アキレウスの人間離れした殺戮によって、スカマンドロス河の水は血で染まり、流れは屍で埋まって、堰き止められてしまった。
こりゃたまらん! スカマンドロス河神はアキレウスの所業を憤り、人間の姿に化けて、これ以上、私の河で惨殺するのはやめてくれ! と喚く。
が、アキレウスは聞き入れない。ヘクトルが出てくるまで、トロイア勢を追いつめねばならん、だから殺戮をやめるわけにはいかん! そう叫んで河中へと飛び込むと、太刀を振るってトロイア勢を薙ぎ倒す。
スカマンドロス河神は大激怒。逆巻く大波となってアキレウスに襲いかかる。屍を押し流して陸地へと放り出し、生き残った者たちを大渦で隠してかくまった。
さすがのアキレウスも神の怒りには敵わない。渦から抜け出そうと疾駆する。が、河神は轟々たる大波となって、逃げるアキレウスを執拗に追いかける。
ポセイドンとアテナの両神がアキレウスを助けるべく駆けつける。平原へと向かうアキレウス。が、河神はなお追撃し、怒り狂って襲いかかる。
このときヘラ神が火神ヘファイストスに命令する(彼は妻アフロディテとその愛人アレスに対抗して? ギリシア軍に味方している)。
合点! ヘファイストスは河畔一面に灼熱の炎を放つ。炎々たる劫火はあっという間に平原の亡骸を焼き払い、河の水を沸き立たせた。
仰天したスカマンドロスは呆気なく降参。……ヘファイストスの炎、怖るべし。
To be continued...
画像は、ルーベンス「ヘクトルを討ち取るアキレウス」。
ピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens, 1577-1640, Flemish)
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