COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

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琵琶湖疏水工事と福島の汚染水対策

2013-09-11 18:03:28 | Weblog

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目 次
はしがき
1.田邊朔郎氏と琵琶湖疏水工事
1-1) トンネル工事とシャフトの掘削
1-2) インクラインの造成
1-3) 田邊氏のその後
2.福島の汚染水漏れ対策
2-1) 福島の現状
2-2) 政府が急遽打ち出した汚染水対策
2-3) 増え続ける汚染水貯蔵タンクと漏水
2-4) 政府案に批判的見解
3.政府案と対案についての考察
4、工事で落命した犠牲者達に寄せられた田邊朔郎氏の真心
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はしがき
 8月28日のNHK歴史秘話ヒストリアで、琵琶湖疏水を造成した田邊朔郎氏のことを知った。当時京都への物流は陸路で人力や畜力にたよっていたので、戊辰戦争後の荒廃からの復興には、水路による輸送力アップが必要であった。琵琶湖疏水造成は、途中の山に6本のトンネルを掘り、琵琶湖から京都まで20キロにわたる運河を通す、現代のお金なら総工費1兆円という巨大プロジェクトだった。琵琶湖疏水工事と福島の汚染水漏れ対策工事は、何れも水道土木工事である。技術も工具も動力も乏しかった120年以上前に、あれほどの偉業が達成されたことを思うと、それら何れもが格段に進んだ現代、福島の汚染水問題を解決する有効な手立てはないものであろうかと思いを巡らせながらこの稿を書いてみた。

1.田邊朔郎氏と琵琶湖疏水工事
1-1) トンネル工事とシャフトの掘削
 田邊氏は東京の工部大学(明治時代初期に工部省が管轄した教育機関)で当時最先端のトンネル工事技術を学び、卒業したばかりで京都府から巨大プロジェクトを任された。プロジェクトは明治18(1885)年6月に着工された。最初の難関は大津から京都への最初の峠に長さ2.4キロメートルという当時の日本で最長のトンネルを掘削する工事であった。機械がなく、人手に頼るしかなかった当時、両側から掘り進むだけでは時間がかかり過ぎるので、下図のように途中に深さ47mメートルのシャフトという竪穴を掘削し、4か所から同時に掘り進むことになった。

これはアメリカから導入された最新工法を日本で初めて採用したもので、大幅に工事期間の短縮と費用節約できると大きな期待が寄せられた。しかし岩盤が固く、2、3人しか入れない竪穴でつるはしに頼る工法では1日20センチ掘り進むのがやっとだった。最大の敵は地下水で、水脈にぶつかると多い時は20メートルの水が溜まり、工事はしばしば中断された。しで水を汲み上げねばならなかった。作業中のけがや病気による死者が続出したが、着工10カ月後の明治19(1886)年4月、ついにシャフトが完成、その後のトンネル工事は順調に進んだ。

1-2) インクラインの造成
 ところが、京都側のトンネルの出口から先が、船で行き来できないほど急勾配になることがわかった。この困難を乗り切るために採用されたのが、当時世界最長のインクラインであった。

上図のように勾配の上で水を堰き止めて船溜まりをつくり、船は滑車で動く台車に乗せられてゆっくり急勾配を下る。水は水路を設けて下の水路に逃がす。急勾配を下った船は、再び水路に浮かべられて京都に向かう。これによって船は安全に急勾配を行き来できるようになり、着工5年後の明治23(1890)年4月、全長20キロ、延べ400万人が従事した琵琶湖疏水が完成された。
 琵琶湖疏水は京都に美しい水辺の景色を生み、当初の予定を越えて大きく復興の役に立った。インクラインの急勾配と豊富な水量を活かして、日本発の事業用水力発電所が設置された。明治28(1895)年に日本初の電車が誕生、市内1300軒の家々に電灯が灯り、電気を使った工場が立ち並び、京都の工業はいち早く近代化に成功した。

1-3) 田邊氏のその後
田邊氏は北海道の鉄道建設、世界初の海底鉄道関門トンネル、新幹線の構想など国家的プロジェクトを次々と手掛け、82歳で亡くなるまで技術者として活躍した。琵琶湖疏水のほとりに田邊氏が自費で建てた石碑には、工事で命を落とした17人の名前が刻まれている。田邊氏は、尊い犠牲の上で完成された疏水工事を自らの原点として忘れなかったのである。

