どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ380

2009-01-29 03:12:40 | 剥離人
 我々ウォータージェットチームが苦労してコンクリートをハツっている中、相変わらず所長の葛西は暴走を続けていた。

「あのさ、段取換えをしてもらいたいんだけど…」
 プレハブ二階の現場事務所から外階段を下りて休憩所に入って来たSSプラントの川久保は、かなり遠慮気味に私に話し掛ける。
「…またですか?」
 川久保は熊のプーさん顔を歪めると、心苦しそうに言う。
「今ハツってる槽の、前半分に左官屋を入れたいらしいんだ」
「は?今ハツってる場所を中途半端な状態で放置して、また隣に移れってことですか?」
 自分の顔面の筋肉がピクピクして来るのが分かる。すでに左官屋の都合で段取換えをやらされるのは三度目だ。
「川久保さん、僕らがハツらないと始まらないんですよ?なのにどうして後工程の左官が優先なんですか?」
「いや、所長が『そろそろ左官をやる場所が無くなって来たから、R社を移動させろ!』って言うもんだから…」
「所長の頭は大丈夫ですか?僕らがハツらないと、左官も出来ないんですよ?無理やり左官する場所を作っても、その後が続かないじゃないですか!」
「まあ、そうだよね…」
「そうだよねって、いい加減にして下さいよ!簡単に段取換えをしろって言うけど、ポンプを止めて、超高圧ホースを切り替えてってやってると、二時間なんてあっという間なんですよ!?その分また作業が遅れるんですよ?」
「・・・」
「勘弁して下さいよ!」
 私は川久保に吐き棄てると、プリプリとしながら休憩所を出て行った。

「木田さん、かなり怒ってます?」
 後から、休憩時間だった堂本が追いかけて来る。
「ああ、まあ多少は怒ってるけどね、本気で『冗談じゃないよ』って思うし…。でも、まあ、半分は演技かな?」
「演技?」
「二階に所長が居たはずだからさ、たぶんプレハブの薄い床を通して聞こえてると思うよ、川久保さんには悪いけどね」
「そうなんですか?」
「まあ、ああでもして間接的に所長に言っておかないと、さらに思いつきでああしろこうしろって言われてもねぇ」
 私は堂本にガン作業中断の伝言役を頼むと、段取換えの準備を開始した。

 段取換えから二日後、案の定左官屋はやることが無くなった様だった。
「川久保さん、明日から左官屋はどうするの?」
「やることが無いから、しばらく他所の現場に行くって…」
 川久保は力なく笑う。
「で、僕たちがやった段取換えの意味はあったんですか?僕らはもう一回元の槽に戻らないといけませんよね」
「うーん…」
「ま、いいですけどね。ところで、明日から防食屋(防食塗装業者:FRPやガラスフレークを使用して、コンクリートの表面にライニングを行う業者)が入るって聞きましたけど…」
「あ、入るよ、明日からね。左官が終わった部分は、順次防食をやって行くからさ」
 川久保は話題が変わったのでホッとして、幾分能天気に答える。
「大丈夫ですか?換気の方は…。いくらオープンエアの部分が多いからって、有機溶剤は下に溜まりやすいですからね」
「大丈夫、ちゃんとファン(円筒形の送風機)で換気するから」

 私は一抹の不安を覚えながらも、川久保の言葉を信じることにしたが、これもまたとんでもない事になるのだった。
 


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