チョイさんの沖縄日記

辺野古や高江の問題等に関する日々の備忘録
 

<論考>「巻き上がる粉塵と白濁する海」---辺野古・護岸工着工の違法性と問題点について

2017年06月08日 | 沖縄日記・辺野古

 

巻き上がる粉塵と白濁する海

      辺野古新基地建設事業---ついに違法・不当な石材投下が始まった!

    

 政府は4月25日、辺野古新基地建設事業の埋立本体部分の護岸工事に着手した。2014年夏の事業開始以来、とうとう大浦湾に石材が投下されたのだ。辺野古新基地反対運動は、いよいよ重大な局面に入った。

 私は、連日、抗議船の船長として大浦湾に出ている。フロートを超えて懸命の抗議を続けるカヌーメンバーをサポートしながら、工事の状況を監視し続けてきた。同時に、元土木技術者としての経験を生かし、防衛省交渉や沖縄県との意見交換、公文書公開請求等で入手した工事の設計図書等の分析・検討を行っている。

 以下、今回の護岸工着工(石材投下)の問題点について説明する。

                               (琉球新報 2017.5.25)

<現在行われているK9護岸工事の概要>

 今回始まったのは、大浦湾の最奥部のK9護岸の基礎部分となる捨石の投下である(末尾の地図参照)。K9護岸は延長316m、天端幅8m、基礎工の捨石の両側を被覆ブロック、海側を消波ブロックで固め、上部にコンクリートの擁壁を設置する傾斜堤護岸である。

 築堤に必要な石材の総量は約3万㎥にもなる。全て陸上部から施工され、これらの石材の搬入だけで約9千台もの大型ダンプトラックが必要となる。これは毎日100台のダンプトラックを入れたとしても、休みなしで3ヶ月を要するという大変な量だ。また被覆ブロック(9トン/個)2894個、消波ブロック(20トン/個)207個の運搬、据付(水中作業)にもかなりの日数が必要となる(防衛局の当初の工程表でも、K9護岸の完成まで丸1年を見込んでいる)。

 工事開始以来、すでに1ヶ月半が経過したが、石材の投下はまだ30mほどしか進んでいない。これから水深も深くなってくるので、作業効率はさらに落ちるだろう。

 当初、防衛局は国道329号線から現場までの「工事用仮設道路①」、そして辺野古崎から現場までの「工事用仮設道路②」を完成させてからK9護岸の工事に着手するはずだった。しかし、工事用仮設道路を造らないままK9護岸に着手しているため、現状では、現場への資材搬入がなかなか追いつかないのだ。

 通常の工事手順としては考えられないこの施工順序変更は、本格的な工事の準備はととのっていないが、ともかく大浦湾への石材投下が始まったと見せつけて、県民の諦めを誘うためのものであろう。

 

<洗浄していない石材が投下されているのではないか?>

 防衛局は、アセスの評価書や埋立承認願書で、海中に投下する石材は事前に洗浄すると明記してきた。しかし現場では、石材が投下されるたびに粉塵が巻き上がり、海が白濁している。石材の洗浄が行われていない疑いが強い。

 まず、「1次洗浄」として、採石場でダンプトラックに石材を積んだ状態で洗浄を行うこととなっている。しかし5月17日の防衛省交渉では、防衛省担当者は我々の追求に対して、「砕石場での洗浄状況は受注者が目視で確認している」というだけで、洗浄時間やそのチェック方法について全く答えることができなかった。

 那覇空港第2滑走路埋立事業では石材の洗浄について、事前に「洗浄後の水のSSが洗浄水と同等となる時間」を測定した結果、洗浄時間120秒以上、水量600~800リットルとされている。このような洗浄が行われおれば、粉塵が巻き上がり海が白濁することなどあり得ない。

 また、「2次洗浄」として、キャンプ・シュワブ内の仮置き場で、「石材はバックホウにて水槽につけ、付着物をゆすり落とす」とされているが、これもきちんと実施されていないことは明らかだ。

 

<K9護岸工事の違法性について>

 現在進められているK9護岸工事は、次の4点の違法性が問われる。

 

1.岩礁破砕許可が切れたままでの工事強行(沖縄県漁業調整規則違反)

 漁業権の設定されている海域の海底地形を改変する行為を行う場合、事前に知事の岩礁破砕許可を得なければならない(沖縄県漁業調整規則第39条)。防衛局は、2014年8月28日、仲井眞前知事から埋立本体部分の岩礁破砕許可を得たが、この許可期限は本年3月末までだった。

 従って、4月以降も工事を続けようとする場合、改めて岩礁破砕許可を得なければならない。ところが防衛局は、名護漁協が昨年11月の総会で工事施工区域の漁業権の放棄を決議したことから、漁業権はすでに消滅したとして、4月以降の岩礁破砕許可を得ないまま工事を強行したのだ。

 国は今まで、漁業権の変更(一部放棄)には、漁業法22条の規定に基づき「知事の変更免許が必要」と指導してきた(水産庁長官通知(2012.6.8)等)。今回のような勝手な主張変更は許されない。

 知事もこの問題を重視し、工事差止請求を提訴すると表明した(後述)。今回の護岸工事強行は、岩礁破砕許可を得ていない違法工事である。

 

2.埋立承認願書の「設計の概要」の施行順序を変更したが、設計概要変更申請を行っていない(公有水面埋立法違反)

 埋立承認願書の「設計の概要」「設計概要説明書」には、工作物の構造、埋立工法、施工順序等が記載されている。公有水面埋立法は、この「設計の概要」を変更しようとする場合、改めて知事の承認が必要と規定している。(防衛局は2014年9月、工事用仮設道路①~③造成、中仕切り岸壁の追加、美謝川の切替え、辺野古ダム周辺からの土砂運搬方法の変更について設計概要変更申請を行った)

