台風一過から二日後、足場を乗せたバージ船が所定の位置にセットされ、再び現場がスタートした。
「は?今度はキャットウォークぅうう?」
小磯が声を上げる。
「ええ、右舷のキャットウォーク(猫走り:甲板の脇に設置されている、移動用の非常に狭い通路)に移動しろって指示です」
「誰が言ってるの?」
「そりゃ伊沢さんですよ」
小磯は何故か私にガンを飛ばす。
「じゃあ俺たちがやってた所はどうなるの?」
「それは知りませんけど、誰かS社の下請がやるんじゃないですか?」
「はぁ?」
「仕方ないじゃないですか。僕らは言われた通りにやるしかないんですから」
「木田君はそれでイイの?」
「ええ、別に構いませんけど」
小磯はガンを飛ばしたまま、棄て台詞を吐き出した。
「ったく、職人の気持ちが全然分かってねえよ」
「・・・」
「木田君には『男の意地』ってのは無いの!?」
小磯は、今度は両手を大袈裟に広げている。
「別に『男の意地』とかは、何にも関係無いじゃないですか」
「はぁー…、木田君とは永遠に分かり合えないみたいだね」
小磯は振り返って背中を見せると、ドラマのシーンの様な言葉を吐き出した。
「ハル、手伝え!キャットウォークだとよ!」
「えー?下はどうすんの?」
「知るか!木田君に聞いてみな!」
「…何だか分からないよ」
ハルはブツブツと言いながらも、さらにノリオを従えると、ホース類のセットアップを始めた。
午前中にセットアップを終えると、午後からキャットウォークの塗装をジェットで剥がし始める。
「木田さん、この救命艇(樹脂のケースに入れられた、海面に落ちると自動的に展開するゴム製救命ボート)用の金具もやるの?」
エアラインマスクの中から、ハルが訊いて来る。
「ええ、全部ですよ」
「そこから先はどうするの?こんな足場じゃガンなんか撃てないよ」
ハルの言うとおり、途中からは救命艇は二段になっていて、上段用には足場板が、一列一枚分だけ設置されている。
「大丈夫ですよ、さっき幸四郎さんに頼んでおきましたから」
「ふーん」
ハルは納得をすると、仕事を再開した。
三十分後、幸四郎の実兄である、T工業社長の間宮がやって来た。
「どこの足場?」
間宮は、いかにも『とび職』の親方という雰囲気で、十分に貫禄がある。
「ここです」
「おお?これでガン、撃てないか?」
間宮は一枚一列の足場板を見て、腕組みをしている。
「…いくらなんでも撃てませんよ。後に手摺も無いし、足場板は一枚分だし。もしも後に吹き飛んだら、バージ船まで十数メートルは落下しますよ」
間宮は、しばらく首を捻ると、作業を中断していたハルに声を掛けた。ハルは元々はT工業で働いていたので、お互いを良く知っている。
「ハル、この足場じゃ撃てねぇか?」
「うひゃひゃひゃ、撃てる訳無いじゃん!」
「そっか、じゃあ直すか」
今一つ私は信用が無い様だが、結果的に直れば良いと、私は思っていた。
そしてこの様子を、小磯がじっと睨みながら見ていることを、私は視線の端で感じていた。
小磯の私に対するフラストレーションは、頂点に達しようとしていた。
「は?今度はキャットウォークぅうう?」
小磯が声を上げる。
「ええ、右舷のキャットウォーク(猫走り:甲板の脇に設置されている、移動用の非常に狭い通路)に移動しろって指示です」
「誰が言ってるの?」
「そりゃ伊沢さんですよ」
小磯は何故か私にガンを飛ばす。
「じゃあ俺たちがやってた所はどうなるの?」
「それは知りませんけど、誰かS社の下請がやるんじゃないですか?」
「はぁ?」
「仕方ないじゃないですか。僕らは言われた通りにやるしかないんですから」
「木田君はそれでイイの?」
「ええ、別に構いませんけど」
小磯はガンを飛ばしたまま、棄て台詞を吐き出した。
「ったく、職人の気持ちが全然分かってねえよ」
「・・・」
「木田君には『男の意地』ってのは無いの!?」
小磯は、今度は両手を大袈裟に広げている。
「別に『男の意地』とかは、何にも関係無いじゃないですか」
「はぁー…、木田君とは永遠に分かり合えないみたいだね」
小磯は振り返って背中を見せると、ドラマのシーンの様な言葉を吐き出した。
「ハル、手伝え!キャットウォークだとよ!」
「えー?下はどうすんの?」
「知るか!木田君に聞いてみな!」
「…何だか分からないよ」
ハルはブツブツと言いながらも、さらにノリオを従えると、ホース類のセットアップを始めた。
午前中にセットアップを終えると、午後からキャットウォークの塗装をジェットで剥がし始める。
「木田さん、この救命艇(樹脂のケースに入れられた、海面に落ちると自動的に展開するゴム製救命ボート)用の金具もやるの?」
エアラインマスクの中から、ハルが訊いて来る。
「ええ、全部ですよ」
「そこから先はどうするの?こんな足場じゃガンなんか撃てないよ」
ハルの言うとおり、途中からは救命艇は二段になっていて、上段用には足場板が、一列一枚分だけ設置されている。
「大丈夫ですよ、さっき幸四郎さんに頼んでおきましたから」
「ふーん」
ハルは納得をすると、仕事を再開した。
三十分後、幸四郎の実兄である、T工業社長の間宮がやって来た。
「どこの足場?」
間宮は、いかにも『とび職』の親方という雰囲気で、十分に貫禄がある。
「ここです」
「おお?これでガン、撃てないか?」
間宮は一枚一列の足場板を見て、腕組みをしている。
「…いくらなんでも撃てませんよ。後に手摺も無いし、足場板は一枚分だし。もしも後に吹き飛んだら、バージ船まで十数メートルは落下しますよ」
間宮は、しばらく首を捻ると、作業を中断していたハルに声を掛けた。ハルは元々はT工業で働いていたので、お互いを良く知っている。
「ハル、この足場じゃ撃てねぇか?」
「うひゃひゃひゃ、撃てる訳無いじゃん!」
「そっか、じゃあ直すか」
今一つ私は信用が無い様だが、結果的に直れば良いと、私は思っていた。
そしてこの様子を、小磯がじっと睨みながら見ていることを、私は視線の端で感じていた。
小磯の私に対するフラストレーションは、頂点に達しようとしていた。
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