狐・狸・祭

フラメンコの故郷よりマイペースに発信、カンタオーラ小里彩のブログです

ホセ・エル・パニェーロ!

2017年06月03日 01時44分33秒 | 日記
花粉症と生活に追われてバタバタしているうちにもう6月...!フラメンコの公演情報にめっぽう疎い私ですが6月1日に大好きなルイス・モネオ氏がサラ・コンパニアという小劇場で歌う告知を数ヶ月前にみたのはさすがに脳裏の片隅で覚えていました。当日になってネットで公演詳細を探すもどこにも見あたらず、ルイス氏のFBをのぞいても最後の更新は4月末で「公演詳細決まったら告知しますね!」というメッセージがむなしく踊るのみ。近所なのを幸いに午後8時頃様子を探りに現場に向かうも人っ子一人おらず、小さく関係ない演劇のポスターが貼ってあるドアは超閉まっています。ロシオ巡礼と被って中止になっちゃった?ここスペインでは日本と違い中止になったときのアナウンスは特にないこともほとんどで、事実は深い謎につつまれたままです。

気を取り直し今日はペーニャ・チャコンにホセ・ミヒータ氏を聞きに行こうと思って友人のAさん夫妻に電話したら何とアルヘシラスからホセ・エル・パニェーロ氏がペーニャ・ラ・ブレリアに来て歌うらしいという怪情報が・・・!危うく逃すところでした、ありがたや!それにしても嗚呼、何故同じ日なんだ!あんなに普段何もなくドミノやってるおじさん達しかいないのに・・・・!とにかく背に腹は代えられず、サンミゲルヘと向かいました。

客足が分散されたのか兄・ペリーコ・エル・パニェーロ氏の時と違って会場は比較的空いていて立ち見客もまばら。いつものことながら前説が熱血若手教師風なフアン・ガリード氏の紹介によるとギタリストのホセ・エル・プーラ氏はモロン出身でペーニャ・ラ・ブレリア初登場とのこと。モロンのギタリストッ!と聞いてこちらのテンションも上がらざるを得ません。
(追記:実際はモロンではなく、チクラナ・デ・ラ・フロンテーラ出身という情報を寄せていただきました!)

小柄ながら骨太な印象の体躯をスーツに包み「暑いですネ」とハンカチで額の汗を拭いつつ舞台に登場したホセ氏。過去にビジャマルタ劇場のクリスマスのサンボンバ(連なる一流アーチストのネームバリューに惹かれて大枚をはたいた割にフラメンコ色皆無なガチの歌謡ショーだった悲しい私が唯一この日見れて良かったと感激したのが特別ゲストの彼のブレリアでしたっけ・・・・ほかの客席との温度差をたとえ僅かな間だけでも埋めてくれてあの時は本当にありがとうございました)と、兄・ペリーコ氏主役の時に演目の最後にやはりゲストでブレリアをひと振り、ハートを鷲掴みされたのが記憶に新しいものの、今日は「主役」での登場!どんな歌を歌ってくださるのか・・・・。

まずはソレア・ポル・ブレリア、カンティーニャス。トマス・パボンやアントニオ・チャケータのカンテを思わせるどっしりと重みがありながら同時に軽やかなコンパスのみごとな緩急!つづいて「古き時代のアーティストたちに思いを馳せて・・・常に彼らに思いを馳せなくてはいけません!」と一言、起立し歌い上げたマルティネーテ。一部の最後は「祖父がトリアナの出身でした。」とファミリアゆかりのタンゴ・デ・トリアナを立って歌い踊ってくれました。これが本当に素晴らしかった!白黒のドキュメンタリーで見たトリアナのタベルナでおじいさんおばあさんたちが歌って踊っている世界がそのまま彼のアルテの中にあり、まるで観客をタイムスリップさせてくれたかのよう。「お腹がすいたけどお金がないヨ」という歌詞にあわせて手を口に持っていくコミカルな振り付けが登場しましたが、本当に「HAMBRE(空腹)」が日常に痛いほど存在した時代の苦しみを肥やしにした、たくましい人間の美しさ。まさにフラメンコはここから生まれたんだ・・・・魂を揺さぶられる思いでした。チャップリンの「人生は近くから見れば悲劇、でも遠くから見れば喜劇」という名言を聞いたことがありましたが、悲しみを客観視しユーモアに置き換えて伝えることができるのが最上級の知性であるように、空腹をアルテに昇華したフラメンコはやはりとてつもない説得力を持って感動を与えてくれる。そしてそこまでの深さでこのタンゴを歌い踊れる彼の芸の深さに唸るばかりです。

二部は「ブレリア・パ・エスクチャール」ヘレス風のブレリア・ポル・ソレアで幕開け、続いて渾身のコラヘを絞り出すようにシギリージャ、ファンダンゴ。ギターは時折モロンの響きを思わせる特徴的な旋律を交えつつも、グイグイと厚みのある力強い好演(ホセ・パニェーロ氏の「ole la campana golda」という掛け声グッときました!まさに太い鐘の音!)でカンタオールを支えていてとてもよかった。古風で正統派な演奏はメルチョール・デ・マルチェーナを彷彿させるような・・・。そしていよいよ最後はブレリア!座って歌い始めるも中盤に差し掛かり期が熟した頃合を見て、すわ、途中ホセ氏が起立してマイクを縦に設置!その瞬間矢のような勢いで後ろのパルメロの一人が座っていた椅子を後ろに片付け踊る空間を確保、満面の笑みで手を叩く業務に戻るそのさまや、いとをかし!(←と清少納言がもしここにいたらきっと思うハズ!)作り物ではない本物のエレガンシア溢れる彼の動き。はらりとジャケットを翻し肩を出し、さっと一歩を踏み出すときに魔法のように世界が変わる。メロディアスなカンシオンを歌い上げて最後に「Cuatro pare Francisco cuatro de Carmen!」とトラディショナルな明るい歌詞を一行だけ放り投げ、そのまま見事なレマーテにもちこんで舞台袖に踊り去っていった鮮やかなセンスは爽快の一言!!!いやあ~やられました。何もかもがカッコよすぎます。闘牛ならばO・L・E・J・A、オ・レ・ハ!相撲ならば座布団が空を舞っていたことでしょう。

舞台が終了してからも余韻にふけって久しぶりにお会いしたHさんとビールを飲んでいたらなんとホセ氏が登場!お話したらとても気さくで普通に素敵な若いお兄さんでした!舞台でのあのジジむささは皆無!現代社会にもこんな方がいるなんて本当に嬉しいです。

また素晴らしいフラメンコに出会えたことに感謝しつつ夏の夜を家路につきました。