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【現代思想とジャーナリスト精神】

「伊藤詩織は嘘をついている」と糾弾し続ける山口敬之の意図的な誤読が意味すること[Ⅱ] 武田砂鉄

《wezzy連載》2017.12.23
「伊藤詩織は嘘をついている」と糾弾し続ける山口敬之の意図的な誤読が意味すること[Ⅱ]
                       武田砂鉄


(承前)
②「伊藤氏は『上からの力を感じた』という表現をもって、何も具体的な問題点を示さず、『犯罪が揉み消された』と主張した」

(山口敬之「記者を名乗る活動家 金平茂紀と望月衣塑子の正体」『月刊Hanada』2018年1月号)

 山口は、逮捕状が取り下げられ、検察が不起訴としたのに「伊藤氏は『上からの力を感じた』という表現をもって、何も具体的な問題点を示さず、『犯罪が揉み消された』と主張した。警察が上からの圧力に屈して犯罪を揉み消したなら、大変なことだ」と書いているが、「何も具体的な問題点を示さず」とはどういうことか。本をちゃんと読んだのだろうか。

 伊藤は具体的な問題点を示している。

当時刑事部長だった中村格氏が自分の判断で逮捕を差し止めたと認めたこと、山口氏が以前から「北村氏」に私のことを相談していたこと、この2つの事実がわかったのは、本当に大きな進展だった。(『Black Box』P215)

 伊藤の著書に引用されている『週刊新潮』(2017年5月25日号)の記事によれば「北村氏」とは、安倍首相の一番近くにいる人物である内閣情報官・北村滋だとされる。『週刊新潮』からの取材依頼書をメールで受けた山口は、北村にその旨を伝えるためにメールを転送するつもりが、うっかり『週刊新潮』に返信してしまったのだ。そのメールタイトルは「北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。伊藤の件です」。記者から、いつごろより山口から相談を受けているのかと問われた北村は「いえいえ、はい。どうも」との対応で、相談を受けてきたことを否定しなかった。

 さらに伊藤は、中村に直接取材を試みたものの、中村が乗る車は猛スピードで逃げていった。「人生で警察を追いかけることがあると思わなかった」とは伊藤の弁。これらの動きを知ってなお、「何も具体的な問題点を示さず、『犯罪が揉み消された』と主張した」と言い切る山口が正しいと思う人はいるだろうか。

 今回の原稿で山口は、金平と望月を指差し、「視聴者・読者・国民に求められているのは、『エセ記者』『エセ情報』を看破し葬り去る観察眼である」と原稿を締めくくった。指差す相手は違うが、山口の見解自体には同意する。視聴者・読者・国民に求められているのは、『エセ記者』『エセ情報』を看破し葬り去る観察眼だ。双方の筆致を読み比べれば、誰が「エセ」なのかはすぐに分かる。(了)

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著者紹介:武田砂鉄
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。
@takedasatetsu
http://www.t-satetsu.com/

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