明日へのヒント by シキシマ博士

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「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 自分という存在について

2008年08月22日 11時08分12秒 | 明日のための映画
かつて、手塚治虫はライフワーク「火の鳥」で、〝永遠の命を得ること〟を人間の究極の欲求として描きました。
が、この「スカイ・クロラ」では、永遠に生き続ける身体を持った主人公たちが、自らのその〝永遠の命〟を持て余す姿を描いています。
僅か数十年でまったく変わってしまったなぁと思いました。表面的には。
でも実は、どちらも永遠に満たされない人間の死生観を描いているということで、本質的には同じことを言っているのでしょう。

恒久的な平和が約束された世界。
しかしそれは、一般市民が安全な場所から、自分と関係のない者が惨い死に方をしていく「ショーとしての戦争」を見ることによって維持されているのだった。
そしてその戦争を実際に行っているのは、16~17歳で成長を止めたあと、永遠に歳を取らない〝キルドレ〟と呼ばれる子供たち。
彼らは永遠に生き続ける。戦死しないかぎり…。
(監督:押井守 122分)


と言う設定の上で展開する物語ですが、これを現代を生きる人たち、とりわけ若者たちの姿にダブらせて観ることは容易です。
キルドレのように永遠に終わらないループの上を生きてるのではないけれど、既にほとんどの欲求がお膳立てされてから生まれた現代の若者たちが、この先いったいどこへ向かえば良いのか…そんな行き場の無さに似ています。

ただ永遠に繰り返されるだけの毎日なら、何も考えずに反復していれば良いのか?
それとも、新たな展開を求めるために、今あるものを打ち砕くか?
いっそ、死へと向かうか?

こういったテーマに共感できるか否かで、評価が極端に分かれる作品だと思います。
共感できれば、これまでの押井作品と比べてとても分かりやすく、入って行き易い作品なのではないでしょうか。
観る者は、キルドレたちの苦悩する姿に、自分のそれを重ね合わせることでしょう。

そしてここへ、押井作品にしてはストレートなメッセージが、押井監督らしいささやかな表現で投入されます。

  いつも通る道でも違うところを踏んで歩くことができる
  いつも通る道だからって景色は同じじゃない
  それだけでは、いけないのか
  それだけのことだから、いけないのか

これは押井監督から現代の若い人たちへの誠実なメッセージで、たぶん、多くの人が共感するでしょう。
具体性のある形で語られていないもどかしさは感じますが、それを非難することを私はやめます。
具体的なことは映画の中に求めずに、観た人が各々、自分で探してこそ価値があるのでしょうから。

ただ忘れてならないのは、我々は、自分の外にあるものとの関係性の上に生きているということです。
たとえ自分はキルドレのように変化の無い毎日を過ごしていても、自分と自分の外との関係の意味づけを変えることで、新たなものを見つけられるということです。

たとえば、「ショーとしての戦争」というものに疑問を感じるなら、それについて広く世間に訴えてみても良い。
自分がキルドレであることに苦悩しているなら、もう新たなキルドレが生まれてこないよう、国や制度を敵に回してでも尽力してみれば良い。
そういう行動を起こしてこそ、きっと新しい何かが見えて来るのだから。
それをしないうちに、安易に、希望を失わないで欲しい。

斯くいう私も、若い頃は自分のことしか考えていなかった。
しかし、今、家族の中に身体障害者を持つ身となり、自分のことにばかり目を向けていられる状況ではなくなった。
自分の時間の多くは、そちらの世話をするのに割かれます。
もう、二度と若い頃のように、有り余る時間を自分のためだけに使うということはないです。
それは、他人から見れば大変そうに見えるらしい。
でも、それは違う!
こうなって初めて、〝自分ならでは〟のリアルな生き方が出来ていることを確信できているのだから。

今は自分の存在の意味に確信が持てない人たちにも、いつかきっと、そんな何かが外からやって来るでしょう。
それは、不測の事態、アクシデントかも知れない。
でも悲観することではない。
その時にこそ、自分が、自分の外の世界と確かに繋がっているリアルな存在なのだということを確信できるのだから。

今が未だその時でないのなら、とりあえずその時に備えて、外へ目を向けていれば良い。
それだけで、昨日とは違う明日に、出会えるかも知れないのだから。



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