くろにゃんこの読書日記

マイナーな読書好きのブログ。
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月長石 ウィルキー・コリンズ

2004年11月15日 | ミステリー 海外
言わずと知れたミステリーの古典「月長石」。
多くのミステリーにオマージュなどを見ることができるこの本は、
文庫本3冊分をあわせたぐらいのページ数を誇る。
厚いし、重たいが、丁寧に事件の経過を追っているので飽きることなく最後まで辿り着ける。

月長石はインドの名高い寺院で、月神の額に埋め込まれた大振りなイエローダイヤモンドだ。
西暦11世紀、その寺院は回教徒による略奪をうけるが、三人のバラモン教徒により月神は守られ、他の寺院に移される。
その時、守護神ビシュヌは3人のバラモン僧の枕元に立った。
「月長石は人間の世代が続く限り、今後とも三人の僧によって、昼も夜も、見守られねばならない。この聖なる石に手を触れる者あらば、その神をも恐れぬ者はもとより、その宝石を受け継ぐ一族の者たちことごとくの上に、必ずや災いが下るであろう。」
18世紀になり、蒙古皇帝の時代になると再び蒙古軍による、寺院の破壊と略奪をうけ、月長石は蒙古軍の士官によって奪われ、その後持ち主を転々とし、
セリンガパタムの君主の手に渡る。
そして、イギリス軍のセリンガパタムの宮殿への攻撃の際に、
兵士ジョン・ハーンカスルが手にするのである。
この、ジョン・ハーンカスルは裕福な一族の出であるが、その性格と行動により、
一族からはつまはじきにされている。
姪の誕生日に出席を断られたことから、呪われた月長石を遺言で姪に送ったのだった。
遺言の執行される18歳の誕生日に、姪、レイチェルは月長石を手にするのだが、その夜に月長石は用箪笥から忽然と消えてしまう。

この物語は、高名な寺院から動かされなければならなかった月長石が、再び見出され、インドのしかるべき寺院に収められるまでにわたる、800年の放浪の歴史だ。
もちろん、レイチェルの誕生日に消えた月長石の謎を中心に話は進行するが、記録としての形態をとっているため、証言者による日記や回想を元に構成されている。
最初は、レイチェルの住んでいるヨークシャーの邸宅の召使頭、ベタレッジの回想。
70~80歳の間の老人だが、実直な好人物で、愛読書「ロビンソークルーソー」から啓示を受けるという個性的な性格の持ち主。
この章では、ダイヤモンドが消えた前後と凄腕のカッフ部長刑事による、
捜査の模様が描かれている。
ベタレッジがカッフ刑事と出会い、探偵熱という病気を発見するというエピソードが心和ませる。
その後、舞台がロンドンへ移ると共に、語り手が次々と代わっていく。
狂信的な信仰心を持つ、クラック嬢の章は、はっきり言って苦痛だった。
それだけ、登場人物の個性を際立たせているということだろう。
当時の読者にはこのクラック嬢の物語がもっとも感興を惹いたそうだ。
私が一番印象に残ったのは、ジェニングス医師助手の章だ。
イギリス人の父と東洋系の異国の母を持ち、苦難の人生を送るジェニングスだが、ダイヤモンドの謎に関わって、暖かい気持ちを持ってこの世を去ってゆく。
アヘンの実験に対しては、ほんとかな~と疑問に思うこともあるのだが、そこは小説。
それ以外の物語が素晴らしいので取るに足らないこととしよう。

紆余曲折を経て、ダイヤモンドが三人のバラモンによって、再びインドの地を踏み、
信仰の対象となる場面は感無量だ。
長い物語だが、どうでもいいような記述が、後で生きてくるので、心して読むように。

月長石創元推理文庫 109-1

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2 コメント

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月長石 (読者A)
2005-10-10 17:01:38
こんにちは。

昨日くろにゃんこ氏のブログを発見したばかりだったので、コメントを頂いて驚きました。



「月長石」の凄さは時間の流れの贅沢さにありますよね。



昔「日の名残り」という、何十年も判を押したような生活を送ってきた執事を主人公にした映画を観たことがあるのですが、執事というのは不思議な存在ですね。

隷属的な様でいて誇り高い。

私にはとても想像できない生き方です。
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ありがとうございます! (くろにゃんこ)
2005-10-10 17:14:04
私のブログを見ていただけていたとは、感謝感激!



イギリスの文学は、あのまったり感がいいのですよね。

優雅というか、典雅というか。

そこには執事の存在が欠かせません。

ところで、執事に関しては、「執事たちの足音」というcountsheep99が経営するブログが詳しいですよ。

URLはhttp://blog.goo.ne.jp/countsheep99です。
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