エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

TPP交渉参加と日本経済再生「ミッシングリンクに対して政府は覚醒を!」

2013-02-26 06:48:11 | Weblog
 2月23日に行われた日米首脳会談で、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉への日本の参加に向けて条件が整備されました。報道によると、政府は、TPP参加の場合の輸出拡大等によるプラスの効果と輸入拡大等によるマイナスの効果に関する統一した見解を発表すべく準備を進めており、近日中に、ネットでプラス3兆円、実質GDP0.6%上昇の効果があるとの試算を提示するとともに、3月上旬にも交渉参加表明を行うとされています(2月24日読売新聞など)。
 そこで、TPPへの参加について、日本経済の再生との関係から、政府、エコノミストを含む誰も指摘していない本質的な問題を論じてみたいと思います。結論から先に言うと、「TPP参加は日本経済再生の必要条件ではあるが、十分条件ではない」ということです。参加と同時に、一時的な効果しか見込まれない「アベノミクス」における金融政策と財政政策以外の、日本経済の再生につながる十分条件を整備しなければなりません。

 政府は、上記の十分条件に相当するものとして、6月に成長戦略を提示するとしていますが、成長戦略の力点を政府は「投資」においています。しかし、日本のような資本蓄積の進んだ経済においては、力点は投資ではなく「消費」におかれるべきであり(その理論的な説明に関しては、後述を参照)、その点に配慮していないという欠陥があります。また、デフレ脱却を至上命題とする政府の経済再生策の検討対象として意識されているのは「デフレ」への対処だけで、「流動性の罠」(その裏返しとしての「需要の飽和」。この点に関しては、クルーグマン理論の欠陥を鋭く指摘した、東京大学の吉川洋教授の最新著『デフレーション』が素晴らしい論考です)に対する対処という発想が欠けていることも欠陥です。

 この点に関しては、「エコポイント」(家電エコポイントや住宅エコポイントの発展系。http://www.smartproject.jp/ecopointを参照)やエコポイントをプレミアムとした共通商品券という有効期限付きの価値媒体の流通によってはじめて、「流動性の罠」の下でも貨幣の流通速度を上昇させ、経済を活性化して成長の基盤を形成することができます。

 政府、エコノミストなどの覚醒を促したいと思います。

 なお、以下の主張に関する詳細や裏付けとなる理論にご関心のある方は、私の論考である「スマートグリッドの経済学(その1)-金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を」(http://toyokeizai.net/articles/-/8732/)および「スマートグリッドの経済学(その2)-スマートグリッドの推進により経常収支赤字化を回避せよ」(http://toyokeizai.net/articles/-/9023/)を参照してください。

死線を超えて
エコポイント提唱者 加藤敏春

<TPP参加は日本経済再生の必要条件ではあるが、十分条件ではない>
1 前述のように、「TPP参加は日本経済再生の必要条件ではあるが、十分条件ではない」ということです。参加と同時に、一時的な効果しか見込まれない「アベノミクス」における金融政策と財政政策以外の、日本経済の再生につながる十分条件を整備しなければなりません。この結論は、次のように考えると納得していただけると思います。

<稼いだ外貨を国内で回すようにすることなくしては、過去の失敗の二の舞になる>
2 TPPに参加してアジアや環太平洋諸国の成長力の活用、それらの諸国への輸出の拡大を行うことは、確かに輸出による売り上げ増にはなります。しかし、1990年代後半以来デフレ、特に消費の構造的な減退という問題を抱えている日本経済の問題は、輸出による売り上げにより外貨を稼ぐこと自体ではなく、稼いだ外貨を国内で回すようにすることです。その「回路」が壊れたままでの戦略の展開は、2004年から07年の好況が結果として日本経済を活性化しなかったことの二の舞となります。


<経常収支赤字の場合のファイナンスをどうするか>
3 特に、2015年までに「団塊の世代」600万人が65歳を超えるという状況の下では、国内貯蓄率の低下、国内貯蓄率のゼロ化が起こる危険性があります。ISバランス論からすると、現在の日本の経常収支の黒字は、家計部門の黒字と企業部門の黒字が政府部門の赤字を補って余りあるからこそ実現されているものですが、家計の貯蓄率がゼロになるということは、企業部門の黒字が政府部門の赤字を補えない限り、日本の経常収支は赤字になることを意味します。この経常収支の赤字はどのようにファイナンスするのでしょうか。

