Re:born

津波被災GPZ900R再生記

プロローグ4

2011-11-06 00:39:06 | 再生記




消防団に所属する友人Mが、消防に直接かけあってくれ、
特別に海岸線3キロ程にある検問を通過する許しが得られた。


辿りついたその先は、いまだかつて見たこともない、この世の物とは思えぬ光景。。



言葉じゃ伝わらない、映像でも伝わらない。
その光景を見たものだけが分かる、凄惨を極めた現場。。。


住んでいた頃に何度となく見ていた風景も、わずかばかりの面影を
残すだけ。



何をどうすれば、こんな事が起こるのか。





落胆や悲しみという気持ちはこの時一切感じなかった。

ただただ目の前に広がる光景を、見ているだけで精一杯だった。



「お前の家、ここら辺だよな?」





急に友人Mが言った。
冷静に考えれば、指摘の通り。

だけど、あまりに変わり果てた光景に、何十年も住んでいた実家の
場所は、よくわからない状態になっていた。。


「行くぞ、実家行くんだろ?」


Mが僕に車の外に出るよう促す。



だけど…。
車の外に出る勇気が湧かない。

車の窓越しに見ていた光景を、直視し、触れる勇気は無かった。
車の外に出たら、この状況を何が何でも受け入れなければならない気がして。。


半ば強引にMに車外に出され、実家までの100メートル程の道を歩く。
踏みしめる瓦礫、強烈な潮のにおい、独特な空気感漂う雰囲気。。。
ここは地元だったのか?本当に僕の実家なのか??

だけど、現実は残酷なもので…。



実家は、見るも無残。
残っているのは基礎だけ。

僕のバイクが置いてあった場所は、海砂にまみれている状態。




実家が津波に流されたのは仕方なし、受け止めるしかない。

ただ、僕の相棒とも言えるバイクはどこ行った??

車と違って少しの浮力も無いバイク。
絶対近くにあるはず。



自宅周囲を探すと、僕の相棒の場所は、ストックしていたバイク
部品達が教えてくれました。


自宅敷地から点々と落ちている部品。
ディスクローター、ステム、工具箱、ナンバープレート…。
落ちている部品を点々と辿っていくと、そこにあったエンジン。



間違いない。予備に取っておいたエンジン。
これがあるという事は、絶対にバイク本体もある!!




その先を辿ると、運命的な再会。。。





土砂にまみれ、悲しすぎる姿。
最悪な形での、数年ぶりの再会。

見た瞬間、もうダメだと思った。



傍に寄り、思いにふける。
こんなパーツ付けたな。ここの組み付け苦労したな…。







中学生のとき、トップガンでトム・クルーズが乗っていて、
憧れ続けていたGPZ900R。


2001年。
知り合いの修理工場で誰にも触られる事なく放置されていたこいつ。


僕が手を差し伸べ、一からここまで組み上げた。
手間は惜しまなかった。部品代も生活をギリギリまで切り詰め捻出した。
憧れていたものを手にし、本当に本当に嬉しかった。




このまま放置していいのか??


僕がメカをやって、得た技術の全てを投入して製作したこいつを見捨ててもいいのか??








ふと目に入った、ハンドルに取り付けていた腕時計。




激しい津波に巻かれても、時を刻み続けるこの時計。



ドライに考えると、所詮機械は機械。
感情なんか持つはず無い。



メカニックをしていた者としてそんな事は知っていた。



そんな事は分かっていても、
こいつは僕に語りかけてきている気がした。







「時は止まらない。時は刻み続けるもの」








だけど…どうすればいいんだ。。。








最新の画像もっと見る

コメントを投稿