韓国労働運動情報

民主労総はじめとした韓国労働運動関連記事の翻訳

本の紹介 『25日 現代自動車非正規職蔚山工場占拠闘争の記録』(日本語版)

2013年04月10日 04時38分06秒 | 非正規職

本の紹介

『25日 現代自動車非正規職蔚山工場占拠闘争の記録』(日本語版)

 

著者 パク・チョムギュ
原著発行日 2011年7月29日 第1刷発行
原著発行所 レディアン・メディア(韓国)

 

 2010年11月15日から12月9日にかけて、韓国の現代(ヒョンデ)自動車蔚山(ウルサン)工場の組み立てラインにつく社内下請けの非正規職労働者が、正規職化を求めて工場占拠闘争に立ち上がった。本書はその25日間の記録である。
 上部団体である金属労組の団体交渉局長として共にこの現代自動車蔚山非正規職支会のろう城闘争を担った著者が、現場で書き留めた記録をもとに再現した25日間は、ろう城突入の過程、会社側との攻防、正規職との連帯と対立、日常直面する様々な困難、内部での討論など、緊迫した場面の連続だ。
 闘いの火点となったのは、「2年以上勤務した社内下請けの非正規職労働者は現代自動車の正規職」とした同年7月の大法院(最高裁)判決。金属労組は判決説明会を組織し、非正規職の組合員数は飛躍的に増すが、会社側は判決を無視する。この過程で非正規職労働者の自覚が促され、11月15日に怒りがはじけたのだ。
 本書で注目すべきは、現代自動車の正規職支部との関係だ。ろう城闘争に対し、食料搬入作戦など正規職組合員の支援行動が展開される一方、正規職の指導部は、非正規職の闘いをお荷物扱いし、ろう城を乱暴に収拾させようとする。そもそも現代自動車工場で非正規職が増大したのは、97年の国家不渡り危機以降吹き荒れた整理解雇の嵐の中で、2001年に正規職労組が、非正規職を16.9%まで使用することで使用者側と合意したからだった。
こうした現実を見たとき、非正規職の増加を許し、さらには正規職と非正規職の共同闘争を困難にしているのは、両者の存在形態の違いなどではなく、労組指導部の問題であることが突き出される。
 本書は、25日の描写の折に触れ、こうした非正規職増加の背景や、全国の非正規職闘争の歴史を説き起こす。
 労組経験の浅い、若き非正規職指導部の姿も新鮮だ。時に敵の罠にはまり、時に動揺し、しかし組合員に支えられ、団結のみに依拠して踏ん張りぬく姿が、美化することなく描かれる。
 ろう城闘争で世論が非正規職問題に注目しはじめたさなか、北朝鮮による延坪島砲撃事件が発生し、闘争に少なからぬ打撃を与える。南北分断下の労働運動の困難性を突きつける現実だが、「現代自動車蔚山工場――ここが戦場だということを示してやろう」とツイッターを使って跳ね返してゆく。
 日本の現実と同じ点、違う点、強く励まされ、深く学ばされる一冊である。

(全国労働組合交流センター発行『月刊労働運動』2013年4月号より)

 

日本語版 2013年4月1日発行
翻訳 広沢こう志
A5版 240ページ
頒価 1000円
発行 労働者学習センター
    千葉市中央区要町2-8 DC会館
    Tel 043-222-7207
    Fax 043-224-7197
    E-mail:doro-chiba@doro-chiba.org


 『私たちが見えますか――弘益大清掃・警備労働者の物語』日本語訳発刊

2012年03月02日 13時42分47秒 | 非正規職
『私たちが見えますか――弘益大清掃・警備労働者の物語』日本語訳発刊

発行 労働者学習センター発行
A5版 228ページ
頒価 800円

ご注文は下記労働者学習センターまで

〒260-0017
千葉県千葉市中央区要町2-8 DC会館 
労働者学習センター

電話 043-222-7207
FAX 043-224-7197
Eメール doro-chiba@doro-chiba.org

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内容紹介
(全国労組交流センター『月刊労働運動』2012年3月号より)

本の紹介
『私たちが見えますか――弘益大清掃・警備労働者の物語』

イ・スンウォン、チョン・ギョンウォン著
2011年8月31日発行
発行所・ハンネ(韓国)

 韓国の大学で清掃と警備の仕事を担う非正規職請負労働者が、2011年1月3日から2月20日まで49日間にわたってろう城闘争を展開し、原職復帰と団体協約締結、賃金および労働条件の改善を勝ち取った。この闘争の勝利の教訓、闘いの限界、今後の課題などを生き生きと記録した本が、闘争勝利の半年後に出された。『私たちが見えますか――弘益(ホンイク)大清掃・警備労働者の物語』だ。

 「人々はその人たちを見ようとしなかった。男子トイレに女性労働者が入ってきても、あわてる者は誰もおらず、平然と用を済ませる。講義の最中でも会議中でも、その人たちが働いている姿に気を留める者はおらず、なにごともないようにそれぞれのやっていることを続けた。
 『ああ、あの人たちの目には私が見えていないんだ…』こんなふうに幽霊として生きてきた人々が、労働組合をつくり、闘いを通して人間となり、堂々たる労働者となった」(冒頭部分より)

 月給75万ウォン(約5万円)に1日の食事代300ウォン(約20円)という、政府の定める最低賃金にも満たない低賃金、休憩室もなく階段の下やトイレで食事をとらざるをえない環境、労働組合をつくったことに対し委託金額を切り下げて請負業者を撤収させ労働者を集団解雇に追いやっておきながらその責任を請負業者に押しつける大学側――労働者が実力闘争に立ち上がったことによって暴かれたこれら現実に人々は驚いた。けれども労働者が立ち上がったその根底にあったのは、労働者を蔑視するあり方への怒りだった。
「組合員たちが労組に加入して闘った最大の理由は、蔑視されるのが許せなかったからだ。管理所長は名前の代わりに『おい、キムさん』『このオバサンめ』と呼び、乱暴な物言いは当たり前だ。『このアマ』『腐れ女』、こんな暴言を吐く者もいる。みんな家に帰れば『母さん』であり、孫がいて『おばあちゃん』なのに…」(本文より)

 労働組合が生み出した力の大きさ
 この本には、地域労組や学生による非正規職労働者組織化の教訓や、現場の力を引き出す会議の持ち方、現実に見合ったやり方での規律の追求といった組織運営や指導のあり方、そしてツイッターを活用した青年支援者によるゲリラ集会の組織化など豊かな経験が盛り込まれている。しかし、この本でつかみ取れることは、労働組合運動のやり方というようなマニュアル的なことよりも、労働組合に結集し団結して闘った労働者が、どんなに大きな力をもつようになるのか、ということだ。

 テレビに出た組合員が、それを見た人から「良い労働条件で雇うからうちに来ないか」という申し出を受け、心が揺らいだ。しかしふと浮かんだ「ストライキ歌」の歌詞がそれを振り払った。
「揺らいではならない、バラバラになったら死ぬ、っていうあれ。私なんかでも一緒に一つになって固まらなくちゃ、私がもし抜けたら、誰も彼も抜けたりしたら、もう崩れちゃうじゃない。やった甲斐がないじゃない。私なんかの小さな力でも、この労働組合が一つに固まるときに力が湧くんで、私が出てったらだめだ、自分だけ楽に暮らそうなんて、そんなことできない――それで私は『お気持ちだけお受けします。私はここで、大して役にも立ちませんが、私はここに残ります』って返事をしたんです」(女性組合員/清掃)

闘争をやめさせようとした夫と正面から向き合い、獲得した。
「『これだけは絶対にやめられない。自分がいい目にあわなかったとしても、うちの同僚たち…うちの後輩たち、うちの子供たちが非正規職で…暮らすようになったら困るでしょ? だから、うちらがやって勝つことで、少しでもそういう人たちのためになればそれでいいじゃない』って話したら、『確かにそうだな』って。それで…『あったかくして、しっかりとるもんとって行ってこい』って」(女性組合員/清掃)

