●五●
「黒馬」を一杯のんでからログインし、森に降り立つと
そこらじゅうの木々に多くのキャラ達が座っていた。
観客である。
6人だけが下で待っている。それぞれの武器を地面に突き刺して。
俺のマシンの都合で6人が一番対等だと、自然にルールが出来たようだ。
俺のつま先が地面に降り立つのが合図なのは、リンチの頃と同じ。
しかし、俺は学んだ。そして抵抗した。
他のユーザーにとっては、俺こそがゾンビに見えただろう。
一部では「蠅の王」などという訳の分からないあだ名までついてるが
未だに「ウキブタ」のほうが通っている。
そして俺は、この森にやってくる剣士や魔法使い達を「ゾンビ」呼ばわりしない。
何かひかれるものがあるこそ、ここにやってくるのだろう。
俺は走り出した。
6人が武器を抜いて追いかけてくる。
すでに森の外郭は大木が倒されて逃げ出せないようにされているので森の中でのみのバトルである。
ショウジョウが木の上から襲ってきた。
「シャッ!」
素早く魚獲り網で顔を狙って、木に縛り付ける。
次に近くの木々を何度かシャベルで傷つけておいて、一撃で一定方向に倒れるようにし(敵の退路を断つため)
ショウジョウの張り付いている木の後ろにまわり、6人の誰かがくるのを見計らって網を外すのを待った。
今夜のバトルも負ける気がしない。
●06●
「おい、辰よぉ」
「はい?」
「謁見ってなんだ?」
「あ~、簡単にいうと、職員室に呼び出されたんですよ」
「おいおい、俺なんか悪い事してたっけ?」
「職務怠慢ですかね。本来のクエストを行っていないすから」
「行くべきかな?」
「…行ってみたら?」
●六●
ツータックスは、ユーザーの間で「煮炊王国」あるいは「鍋物屋」と呼ばれている。
その王女に謁見せよとの命令がくだり、その晩は、8時半にログインした。
(ヨメには「とうちゃんもご熱心なこと」と皮肉られたが、よその女に会うんだから、
結構ヨメの勘もするどいのかもしれない。)
「ニキイタ:ココニキテモライマシタノハ、アナタヲ、ツータックスノチョスイチニハイチガエシタイトオモッタカラデス。」
貯水池にも多くのゾンビ達がやってきて(王女はサンゾクと言ってた)乱暴をはたらくのだそうだ。
俺は、あの森から出たくなかったのだが、王女は腕を買ってくれているらしい。
今、俺がしている事とにているクエストをわざわざ探してくれたのだ。
俺は、断りの言葉を打ち始めたが、いまだキーボードが苦手で、ダラダラと時間がたってしまった。
そのうちに、王女に電報のようなものが届いた。
「ニキイタ:ギルドマスターガゴルゴダ砦ニムカッタヨウデスネ」
…あの男が、難攻不落のゴルゴダ砦を…
あわてて掲示板の方を立ち上げると、容量オーバーで「エターナル・クエスト」の画面が消えてしまった。
きっとストロンガルも王女の前で、煙のように消えてしまったんだろう。
●two/七●
世界中に散らばる「エタクエ」住人の多くが注目している対戦。
その戦況が刻一刻と実況掲示板に書き込まれる。
しかし、どうやらマスター側の「不利」らしい。
飲み物をつくりに階下におりた。
風呂上がりの息子が、洗面台のところで口を開けて歯を見ている。
頬に大きな痣があった。
「おい」
息子がこちらを見た。顔が少し変形しているのが痛々しい。
学校か友達の間で何かあったのだろう。
知らん顔して、俺の横を通り過ぎようとする息子にもう一度声をかける。
「なんとかやってけるか?親は必要ないのか?」
彼は背中を向けたまま立ち止まり、
「…いまはいいよ。なんとかするから。…自分のことなんだ、なんとかなると思う」
そうつぶやいて、階段を上がり自分の部屋に入った。
俺も寝室にもどり、座椅子にすわってグラスに口をつけた。
掲示板では、悲鳴を上げるもの、あざ笑うもの、沢山の人たちの言葉が流れ続けた。
今度こそ、ギルドマスターの伝説も終わりに近づいたということか…
そのあと、また「リプレイ」ボタンを押して、復活するんだろう。
ギルドマスターの「リプレイ」ボタンと
俺の「リプレイ」ボタンの重さは同じなんだろうか。
現実と架空の差とは何だろう。
…たかが一人がふえたところで戦局が変化するわけでもないし。
結局、ログインした。
森には、時間が早すぎるためかだれも居なかった。
どこかで戦火があがろうが、ここには影響が無い。
ここからゴルゴダ砦まではあまりにも遠すぎるのだ。
マップを見ればわかるが、ゴルゴダ砦は球状の世界の反対側にある。
そう、森の怪力男は無力だ。
手も貸す事も出来ない。
いやまてよ。
(つづく)
「黒馬」を一杯のんでからログインし、森に降り立つと