2.福島の汚染水漏れ対策
2-1) 福島の現状
 2011年3月に大事故を起した福島第一原子力発電所は、事故終息から程遠い状況にある。原発建屋などへの地下水流入で1日に400トンの汚染水が生じ、その貯蔵用に設置したタンクで、原発のキャンパスは埋め尽くされつつある。放射線量が高すぎて未確認であるが、メルトダウンを起こした原発施設では核燃料が原子炉圧力容器や格納容器を突き破って破損した建屋内に達していると見ている専門家もいる。詳しくはこちら。破損した建屋の亀裂などから、地下に高濃度汚染水が起きていている可能性を否定できない。メルトダウンした核燃料をどうすれば取り出せるか、取り出せたら何処に置くか全く見通しはたっていない。

2-2) 政府が急遽打ち出した汚染水対策
 ブエノスアイレスでの2020年オリンピック開催地決定が迫った9月3日、日本政府は470億円を投じて汚染水対策に責任を持って取り組むことを表明した。状況の深刻さはずっと続いていたから、オリンピック東京招致へのマイナス要素払拭に慌てて奔走した印象を否めない。470億円の内訳は、地下水が原子炉建屋に流入するのを防ぐ凍土遮水壁構築に320億円、汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去装置(ALPS)」の増設・改良に150億円である。
 凍土遮水壁構築は下図のような鹿島の地下水流入抑制案に沿ったものである。

土壌に冷却剤循環用配管を埋設し、マイナス20~40度の冷却液を循環させると配管周囲から土壌が凍結しはじめ、やがて隣接する配管にできた凍土同士が接触して凍土壁ができる。このような凍土壁を4基の原発を囲うように構築し、外部の地下水が建屋から漏出した汚染水やメルトダウンした核燃料冷却に用いた汚染水に混入しないように意図したものである。鹿島の資料は工期を概ね1年としているが、大規模工事でしかも放射能漏れ防止に実施された例はないので、その効果は未知数である。

 昨年東芝から東電に納入された多核種除去装置は、トリチウム以外の全ての放射性物質を確認限界以下まで除去できるとの触れ込みであったが、トラブル続きで稼動状態に至っていない。このため、セシウム除去後の汚染水からストロンチウムが残ったままでタンクに貯蔵され続けている。多核種除去装置の改良と増設の有効性も未知数と見なさざるを得ない。仮に装置が作動してストロンチウムが除けても、トリチウムを含む大量の汚染水が残る。増田義信博士はご自身のブログ福島第1原発の汚染水はどう処理するかで、これを黒潮の流れに薄めながら投棄してはとの提案している。そうなれば、2020オリンピック開催地決定会議の最終プレゼンテーションで、汚染が港湾内0.3平方キロメートルにブロックされていると明言した安倍総理の発言の信頼度は失墜する。

2-3) 増え続ける汚染水貯蔵タンクと漏水
 仮に凍土遮水壁が有効であったとしても、今後の増加が不可避なタンクからの汚染水漏れが問題である。折々、タンクや配管からの汚染水漏れが報道されている。大半のタンクには耐用性5年のポリウレタンパッキングが使われており、地上設置型の永久貯蔵施設としては認められていない。仮設材だから、耐用年数経過後は解体してメーカーのメンテナンスを受けなければならない。今後は漏出事故が増えると思われる。汚染されたタンクのメンテナンスはできないから、新たなタンクまたはそれに代わる貯蔵施設が必要になる。地下水汚染対策は4基の原発だけでは不十分で、もっと巨費を要するのであろうか。