事実上の使用者である大学との力関係も逆転した。
「だから今はもう私が専従として恐喝・脅迫をしょっちゅうやってますよ。『今うちの組合員は49日間たたかってピリピリしてるから言葉に気をつけろ、雰囲気見てものを言え、失敗しても当分は目をつぶれ、しこりが解けたから働いているわけじゃはなく、まだ残ってるんだから気をつけろ』って。本人らも気をつけてますよ。社長が出てきてやつらに言ったのも、そういうことらしい。気をつけろ、言葉にも気をつけろ、って」(男性組合員/警備)

ここでは詳しく紹介できないが、新自由主義の大学と学生のあり方を問う部分も、法政大学闘争の主張を彷彿させるものがあり、なによりも労働運動と学生運動の結びつきという点で学ぶところは大きい。さらに後半の聞き書き部分では、弘益大に来るまでの組合員の半生にもスポットが当てられ、労働や社会保障、教育など韓国労働者の暮らしをとりまく状況をうかがい知ることができる。また、時代劇ドラマ「チャングムの誓い」や「イ・サン」に出ている女優キム・ヨジンさんの暖かい支援活動も心に残る。

 この労組のイ・スッキ分会長は、去る1月31日の民主労総大会で模範組合員賞を受けたが、弘益大当局はそれに挑むかのように賃上げ要求を拒否して団交を決裂させ、労組は再び闘争局面に入っている。

非正規職労組の10年を振り返って

2011年07月14日 20時49分56秒 | 非正規職
非正規職労組の10年を振り返って

イム・ジンニョン(全国不安定労働撤廃連帯 組織局長)

『非正規職のない世の中/非正規職撤廃運動の展望』(全国不安定労働撤廃連帯、2008.8、図書出版メーデー)所収


1.非正規職運動の成長と非正規職労組の意味

(1)闘争によって非正規職運動の課題を投げかけた非正規職労組

 非正規職闘争初期の非正規職労組は不安定だった。非正規職という雇用形態ゆえに、これらの労組は設立と共に闘争に突入し、その闘争が終る頃には消えてしまうのが常だった。こうして、作られては消えてゆく労組だったが、これらの労組が作られ、闘争した過程は、個別労組という性格を越え、非正規職闘争の主体として、また非正規職運動の過程として意味あるものだった。
 最初の非正規職闘争といわれるハルラ重工業社内下請け労組の闘争が闘われた時期は、下請け労働者がすでに構造調整でみな路頭に追いやられ、正規職労働者が困難な中で構造調整阻止のためのストライキを闘っている時期だった。また、2000年から始まり517日間にわたって闘われた韓国通信契約職労組の闘争も、構造調整の過程で非正規職が解雇され請負い化される過程で闘われた闘争だった。だが当時は、構造調整阻止闘争において非正規職闘争は正規職労働者の闘争と同じ闘争であり、正規職が共に担わなければならないという認識はなかった。だがこの二つの事例は、構造調整に対する闘争において正規職・非正規職の共同闘争の重要性を認識させる重要な事例だった。
 2000年の放送社非正規職労組の闘争は、派遣法によって2年ごとに周期的に解雇される派遣労働者の現実を知らしめ、派遣法を撤廃するための闘いであり、同じ年に始まって長期間闘われたインサイト・コリア労組もまた、社内下請けという名の不法派遣に対して正規職化を勝ち取るための闘争だった。インチョンのキル病院、テソン酸素、テソン・テック、ハンジン免税店、キャリア社内下請けなど、数多くの派遣あるいは社内下請けの労働者たちが労組を結成し闘いを続けた。だが資本の対応は強固であり、不法派遣労働者の権利に背を向ける裁判所の保守的な判決も相次ぐ中、多くの不法派遣闘争は、一つ二つと消えていった。ただしインサイト・コリア労組が長い闘争の末にSK(株)の正規職に転換し、放送社解雇者であるチュ・ボンヒ同志が5年目に子会社に復職して放送社非正規職労組が再建されたが、派遣労働者の現実は大きく変わってはいない。
 また、1999年の才能教師〔「才能教育」資本のもとで働く学習誌教師〕労組と2001年の建設運送労組の闘争は、特殊雇用労働者の労働者性が認められていないのは深刻だという点を運動社会の中に認識させた。33日間のストで労働組合の合法性を勝ち取った才能教師労組は、闘争をとおして労働者性認定闘争の切実さを初めて突き出し、建設運送労組は、特殊雇用労働者の労働者性獲得という重要な要求をもって強力な闘争を展開したが、建設資本と公権力の無慈悲な弾圧の前に倒れるほかなかった。だが特殊雇用の労働組合は引き続き命脈を維持して生き残り、その後、特殊雇用対策会議を立ち上げ、労働者性獲得のための共同闘争の幅を広げてゆくことになる。
 2000年、ソウル大の施設管理労働者がストライキ闘争に立ち上がり、テウ建物を管理する施設管理労働者であるトンウ共栄の労働組合もストライキ闘争を展開した。こうして始まった施設管理労働者の闘争は、長い雑役生活の悲哀を吹き飛ばすための闘いであり、これは個別企業での闘いを越え、2003年、一日ではあったが施設労組の全支部ストを通して社会的に争点化するところまで進んだ。
 このように初期の非正規職労組は、今は残っていなかったり、困難に突き当たっているとはいえ、それぞれの闘争が影響を及ぼしあって成果を引き継いで非正規職運動を成長させてきた。その反面、組織を維持する事例は多くなかった。不安定な雇用の中で追いつめられた労働者が、解雇を目の前にして労組を選択し、組織化と同時に闘争に突入せざるを得なかったためだ。すなわち、非正規職闘争初期の非正規職労組は、資本の非正規職化の流れの中で非正規職労働者にとって生存のための道具だったのであり、労働組合は闘争体以外の何物でもなかった。その闘争のひとつひとつが非正規職運動を前進させる過程だったが、労働組合を安定化させるのは難しく、社会変革の主体として粘り強い成長過程を踏むことも難しかったのである。
 資本の構造調整によって解雇された非正規職労働者の闘争においては妥協点は存在し得ず、困難な闘いの末、労働者はばらばらにならざるを得なかった。街頭での闘争以外に労組としての日常活動や運動主体としての成長を実現するにはあまりにも条件が厳しかった。それゆえ、多くの労働者が闘争敗北後ばらばらになって請負い労働者として他の事業場に散った。このときは、闘争の成否とは関わりなく非正規職労働者が持続的に非正規職活動家として自己を打ち立てることが、非正規職労組の生存と同じくらい重要な課題だった。

