「運命じゃない人」 １人の視点じゃ全体は見えない

ぴあフィルムフェスティバル(ＰＦＦ)のスカラシップ作品として制作された、内田けんじ監督の劇場デビュー作「運命じゃない人」。
2005年カンヌ国際映画祭の批評家週間へ招待されたほか、国内外の賞を数多く受賞した作品です。
感想はずばり「おもしろかった!!」
練り上げられた脚本と構成に、ただただ大満足の作品でした。

婚約破棄となり、２人で暮らしていた家を出た桑田真紀（霧島れいか）は、こみ上げる寂しさに耐えながら１人寂しくレストランで食事をしている。
同じ場所では、真面目で人を疑うことを知らない典型的な〝いい人〟の宮田武（中村靖日）が、親友の神田（中山聡）と食事している。
宮田は前の恋人・あゆみ（板谷由夏）のことが今でも忘れられない。
そんな宮田が歯がゆくてたまらない神田は、宮田のために、傍で１人食事していた女性に声を掛ける。
それが宮田と真紀の出会い。
泊まる所のない真紀に、宮田は自分の家に泊まるようすすめる。
が、そんな小さな出会いと同じ時刻に、ヤクザ組長（山下規介）の大金を巡るスリリングな物語が〝宮田の部屋〟”をも巻き込んで目まぐるしく展開していた。
それぞれの人物は、互いを感知しないまま繋がり、複雑に絡み合っていく…。

一夜の出来事が、時間軸を自在に操りながら、３人の男の視点を断片的にカットバックすることで描かれています。
我々観客は、頭の中でそれらの断片を組み合わせていくことで、登場人物たちには見えない、物語の全体像を浮かび上がらせていくことになります。
時間と場所が交錯しリンクすることで、１人の物語では決して知ることのできない物事の多面性が浮かび上がって来るわけです。
これと似た手法は、今までも無かったわけではありませんが（今年度の米アカデミー賞の〝クラッシュ〟など）、本作の脚本と構成のうまさは際立っています。
私には、他に匹敵するものを思い浮かべることができませんでした。
キャラ５人が皆とても魅力的で憎めないのも良いです。
というより、大好きになってしまいました。宮田も神田も真紀ちゃんもあゆみちゃんも組長も。
内容もセンスがよく、笑えるシーン満載です。
そして最後には…、おっと、それは書かずにおきましょう。
とにかく、これは是非とも多くの人に観て欲しい傑作です。
たぶん、１度目よりも、全体像を把握してから観る２度目以降のほうが面白いんじゃないかと思います。

それにしても、個人が感知できることなんて、たかが知れてるものですね。
自分が事実と信じることも、視点を変えればこんなにも違って見えてしまうのですから。
きっと何気ない自分の日常も、じつはこんなふうに、気付かない所で常に様々な物事と関わりながら構成されているのでしょう。
〝自分〟というものは、自分以外との繋がりによって出来上がっているんですね。
そう思うと、すべてが愛おしくなってきます。

運命じゃない人 エイベックス・マーケティング・コミュニケーションズ このアイテムの詳細を見る