そもそも企業部門の黒字が継続するということは、企業が資金を投資に回さないで国債に回している現状が続くことを意味しているのですが、このことは日本経済の成長、それが切り開く未来はないことを意味しています。


<国債市場の暴落も想定しうる>
4 また、家計の貯蓄率がゼロになるということは、家計の貯蓄を預かっている国内金融機関がいずれ国債を買えなくなることを意味します。そうすると起こるのは国債市場の暴落です。国債市場が暴落すれば、株式市場や為替市場も暴落することは必至です。回避する手段としては、世界最大の資金余剰国である中国に日本の国債を買ってもらうか、日銀が直接あるいは何らかの形で間接に国債を大量に購入して買い支えることですが、前者に関しては中国に日本経済の決定権をゆだねるという危険性があり、後者については円に対する国民の信任がなくなり、ハイパーインフレーションを引き起こすという危険があります。「団塊の世代」600万人が65歳を超えることは、こうした大きなインパクトを日本経済に与えるもので、この問題の解決に手をこまねいていては、TPPに参加してより多くの外貨を獲得しても、日本経済は死を迎えることになります。

<2004年から07年の好況期では、企業のコスト削減が「合成の誤謬」により日本経済全体に対してはマイナスの効果を与えた>
5 2004年から07年の好況では、日本経済は、世界経済のかつてない拡大と円安の進行という“幸運”に恵まれました。しかし、外需主導、輸出による売り上げ増を国内の成長に結び付けることはできませんでした。日本企業は「コスト削減の罠」にはまり、株主圧力の増大、新興国の台頭、資源・食料価格の急騰の下で、人件費の削減によりコストアップを吸収しようとひたすら努力しました。これは、1990年代末から2003年までのデフレ期に起こった供給過剰体質が残っていたため、各企業は販売価格の引き上げが売り上げの減少につながることを恐れたためです。

このときの日本経済においては、大企業において非正規雇用の増大とともに、成果主義の導入を広範に進めました。しかし、日本の大企業が進めたのは、本当の成果主義ではなく、成果主義の名の下に一部の人を早く昇進させる一方、多くの人材の昇進を遅らせることで全体の人件費抑制を図るというものでした。その結果、人件費抑制のため若年層での非正規雇用が増大し、若年層から中高年層への所得移転が起こるとともに、将来を担う世代の能力育成にマイナスに作用しました。また、賃金が抑制のため家計の低価格志向が強まり、ますます販売価格の引き上げが困難となりました。


<労働分配率の低下が招いた消費の低迷および企業体質の悪化>
6 この時期の象徴的な出来事は、「春闘の終焉」です。春闘は1990年代末以降形骸化が進みましたが 特に2001年以降は、ベア統一要求が断念され春闘が持っていた賃金底上げ機能が名実ともに崩壊しました。こうして賃金の下方硬直性の仕組みが次々と解体される一方、逆に、賃金の上方硬直性ともいうべき状況が生まれ、労働分配率が低下しました。低すぎる労働分配率は、需要サイドでは、消費の低迷を招くことになりました。

さらに、企業は資本をゼロ・コストで調達していることになることから、過剰投資につながりやすくなるという体質がさらに助長されました。また、供給サイドでは、人材投資の不足や労働者のモチベーションの低下が起こったのです。


<日本における成長戦略の力点は、投資ではなく消費におかれるべき>
7 今の日本には、日本企業の優れた技術力のおかげで国債となっている分を除いても400~500兆円の個人金融資産が蓄積されています。また、毎年十数兆円の金利配当も流入している状況です。この状況の下で必要なのは、外需や輸出だけに目を向けるのではなく、バランスの取れた行動、つまりデフレ、特に消費の減退という問題を直視し、民生部門において需要を喚起するとともに、消費を直接増加させるための対応です。

