どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ405

2009-03-08 23:46:28 | 剥離人
 今日も照りつける太陽の下、広大な空母の鉄板の上を、長い尻尾を引きずった機械猫が這いずり回っていた。

「木田さん、なんか夏みたいだねぇ」
 作業用コンテナにやって来たハルが、ペットボトルのスポーツドリンクを呷りながら、ヘルメットを脱いだ。
「僕は昨日から、顔に日焼け止めを塗ってますよ」
「本当によぉ?」
 日焼けして真っ黒な顔のハルが、遠慮なく苦笑いをする。
「だって照り返しが酷いじゃないですか…」
 ハイドロキャット-Jが走った後の甲板は、まさしく銀色にギラギラと光り輝き、太陽光線を効率良く我々の全身に反射させている。
「それよりもさ、気のせいかもしれないけど、足が物凄く疲れてる感じがするんだけど、木田さんはどう?」
 ハルは左手で左足のふくらはぎを触りながら、神妙な顔をする。
「あ、それは僕もですよ。昨日から思ってたんですけど、どうもこの鉄板の表面温度がいけない気がするんですよね」
「確かに熱いよねぇ」
 ハルは、須藤と堂本が作業をしている銀色の鉄板の平原を、じっと見つめる。
「ええ、僕なんか高所作業用の安全靴を使ってますからね、半端じゃ無いですよ」
 私はハルに自分の半長靴(はんちょうか:すねの途中までの長さの安全靴)の裏を見せた。
 私が愛用している高所作業用の安全靴は、足底の部分が非常に薄くなっていて、接地部分の感触がダイレクトに伝わるのがメリットなのだが、その反面、熱さや寒さもダイレクトに伝わってくるというデメリットもあった。
「それじゃ熱いよ」
「ですよねぇ」
 私はハルと顔を見合わせた。
「いったい何度あるんだろうね」
 ハルが思わぬ一言を言った。
「そうですよね、一体何度あるんですかね?」
 私もすぐにその気になる。
「ハルさん、こいつらで計りましょうよ」
 私はそう言うと、部品棚の中から温度計セットを取り出してコンテナから飛び出すと、須藤と堂本が操作するキャットの元に向かった。
「うひゃひゃひゃ、何度かなぁ、かなりやばい温度だったりしてね」
 ハルも笑いながら後ろからついて来る。
「正男ちゃん、この温度計を蹴っちゃだめだよ」
 私は須藤に注意をすると、キャットのホース台車に、『デジタル温度・乾湿計』を載せて、スイッチを入れた。
「何を計るんですか?」
 須藤が興味深げに温度計を見る。
「何って、地上15cmの気温測定だよ」
「確かに暑いですよね」
 須藤が私に気を取られていると、キャットの進行方向が歪み出した。
「須藤、右、右!」
 いきなり堂本が大声を出す。
「おっ、ずれた…」
 須藤は慌ててキャットを停止させると、すぐにレバーを後退方向に倒し込む。
「ガシャガシャ、ガシャン!」
 キャットのホースがたわみ、代車同士がぶつかり、私が載せたデジタル温度・乾湿計が、銀色の鉄板の上に落ちた。
「うひゃひゃひゃ、正子ぉ、何やってんだぉ!」
 ハルがすかさず須藤をなじる。
「うはははは、正子はすぐにそういう事をやるんだからなぁ」
 私も悪乗りして、須藤をなじる。
「いや、すみません…」
 須藤は苦笑いをすると、キャットの進路を修正し、コントローラーのレバーを前進方向に倒した。
 私は笑いながら温度計を拾い上げると、ホース台車の上にもう一度置いてみる。
「おおっ!?」
 温度計から手を離した私は、思わず声を上げた。

 樹脂製ボディのデジタル温度・乾湿計の液晶画面には、想像以上の数値が表示されていた。





最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なんつぅーか (カミヤミ)
2009-03-16 11:29:08
登場人物の『ハル』さん…物語の中で随分成長してますね。…情緒が安定してるというか…最初は、トルエンやってる?みたいな印象でしたが。
返信する
トルエンパワー (どんぴ)
2009-03-17 01:48:06
 いつだったか、ハルに訊いたことがあります。
「シンナーとかは吸ったことあります?」
 って。
「ちょっとならあるよ。でもさぁ、本当に体に悪いからってさ、死んだお袋が勝手に警察に電話をしちゃってさぁ、『ウチの息子がシンナーを吸ってます!』ってねぇ、参ったよねぇ、自分の家から警察署にパトカーで連れて行かれちゃうんだから…」
 と言っていました。それ以来、シンナー類は吸っていないそうです。

 人間っていうのは、立場によって大きく変わります。
 小磯が居なくなった後のハルは、自分で考え、先頭に立って働く姿勢が出て来て、本当に頼もしい存在に変わりました。
「丸投げ」
 はしませんでしたが、
「信頼して任せる」
 ことが出来たので、私は非常に楽でした。
返信する
普通 (カミヤミ)
2009-03-18 10:55:04
息子が自宅から警察連れてかれたら親なら卒倒しますけどねぇー。『ハルちゃん!頑張ってぇ』とか送り出したんですかね?ところで、担任の先生も感動的な卒業式が終わったそーです。インコウで捕まらないんですかね?
返信する
肝っ玉母さん? (どんぴ)
2009-03-19 01:06:05
 なんかあんまり動じないお母さんだったらしく、
「あんた言う事を聞かないからねぇ、警察で反省しておいで!」
 って感じだったみたいです(笑)

 成人した元教え子とはインコウになりませんが、現教え子はマズイですよね(笑)
 え?まさか?いやいや、このブログが炎上しかねないネタはダメよん!
返信する

コメントを投稿