久
【2006.07.14】
『アミターバ 無量光明』読了。(新潮社)

読み易い本でした。
短かったのもあるけど、あっという間に読み終わりです。

▼主な印象
著者が僧侶なんですね。
内容もお坊さんらしい、「死」に関する物語。

主人公は、病院に入院中の「私」(女性)です。
「私」の娘の嫁いだ先がお寺であるため、義理の息子がお坊さん。
そのお坊さんとの会話が面白い。
入院中の「私」に向かって、てっきり宗教めいたことばかりノタマウのかと思いきや、量子やら波動関数やら、アインシュタインにテレポーテーションも話題にのぼります。
別に詳しく書いてあるんじゃありません。素人の雑談程度ですが、坊さんがそんな発言をすることに面白さを覚えます。

▼文章
最初、分かりづらい表現があって、ファーストインプレッションは良くなかったです。
「私」がどんな人物なのかを捕らえるのに時間がかかったのがマイナスポイントです。
ただ、読み進めるうちに、そーゆーのも気にならなくなり、さらさら読めました。

それから、時系列に不満。
「私」のボケが一番の原因なのでしょうが、
出来事が飛び飛びに述べられて、どれが「今」なのか?どこからが思い出なのか、が紛らわしかったです。

▼気に入った一節
「私」の思考です。
"つまり慈雲さんという人は、経典を鵜呑みにしたくはないのかもしれないが、それでもなんとかして経典の話を信じようとしているのではないか、量子の話もそのためにこそ必要なのではないか。"

慈雲さんてのは、例のお坊さんです。
いやはや、そうなんですよね。
地獄とか三途の川とか、そんな宗教めいた話なんて、信じる根拠が薄弱なんです。でも坊さんはそれを受け入れなくちゃいけない。
信じるための根拠として、現代科学を頼ったっていいじゃないか。
坊さんだって、迷うんです。
生きることは迷うことです。そして、それが喜びなんだと思います。

▼終盤で
《以下大きな(?)ネタバレを含みます》



といっても、別にこれを知ったからといって問題ないとは思うんですが・・・。

ま、当然「私」は死んでしまうわけですが、死んでからもきちんと意識体が残っており、家族や自分の葬式の様子を覗き見してるんです。
そのときの、「私」の達観したというか、未練の無い心持が印象的でした。

▼宗教と科学についての考え方
ついでに、僕は「あの世」とか「死後の世界」を信じていません。
ってか、全然実感が無いです。
死んだらそれでオシマイだと思います。

本編では、死んだら魂の分だけ体が軽くなるなんて話もありましたが、そんなオカルトチックな話、鼻で笑っちゃいます。
でも、そこから話が発展して、その数グラムが大量のエネルギーを潜在している、という話はとても興味深かったんです。いわゆるE=mc^2の式がベースです。えらくもっともらしく聞こえました。ちょっとは信じるのも悪くないかなと思えました。

でもね、科学と宗教の同時解釈をしようとすると、どうしても陥ってしまいそうなのが、いわゆるオカルト方面です。UFOとかポルターガイストとか、ネッシーとか。科学が万能だとは言いません。でも、はっきり科学で裏づけがとれない対象を、信じ込むのはとっても危険です。アブナイ妄想になってしまいます。

できるだけ、冷静に、確実に、宗教の科学的解釈ってのをしてみたい。

『M8 エムエイト』/高嶋哲夫

2006-07-12 10:18:36 | 高嶋哲夫
【2006.07.09】
高嶋哲夫『M8 エムエイト』読了。(集英社)

タイトルに惹かれてこの本を手に取りました。
『M8』は「マグニチュード8」のことです。つまり地震の話。

東京直下の地震が起こる。
そして、その地震の科学的予知が中心です。
さらに、地震後の様子も丁寧に描かれています。

▼構成
「予知」→「発生」→「対処」とバランスのいい構成でした。

中でも、地震が起こった瞬間の出来事が、複数の視点で描かれているのが印象的です。
こういう描写ってありそうでなかった。下手に描写が散ってしまうと、主人公の影が薄くなっちゃうから危険だからなのかもしれません。
でも主人公の視点だけじゃ、地震の規模と恐さは半減です。地震の被害を複数の視点で、複数の状況が描けているのはポイント高いです。地震は個人だけのイベントじゃないんだから。
その点、この話は上手くバランスが取れてたんじゃないかと思います。

ただ、地震を丁寧に描いたためか、とてもシンプルな印象が残りました。いまいちハラハラドキドキが無く、のめり込めなかった。人間ドラマとしてインパクトに欠けた感じ。
まぁ、この本の位置付けを、純粋に地震小説とすれば全然問題ありません。

▼東海地震
これから起こるであろう地震で一番話題性のあるのは、やはり東海地震でしょう。
本編でも主人公が東京の地震を予知するのと逆に、判定委員会は東海地震警戒宣言を出し、世間の注目は東海地方へと移ります。
関東直下型地震と東海地震が連動したとすると・・・恐ろしいですね。

▼火災
木造住宅で火災に遭うのが恐いです。
そこで一番目立った「火災旋風」が気になりました。
火事で発生した上昇気流が、横からの風を受けて渦を巻き始めるような現象と読みとりましたが、理解は正しいでしょうか?

一方、工場地帯では、ナフサが燃えていました。ナフサって何?石油じゃないんだよね。時々耳にするけど馴染みが薄い燃料です。

▼石黒耀さんの『震災列島』と比べて
別の作品なので、比べられるものじゃありません。
でも、続けて同じ地震モノを読んでしまった僕は、どうしても比べてしまいます。

純粋に地震災害を描くという点では、完全にこちらの『M8』です。複数の視点からの様子がポイント高いです。ただ、原発による災害が描かれていませんでした。関東には原発、ないんですか?

予知の仕方には大きな差がありました。
『震災列島』では一般の人が主人公でした。そのためインターネットで電波や動物などの広観異常現象をチェックして、また歴史的に東海地震を調べ、予知へとつなげます。
一方、『M8』ではオーバードクターが主人公です。広観異常現象もチェックするのですが、それは参考程度。メインは、方程式をつくりスーパーコンピューターを使って具体的に、何日の何時ごろまで予知します。
科学的という点では『M8』なんですが、不思議と伝わってくる説得力では『震災列島』に軍配です。

▼必要なのは
地震に対する心構えなんですよね。
ただ、いつ起こるのかも判らないイベントにピリピリしつづけるのって、すごく難しいことだと思います。

とにかくまずは生き残ること。
喧嘩をしないこと。助け合うこと。
極限の状態ではこれが難しくなってしまうんでしょうか?

今後、この話のように、何日の何時ごろ・・・まで詳細に予知が出来るようになる日が来るのでしょうか?
予知というのは、非常にハイリスクです。一度外すだけでも、発言者の立場を危うくします。
・・・それでも10回予知して、1回でも当たれば、評価したい。