(2)非正規職労組の拡大と成長、しかし非正規職だけによって進められた闘争

 月次休暇を使おうとして管理者から包丁でアキレス腱を切られなければならなかった過酷な非正規職の現実を打ち破り、2003年、ヒョンデ自動車アサン工場で社内下請け労働組合がつくられ、SKインサイト・コリアの労働者が不法派遣に対して正規職化を勝ち取った。これを皮切りにヒョンデ自動車ウルサン、クムホ・タイヤ社内下請け労組、ヒョンデ重工業社内下請け労組など、社内下請け労組が建設されだした。もう一方では、16時間の長時間労働、原価にも満たない運賃、平均3千万ウォンの負債で生存の瀬戸際に立たされた貨物〔トラック運送〕労働者が闘争に立ち上がり、5・15労政合意を引き出した。
 大規模非正規職労組の建設と闘争、そして、一部ではあるが不法派遣労働者の闘争の勝利は、非正規職運動に新たな流れをもたらした。この時期から非正規職運動は本格的な成長期に入ったと言える。この時期に全国非正規職労組連帯会議(全非連)の枠が作られ、全非連を中心に非正規悪法に対する闘いを展開した。
 また、さまざまな領域で非正規職の闘争が展開されるようになる。公共部門では勤労福祉公団の非正規職労組が、イ・ヨンソク烈士の焚身以後、強固なストライキ闘争に立ち上がり、建設労働者の闘争が相次ぎ、弾圧に抵抗する移住労働者の闘争もこの時期に闘われ、2005年にはダンプ労働者が組織され闘争に立ち上がった。非正規職労組が闘争で成長し、労働基本権獲得闘争を具体化し、また、建設労組とハイニクス-マグナチップ、ハイスコなどで地域共同闘争の模範をつくりだした時期でもある。
 しかし2005年以降、非正規職労組の闘争は再び停滞期を迎える。これには資本の弾圧が大きく作用したが、内部的には民主労組運動の認識の限界を露呈させた過程でもある。
 非正規職労組が建設され闘争を開始し、民主労組運動内部の認識の変化を引き出しつつ、既成の労組運動が非正規職問題を社会的に争点化させる次元を越え、賃金・団体協約に非正規職の差別是正と労働条件改善を反映させるところまで行った。2002~2003年の時期に非正規職関連の賃金・団体協約が論議され、(段階的)正規職化などに関する実質的な成果をかちとった。非正規職が拡大する中で、非正規職を組織することが労働運動の自己基盤を確かなものにするという認識が広がったためだ。だが民主労組運動陣営が賃金・団体協約闘争の過程で非正規職問題の解決をめざし、非正規職の組織化と非正規職関連の法制度を改善するための動きを開始したことは大きな進展だ。
 だが非正規職を主体として組織する過程のない動きは長くは続かなかった。一、二度の賃金・団体協約は成果をもたらしたが、それ以上の闘争をつくることはできなかった。段階的な正規職化を勝ち取った事業場は、その後、超短期の契約に対して対応できず、正規職化は実現したものの、そうした事業をやりぬいた労組が、そして正規職転換を勝ち取った当事者たちが、非正規職運動の活動家として残ることはなかった。また、一時期激しく闘われた不法派遣闘争は、都市鉄道の清掃用役労働者や社内下請け非正規職労働者に関して大規模な不法派遣判定を勝ち取ったが、これを正規職化実現のための闘争にしてゆくことはできなかった。
 この過程で非正規職の主体たちは、正規職・非正規職の共同闘争の必要性を痛感した。民主労組運動が以前よりも非正規職問題に積極的な姿勢を示したものの建前的な側面が強く、非正規職の組織化と非正規職撤廃を自己の課題とするところにまでは行かなかった。
 非正規職の問題は、政府と資本が既成の労組運動を社会的合意の枠内に取り込むための主要な議題として機能し、一部の民主労総指導部は、非正規職を保護する必要があるという名目で社会的合意の枠組みに入ってゆこうとした。そのたびに、自ら突破する余力のない非正規職労組は、民主労総が本来の役割を果たしていないことを批判したり、またはそれに寄りかかったり、議題によっては何の提起もできなかった。その遅々とした過程はその後も繰り返されかねない状況であり、民主労組運動が非正規職闘争を自己の闘争課題として正しく確立できなければ、非正規職問題は今後も民主労組運動の弱い環となるだろう。
 非正規職撤廃に向かう過程をどう構成するかによって非正規職運動の発展過程が違ってくる。したがって非正規職運動の一主体である非正規職労組は、自らの安定をめざす機能だけではなく、組織拡大を通して民主労組運動の中で自己の発言力を確保する必要がある。
 だがそれにとどまっていてはならない。労働組合としての安定化だけでなく、非正規職運動の主体として絶えず発言しながら、民主労組運動が非正規職運動を自己の課題として受け止めるよう、その役割を果たす必要がある。すなわち、非正規職運動の主体として、民主労組運動の主体として、また社会変革の主体として非正規職労組が機能するためには、非正規職労組が安定的に維持されると共に、そこに安住せず、運動する組織として非正規職労組を打ち立てる必要がある。
 だが、歴史の浅い非正規職労組がこうした過程を堅実に経るには、条件はあまりに厳しく、民主労組運動の非正規職問題に対する見方も大きな進展を見せなかった。このことは相互に連関しており、互いを縛ってきた過程でもある。特殊雇用労働者は特殊雇用対策会議を通して労働者性獲得闘争を展開し、何度かの意義ある共同闘争を生みだしたが、この問題は彼らだけの問題だった。不法派遣闘争が企画され進められたが、これは派遣法撤廃と間接雇用撤廃のための闘争にはつながらなかった。非正規職権利保障立法実現という民主労組運動の要求は、現場闘争力を持たない非正規職労組を法制度の補完に向かわせ、現場の具体的な闘争として企画されることもなかった。
 すなわち、この時期は非正規職運動が多様化し、具体化し、成長した時期でもあるが、模範賃金・団体協約条項を越えた正規職・非正規職共同闘争の典型をつくりだすことはできず、また、政治的・社会的な闘争が非正規職の現場闘争を支えることもできなかったという点で、心残りの多い時期だ。

(3)非正規職悪法制定と産別転換の中で新たな課題を付与される非正規職労組

 非正規職悪法が国会を通過して以降、無気力な運動陣営に火をつけたのがニューコア・イーランド労働者の闘争だった。コスコム非正規職労働者もまた、不法派遣に対して直接雇用・正規職化を要求しストライキ闘争を闘った。ニューコア労組、イーランド一般労組、コスコム非正規職支部、GMテウ非正規職支会、キリュン電子分会、KTX〔高速鉄道〕乗務支部、学習誌労組などは、非正規職悪法廃棄の戦線が構築されない状況の中でも、「非正規職撤廃、非正規職悪法廃棄」に向けた共同行動を立ち上げ、闘争の流れを強固なものにした。非正規職悪法が通過して以降の非正規職闘争は、このような主体によって辛うじて闘われ、民主労組運動の闘争支援はこれらの労組をめぐって全力を尽くしたが、非正規職法廃棄戦線を拡大する役割を放棄したことで結果的に闘争の成果を生みだすことができなかった。
 産別労組への転換以降、非正規職労組は産別の流れの中に再編され、非正規職闘争の主体としての役割と、民主労組の一部分としてなすべき様々な役割を付与されはじめた。そのために労組の構造から運営に至るまで民主労組の主体として訓練される必要があり、同時に非正規職の主体として産別労組の中で発言力を確保し、非正規職問題の重要性を提起する必要があった。
 それを可能にするためにも、非正規職の各労組が連帯し、集団的発言力を確保する必要があったが、逆に非正規職各労組の集団的な力は弱まりつつあるか消滅していた。非正規職の不安定な条件が立ちはだかっており、産別労組の「公式」構造では非正規職の集団化を認めにくかったのである。さらに、産別労組の流れが進展する中で、全国非正規労組連帯会議は以前のように非正規職闘争の結集軸としての役割を果たせず、非正規職労組の連結環の役割を忠実に遂行するには集中性が弱まっていた状況だった。


2.非正規職運動10年、何を残したか

 非正規職運動のこの10年は、非正規職労働組合の熾烈な闘争によって形づくられていると言っても過言ではない。多くの限界があったにせよ、それに見合うだけの多くの進展があったことも事実だ。非正規職運動10年の過程でわれわれは何を発展させ、何を残したのかについて見てゆきたい。

 (1)非正規職問題の社会化

 非正規職労働者は現在、労働者全体数の56%を越えている。それほど非正規職はもはや特殊な雇用形態ではなく一般的な雇用形態となっている。だが、非正規職を正常な雇用形態にしようとしていた政権と資本の意図は完全には成功を収めていない。それは、困難な状況のなかで熾烈に闘ってきた非正規職労働者がいたからだ。多くの非正規職たちが、厳しい闘争を経る中で、どれほど労働権が制約されており、どれほど容易に解雇されるか、どれほど低い賃金と労働条件で働き辛い思いをしているかを暴露してきた。それによって、非正規職は問題ある雇用形態だということが社会的に知られてきた。また、非正規職法が悪法だという事実もすでに広く知られている。
 だが依然として非正規職運動の課題は完全には明らかになっていない。言い換えると、「非正規職問題」という抽象的な問題が社会化されただけで、具体的な内容においては「雇用不安」と「低賃金」の問題だけが集中的に強調される。非正規職というとき、差別など人権の問題、政治的権利の問題、そして健康と生存の問題など多様な課題が浮かび上がり、こうした内容が社会化したとき、完全に非正規職問題は社会化される。
 だが非正規職といえば、劣悪な労働条件のもとで働くかわいそうな労働者というイメージが浮かび、誰もが享受すべき権利の制限という側面でとらえることができなくなる。非正規職問題の社会化は、これまで非正規職労働者が熾烈に闘ってきた成果でもあるが、同時に、いまだにこれが「権利」に進展していないということを示している。
 また、全ての闘争が非正規職労働組合だけの闘争として狭まってしまう中で、その闘争で成果を残したとしてもそれは個別の成果となってしまい、敗北でもしようものなら闘争自体の意味が消え失せてしまう。このかん非正規職労働組合は企業単位あるいは業種単位の個別闘争に局限されていたため、正規職化をするとその人々は正規職となり、非正規職運動のことを考えなくなり、敗北して散り散りになると、それも非正規職運動の貴重な資産としては残らない。非正規職労働者の闘争は単なる個別事業場の労働者の雇用問題や労働条件に関する問題ではなく構造的な問題であるにもかかわらず、闘争が非正規職労組だけの闘争に狭まれば、その闘争の結果は広がらず、社会的に労働権を拡張するような成果を上げるのも簡単ではなくなる。そして広範な非正規職労働者がこれを自らの問題として認識することができなくなる。そうした点で非正規職労組が闘いを通して実現した「社会化」という成果を、今度は政治的な課題として提起して闘うことが重要な課題となる。

