【2007.03.14】
機本伸司 著『神様のパズル』読了。
(ハルキ文庫)
第3回小松左京賞受賞作品です!
小松左京さんのファンとして、この肩書きは興味を惹くのに決定的でした。
表紙はライトノベル系かと思えるようなアニメチックな絵ですが、
この話のテーマは、「宇宙をつくることは出来るのか?」です。
壮大すぎですよね。興味津々です。
――以下ネタバレの可能性があります!――
▼タイトル
『神様のパズル』
作中で言及されるまで気づかなかった自分にショックですが、これってアインシュタインの言葉なんですね。
つい最近、アインシュタインについての調べものをしてたので、微妙にタイムリー。
(話はズレますが、アインシュタインは、「神」に関する発言を意外と多く残しています。科学を追及してると、「何か」があるのを意識しちゃうんでしょうね。)
▼登場人物たち
大学4年生の主人公。
研究室の選択の動機がまた何とも言えません。
読みながら、苦笑いしてしまいました。
そして、その一方通行っぷりにも。
17歳の天才・沙羅華。
飛び入学で若くして、主人公と同じゼミに。
主に彼女が「宇宙の作り方」に向けて突っ走るわけですが、年齢を17にする意味はあったのか。できたら普通の大学4年生にして欲しかった。
そりゃ、特別な天才ってことを象徴することは間違いないけどさ。なんていうか、いかにもライトノベルっぽい(完全に偏見ですが、ね)。
ただ、人格的な成長って展開が良い味付けになったのもまた事実。
(余談ですが、「天才」って肩書きで、真賀田四季を連想させる僕は森博嗣病です。)
▼絶滅論
P.37-38のシミュレーションで、絶滅について語られます。
これって、人類にも当てはまるんでしょうねぇ・・・
人類ってこのままでは自滅しますよね。環境破壊なり、戦争なり。あるいは知的好奇心で。
仮に世界が安定して争いをなくせたとしたら・・・外的要因(宇宙人とか!)との接触があったとき、絶対に支配される側になります。
これって避けられない運命なんでしょうか。
▼加速器
一応、僕も大学では天文学を扱いました。
だから、相対性理論くらいならイメージできるんです。
E=mc^2とか等価原理とかさ。
でも、量子力学や加速器までは、手を出してないんです。
特にストーリー中、加速器の話題が頻出しました。重ヒッグス粒子って何さ!
ここをイメージしづらかったのが無念。
▼批判的に
物理学は完璧かというとそうでもないんですよね。
科学は万能ではない。
でも、万能だと信じたくなりませんか。
いつか、物理は全てを明らかにしてくれる、って。
今の段階で、確かだと言えるような物理現象だってあります・・・が。
"物理学が正しいというのなら、とことん突き詰めたところまでさかのぼって、正しさを証明しておくべきではないのか?それがあやふやなままで、他が正しいといわれても、信用するわけにはいかない。"(P.77)
主人公はこんな風に語ります。
例えば、「虹」です。
虹のメカニズムについては説明が可能です。光の屈折とかで。
でも、じゃあ光って何か?どうして波長によって屈折率が違うのか?
「どうして?」を追求してったら、やっぱり答えられない問いが根本にあるんですよね。
(これが、所謂「人間原理」につながるのかなぁ)
▼最終理論へ
宇宙は"無"からつくられた・・・・すると、人間にも宇宙をつくることができるのか?
だって、材料は"無"なんだから。
もっともな疑問だよねー。
"宇宙は無から生まれた――。君たちはそれを無批判に受け入れているのに、じゃあ人間が無から宇宙を作ろうと言うと、それはできないと言う。何かおかしいと思わないか?"(P.76)
こうして始まった、宇宙はつくれるか議論。
そもそも始まりは"無"なのか?
しかし、読み始めて心配になったのは、このテーマを中心にもってきたということは、ストーリー的には、話のまとめとして何らかの結論を出さねばならないということです。
かといって、宇宙の謎が解けたなんて結論出したら、学生としての領分を飛び出しすぎですし・・・
全体の流れとしては、満足いくものでした。
「光子場仮説」等の登場にはビックリしましたがね。
人間が本当の「真理」を発見したら、それでおしまいだとも思います。
「真理」は発見するべきものではなく、追求するべき対象であるのではないでしょうか。
▼疑問の先に
"私が本当に知りたかったのは、自分のことだったのだ。自分は何故生まれてきたのか。何故生きているのか。こうして生きているのに、自分とは何かも分からないで私はここにいる。
(中略)
しかしそんな大事なことを、どうして誰も知らないのか。知らなくても何故、のうのうと生きていられるのか。根元的な疑問なのに、何故誰も向き合おうとしない。"(P.290)
宇宙の謎と共に、気になるのが、自分の生きる意味。
僕もよく考えます。そして結論が出ない問でもあります。
コレに悩んでる人って、意外と少ない?
長い人類の歴史の中で、この答は未だに明確には示されないのは不思議な話です。
▼表現
「フット・イン・ザ・ドア」(P.17)
初耳でした。
段々承諾させていこうっていう交渉術のようなものらしいです。
▼さいごに
ドラマ的には弱いが、哲学的には良質、って印象。
テーマは最高。
結論がモヤモヤっとしたけど、それは僕の理解力が足りないから。
人間の動きも、なかなか好印象。
重厚さは、小松左京さんに比べると断然見劣りしちゃうけど、それでも問題なし。
読んで正解って感じの小説でした。
余談ですが、この話、ゲーム化・映画化が決まっているそうです。
果たして・・・これを映像化して、面白いのかは疑問。
魅力は議論の展開にあるのに。
大衆受けを狙って、その魅力が削られそうじゃないですか?
まあ、でも宇宙テーマの作品がメディア展開されるのは歓迎です。