夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

歌学び、初学び (その二十三)

2015-03-09 21:37:56 | 短歌
今月の「初心者短歌講座」の前半は、先月に引き続き、若山牧水の処女歌集『海の声』(明治41年)について、先生の解説。

今回、『海の声』から取り上げられたのは、次の十首。

①別れ来て船にのぼれば旅人のひとりとなりぬ初秋の海
②見よ秋の日のもと木草(きぐさ)ひそまりていま凋落の黄を浴びむとす
③けふもまたこころの鉦(かね)をうち鳴(なら)しうち鳴しつつあくがれて行く
④幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく
⑤安芸の国越えて長門にまたこえて豊(とよ)の国ゆき杜鵑(ほととぎす)聴く
⑥檳榔樹(びんらうじゆ)の古樹を思へその葉蔭海見て石に似る男をも
⑦酔ひ痴れて酒袋なすわが五体(むくろ)砂に落ち散り青海を見る
⑧ちんちろり男ばかりの酒の夜をあれちんちろり鳴きいづるかな
⑨とろとろと琥珀の清水津の国の銘酒白鶴(はくかく)瓶(へい)あふれ出(づ)る
⑩あな可愛(かは)ゆわれより早く酔ひはてて手枕のまま君ねむるなり


以下、それぞれの歌についての先生のコメントから。

①「初秋の海」なんて、言わなくてもよさそうなものだ。
②「凋落の黄」は黄葉に向かうことをいうのか、落陽の黄か、たぶん前者だろうが、気取った言い方だ。普通に言えばいいのにね。
③「あくがる」は「あく」(場所)・「離(か)る」で、もともと自分の心や魂が肉体から離れて出て行くことをいう。牧水は、ことさらに「あくがれ」と言っているから、古代的な意味合いで使っているのだろう。
④あまりにも有名な歌で、岡山・広島県境の二本松峠に公園があり、この歌の碑が妻・喜志子、長男・旅人の歌碑と共にある。
⑤安芸・長門おそらく豊後と来て、周防の国を飛ばしているが、調子はよい。
⑦酔いしれて酒の袋になったような体で、砂浜に寝っ転がっているんだろう。(笑)
⑧「ちんちろり」は松虫の鳴き声と、酒器の「ちろり」を掛けている。
(残り少なくなった徳利の酒を注ぎ終わるときの音という、「ちんちろり」の意味も掛けているだろう。)
⑨「津の国」は摂津(今の大阪府北部と兵庫県東部)で、酒どころで有名な灘(なだ)がある。灘の酒は江戸でも「下り酒」といって高値で取引されたものだ。
⑩牧水はこういう、若気の至りのような歌をたくさん作っているわけですが…。

本当は、先生はもっとたくさん面白いお話をされていたのだが、うまく文章化できないので、紹介はこの程度に。
前回も言われていたが、先生はこの10月に「山を越える牧水」というタイトルで牧水祭の基調講演をする予定だそうで、今から楽しみである。うまく都合がついて、聴きに行けることを祈る。

さて、一年余りにわたって記事に取り上げてきた「初心者短歌講座」だが、私は今回をもって受講を終了することになった。
いつまでも初心者といって、先生や結社の先輩方に甘えていてはいけないし、「初学び」の時期はとうに過ぎていると思う。ただ、卒業はするけれど、初心者として歌学びを始めた時の気持ちは、ずっと変わらずに持ち続けたい。タイトルにもじった、『うひ山ぶみ』(本居宣長)の一節を忘れずに。

されば才(ざえ)のともしきや、学ぶことの晩(おそ)きや、暇(いとま)のなきやによりて、思ひくづをれて、止(やむ)ることなかれ。とてもかくても、つとめだにすれば、出来(いでく)るものと心得(こころう)べし。