 (2)個別事業場における労働権の進展と社会的な後退

 大工場や公共部門では、あるていど非正規職労働者の雇用や生活が一定保障される成果もあった。当初、非正規職労働者が闘争を開始したときには労働組合の維持が可能なのかについてかなり疑問があった。労働組合をつくれば契約打ち切り、ということが一般化していたためだ。だが労働者が熾烈に闘う中で労働組合活動を理由に非正規職労働者を契約解除した場合、強力な抵抗に直面せざるを得ないという事実を認識させることで、一部の資本が非正規職労働組合を承認するところまで行った。
 だがこの成果はすでに組織されている一部の労働者だけの成果だ。例えば、社内下請け非正規職労働組合の認定が、下請け労働者全体の労働権認定となるのではなく、大工場労働者の特殊な成果としてのみ存在しているのである。そうした点で個別事業場における労働権の一部進展はあったものの、依然として社会的な意味において「労働権」自体はまったく進展していないと言える。
 むしろ労働権は後退したと見るのが妥当だ。まず、非正規職法が施行される中で、非正規職という雇用形態を制度化することを食い止められなかった。それによってすでに、自分は「もともと非正規職だ」として不安定な労働を受け入れる非正規職が出てきている。労働運動陣営の一部では、非正規職という雇用形態を認めつつ差別改善のための活動に注目すべきではないかという主張も出てきているくらいだ。
 だが、建設労組など間接雇用労働者の熾烈な闘争、特殊雇用対策会議を立ち上げ8年間闘ってきた特殊雇用労働者たちの闘争により「発注側使用者の責任認定」や「特殊雇用の労働者性認定」などの要求は具体化した。だが依然これを勝利にするための力ある実践はできておらず、いまだにこうした労働権の要求は当事者だけの役目であるかのように認識されている。これをどう全体の課題にしてゆくかが重要だ。

 (3)非正規職主体の形成

 政権と資本は非正規職を恩恵の対象にしようとしている。だが非正規職労働者は社会的弱者や恩恵の対象などではなく、権利の主体であることをみずからの闘いで宣言した。そして、労働法改悪の局面でも主導的に闘い、全国的な非正規職労組の連帯枠を形成しつつ、各産別労組の内部でも非正規職の権利と課題を実現すべく努力してきた。
 だが非正規職労組の組織率は韓国労総を含めても3%に過ぎない。そしてこの3%の組織率も、大工場の社内下請けや貨物連帯、建設機械など、業種中心労組の組織率だ。ここを除けば施設業種であるていど組織化が進んでいるだけで、その他の組織率はほとんどゼロに近い。もっと多くの非正規職労働者が組織され、みずから声を上げなければならないが、今の組織率では絶対にみずからを主体に押し上げることはできない。だとすれば、今や最も苦しめられ資本の搾取が集約されている零細事業場の非正規職労働者を組織するための戦略的組織化計画を立てる必要がある。そして非正規職を主体に押し上げるうえで、なんとしても「労組の形式」だけではなく多様な主体化戦略を模索する必要がある。そうしたとき非正規職の主体形成は可能だ。
 だが労組に組織されたとしても、全員が非正規職撤廃運動の主体としての役割を果たしていると見ることはできない。いま非正規職労組は、労組を維持するための生存条件が絶対的に不足しており、基本権も保障されていない中で孤軍奮闘し、若干の成果が与えられただけでも現実に安住してしまう傾向が強い。いまだ幹部や活動家を養成するためのプログラムも整っていない。そして自分のところの組合員しか頭にない既存の労働組合運動のあり方を容易に踏襲してしまうということもある。正規職労組や上級団体に対する依存も強い。非正規職主体を形成するためには非正規職労組の活動を新たに発展させるための支援を惜しんではならない。

 (4)階級的団結の可能性確保
 
 非正規職運動の過程において正規職と非正規職の階級的団結はいまだに難しい。一部の事業場では根気強く教育し、正規職・非正規職が連帯することにより階級的団結に対する認識が深まっており、それが非正規職を正規職化したり、非正規職の組織を拡大するなどの活動として現れている。だがそれは運動の革新を可能にするほどの「運動」には発展しておらず、個別事業場での活動に限られている。いくつかの事例は単なる「模範事例」に過ぎず、全体が目指すべき運動としては語られていない。そして、仮に非正規職と正規職の関係が良く、事業が進んでいたとしても、正規職労組の代理主義的傾向と非正規職労組の正規職活用論とがぶつかり、階級的団結に進んでいない場合も多い。
 一部の個別事業場では正規職と非正規職の関係はむしろ後退している。特に、経済危機が迫る中で非正規職労働者を雇用の安全弁にして生き残ろうとする正規職労働組合も出てきている。これは非正規職運動だけの問題ではない。非正規職が広がることによって雇用に対する恐怖感がいっそう高まり、そうなると労働者は自分だけでも生き残るためにもがかざるを得ないが、政治運動や労働組合運動が団結して闘えば勝利できるという希望を示すことができていないため、階級的団結へと進むことができないのである。
 そして非正規職内でも分断が起こっている。1次下請け労働者が2次、3次下請け労働者を包括してともに闘うということができておらず、直接雇用の非正規職が間接雇用の労働者に対して排他的な態度をとることもある。そうした点で、非正規職運動自体が階級的団結をおのずと可能にするわけではなく、いつでも資本の分断にさらされる可能性があるため、階級的団結は文字通り「運動的模索」を持って行わなければならないということを確認することができる。


 3.非正規職労組の限界と、克服に向けた課題

 (1)非正規職労組が非正規職運動の主体として正しく立てない限界

 非正規職問題は、非正規職という雇用形態をとる労働者だけの問題ではなく、資本の構造調整の過程で発生する問題であり、新自由主義の雇用柔軟化に立ち向かう闘いの核心に非正規職問題がある。したがって非正規職労働者が組織され闘うということは、構造調整阻止闘争において特に重要な意味を持っていた。また、闘争勝利のためには正規職と非正規職の連帯と共同闘争が必然的だったため、資本の分断戦略に対して労働者を階級へと再度束ねることが重要だった。そしてその過程を通して民主労組運動の階級性と民主性、連帯性を復元してゆく可能性があるため、非正規職労組の組織と闘争が民主労組運動において重要なものとして認識されたのである。だが民主労組運動と非正規職労組の主体条件が脆弱で、そうした原則を容易に実現できていない。
 一つ目は、非正規職運動は発展してきたものの、非正規職問題を依然として非正規職労働者だけの問題としてとらえる認識に起因する点だ。非正規職闘争の重要性と同じくらい非正規職労組は一つ一つが代表性を持つことになるが、非正規職労組はその歴史が短いため、そうした代表性に見合った組織力と経験を備えられていない。すなわち非正規職運動をみずからの課題とせず、ただ支持し支援する勢力としてのみ自らを位置づけた部分は、当事者が何を要求しているのかに集中してしまい、それが非正規職運動全体においてどんな意味を持つのかを考えることが難しかった。非正規職労組が非正規職運動における代表性をしっかりと体現し、非正規職運動を民主労組全体の課題へと押し上げるためにも、非正規職労組の外的・内的自己成長が必要だ。
 二つ目は、非正規職労組もまた民主労組運動の影響の中で成長してきたため、運動全体の限界を共有しているという点だ。非正規職労組は既存の労組運動に階級的団結という意味ある問題提起を投げかけはしたが、本来の労組活動とは何かについての典型をつくることが難しかったため、惰性化した既存の運動のあり方を踏襲せざるを得なかった。短い期間で急激な成長を遂げてきた場合であればあるほど、また闘争を重ね、闘争で持ちこたえてきた労働組合であればあるほど、上層部から現場組合員までを貫く疎通の構造と民主的運動構造を獲得できていない。これによって逆に民主労組としての非正規職労組の成長は阻害され、惰性化した組織維持システムだけが残る懸念が存在する。
 三つ目は、労組としての安定化を追究し、システムを整えることに重きを置けば置くほど運動性を失っていかざるを得ないという限界もある。非正規職労組の生存の可能性が高まれば高まるほど、そして企業を超えた労組の場合も、システムを整えてゆけばゆくほど、日常的な活動は縮小し、反復的な賃金・団体協約交渉や、その時々の雇用不安を克服するためだけの闘争へと労組の活動が狭まり、非正規職運動の主体としての役割を担えなくなる。
 こうした非正規職労組の状態ゆえに、非正規職撤廃のために運動するのではなく、組合としての組織維持を優先目標とするようになり、自組織中心の実利主義的傾向へと流れる可能性もある。依然として不安定な存在条件は、独自生存を困難にしたり共同闘争を回避させ、これに加えて資本と政府の非正規職労組に対する弾圧はこうした萎縮を加速化させる。

