ギリシャ神話あれこれ:ヘラクレスとデイアネイラ(続々)

 
 お人好しのヘラクレスは、ネッソスの親切に素直に感謝して、妻を彼に託し、自分は武器やら荷物やらを抱えて、一人で川を渡り始める。……こういうところは、全然変わってないんだよね。

 が。
 デイアネイラを乗せてパッカ、パッカと一足先に対岸に渡ったネッソス。未だ川半ばでぐずぐずしているヘラクレスを横目に、上手いこと言ってデイアネイラを岩陰に連れ込むと、いきなり暴行に及ぼうとした。やっぱりケンタウロスは手が早い。
 妻の悲鳴を聞いて、さすがに事情を察したヘラクレスは、川のなかに荷物を放り落とすと、自慢の弓を引き絞り、遠く、対岸のネッソスへと矢を放つ。毒矢は、狙いたがわずネッソスを射殺してしまう。

 自業自得のネッソスは、ヒュドラの毒で息も絶え絶え。死ぬ間際に、デイアネイラに上手いこと言って謝罪する。
 すまなかった。お詫びに自分の血をあげよう。この血は愛を燃やす力を持つ媚薬だ。この血を布に浸して、取っておくがいい。他日、夫の愛が失われそうになったとき、彼の身にこの血をつければ、夫の愛を呼び戻すことができるのだよ。と。

 もちろんこれは真っ赤な嘘。が、デイアネイラは、ヘラクレスの不実を不安に感じていた矢先(当たり前だ!)。で、念のため、この布を大切にしまっておいた。

 この血が後に、ヘラクレスの命を奪うことになる。

 画像は、ベックリン「ネッソスとデイアネイラ」。
  アルノルト・ベックリン(Arnold Böcklin, 1827-1901, Swiss)

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