矢代幸雄の『日本美術の恩人たち』より
「私は初めてタゴールさんが原家に到着した夏の夕方の光景を、今では美しい絵巻のように
思い出す。三溪園入口の紅蓮白蓮の咲き乱れた広い蓮池に沿うた道を、あの聖者のような、
背のすっきりと高い、清痩な姿、白髪まじりの長く巻いた美しい髪、その長髪と混じって頬を
覆うて垂れた長い鬚髯、そして物を奥まで見極めるような深い大きな眼、秀でた鼻、そういう
何ともいえない崇高な姿の偉丈夫タゴールさんは、三人の弟子達を従えて、しずしず進んで
来られた。まるで釈迦が佛弟子を従えて現れたようであった。・・・・・・」
注: 1916年、タゴールは初めて日本を訪れた。9月2日にアメリカヘ向けて出航するまでの約三か月間を日本に滞在した。
美術史家、矢代幸雄はこの時、東大を出て東京美術学校の講師になったばかり。タゴールと起居を共にし通訳をつとめた。