 (2)非正規職運動の主体として、民主労組運動革新の主体として立つための課題

 非正規職運動の限界を克服するということはどんなことを意味するのか。その質問に対する答えを探るために非正規職労組の3つの課題を設定したい。こうした課題の中で、それぞれの非正規職労組が現在どの位置に来ており、今後どんな活動を強化すべきかを考えるためだ。
 一つ目は、労組が生存するための基礎的な資源の確保という問題だ。非正規職労組は最大限多くが生き残らなければならず、より安定的に活動できなければならず、より多くの組合員が、そして新たな非正規職労組が組織されなければならない。このように多く組織されるとき、非正規職労組は運動陣営の内部で発言力を確保することができ、非正規職労組の問題提起により既存の民主労組運動の変化を強制してゆくことができる。また非正規職労組が最大限安定化してこそ非正規職の懸案についても力を合わせて闘うことができ、政治・社会的な課題を力ある闘争にすることもできる。そして非正規職労組がしっかりと生き残ってこそ、非正規職の活動家の養成も可能だ。いまのように非正規職労組の大多数が生存のために喘いでいる状況では非正規職運動の画期的な進展は難しい。
 だがこれは単に非正規職労働者だけの力で実現することではない。資本は非正規職という雇用形態を通じて労働権を剥奪し、労組活動を制約しようとするのであり、非正規職という存在形態そのものが労組活動の安定化を阻む要素なのである。だが資本攻勢の隙を突いて大規模業種単位の非正規職労組も生まれてきており、そうした限界を突破するための方法として産別労組も建設された。それゆえ労組安定化の課題は「非正規職労組」だけの課題であってはならない。産別労組が、そして非正規職労組の運動を支援しようとする各種運動体が、非正規職労組が組織を拡大し安定するよう支援する方法をともに論議する必要がある。
 二つ目は、非正規職運動に対する展望を持って組織し運動してゆく、組織としての課題だ。非正規職運動において非正規職労組が重要な理由は、「労組」こそ非正規職という雇用形態であるがゆえに苦しめられている彼らにとっての主体的な組織だからだ。だがこの労組が既成の労組のように安定化それ自体にとどまってしまえば、非正規職という雇用形態から必然的に発生する問題に対ししっかりと抵抗できず、若干の改善に満足してしまうようになる。非正規職労組は、非常に厳しい条件で存在し闘ってきたため、むしろ若干の改善に満足する可能性が高い。非正規職労組が当面の問題解決や当面の利害関係のみに自組織の活動を局限してしまった場合、うち続く資本と政権の弾圧と労働権の不在の中で、生き残ることも難しいばかりか、生き残ったとしても意味ある組織として存在することは難しい。
 だとすれば、非正規職労組が非正規職運動全般に対する展望を提示し、運動する組織としての課題を持つとしたら、それはどんな形態で具体化されるのかを考えてみる必要がある。それは次のような特徴を持っていると考える。まず、非正規職労組は「連帯」を自らの課題とする必要がある。等しく苦しめられている労働者との連帯を労組の優先課題として提示すること、それを通して絶えず非正規職問題一般へと認識を広げてゆくことが重要だ。また、「組織化」を自己の課題にする必要がある。さしあたって組織されている労働者だけの利害ではなく、同じ苦しみのもとにおかれた労働者全体の戦闘に立てるよう継続的な組織化が課題とならねばならず、この課題に対する認識を組合員や幹部が持ち続けなければならない。そして非正規職労働者の権利を妨げる各種の社会的、制度的、政治的な問題に対する闘争へと押し広げてゆく必要がある。
 三つ目は、組合員の日常的な組織と訓練、組合民主主義と活動家再生産の課題だ。非正規職労組は非正規職運動だけでなく労働運動全体の中で意味ある主体となる必要があり、非正規職という雇用形態を強制する新自由主義に立ち向かう主体として立たなければならない。そのためにも非正規職労組は、よりいっそう民主的でなければならない。
 だが非正規職労組も民主的でない場合が多い。内部のシステムが不安定で、訓練されておらず、指導部に決定と判断が集中し、意図していかなかったとしても指導部に権力が集中することで組合員を受け身にしてしまう。それを克服するためには、労働組合の日常活動を強化し、その中で非正規職の活動家を再生産しうる構造を整える必要がある。「非正規職労組」だから仕方がないという口実で内部の非民主性が覆い隠され批判されないあり方は、逆に非正規職労組を急速に変質させかねない。非正規職労組だからこそ、差別をなくし労働者の統一と団結を目指す組織でなければならないからこそ、いっそう民主性に対して厳格でなければならない。
 そして内部から団結を目指さなければならない。今では非正規職の内部も、直接雇用か間接雇用か、1次下請けか2次下請けかなどによって分断されている。こうした内部分断を乗り越えて団結しない限り、非正規職労組は民主労組運動に対して意味ある問題提起を行う主体としての位置を占めることはできない。内部の分断を認めず、非正規職全体を対象に組織活動をしているか、組合員を対象とした日常活動の体系がどれだけ整っているか、民主的運営のための体系はどれだけ整っているか、組合員を主体化するために日常的な教育はきちんと行われているか、をしっかりと点検する必要がある。

 (3)非正規職労組の現在と民主労組運動全体の課題
 
 非正規職闘争は運動全体の課題だと言うとき、とうぜん非正規職労組だけが闘争の主体ではない。だが、建前だけで非正規職問題を語ったり、あいかわらず非正規職を支援と恩恵の対象ととらえる見方が存在する以上、非正規職労組が非正規職運動の主体として強固に位置付くことが何よりも重要だ。そのために非正規職労組は労働組合としての安定的な体系と構造を備え、民主労組運動の内部で発言力を高める必要がある。
 依然として厳しく不安定な非正規職労組も存在するが、その一方で、業種別または産別の形態で大規模に組織されている非正規職労組も出てきている。これらの労組は闘争の経験を蓄積し、活動構造を形成しつつある。もちろん、初期の非正規職労組に比べて相対的に安定しているということであって、再生産の困難さ、各種の制度的問題など存在条件の限界による浮沈は依然として存在している。
 ある程度の安定性が生じ、日常活動が行われ、労組としての状態を診断できるようになったということは明らかな成果だ。だがその成果の裏には、非正規職労組にのみ依存して非正規職闘争を行ってきたことによって、非正規職運動があたかも非正規職労組だけの運動であるかのように認識されるという民主労組運動の限界もある。非正規職運動の展望を描くためには、様々な運動の軸がどのように動いていくか全体的な眺望が必要だ。そうしてこそ非正規職労組がその運動の中で非正規職労組としての自らの役割を構築し、一方で運動全体の課題のために共に動いてゆくことが可能であろう。
 そのために現在の非正規職労組を民主労組運動の展望の中でとらえ診断することが必要だ。非正規職労組が民主労組運動の革新という課題に服務し、民主労組運動が非正規職運動を正しく担っていくには、非正規職労組が民主労組として、また非正規職運動の主体として、運動性を喪失しないようにする必要がある。非正規職労組は、資本の構造調整に立ち向かう闘争の主体であり、非正規職運動の主体である。ゆえに非正規職労組の安定的な活動と成長は重要だ。だがその過程は同時に、利害集団化し、惰性化することを絶えず警戒しながら進む過程でなければならない。
 労組の存立ということは非正規職労組の安定性を意味するものではない。いやしくも非正規職労組を非正規職運動の主体として思考するのなら、非正規職労組が絶えず非正規職撤廃の展望を持って運動するあり方を重要な課題としなければならない。そのためには非正規職労組自身が自らの展望を明らかにするとともに、既成の労組運動がどう変化してゆくべきかを語らなければならず、また、非正規職労組をめぐる民主労組運動全体が互いにいかなる連関性を持って運動してゆくのかをともに論議しなくてはならない。
 非正規職撤廃に向けて闘う労組、非正規職撤廃のための活動家を育てる労組、そのために民主労組としての成熟を成し遂げる非正規職労組をつくり、広げるために、各運動体は自らの場で何をなすべきか共に模索する必要があるだろう。(了)


