どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ390

2009-02-13 22:56:21 | 剥離人
 下水処理場の現場が終わった翌日、久しぶりに会社にゆっくりと出社する。
 
「お早うございます」
「おっはよー!」
 ウォータージェット事業部の事務所に入ると、すでにハルが来ていて、テレビを見ながら気持ち良さそうにタバコを吸っている。ハルは、タバコを吸うのは好きなのだが、タバコの煙が充満する部屋は大嫌いなので、一月だというのに窓を開け、冷たくて新鮮な空気をたっぷりと部屋に取り入れていた。
「もうあの現場に行かなくて済むのかと思うと、なんかホッとするねぇ」
「そうですねぇ、たかが1,350m2に三ヶ月ですからね」
「木田さん、もうコンクリートの現場は取っちゃダメだよ」
「うはははは、僕だって嫌ですよ!」
「うひゃひゃひゃひゃ!でもあれなんじゃないの?また渡りさんが勝手に取っちゃうんじゃないの?」
「いやぁ、さすがに今回は懲りたと思いますよ、利益どころか完全な赤字だし…。ま、その件も含めて、今から打ち合わせをしますから、あっちでコーヒーでも飲みませんか?」
「そうだね、久しぶりに弘子ちゃんの淹れたコーヒーでも飲むか!」
「ははは、そうですね」
 私とハルは事務所を出ると、敷地内の向かいの建物まで歩き、事務所のガラス扉を開けた。
「お早うございます」
「おお、木田ちゃん、久しぶりやないか!」
「木田くん、元気だった?」
「木田さん、ハルさん、お疲れ様です」
「よっ、木田ちゃんお疲れ!ハルさんもお疲れ様ぁ!」
 部長の杉野や柴木、経理の葉山、そして弘子が、笑顔で声を掛けて来る。
「めちゃめちゃ疲れ果ててますけど、二人とも元気ですよ」
「そうかそうか、なんか大変だったらしいなぁ」
「ええ、地獄の様な現場でした」
「わはははは、まあそう言うなぁ」
 渡が苦笑いをしている。
「ま、ちょっと茶でも飲んで、今回の反省会をしようやないか」
 渡が応接ブースの方を右手の親指で指す。私は頷くと、高飛車な態度で弘子に声を掛けた。
「弘子、お茶!」
「何だとぉ!」
「マッハで淹れろよ!」
「何ぃ!?ハルさんと常務は美味しいコーヒーね、木田ちゃんは無し!」
「愛情一杯のお茶をよろしく」
「雑巾の絞り汁入りね!」
 渡が私と弘子のやり取りを見て笑っている。

 応接ブースに入ると、さっそく渡が新しいタバコに火を点けた。
「えらい大変やったけど、ホンマにお疲れさんでした」
「ええ、ある意味S社の現場よりもキツかったですよ」
「うはははは、そうかそうか、ハルさんも同じでっか?」
 渡は苦笑いをすると、ハルにも意見を求めた。
「そうだねぇ、やってもやっても仕事が進んだ気がしないって意味では、S社の現場よりも遥かにキツかったねぇ」
 ハルは微妙に敬語が使えないが、渡はそう言うことは一切気にしない。
「そうでっか、ホンマにお疲れさんでした」

 渡は今日三度目の苦笑いをすると、口の右端にタバコを差し込んだ。


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