2-4) 政府案に批判的見解
 ところが、400億円の凍土壁より数分の1のコストで地下水を止めるという土木屋の言い分のサイトによれば、「福島の汚染水は毎分で200 リットル(註:1日に400トンなら毎分277リットル)であるが、中山トンネルや青函では毎分数~10トンの水が出ている。この程度の水も止められないで、それでも土木屋か!」と喝破している土木関係の方がいるという。この情報元は、横井技術士事務所のホームページにある平成23年度東北地方太平洋沖地震と福島原発事故である。このサイトには膨大な情報が盛り込まれていて読破するのは大変であるが、以下はその主張の一部の抜粋である。
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A. 地下水問題を扱う時は、最初に地下水流動機構を押さえることが重要である。流動機構には流出点と、それに継続する流動経路の二つがあり、そのどれも目に見えないことが普通である。それらを調べるため、①地下水位観測と②地下水流動調査を行う。少なくとも10~20箇所ぐらいのボーリングをやって、地下水位観測井戸網を作る。水位分布を見れば、大体地下水の流れは把握出来る。それに地下水追跡調査を加えれば、地下水流動機構(地下水の透水経路)が得られる。適切な場所に集水井戸を掘削して地下水を集めて海に排出する。福島の汚染水程度の出水量なら、100~150㎜程度のパイプで十分排出できる。これは地すべり対策では、何処でもやっている標準的工法である。
B. 目標をどう設定するかで、計画内容・規模は大幅に変わってくる。遮水工法として論議の対象になった3案のうち最も工費が高い凍結壁が、遮水効果が高いと言うことで採用となったと報道されている。問題は対費用効果である。横井設計事務所は、適当な地盤処理で地盤の透水性を下げれば、湧水量が下げられるから、その分処理施設の負荷が下がる。その間に次のステップの対策を考えれば良いという考えである。要するに対策実現に柔軟性を持てということだ。
C. 横井設計事務所なら、①とりあえず凍土工法案は捨てて、②改めて敷地内外で徹底的な地質・地下水調査を行い、地下水流動機構を明確化する。その上で、③発電所外周にカーテングラウチングを行う(註:安定液を用いて掘削壁面の崩壊を防ぎながら地下に壁状の溝孔を掘削し,これにコンクリートを打ち込んで連続した地下壁を構築することと推察される)。④その後、敷地内で集水井戸を掘削し、敷地内の地下水を排除する。⑤排除された地下水を、一旦放射能除去装置を通した上で、海中投棄とする。⑥海側の水ガラス注入は止めて、セメントベントナイト注入に変更する。⑦護岸から外部防波堤間の海域(註:安倍総理が明言した港湾内0.3平方キロメートルの海域)を埋め立てる。これの意味の一つは、海域に流入した放射性物質と生態系との接触を遮断することである。もう一つは、どうしても汚染水タンクヤードは、今の面積では足りないので、不足分を確保する事である。
D.周辺地山の透水性を1/100位まで下げれば、タンクが満杯になる時間を100倍遅らせられる。例えば、現状では10日で満杯になるとすると、改良後は満杯まで1000日(約3年)を稼げる。その間に、次のステップで何を為すべきかを考えればよいのである。次のステップで、更に前ステップの1/10迄下げられれば、トータルで1/10000日(約30年)になる。おおよそ廃炉に必要な時間が稼げるのである。
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3.政府案と対案についての考察
 横井設計事務所の情報は、多くの専門用語を含む難解なものであるが、政府案が唯一無二の選択肢ではないことを物語っていると思う。東電という会社は設備・建築が優先で、土木が弱い。その土木でも構造優先で地盤が弱いと批判されている。凍土壁工法は東電と鹿島、及びそれらに近い政府関係者や学者集団によって案出されたものらしい。
 琵琶湖疏水工事と福島の汚染水漏れ対策工事は、何れも水道土木工事である。琵琶湖疏水は京都に明媚な風向と繁栄をもたらした正の遺産である。それとは対照的に福島第一原発の事故現場は負の遺産であるが放置すれば汚染範囲は拡大し、国際社会から厳しい指弾を受ける。国内メディアはオリンピック招致成功による経済効果を大々的に報じているが、海外メディアは厳しい視線を当てている(9月11日付東京新聞29面 こちら特報部 国内はお祭り騒ぎだが)。技術も工具も動力も乏しかった120年以上前に、あれほどの偉業が達成されたことを思うと、それら何れもが格段に進んだ現代、福島の汚染水問題を解決する有効な手立てはないものであろうか。日本の一部の企業、政治家、学者集団任せにせず、世界の英知が結集された有効な対策が立案され、それが首尾よく実を結ぶことを願っている。

4、工事で落命した犠牲者達に寄せられた田邊朔郎氏の真心
 田邊氏は琵琶湖疏水のほとりに自費で、工事で命を落とした17人の名前が刻まれた石碑を建てた。プロジェクトの最高責任者としての心意気に感銘を覚えた。福島での状況はどうであろうか?メルトダウンした原発の安定化と廃炉作業は、形ばかりの防護服を着て強い放射線を浴びながらの作業である。快適なオフィスで企業経営や作業計画の立案にあたる人間は、被爆線量を守るように指示しているから大丈夫と言うであろう。しかし、実際の作業現場では下請けや孫受け任せで、放射線障害に関する知識の乏しい作業員が守るべき線量を超えて被爆したり、給料をピンはねされたりしている。累積被爆線量が限度を超えた作業員は、仕事から外されて使い捨てになる。事故現場で作業に従事した人々が、被爆による後遺症を発症する可能性が危惧される。事故現場に限らず、原子力産業の作業現場で働く人々は、一般人よりはるかに高い放射線被爆の危険に曝されている。原発を稼動させたり輸出したりすれば経済が豊かになるというが、それは危険な作業現場で働く弱い立場の人々の犠牲の上に成り立っている。そのような非人間的原発依存を続けてよいものであろうか?

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