イム・ジンニョン(Im Jin Ryeong) 2002年に非正規職闘争に初めて接して以来、非正規職運動の発展に少しでも寄与できればと努力を続けている。2006年から全国不安定労働撤廃連帯の常勤として活動しており、今は組織局長を務めている。

韓国政府、非正規職法改悪を推進

2008年07月20日 12時18分04秒 | 非正規職
非正規職をもっと長く使えれば解雇が減る?
政府、非正規職の雇用期間は3年、派遣業務は大幅拡大を推進

チャムセサン2008年7月18日付

 政府が、非正規職の雇用期間を現行の2年から3年へと増やすばかりか、派遣業務を大幅に拡大する方向で非正規法改正を本格的に推進していることがわかった。
 「中央日報」は18日、企画財政部と財政経済部の関係者の言葉を引用し、「法的に契約期間を増やし、派遣業種を拡大することにより契約期間満了を前に生ずる非正規職解雇が減るよう誘導するということ」だと報じた。こうした政府の立場は、このかん使用者が要求してきたことをそのまま受け入れたもので、労働界の強い反発を招くものと見られる。大韓商工会議所は6日、労働部などに「非正規職保護法に対する業界意見建議」を提出し、非正規職の使用期間を4年に増やすよう要求している。
 非正規法は7月1日で施行1年を迎えた。非正規職を保護するためにつくったという非正規法が、逆に非正規職労働者の大量解雇を招いているということを政府も認めている。
 企画財政部は16日、統計庁の「6月の雇用動向」を分析し、「非正規職保護法の施行以降、雇用地位が不安定な臨時、日雇い職および非正規職が大きく減少」したとし、特に今年7月1日から非正規職保護法の適用対象となった100~299人の事業場を中心に非正規職が減少している」と明らかにした。
 こうした分析にもかかわらず政府は、非正規職の不安な雇用地位を解消する根本的な対策ではなく、非正規職の雇用期間を増やし、使用者がさらに多くの非正規職を、もっと長く使用できるようにするやり方を採択しようというのだ。
 これに対しウムンスク民主労総広報担当は「傷に塩をまく行為」と一蹴した。
 ウムンスク広報担当は「政府のやり方は、非正規職が置かれている雇用不安と低賃金を固定化するということであり、今まだ最低限開かれている正規職化の出口さえも封鎖するということ」だとし、「非正規職が正規職化するあらゆる道を遮断し、非正規職として永遠に暮らさせるということだ」と批判した。さらに、「現在の経済危機によって発生する苦痛を、非正規職労働者だけに負わせようとする徹底的に財閥寄りの政策」だとし、「政府がこのようなやり方で挑発するのであれば、民主労総は戦争を準備せざるを得ない」と付け加えた。(イコンマム記者)

【非正規職法施行1年】正規―非正規職「単一労組」の試み

2008年07月14日 17時12分35秒 | 非正規職
正規-非正規職の壁越え「単一労組」に向かうべき
【非正規職法施行1年】法あざ笑う雇用不安・差別

現代車など雇用不安おそれ「非正規統合」そっぽ
「雇用奪う」虚構の論理が手足縛る
ニューコアなど美しい連帯…希望の道示す

「来月、非正規職労働者の労組加入可否を決定する賛否投票を行います」

 先月(6月)30日、ヒョンデ自動車ウルサン工場前のヒョンデ自動車文化会館の講堂に集まった全国金属労働組合ヒョンデ自動車支部の代議員400名は、チョチャンミン事務局長(43)の言葉に耳をそばだてた。社内下請け労働者、食堂・警備など外注労働者に労組の門戸を開こうという案件だ。そうするためには代議員大会参加者の3分の2以上の賛成が必要だ。今回で3度目のチャレンジだ。昨年1月には圧倒的な反対で、6月には賛成211票対反対210票で否決された。2003年に成立した非正規職労組に、正規職労組が「壁」を設けたのだ。
 「全ての労働者はひとつの労組に加入する」という労組の「1社1組織」規約に基づき、ヒョンデ自動車支部は今年ふたたび壁を崩すことを試みる。今回も楽観することはできない。2004~2005年に労組幹部だったソドンシク氏は「非正規職に雇用を奪われかねないという現場の感情に代議員が逆らうのは容易ではないから」だという。
 ヒョンデ車の正規職労働者たちも、「非正規職を抱え込まなければならない」という大儀には首を縦に振る。手足を縛るのは「雇用不安」だ。1998年以降導入された整理解雇制が居座っており、「労働者雇用承継の負担がなくても社内下請け会社を取り替えることができる」今の請負契約方式では、下請け会社の非正規職労働者が潜在的競争者になりかねないからだ。去る5月、正規職労組は生産量の少ない工場の組合員250名を、生産量の多い工場に配置転換することで会社と合意し、非正規職は大量に職を失った。正規職労組が合意してきた非正規職の成果給は正規職の50~70%水準だ。

 非正規職労組が「組織統合」にすんなりと向かえないのもこうした事情からだ。非正規職の声が埋もれてしまいかねないという懸念だ。キア自動車支部は完成車4社のうちで最初に昨年4月、代議員大会で「非正規職の労組直接加入」を通過させ、今年5月に労組統合を実現させた。非正規職支会が「労組員直接加入」に反対し、別個にストを行って正規職労組との間に摩擦が生じたりもした。キムヨンソン前非正規職支会長は「非正規職の数が少ないからといって賃金・団体協約で非正規職の要求が埋もれてはならない」と警戒する。キア自動車支部は今年の非正規職団体協約交渉の要求案を別途設けて交渉を推進している。
 一部の正規職労組では、非正規職問題に「そっぽ」を向いたり「圧迫」したりということも。コスコム正規職労組は、「不法派遣」と「集団解雇」に抗議しストを行っている非正規職の闘争に反対し、上級団体である民主労総事務金融連盟の懲戒を受けたため、民主労総を脱退した。GMテウ自動車プピョン工場の非正規職労働者が昨年9月から断食・ろう城などで困難な闘いを行っているが、正規職労組の支援はほとんどなかった。

 非正規職問題の解決に乗り出し、「美しい連帯」を実践する正規職労組もある。ニューコア労組がその代表だ。ニューコア非正規職労働者のイギョンジャさんは「自分のことでなくても、解雇されたり無賃金で1年以上行動を共にしてくれた正規職の同僚を考えると、勝利せずに職場に戻ることはできない」と語った。金融労組韓国資産管理支部も、2003年、非正規職の労組加入を承認したのち、2006年、正規職-非正規職統合労組を発足させ、会社と協議し非正規職470名を正規職化させた。同労組国民銀行支部は来たる9月、組合員投票を行い、無期契約職5300名の労組加入を推進している。先月30日には全羅北道クンサンの金属労組タタテウ乗用車支部が代議員大会において満場一致で非正規職420名の加入を承認した。
 パクユギ前ヒョンデ自動車労組委員長(43)は、「非正規職が正規職の雇用を奪うという虚構の論理から醒め、正規職と非正規職が単一労組をつくって共同対応すべき」と語った。パクチョムギュ金属労組未組織非正規事業部長は、「正規職と非正規職が連帯し、共に立ち向かうことこそ第2の労組民主化運動」だと語った。

