COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

限りある地球に住む一地球市民として、微力ながら持続可能な世界実現に向けて情報や意見の発信を試みています。

エコロジカル・フットプリントに学ぶ

2006-01-01 14:10:57 | Weblog
1. はじめに
豊かさを示す指標としてしばしば国内総生産(GDP)が使われます。GDPは消費レベルをよく反映した経済指標といえますが、諸々の消費が人々の幸福や地球環境に正負如何様な影響を及ぼしているかは区別されません。これらを反映できる色々な指標が模索されています。エコロジカル・フットプリント(EF)は、持続可能な世界では、全ての人に生活の質が保証され、自然資源が過剰利用や搾取を受けることなく保護されねばならないという観点に立って考案された、人々の諸々の活動が及ぼす環境負荷を示す指標です。衣食住に要する素材の生産には土地が必要です。諸活動によるエネルギー消費に伴って排出される廃棄物の吸収や、種々の生活基盤の整備にも土地が必要です。例えば輸入肉を食べる場合、放牧用の牧草地、肥育施設と飼料栽培用農地、輸送基盤整備、加工、包装、輸送、調理に使うエネルギー等が必要です。EFとはそれらで消費される再生可能な天然資源量の総和を、土地面積で示そうとするものです。
2. 土地の評価法
 ここで問題になる土地の価値は、あくまで植物の成長がもたらしうる生産物の量であって、不動産価格とは違います。地球の表面積約510億ヘクタールのうち陸地は150億ヘクタール弱で、生物生産力のある土地(耕作地、牧草地、森林地)は100億ヘクタール弱と推定されます。EFは世界平均的生物生産力を有する土地の面積(グローバルヘクタール、以下ではha表示)で示されます。耕作地、牧草地、森林地のEFはそれぞれ平均値の約2.8、0.4、1.2倍に相当します。残りの陸地は湿地、氷原、岩場、砂漠、凍土、河川、湖沼などで、道路や建物の建設で生産力の失われた生産力阻害地も約3億ヘクタールあります。森林地の牧草地への転用や、土壌の劣化、砂漠化は地球の生物生産力を低下させる方向に働きます。
3. EFの実際
EFの算出する補完的方法が二つあります。一方はコンパウンド法で、国や地域単位で50種類以上の生物資源の消費量と輸出入の流れから、生産とエネルギー需要に要する全体の土地面積を算出します。もう一方のコンポーネント法では、ある地域での特定の活動がもたらすEFを、該当地域に対応したデータ(生産に要する土地面積、燃料消費、製造、維持、輸送に要するエネルギーなど)から算出します。例として参考資料に記載された世界平均的EF値の一部を紹介します。(i)1年当たり100万キロワット時の電力供給に石油火力発電なら150 ha、風力発電なら6 ha。(ii)1年当たり1トンの食料を入手する場合、穀類なら1.7~2.8 ha、肉類なら6.9~14.6 ha。(iii)1部200グラムの新聞が純正パルプ製なら0.00044 ha(4.4平方メートル)、100%古紙製なら0.000046 ha(0.46平方メートル)。以上のようにEFの概念によると、市場価格からは読み取れない環境負荷が見えてきます。

4. おわりに
 負荷が加わっても自然界は遅れて反応するので、EFが生物生産力を超過しても直ぐにブレーキはかかりません。2001年に世界全体のEFが生物生産力を20%も超過しています。行き過ぎの「つけ」が後から大きく現れてくるのが心配です。一人当たり平均2 haに満たないEFの中で、全ての人々の生活の充足を実現し、持続可能にしてゆくには、無益な争いを止めてお互いに分かちあって暮す方法を見つけて行かねばなりません。

追1:複雑化を避けて人間中心の書き方をしましたが、地球上には無数の生物種が生息しており、中には絶滅が危惧されている種も多くあります。生物多様性保護のために生物生産力のある土地の一部を充てられるべきであり、それは12%とも25%とも言われています。
追:EFではありませんが、以下のURLにアクセスして、世界地図上の2点をクリックすると、旅客1人当たりの二酸化炭素排出量を見ることができます。
http://www.chooseclimate.org/flying/mapcalc.html

参考資料
エコロジカル・フットプリントの活用 地球1コ分の暮らしへ、ニッキー・チェンバース、クレイグ・シモンズ、マティース・ワケナゲル著、五頭美知訳(インターシフト 2005)
Living Planet Report 2004 (WWF http://assets.panda.org/downloads/lpr2004.pdf)

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2 コメント

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Unknown (tj)
2006-01-03 19:03:43
Coccolithさん

明けましておめでとうございます。限られた資源問題について真剣に取り組んでおられる貴君の姿勢に常に感服しています。

今回のエコロジカル・フットプリント(EF) とは何か、を拝読しました。ハガキ版に印刷するとしたらどうすればいいのか理解するのに時間がかかりましたが(フロピー・ディスク・アイコンがが見つかりませんでした)、何とか操作して印刷してみました。

 一人当たりのEFは確かに国によって大きく違います。図版は「一人当たり」のEFを出していますが、全人口を基にして、たとえば日本は4.3haX1.3億、米国は9.5haX2.9億という数字で比較すれば、なお分かりやすいのではと思いました。

それにしても最近は「イルミネーション」ということがブームになっていますが、これもかなりのエネルギーを消費しているのでしょう。飾りによるムード作り、追憶の意味もあることを考えると全部は否定できないでしょう。東京ミレニアムに行きましたが、そんなことを感じさせられました。

P.S. ただし国単位(人口をベースにする)にすると、中国やインド、パキスタンなど人口が多い国のEFが極めて大きくなることが予想されます。これらの「発展途上国」から、エネルギーの不相応の消費は開発国に住む者こそ認識すべきであるという批判が出ることが予測されますが。

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tjさんへのご返事 (coccolith)
2006-01-04 00:26:30
いつもコメント有難うございます。Macの場合どうなるか分かりませんが、Windowsなら拡大画像上でポインターを走らせていると左上部に4つ小さなアイコンが見えると思いますが。

人類のEFは既に地球の生物生産能力を超過しているので、冷徹な見方をすると、過度に豪華なイルミネーションは望ましいとは言えないと思います。但し、他のところで大きな無駄を省いて、ささやかな情緒的・文化的価値を大切にするやり方はあると思います。

EFを国全体当たりと1人当たりのどちらで比較するかですが、地球上の全ての人々の生活を充足させることを目標とすれば、1人当たりの方が分かりやすいのではないでしょうか。人口の多い発展途上国の国当たりのEFが大きくなって当然です。

先進国の「分不相応」な消費が批判の対象になりますが、非難合戦に明け暮れている余裕はありません。地球1個という自然資本の元金は限られているので、それを目減りさせずに自然の再生能力という利息を分かちあって生きて行くには、従来の経済成長優先からコペルニクス的発想転換が必要です。

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