 防衛局は当初、A護岸や中仕切岸壁B、海上ヤード、工事用仮設道路を最初に施工し、K9護岸は着工後3ヶ月目頃から始めるとしていた。今回のK9護岸からの工事着工は、設計概要変更申請を行わないまま施工順序を変更したものであり、公有水面埋立法違反である。

 

3.実施設計、環境保全対策の事前協議を行っていない(埋立承認の際の留意事項違反)

 沖縄県は埋立承認書に、次のような「留意事項」を付した。いわば承認の条件である。

①    工事の実施設計について事前に県と協議を行うこと

②    実施設計に基づき環境保全対策などについて県と協議を行うこと

③    略

④    埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書、環境保全に関し措置を記載した図書等の変更については知事の承認を受けること

 防衛局は今までに2回にわたって、22種類の護岸工のうち17種類の護岸工の「実施設計」を県に提出した(2015年7月14日、2017年1月20日)。しかし県は、「部分毎ではなく、全体の実施設計を示すこと」、「工事を中止した上でないと事前協議には応じられない」等と指導してきたが、防衛局は、「事前協議は県の同意を得ることまで求められていない」として、一方的に協議打切りを通告し、工事中止の求めに応じようとはしていない。

 今回のK9護岸の着工は、実施設計の事前協議を行わないまま強行されたものであり、留意事項違反である。

 

4.環境保全対策変更の知事承認を得ていない---サンゴ類の移植・移築も未実施(同)

 また、留意事項②の環境保全対策について県との協議も行われていない。特にこの点で問題となるのはサンゴ類の移植・移築が行われていないということである。

 今回の事業では多数のサンゴ類が埋まってしまうため、防衛局も埋立承認願書で、「事業実施前にサンゴ類を移植・移築する」と明記してきた。ところが今回は、サンゴ類の移植・移築を行わないまま護岸工事を着工したのだ。自らの埋立承認願書の内容を履行しないもので、留意事項②だけではなく、留意事項④にも違反している。

 防衛局は移植対象のサンゴ類について、「水深20m以浅」で、「小型サンゴ類(移植):総被度が5%以上で0.2ha以上の規模を持つ分布域の中にある長径10cm以上のサンゴ類。大型サンゴ類(移築):単独であっても長径が1mを超える群体」に限っている。この規準そのものが認め難いのだが、それでも移植・移築サンゴ類は74,320群体にもなり、移植・移築に9ヶ月も要するのだ。サンゴ類の移植・移築には、県漁業調整規則に基づき、知事の特別採捕許可が必要だが、その手続もまだ始まっていない(昨年8月、知事はサンゴ類の移植・移築を許可しないと報道されている)。

 また、以前の調査では、K9護岸予定地に被度が5%以上のサンゴ類分布域が確認されていた。しかし今回、防衛局は調査資料等の根拠も示していないまま、「K9護岸予定地には移植を要するサンゴ類は分布していません」というだけで工事を強行している。

 

<不可解な海底ボーリング調査再開---ケーソン護岸部の基礎地盤に何らかの問題か?>

 防衛局は2014年夏以降、護岸工の設計に必要な基礎地盤の支持力を調べるため、24箇所のボーリング調査を行ってきた。昨年3月末でこれらの調査は終ったのだが、本年2月以来、3千トンもの大型調査船(ポセイドン)やスパッド台船、傾動自在型台船等による合計数十箇所の海底ボーリング調査が再開されている。通常では考えられない不可解な調査である。

 従来の調査で大浦湾の海底地盤には琉球石灰岩層の存在が確認されている。琉球石灰岩層は空洞(鍾乳洞)があることが多く、N値(支持力)のバラツキも大きい。この箇所には大型ケーソン護岸が設置されるのだが、もし空洞や弱い部分があれば基礎地盤の支持力を強化するために基礎杭等の施工が不可避となる。また、大浦湾には断層が走っているという指摘もある。これらの場合、設計は根本的な見直しを強いられ、知事への設計概要変更申請が必要となる。

 今回の海底ボーリング調査の全面見直しは、このような想定外の事態が起こっているために行われている可能性が強い。

 

<これからの課題---ゲート前座り込みの強化を>

 6月7日、知事は、防衛局が岩礁破砕許可を得ないまま工事を強行していることから、早ければ7月にも国を相手に工事差止訴訟を提訴し、同時に工事停止を求める仮処分申請を行うと発表した。あらゆる手段で辺野古新基地建設事業を阻止するという知事の姿勢は評価したいが、この差止訴訟は実質審理へのハードルが高く、仮処分申請についても難しいのではないかという指摘が多い。

 また、知事はこの際の記者会見で、埋立承認撤回について聞かれ、「撤回は十分に検討に値する。撤回は必ず行われるだろうと思う」と答えている。今回の提訴により、埋立承認撤回がさらに遅れるのではないかという危惧もある。

 このような状況の中、我々は何をすべきだろうか?

 前述のように、K9護岸の石材搬入だけで9000台ものダンプトラックが必要なのだ。これらは全て工事用ゲートから入る。多くの県民がゲート前に座り込み、工事車両の進入を遅らせば、K9護岸の完成すらおぼつかないのだ。この間、大量の工事車両を入れるために機動隊の弾圧が強化され、不当逮捕者や救急車で搬送される事例が相次いでいる。これも、工事の遅れについての政府・防衛局の焦りである。屈することはない、ゲート前への結集をさらに呼びかけよう。 

                                  (2017.6.8 記)

        

 *本稿は、「沖縄環境ネットワーク」に掲載予定の原稿に加筆したものである。

  

 

 

 

 

 

 

 

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