世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
ギリシャ神話あれこれ:狂気の女予言者
先日、トム・クルーズにつられて、「マイノリティ・リポート」なんて映画を観てしまった。憐れプリコグ、私は絶対に未来を見る力なんて欲しくない。
が、もし、人が未来を正確に予見する力を持つなら、人は好ましくない未来を避け、別の未来を得ることができるのかも知れない。
アポロンは、美貌のトロイアの王女カッサンドラに恋をした。巫女でもあった彼女に、アポロンは予知の力を贈って、気を惹こうとする。
が、授かった力でカッサンドラが見た未来とは、いずれ心変わりするアポロンに捨てられる自分の、惨めな姿。
カッサンドラは当然、アポロンの求愛を拒絶する。一度与えたものは、取り返すことができない。自己中心的なアポロンの眼には、彼女の態度は、贈り物の貰い逃げとしか映らなかったに違いない。
アポロンは腹癒せに、カッサンドラの真実の予言に誰も耳を貸さないよう、呪いをかける。以来、彼女は、未来のビジョンを正確に見通しても、それを信じてもらえない、狂気の王女として扱われることになる(別伝では、カッサンドラは、双子の兄ヘレノスと一緒にアポロンの神殿で遊んでいた際、蛇に耳と口を舐められ、ともに予知能力を持つようになったという)。
彼女はトロイアの滅亡を予言し、兄パリスに、スパルタの美女ヘレネの許へ行くのを制止するが、無視される。結果、パリスがヘレネを略奪し、それが引き金となってトロイア戦争が起こる。
はたまた戦争で、ギリシア軍の木馬の奸計を予言するが、無視される。結果、トロイアは陥落し、カッサンドラはアイアスに陵辱された上に、戦利品として敵将アガメムノンに献上される。
今度は、自分を捕らえた者の不幸な末路を予言するが、やはり無視されて、アガメムノンの婢妾としてミュケナイに連れられ、アガメムノン暗殺の陰謀にかかって、彼とともに殺される。散々なカッサンドラ。
さて、世界情勢なら、予知能力がなくても、20~30年くらい先まで見通すことができる。もちろんこれは、予見ではなく分析による。
で、世界は大体、相棒の読み筋どおりに進んでいる。が、彼は読みが早すぎるので、周囲にはほとんど分かってもらえず、「事あれかしと大仰にのたまうヘキがある」と思われている。
……カッサンドラみたい。
画像は、ド・モーガン「カッサンドラ」。
イヴリン・ド・モーガン(Evelyn de Morgan, 1855-1919, British)
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