ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩できるか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その8

2012-09-09 | 子宮内膜症
3.専門医の育成
最後にもっとも重要なのは、重症子宮内膜症を適切に手術できる専門医です。骨盤痛の多くは、低用量ピルやプロゲスチン製剤でコントロール可能ですが、子宮内膜症による不妊や挙児希望例には手術が重要な役割を果たします。また、根治手術は現在でも子宮内膜症診療において重要な位置を占めています。

手術は、拡大視による微細な手術操作ができるという点では腹腔鏡下手術が優れており、 まずは卵巣予備能に影響を与えず卵巣チョコレート嚢胞を切除できること、そして妊孕能に影響を与える大きな病変を安全確実に切除できることが必要とされます。今後、重症例においても腹腔鏡下手術での保存手術や根治手術ができることが重要になってくるでしょう。

手術適応や術後の管理も適切にできることが必要です。完全に切除すれば子宮内膜症は治ると言う人もいますが、大ウソです。そもそも完全に切除するというのは子宮と卵巣を温存しているかぎり有り得ません。重症例に保存手術を行っても妊娠が期待できるのはせいぜい術後1~2年程度です。何年もの間、体外受精を続けた場合、妊娠する確率は低下していき、子宮内膜症は再発してしまうでしょう。

これらに対して、私ができるのはせいぜい大阪中央病院での臨床診療を通じて少しばかりの努力をつづけていくことですが、教育だとか育成だと言うのはおこがましいかもしれません。優秀な術者は育てようと思って育つものではないようです。『親は無くとも子は育つ』と言いますから・・・。(本文ここまで)
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その7

2012-09-07 | 子宮内膜症
2.産婦人科医の教育
こんなことをいうと生意気な発言だと受け止められてしまいますが、子宮内膜症を知らない産婦人科医は多いです。痛みについて十分問診をして時間がかかるのがイヤなのか聞く耳を持たない人、また腟直腸診を全くしない産婦人科医も少なくないようです。CA125が高いので(実は月経時に採血していた・・・)子宮内膜症だと言う人もいます。もっとひどいのは、我々が直腸子宮内膜症と診断したMRIを見て「直腸は正常だ。」と言った人とか、ちょっと前まで「ピルを飲むと乳がんになる。」と平気で言っていた人、保存手術をして「子宮内膜症は治りました!」という人(骨盤痛は治りませんでしたが・・・)などなど、、、。

経腟超音波で卵巣チョコレート嚢胞が大きくなって初めて子宮内膜症だと診断しても遅いのです。最初の受け皿となる産婦人科医が、骨盤痛をある程度評価して、腟直腸診でダグラス窩や直腸の硬結を診断できることは早期治療のために重要です。また、子宮内膜症が疑われる例や機能性月経困難症にも低用量ピルを投与しておけば、 子宮内膜症の発症予防につながり、ひいては重症患者の減少につながるかもしれませんし。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その6

2012-09-05 | 子宮内膜症
1.一般女性(子宮内膜症患者)の啓蒙
子宮内膜症患者になる可能性のある一般女性を啓蒙することですが、まず子宮内膜症にかぎらず、子宮がん検診、子宮頸癌ワクチン、避妊や月経時期の移動などいろんなことで相談できるかかりつけ医を見つけてもらうことです。それによって、婦人科に受診することが多くなれば子宮内膜症を早期に診断できる可能性は高くなります。

次に、『そもそも子宮内膜症という疾患は、非常に複雑なもので、診断するのが難しい』ということを知ってもらうことです。 また、『子宮内膜症の薬物療法の基本は、卵胞ホルモンの分泌と排卵を抑える』ことと、『低用量ピルがもっとも長期的に使用できる薬剤である』ということを理解してもらわなければなりません。これは、本来避妊に用いられていた低用量ピルの副効用です。

以上をまとめると、『子宮内膜症は診断するのが難しく知らないうちに進行していることもある。しかし、低用量ピルの副効用を利用して長期間安全に治療することができる。すなわち、子宮内膜症の発症予防や重症化の予防につながる可能性があるので、症状が乏しかったり、小さくても卵巣チョコレート嚢胞があるのなら低用量ピルを続けた方がよいだろう』ということになるのですが、時間の限られた外来診療で、このことを患者に理解させるのは容易ではありません。そもそも、ルナベルの適応症は“子宮内膜症に伴う月経困難症”、“機能性月経困難症”なので、子宮内膜症の発症予防や重症化予防の目的で勧めることが保険診療として正しいのかどうかわかりませんし、ピルを飲みたがらない人を説得する必要があるのかどうかとは思っていますが。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その5

2012-09-03 | 子宮内膜症
4.子宮内膜症治療の遅れ
さて、このようにして、どうにか子宮内膜症と診断されたとしても、残念ながら適切に治療されるかどうかは別の問題です。「卵巣チョコレート嚢胞があります。3cmくらいであまり大きくないので様子を見ましょう。」「月経痛は、鎮痛剤でがまんできるなら様子を見ていいですよ。」そうして月経周期が繰り返されるうちに、せっかく子宮内膜症と診断されたのに、子宮内膜症病変は増殖をくり返し次第に重症化していきます。

でも、この程度なら、まだいいほうかもしれません。手術をしたにもかかわらず、膀胱や直腸、ダグラス窩の子宮内膜症病変が見逃されてしまうことも珍しくありません。術後、症状が改善しなかったり、しばらくすると症状が再燃したりします。上手い具合に薬物療法を組み合わせれば、そういう問題点を隠蔽することもできるのですが、本質的な問題は何も変わってないですね・・・

それでは、我々は何をするべきなのか?

ここまでは問題点を提示しただけで、これで終ってしまっては身も蓋もありません。一応、なんらかの解決策を提示したいと思います。
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子宮内膜症はなぜ手遅れになるまで見つからないのか? その4

2012-09-02 | 子宮内膜症
3.子宮内膜症診断の遅れ
いざ、女性が婦人科を受診した場合でも、子宮内膜症の診断は容易ではありません。その理由の一つは、子宮内膜症病変の多くが腹腔内(卵巣、ダグラス窩、腸管など) に発生するために直接見ることができないからです。子宮内膜症の診断方法としては、問診、内診(腟直腸診)、経腟超音波検査などがありますが、卵巣チョコレート嚢胞がなければなかなか子宮内膜症と診断されないのが普通です。
痛みに関して言えば、女性が苦しんでいる症状は、月経時の痛みだけではなく月経以外の痛み、排卵時の痛み、排便痛、排尿痛、性交痛などさまざまな痛みがありますし、痛みによって生活がどの程度障害されているのかという情報も重要です。問診によって、どの部位にどのような病変があるのか、ある程度推測できるので、その情報に基づいて腟直腸診や超音波検査をすることで診断精度を上げることができます。
ところが、痛みに関して十分な問診ができる婦人科医師ばかりではありません。問診から子宮内膜症を疑って腟直腸診をすることがなければ、ダグラス窩や直腸の硬結は見逃されてしまうことのほうが多いのです。その場合、卵巣チョコレート嚢胞がある程度の大きさになって初めて子宮内膜症が診断されることになるのです。
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