そこらじゅうの木々に多くのキャラ達が座っていた。
観客である。
6人だけが下で待っている。それぞれの武器を地面に突き刺して。
俺のマシンの都合で6人が一番対等だと、自然にルールが出来たようだ。
俺のつま先が地面に降り立つのが合図なのは、リンチの頃と同じ。
しかし、俺は学んだ。そして抵抗した。
他のユーザーにとっては、俺こそがゾンビに見えただろう。
一部では「蠅の王」などという訳の分からないあだ名までついてるが
未だに「ウキブタ」のほうが通っている。
そして俺は、この森にやってくる剣士や魔法使い達を「ゾンビ」呼ばわりしない。
何かひかれるものがあるこそ、ここにやってくるのだろう。
俺は走り出した。
6人が武器を抜いて追いかけてくる。
すでに森の外郭は大木が倒されて逃げ出せないようにされているので森の中でのみのバトルである。
ショウジョウが木の上から襲ってきた。
「シャッ!」
素早く魚獲り網で顔を狙って、木に縛り付ける。
次に近くの木々を何度かシャベルで傷つけておいて、一撃で一定方向に倒れるようにし(敵の退路を断つため)
ショウジョウの張り付いている木の後ろにまわり、6人の誰かがくるのを見計らって網を外すのを待った。
今夜のバトルも負ける気がしない。
●06●
「おい、辰よぉ」
「はい?」
「謁見ってなんだ?」
「あ~、簡単にいうと、職員室に呼び出されたんですよ」
「おいおい、俺なんか悪い事してたっけ?」
「職務怠慢ですかね。本来のクエストを行っていないすから」
「行くべきかな?」
「…行ってみたら?」
●六●
ツータックスは、ユーザーの間で「煮炊王国」あるいは「鍋物屋」と呼ばれている。
その王女に謁見せよとの命令がくだり、その晩は、8時半にログインした。
(ヨメには「とうちゃんもご熱心なこと」と皮肉られたが、よその女に会うんだから、
結構ヨメの勘もするどいのかもしれない。)
「ニキイタ:ココニキテモライマシタノハ、アナタヲ、ツータックスノチョスイチニハイチガエシタイトオモッタカラデス。」
貯水池にも多くのゾンビ達がやってきて(王女はサンゾクと言ってた)乱暴をはたらくのだそうだ。
俺は、あの森から出たくなかったのだが、王女は腕を買ってくれているらしい。
今、俺がしている事とにているクエストをわざわざ探してくれたのだ。
俺は、断りの言葉を打ち始めたが、いまだキーボードが苦手で、ダラダラと時間がたってしまった。
そのうちに、王女に電報のようなものが届いた。
「ニキイタ:ギルドマスターガゴルゴダ砦ニムカッタヨウデスネ」
…あの男が、難攻不落のゴルゴダ砦を…
あわてて掲示板の方を立ち上げると、容量オーバーで「エターナル・クエスト」の画面が消えてしまった。
きっとストロンガルも王女の前で、煙のように消えてしまったんだろう。
●two/七●
世界中に散らばる「エタクエ」住人の多くが注目している対戦。
その戦況が刻一刻と実況掲示板に書き込まれる。
しかし、どうやらマスター側の「不利」らしい。
飲み物をつくりに階下におりた。
風呂上がりの息子が、洗面台のところで口を開けて歯を見ている。
頬に大きな痣があった。
「おい」
息子がこちらを見た。顔が少し変形しているのが痛々しい。
学校か友達の間で何かあったのだろう。
知らん顔して、俺の横を通り過ぎようとする息子にもう一度声をかける。
「なんとかやってけるか?親は必要ないのか?」
彼は背中を向けたまま立ち止まり、
「…いまはいいよ。なんとかするから。…自分のことなんだ、なんとかなると思う」
そうつぶやいて、階段を上がり自分の部屋に入った。
俺も寝室にもどり、座椅子にすわってグラスに口をつけた。
掲示板では、悲鳴を上げるもの、あざ笑うもの、沢山の人たちの言葉が流れ続けた。
今度こそ、ギルドマスターの伝説も終わりに近づいたということか…
そのあと、また「リプレイ」ボタンを押して、復活するんだろう。
ギルドマスターの「リプレイ」ボタンと
俺の「リプレイ」ボタンの重さは同じなんだろうか。
現実と架空の差とは何だろう。
…たかが一人がふえたところで戦局が変化するわけでもないし。
結局、ログインした。
森には、時間が早すぎるためかだれも居なかった。
どこかで戦火があがろうが、ここには影響が無い。
ここからゴルゴダ砦まではあまりにも遠すぎるのだ。
マップを見ればわかるが、ゴルゴダ砦は球状の世界の反対側にある。
そう、森の怪力男は無力だ。
手も貸す事も出来ない。
いやまてよ。
(つづく)
今夜のバトルも負ける気がしない。
が本当カッコイイセリフですよね
私も ウキブタ のファンになりました。