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産別次元の対応が連帯広げる糸口
10%台の組織率が障害

 民主労総・保健医療産業労働組合(120病院、4万人)は今年、産別団体協約の要求に「非正規職の正規職化および差別是正」を入れ、労使が100億ウォンずつ拠出する産別連帯基金をつくり、非正規職雇用安定などの問題を解決しようと提案した。保健医療労組は昨年、正規職の賃金引き上げ分の一部を非正規職の雇用安定に用いることで合意し、非正規職2079名を正規職に転換させている。
 民主労総・全国金融産業労働組合(37金融機関、8万5千人)も産別中央協約の要求に「非正規職賃金11.6%引上げ(正規職は5.8%)、非正規職差別撤廃および雇用安定」を掲げた。まだ非正規職として残っている労働者が少なくないからだ。
 非正規職問題に前向きに取り組む産別労組が増えている。企業別労組体制としては、金属労組ヒョンデ自動車支部で見られるように、個別企業で正規職と非正規職との間に生じる利害衝突を調整するのは容易ではないからだ。何年も産別レベルの労使交渉を行ってきた保健医療労組のイジュホ政策室長は、「産別次元では個別企業の人件費競争に伴う負担などを共同で論議することができ、労使協議がより円滑だ」と語る。イジュヒ梨花女子大教授(社会学)は、「産別次元では非正規職の組織化が相対的に容易で、個別企業で正規職と利害が対立する部分を脱し、マクロ的な対策を立てることができる」と語った。
 大きな障害は、低い労組組織率だ。現在韓国の正規職労働者の労組加入率は10.3%、非正規職の労組加入率は2.8%にとどまっている。イサンウ金属労組未組織非正規局長は「非正規職の組織化は、単労はもちろん産別労組全体が解決すべき重要な宿題」だと語った。

【非正規職法施行1年】ロウソク集会と非正規職

2008年07月14日 17時10分58秒 | 非正規職
ロウソクも「無関心」 非正規職「他人事」?

 2ヶ月を越えて「ロウソク」が全国を熱くしている中、非正規職法が施行1年を迎えた。ロウソク行列の中では教育、医療、公企業のようなテーマも出されたが、非正規職問題は目につかなかった。非正規職労働者もロウソクに大挙して参加し、「非正規職は労働のBSEです」というプラカードも登場したのにだ。
 去る7月1日夜、ソウル市庁前広場の時局ミサで出会ったイホウ氏(31・会社員)は、「非正規職問題はBSEや医療民営化ほど『自分の問題』として迫ってこない」と語った。30代のヤンソヨン氏は、「非正規職問題は重要だが、イミョンバク政府だけの失政と見るのは無理があるから、ロウソク集会の時に目につかないのではないか」と語った。
 「ロウソク集会に出ながらも、電気が切られて子供たちがロウソクで勉強していると言っていた非正規職組合員の言葉が浮かび、とてもロウソクをともせなかった」イーランド一般労組のキムギョンウク委員長の言葉には、非正規職労働者の現実を他人事のように考える人びとに対する失望感がにじみ出る。ロウソクと非正規職との間の「距離」は遠いのか。
 先月、公共運輸労組貨物連帯支部のストの際、「ロウソク民心」はそれまでとは異なった。物流が止まったとき、多くの市民は貨物車両の運転手に「支持」を送った。貨物連帯事務室には「皆さんのストを支持します」というファックスが相次いだ。貨物連帯は、ストを解いたあとにも警察のロウソク強硬鎮圧を糾弾する声明を出し、ロウソク市民の支持に答えた。貨物連帯のパクサンヒョン法規部長は、「貨物連帯が『米国産牛肉運送拒否』を宣言するや市民が関心を示してくれ、原油高で『運行するほど赤字』というわれわれの現実に共感したようだ」と語った。
 ロウソクの現場で出会った市民らは非正規職問題をよく知らないようでもあった。イホウ氏は「非正規職問題がどれだけ私たちの生活と密接につながっているかを知れば、私も積極的に取り組むと思う」と語った。非正規職労働者の雇用不安と差別、正規職労働者の苦悩を解くべき労働団体に、ロウソク市民が投げかけた宿題のように聞こえた。

【非正規職法施行1年】法改正か制度補完か

2008年07月14日 17時09分05秒 | 非正規職
労災保険拡大など「安全網構築が先」
【非正規職法施行1年】法あざ笑う雇用不安・差別

「雇用不安・差別に苦しむ…法改正前でも適用を」
労働界「外注規制」、経営界「派遣拡大」隔たり

 非正規職保護法が施行されて1年。ろくに効果がない中、法改正か制度補完をすべきとの指摘が広がっている。労働界、経営界、政府ともにその必要性に共感する。だが労働界と経営界の見方はかけ離れている。その間に非正規職労働者はさらに「切迫した」境遇に追いやられている。「社会の安全網」構築を急ぐべきとの声が高まっている理由だ。

■労働界「外注化規制」
 労働界の最大の要求は「抜け道的な外注化・請負いの乱用を防ぐべき」というもの。現行の非正規職法では外注・請負いといった「間接雇用」に何もできないからだ。常時必要な主な業務は「直接雇用」の原則を置き、外注化を阻もうという主張だ。漢陽大法学部のパクスグン教授は「外注化防止対策を講じなければ労働法全体が後退する」と指摘する。民主社会に向けた弁護士会は「社内下請け労働者保護特別法の制定」を提案した。労働界は、請負元業者も下請け業者と共に「使用者」と見るべきと主張する。 
 全国民主労働組合総連盟は、明確な理由があるときのみ非正規職を使用するようにする「使用事由制限」の導入を要求する。現行法は非正規職を2年だけ使用するよう「期間制限」規定を置くだけで、逆に非正規職を量産しているというのが理由だ。

■経営界「非正規職使用期間を3年に」
 経営界側の見方は180度異なる。経営界は期間制労働者を使う期間を2年から3年へと延長し、労働者派遣も、32の業務(197業種)に限定しているところから大幅に増やすべきだと主張する。間接雇用が不可避である以上、もっと派遣・外注を活性化させようという話だ。
 政府は経営界の要求を肯定的に検討している。労働部はこの3月、大統領業務報告において「経営界の要求と労働界の要求を一体で論議したのち、来年に立法を推進する」と明らかにした。イヨンヒ労働部長官は「期間制勤労者の使用期限を調整するなどの改正が不可避だ」と述べ、経営界側に傾いた発言をしている。

■法改正遅れる模様…「社会の安全網至急」
 政府の親(しん)企業政策基調にすがって法改正の声を高めていた経営界は最近、「ロウソク」で悪化した世論を意識してか、一歩後退した姿勢だ。韓国経営者総協会のチェジェファン理事は1日、韓国労働組合総連盟〔韓国労総〕が開いた非正規職法討論会の場で「今は性急に法を手直しするよりも非正規職法の定着に力を入れるべき時」と語った。
 民主労総側は「全面再改正」を求めつつも、優先順位を掲げてはいない。ハンナラ党の国会多数掌握などから見て、非正規職法が逆にもっと「改悪」されかねないという懸念からだ。イソッケン民主労総委員長は、「いま国会を通して改正を試みれば結果は明白。『非正規職法廃棄』が主要な要求事項から落ちている」と語った。
 労働部は、法改正を急ぐよりも、正規職転換奨励策を推進中だ。労使政委員会もまもなく非正規職後続対策委員会を再稼働させる予定だ。
 問題は、非正規職法がその役割を果たせず、雇用不安と差別に苦しむ非正規職労働者の「切迫した」現実がそれまで持ちこたえられるかだ。ある労働専門家は、「本格的な法改正論議は来年春の国会に持ち越される可能性が高まったが、非正規職を保護しうる労災保険の拡大適用など『社会安全網』の構築を急ぐべき」と指摘した。