ちなみに、6月に策定される政府の成長戦略の力点は投資におかれていますが、日本のように資本蓄積が進んだ経済においては、最終需要である消費の拡大なくして投資の伸びに多くを期待することはできず、成長戦略の力点は投資ではなく消費におかれるべきものです。


<アベノミクスにおける金融の大幅緩和の効果は一時的であるばかりか、マイナスの効果もありうる>
8 アベノミクスにおける金融の大幅緩和は、円高デフレに対するカンフル剤としての効果はありますが、日本経済が深刻なデフレに落ち込んだ原因である需給ギャップの拡大という実体経済上の問題に対応した解決策ではないため、マクロ経済政策としての効果は一時的なものにとどまるものと考えられます。

むしろ、企業にとっては資金調達コストが極めて低くなり、事業の収益向上へのインセンティブが働かなくなるという”副作用”により、ゾンビ企業の増大など日本経済を蝕む悪性の腫瘍を増殖させることになりかねません。


<有効期限付きのエコポイントやエコポイントとプレミアム付き商品券の組み合わせが有効>
8 この対応の間で、同時並行的に前述した「回路」を回復する対応が必要となります。そのため、現在政府が行っているように、経済界に売上・利益の増大分を賃金引き上げに回すように要請するだけではなく、正規・非正規の労働者の処遇均衡を誘導すること(就業形態に関わらず、就いている職務に応じて賃金が決まる仕組み)により所得増を実現することが必要です。また、医療、介護、保育、教育、雇用サービスを充実させることで国民の将来不安を払しょくして消費意欲を回復させ、上記で実現した所得増を需要増につなげることも必要となります。
 また、私が提唱している、HEMSやBEMSの推進のための「エコポイント」(http://www.smartproject.jp/hems_bems_ecopoint)という仕組みを活用した消費の直接的な喚起策と民生部門の節電・低炭素化をも必要です。むしろ、日本経済の回生の即効性という観点では、エコポイントの活用にアドバンテージがあります。

政府が直接、間接に元本を保証している預貯金と国債に対して、物価下落率を実効税率とする貯蓄税を課して「流動性の罠」の下でも貨幣が消費に向かうようにすることが提案されています。しかし、被災地である東北にも貯蓄税を適用することは実際上困難であり、東北を除外した制度を構築することは不可能です。また、預貯金と国債に対してだけ貯蓄税を課することは、他の資産やマネーへのフライトを促すことだけになってしまうでしょう。
むしろ、東北の被災地を含む全国各地域で1年程度の有効期限の付いた「プレミアム付き東北・日本再生商品券」(有効期限を付ける代わりに1~2割のプレミアムを付加する。2009年の発行額は1,194億円)を流通させて、消費の拡大と地域経済の活性化を図ることを提案したいと思います。東北の自治体のプレミアム分の負担は、家電エコポイントや住宅エコポイントの時のように、政府が原資を負担してエコポイントにより支援すれば、各地域でその11~12倍の券面額、数兆円~数十兆円規模の「プレミアム付き東北・日本再生商品券」が流通することになります。

<有効期限付きの価値媒体の流通によってはじめて、「流動性の罠」の下でも貨幣の流通速度を上昇させることができる>
9 マクロ経済的には、有効期限付きのプレミアム付き東北・日本再生商品券」が、各家計に退蔵されることなくなく確実に流通することにより構造的な「流動性の罠」の下でも貨幣の流通速度を上昇させることができます。1~2割のプレミアムがついているので、前述の他の資産やマネーへのフライトは起こらないでしょう。そうなれば消費貯蓄選択が刺激されて消費が活性化し、さらに、企業が直面する実質利子率も上昇することにより投資需要を喚起することもできます。

 政府、エコノミストなどの覚醒を促したいと思います。
 なお、以上の主張に関する詳細や裏付けとなる理論にご関心のある方は、私の論考である「スマートグリッドの経済学(その1)-金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を」(http://toyokeizai.net/articles/-/8732/)および「スマートグリッドの経済学(その2)-スマートグリッドの推進により経常収支赤字化を回避せよ」(http://toyokeizai.net/articles/-/9023/)を参照してください。

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