どんぴ帳

チョモランマな内容

ショボい巨塔(その15)

2010-07-18 00:20:52 | 病院
 毎度毎度のことですが、深夜の病院には理解しがたい人たちがやって来ます。

 かなり景気が悪くなったのでコンビニ受診の患者さんは若干減りましたが、同じ様に深刻な症状の患者さんも減ってしまいましたので(イイのか?)、相対的な比率は同じままです。つまり相変わらず90パーセント以上の患者さんは、必要は無いけど深夜に病院にやって来ます。

 まずは生後六ヶ月のお子さんについてです。
「あのですね、生後六ヶ月の子供なんですけど、泣き止まないんです」
「はい…」
「どうしても泣き止まないんで、きっとどこかが悪いんだと思うんですよ」
「…はぁ」
「診察してもらえませんか?」
「・・・」
 恒例のお電話です。何ヶ月かに一回はこういう電話が入ります。しかも私が働いている病院には小児科がありません。
 本当にどこかが悪い可能性はゼロではありませんが、限りなく低い可能性でしょう。本当に具合が悪かったら、大人でも子供でもグッタリとして呼びかけに反応しないか、異様な挙動を見せるか、大概はどちらかです。泣き続けていると言うことは、基本的な体力には問題がないのでしょう。

 さて、それでは独身男性、且つ子供無しの男が考える、赤ちゃんが泣き止まない場合の原因を推測してみましょう。
1.お腹が空いている。
2.尿か便を漏らしている。
3.暑い、あるいは寒い。
4.着ている服が肌に合わず不快である。
5.お腹の具合が悪い。
6.熱がある。
7.どこかを骨折している、あるいは脱臼している。
8.単身赴任から久しぶりに帰宅した見知らぬ男(たぶん父親)が怖い。
9.化粧が下手で妖怪のようになっている女(たぶん母親)が怖い。
10.アロマ好きな母親の、異様な香りのアロマキャンドルが臭くて耐えられない。
11.母親が部屋の掃除をしないので、あちこちダニに刺されて痛痒い。
12.パソコンの放熱ファンが自分の頭に向いており、暑くて気が狂いそうになっている。
13.父親が一晩中、大音量でゾンビと戦うゲームをやっていて眠れない。
14.毎食同じ離乳食だけを食べさせられている。(海原雄山なら即激怒!笑)
15.母親が携帯を手放さず、メールを打つ電子音を一日中耳元で聞かされている。
16.自分よりもペットのほうが大切にされていてムカついている。
17.大人になった時に恥ずかしい名前が付いていて、怒った先祖の霊が泣かせている(笑)

 様々な可能性がありますが(笑)、上記のお子様は『ただ』泣いているそうです。
「本気で子供と向き合う気持ちがあるのか?これって単なる育児相談だろう…」
 病院はあくまでも病気を治療する場所です。
「子供が泣き止まない」
 という育児相談を受け付ける場所ではありません。
 こういう時は、必殺の『子供医療ダイヤル』の出番です。
「小児科の先生が相談に乗ってくれますからね」
 そう言って『子供医療ダイヤル』にスルーパスを出して終了します。もし本当に病気の疑いがある場合、子供医療ダイヤルの小児科医が、現在診察をしてくれる小児科医がいる病院を紹介するはずです。必要無いと思いますけど…。
 病院に意味不明な電話をする前に、まずは自分たちを育ててくれた自分たちの母親(合計二人)にアドバイスを求めてみてはどうだろうかと、私は思います。

 今度は50代の男性について、救急隊からコールが入ります。
「下腹部痛、ご本人によると尿管結石だそうです!」
 名前を訊くと聞き覚えがあります。
「二週間前にも救急車で運ばれた人じゃん…」
 カルテを見ると、やはり二週間前に尿管結石と診断されています。
 救急隊が到着すると、ストレッチャーの上の患者に向かって、
「○○さん、あの後病院に行って治療しなかったの?」
 と看護師が訊きます。
「痛みが消えたから行ってません」
「・・・」
 点滴で一時的に痛みが消えても、結石が消える訳ではありません。
 尿管結石を放置して何度も救急車で運ばれ、その度に痛み止めの点滴をされ、また救急車で運ばれる。これを何度も繰り返す人たちが本当にいます。
 懲りないのは本人たちの自由ですが、その度に市民の税金で救急車を呼び、医療費(深夜割増)の7割を健康保険から拠出させています。完全に無駄遣い以外の何物でもありません。
「きちんと昼間に、泌尿器科へ行って治療しろ!」
 これはもう医療関係者や救急隊員全員が思っている筈です。

 この日はついでにもう一人、60代の男性が救急車で運びこまれました。
「たぶんね、尿管結石」
 自分で言っています。
 さらに今度は70代の女性について、救急隊から連絡が入ります。
「一週間便が出ていないそうです!」
 と救急隊が教えてくれます。
「あの、たった今食事を始めたところで申し訳ないんですけど、たぶん『摘便(リアルに言うと、指で便を掻き出すこと…)』です(笑)、市販の浣腸じゃ歯が立たないそうですよ」
「はぁ…」
 看護師がため息を吐きながら弁当箱の蓋を閉めます。
 救急隊が入って『摘便』が終わると、看護師が苦笑いをしながら戻って来ます。
「あのお婆ちゃん、便が出なくて救急車で運ばれるの、これで4回目だって!」
「…本当ですか?」
「今日も昼から苦しかったけど、ずっと我慢してたんだって」
「…で、通算4回目の救急車?」
「そうみたいね」

 ちなみにこれらのお話は、一晩に起きた出来事の一部です。
 お願いだから昼間に病院に行って下さい。昼間の診察時間内ならどんなに軽症でも、もっと言えば、
「なんとなくオカシイ気がするんだけど…」
 という症状でも、きっとスタッフは嫌な顔はしません。
 泌尿器科が無い病院に対して、深夜二時に、
「超音波で結石を壊してくれ!」
 とか無茶苦茶なことを言っている人、結石が出るまでその場でジャンプをしましょう。

 きっと出ないけど(笑)
 


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2 コメント

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無茶 (カミヤミ)
2010-07-20 12:40:19
無茶を承知で、夏合宿をやってみたり、無茶を承知で、耐震性のないマンションを建てるなんてのは、可愛いもんなんですね。本気では、思ってないから。
気合 (どんぴ)
2010-07-20 21:58:57
 そんなタイトルの夏合宿があったよーな記憶があります。

 世の中には信じられないよーなことを本気で言っている人がいます。きっと住んでいる世界が違うんだと思うしかありません。
 見えない敵と戦っている人(エツ)の方がマシですな(笑)

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