【非正規職法施行1年】差別是正制度の適用拡大開始

2008年07月14日 17時07分24秒 | 非正規職
差別是正制の適用拡大開始
中小企業の77%が「対策なし」
100~299人の事業場、今月から適用

 7月1日から差別是正制度が100~299人の事業場8700か所の非正規職労働者39万6千名にも適用され、中小企業が本格的に非正規職法の影響を受けることになった。来年7月から5~99人の事業場49万3千か所の非正規職339万人に適用される。5人未満の零細企業89万7千か所の150万2千人は適用対象からはずれている。
 だが、大多数の中小企業が明確な対策を打ち出していない。中小企業中央会が最近300人未満の企業300か所を対象にアンケート調査を行った結果、77.3%が「法施行に伴う対策を立てていない」と答えた(2日発表)。韓国経営者総協会の最近の実態調査でも、300人未満の企業181か所のうち61.7%が「非正規職差別是正に関わる人員運用計画を立てていない」という。
 中小企業は、人員削減、すなわち解雇が容易でなくなるという理由で正規職への転換をためらっている。職員239人を置く大邱の製造業T社には、事務補助を行う契約職労働者7名がいる。これらの労働者は正規職と同じ仕事をしており給料も同じだが、正規職ではない。T社側は「経営条件が悪化した際の人員削減が難しく、正規職転換が負担」と語る。中小企業中央会のチョンインホ人力対策チーム長は、「処遇改善よりも、経営事情によって人員を調整できないのが負担」だと語る。
 対策を立てたという企業も、外注・請負業者に業務を預ける「外注化」(35.3%)、他の期間制労働者で「交替使用」(17.6%)などを検討しているという。法違反の危険も辞さないという態度だ。
 一部経営者らの主張のように「非正規職法によって雇用が減っている現状」は現れていない。中小企業中央会のアンケートで、正規職、非正規職の雇用を維持するという中小企業はそれぞれ91.7%、92.0%にもなる。
 中小企業は、期間制労働者の使用期間を3年に延長すること以外にも、差別是正制度の拡大適用を猶予することまで政府に要求する。政府は正規職転換の負担を軽減する対策を推進している。パクファジン労働部差別改善課長は「非正規職使用期間制限の効果が実質的に現れる来年7月には大量解雇事態が生じることもある」と語った。

【非正規職法施行1年】差別是正制度実効性なし

2008年07月14日 17時02分22秒 | 非正規職
すぐに切られるようになったのに「差別」耐えて暮らす
【非正規職法施行1年】法あざ笑う雇用不安・差別
会社側の懐柔・圧迫…同一労働・同一賃金「高い壁」
労働委の差別是正、10%のみ認定、大部分は棄却・却下
「当事者のみ申請」の手続も妨げ…待つ間に「解雇」

ハンギョレ08年6月30日付

 「非正規職労働者が一人で差別に立ち向かい、会社という『高い壁』を越えるのは本当に大変です」
 昨年7月、全国で初めて差別是正申請を出した農協中央会高齢畜産物公販場の非正規職労働者Nさん(32)の言葉だ。賭畜の仕事をするNさんは、同僚19名と共に「正規職と同じ仕事をしているのに賃金は正規職の半分にもならない」と慶尚北道地方労働委員会に是正申請書を出した。だが会社側の圧迫により10名が申請を取り下げ、10月からは「契約期間満了」を理由に、一緒に申請していた同僚5名が次々解雇された。労働委員会が同月、正規職との「差別」を一部認定し是正命令を行ったが、すでに解雇された人たちにとっては「遅い」措置は何の意味もなかった。結局Nさんらも雇用保障を条件に案件を取り下げざるを得なかった。しかしNさんらは契約職からも押し出され、この(7月)10日から、外注化された他の請負業者で働く。
 差別是正制度の「実効性」がほとんどないことを端的に示す例だ。「同一労働・同一賃金」原則に基づいて正規職と非正規職の差別をなくすとした差別是正制度は、非正規職法の核心に数えられる。
 中央労働委員会は、去る22日までに地方労働委会で受け付けた差別是正事件は816件(うち中央労働委員会まで行った事件は48件)だと30日、発表した。申請者は2818名。この制度が適用された300人以上の大企業の非正規職労働者35万人の内の1%にも満たない規模だ。それも韓国鉄道公社の事業場1か所だけで1400名で、事業場も鉄道・道路公社など数カ所に偏っている。また、申請案件のうち地方労働委員会で差別と認定されたのは約10%の73件(中央労働委員会16件)のみだ。残りは棄却または却下された。

 途中で事件を取り下げる労働者も多い。「契約を打ち切ると言うなど会社側の圧迫と懐柔に耐えきれず、自ら取り下げる事例が多い」とパクユヨン労務士は指摘する。「雇用不安」状態に置かれるよりは「差別」を我慢してしまおうということだ。差別是正申請の資格を「非正規職当事者」と制限しているためだ。
 
 申請手続も複雑だ。労働委員会は、差別を比較する正規職労働者が誰なのか、賃金格差がどの程度なのか、などを申請書に示すよう要求する。Nさんは「正規職の月給明細表を、盗むようにして出した」と語った。

 最終的な差別判定まで行くのも「山また山」だ。会社が不服の場合、中央労働委から裁判所での訴訟まで2~3年かかることもある。成果金差別で中央労働委が是正命令を行った韓国鉄道公社の案件は、裁判所にかけられている最中だ。1~2年ごとに契約を更新する期間制労働者がこの期間を耐え抜くのは容易ではない。
 実益も特にない。差別是正命令に基づいて補償される額は、申請日から3ヶ月内に差別を受けた賃金のみだ。
 7月1日から差別是正制度の適用対象が100~299人の中小企業にまで拡大される。だが労働部と中央労働委員会はまだまともな評価も出していない。法で置くよう定めた中央労働委の差別是正専門委員も、予算確保の困難性を理由に、この4月になってようやく採用された。
 キムソンヒ韓国非正規労働センター所長は、「様々な理由で、差別是正命令が出された案件は珍しく、男女雇用平等法のような差別予防効果も大きくないようだ」とし、「差別是正申請権を労働組合にも認めるなど補完策を講じる必要がある」と語った。

【非正規職法施行1年】「どこが保護法か」現場の叫び

2008年07月14日 16時59分17秒 | 非正規職
「これのどこが保護法か」現場の叫び
【非正規職法施行1年】法あざ笑う雇用不安/・差別

ハンギョレ08年6月30日付

 (6月)28日午後、ソウル市庁前の広場には「ロウソク」の代わりに「非正規職撤廃」と書かれた三角旗を手にした800名が集まった。キリュン電子非正規職労働者のスト1040日目を迎え、各界人士1040人が一日支持ハンストを宣言した。人士らは「イーランド・ニューコア、キリュン電子など非正規職長期闘争事業場の労働者の涙をロウソクに昇華してほしい」と光化門一帯を「8歩1拝」をしながら行進した。

「高所ろう城してもライン閉鎖の回答のみ」

 キリュン電子のユンジョンヒさん(39)
「最低賃金にも満たない60万~70万ウォンの月給で働いて解雇されて3年を越えた。工場占拠、断食、剃髪…。命を絶つこと以外は全部やった。九老駅前のテレビカメラの鉄塔にのぼり高所断食ろう城もやった。会社は生産ラインを閉鎖したと言って職場復帰を拒否する。イミョンバク大統領は、キリュン電子のチェドンヨル会長の中国訪問に同行した。18日目の集団断食中の非正規職労働者の血と涙をぬぐってほしい」

「コスコムは使用者ではないと言い逃ればかり」

 コスコム・チョンヨンチョルさん(40)
「正規職と同じように働きながらなぜ3分の1にもならない月給しかもらえないのか以前はわからなかった。昨年非正規職法が施行されて2ヶ月くらいたった頃、偽装請負い業者だった会社が他の業者に変わるという電子メールを受け取った。解雇通告だった。労働部が『不法派遣』と判定したのに、殴打や数億ウォン台の損害賠償訴訟。コスコムは『使用者ではない』と言い逃ればかり。10ヶ月目に入った闘いは一日一日が地獄のようだが、最後まで闘う」

「外注化イーランドとの闘い終われない」

 イーランド・イギョンヨンさん(53)
「1年前、非正規職保護法がつくられると聞いて胸がふくらんだ。夜明けまで働いて賞与金を一度ももらえなくても我慢した。けれども会社は、私がしていた仕事を外注化すると。その後アスファルトの上でずっと「非正規職撤廃」を叫んだ。手も上げられなかった私が今や「闘士」になった。解雇された労働者が職場に戻るときまでこの闘いをやめるわけにはいかない」