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‘危険の外注化’が国民の健康を脅かす

2014年01月18日 13時42分58秒 | 外注化問題

‘危険の外注化’が国民の健康を脅かす

 2013/05/29

チェ・ミョンソン/民主労総労働安全保健局長

 

昨年〔2012年〕後半より重大事故が相次いでいる。昨年8月のLG化学清州(チョンジュ)工場爆発事故(8人死亡)、景福宮現代美術館事故(4人死亡)、9月亀尾(クミ)工業団地フッ化水素流出事故(5人死亡)に続き、12月には蔚山(ウルサン)作業船転覆事故(12人死亡)があった。今年初めにはサムスン華城(ファソン)工場フッ化水素流出事故に続き、3月に麗水(ヨス)産業団地の大林(テリム)産業、5月には現代製鉄唐津(タンジン)で5~6人が死亡した。

 

OECD労災死亡1位の大韓民国

 

ここ十数年間、毎年平均約2400人が作業現場で死亡している。韓国はOECD国家中、労災死亡1位の国だが、最近のように重大災害による労災死亡が続出している例は珍しい。

労働災害は、一部の労働者だけの問題ではなく、国民の健康権や生命権と直結する問題だ。これは亀尾フッ化水素流出事故に明確に表れている。5人の犠牲だけでも大変な問題だが、この事故で住民約300人が避難し、およそ1万 3千人が健康診断を受け、災害地域宣言と554億の被害補償へとつながった。事業場の中のずさんな化学物質管理の被害を地域住民にそっくり及ぼしたのだ。これは亀尾工業団地だけの問題でない。

フッ化水素流出があったサムスン華城工場は、集合住宅や大型商業施設に隣接している。このように事業場が集まっている各種産業団地は、団地造成以降に進んだ地域開発により、清州産業団地のように都心の真中に立地するケースが多くなった。

隣接地域でない場合も同じだ。10日に一度の割合で爆発事故がおきている蔚山産業団地は、がん発生率全国1位の地域だ。化学物質と発がん物質が大気と土壌、地下水に排出され、地域住民の健康を脅かしている。

麗水産業団地でも、今回の大林産業爆発事故だけでなく、殺人ガスであるホスゲン流出事故もあり、1級発がん物質が119トン排出される発がん物質排出全国1位の産業団地だ。

では首都圏の事情はどうか。有害化学物質管理法上、有毒物質とされる628種の化学物質を取り扱う業者は全国に6874ある。そのうち最も多くの業者が分布している地域が京畿道・ソウルだ。

このように全国に散在している化学物質事業場を見たとき、労災事故は特殊分野の労働者だけの問題でなく、すべての国民の健康権の問題だということがわかる。

 

新しい職業病、感情労働

 

事故による労災だけでなく職業病の問題も深刻だ。最近では‘感情労働’が関心を呼んでいる。

感情労働とは、“俳優が演技するように、感情を押し隠して行う労働を強要されること”で、有名芸能人のパニック障害の例で広く知られている。

だが感情労働は、私たちが毎日目にしている流通売場のサービス労働者、電気検針員、銀行窓口職員、公務員、病院労働者などほとんどすべての事業場で‘顧客の感動’のスローガンのもとに激しく行われており、その結果は人事考課に反映される。

 感情労働の労働者は最近報道された社会福祉公務員やデパート店員の自殺の例のように、過度のストレスにさいなまれており、パニック障害や適応障害、うつ病など精神的・物質的に苦しめられている。

 あるお笑い番組のネタである‘難癖顧客’と‘チョン女史’の人気の土台には、日常的に感情労働に接している視聴者の共感がある。

 政府レベルの対策がない中、先週ハン・ミョンスク議員が関連法改正を発議し、シム・サンジョン議員も感情労働労災補償法案を発議している。

各種事故から精神疾患に至るまで、‘危険社会’へと転落している労働現場の問題の核心には、雇用構造と産業構造の変化に追いつけていない労働災害政策と法制度がある。

第一に、最近の大事故は下請け労働者に集中している。‘危険の外注化’にともなう結果だ。

発注元が外注する最大の理由は、危険業務だからだ。発注元のラインで働く数千名の下請け労働者は、安全教育も保護具の支給もない中で危険業務を担っている。財閥大企業をはじめとする発注元事業主は、彼らに対して労災予防責任も事故に対する処罰も労災保険料負担も負わない。危険な業務は外注下請けに回して、年に数百億の労災保険料還付という利益すら享受している。

こうしたずさんな法制度のもとで下請け労働者は急速に増加している。造船業は、10年前と比べて発注元の雇用人員は変わっていない反面、下請け労働者は10倍以上に増えている。生産ラインをすべて下請け労働者でまかなっている事業場も多い。

財閥大企業が下請け雇用や特殊雇用によって危険を外注化する代価は、結局のところ重大事故の発生と発がん物質の露出へとつながり、国民の健康権と生命を脅かし、社会的費用を増大させている。現在の雇用構造に見合う法制度改善が急がれる。

 

変化した雇用構造、産業構造に遅れをとった労災対策

 

 第二に、サービス産業の比重と従事者の規模は拡大しているものの、従来の製造業・建設業中心の政策は変わっていない。

 サービス労働者は、事故による災害よりも職業病や感情労働の問題にさらされるが、現行の法制度のどこを見ても、これに対する対策はない。

 産業構造と雇用構造の変化が重なっている部分もある。宅配やバイク便、建設機械、トラック運転などの場合だ。

 貨物運送の規模が拡大し、建設機械施工の比重が高まっているが、労災予防対策自体が不十分なうえ、ほとんどが特殊雇用職労働者であるため、労災予防と補償の死角地帯に追いやられている。 このことが運輸業と建設機械分野の事故増加へとつながり、その被害も、労働者だけでなく国民にまで及んでいる。

 私たちの社会が危険社会へと転落している現実の土台には労働者の労働災害があることを明確に認識しなければならない。雇用構造と産業構造の変化にともなう労災予防、補償、処罰対策が講じられてこそ、労働者の死の行進を防ぐだけでなく、健康な未来は保障される。

 

2013.5.29 「創作と批判」週刊論評