Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

朝日新聞の自民党広告特オチ事件

2005年12月19日 16時14分38秒 | ニュースコメント
多少旧聞に属して恐縮だが、10月27日の毎日新聞のコラム一筆入魂で、嶌信彦氏は次のように書いた。

ある自民党の幹部は「総選挙当日の小泉首相をあしらった新聞広告を見たか」と聞く。「改革を止めるな。」というキャッチコピーを入れた小泉首相の大きな顔写真を紙面いっぱいに展開した全面、あるいは見開き二ページのカラー広告である。その幹部によると「当日、朝日新聞だけは掲載せず、その分はスポーツ紙などにまわした」というのだ。事前にこのことを知った朝日側はあわてて自民党へ出向いたが、「朝日読者には自民党支持者が少ないという調査結果が出たうえ、予算もなくなってきたので効果的とみられるスポーツ紙を選ぶことにした」として応じなかったという。朝日だけをはずしたのは前代未聞のことだろう。

これに関する言及はネット内では必ずしも多くはなかったが、広告業界の常識からすると驚天動地の事態である。

なにかにつけて横並び意識の強い朝日・読売・毎日の3紙にとって、他2紙に広告が出たのに自分の新聞だけがはずされる事態は、記事で『特オチ』をしたのと同等のお咎めを社内的に甘受させられることになる。
これまで、毎日新聞は部数の低迷からしばしばその憂き目にあってきた。
毎日新聞の広告営業の基本動作は、他紙への広告申込を調べ、もし毎日だけが落ちているなら広告主へ夜討ち朝駆けをかけることだ。

その状況が、よりにもよって選挙最終日の自民党の全ページ広告の扱いを巡り、朝日新聞に起きたのだ。
しかも朝日分の予算はスポーツ紙の出稿に回された。

そもそも選挙広告は新聞社にとってオイシイ広告である。
立候補者は希望する新聞へ広告を掲載することができ、その広告費用は選挙管理委員会が支払う。
新聞広告には。きめ細かな回数割引制度が存在しており、レギュラー広告主の料金は低く抑えられているが、選挙広告は回数割引が適用されないため、正規料金で請求される。
いざ選挙となると広告会社も新聞社の広告局も色めき立つのはこんな理由からだ。

今回、自民党が朝日への掲載を見送ったのは、選挙管理委員会が料金を支払う候補者の広告ではなく、自民党が自分の財布から支払う広告であるので、そこまで高い料金とは思えないが、それでも4000万円程度の広告費は必要であろう。

労せずして手に入ると思っていた4000万円の油揚げを、直前になってスポーツ紙に攫われてしまった朝日新聞広告局の驚愕はいかばかりか、容易に想像が付くというものであろう。
ちなみに、同じ朝日新聞の発行する週刊朝日が武富士から受け取ってしまい、社会的指弾を受けた裏広告費は5000万円だった。

朝日新聞は役員クラスがおっとり刀で自民党に駆けつけたそうである。
NHK問題を巡り、安倍晋三とトラブッた記事の掲載が今年の1月だったから、ここ半年以上朝日と自民党はギクシャクしていたわけである。
もとよりそれが原因だと自民党が朝日に言うはずもない。
予算上の理由と、自民党のターゲットと朝日の読者層にずれがあるとの理由で門前払い。
官邸に駆け込んでも、そもそもスポーツ紙に思いいれが強いのは小泉総理その人だし、飯島秘書官も朝日新聞からスポーツ紙に予算を移すことは予め了承しているため、官邸ルートも効果を奏さない。
なにより、選挙最終日とあり、朝日新聞が泣きつける政治家はすべて選挙区に貼り付いてしまっている。
役員は子どもの遣いでむなしく引き上げざるを得なかった。
こんな経過から朝日新聞は最終日の自民党全ページ広告を特オチしてしまうという屈辱にまみれることになったようだ。

55年体制というアンシャン・レジームは細川政権で崩壊したし、小選挙区制による選挙が中選挙区制とは全く異なるものであることは今回の小泉選挙が証明した。
選挙報道がかつてとは全く異なるのものであるべきということ、政党とマスメディアも新たな関係を構築すべき段階に差し掛かっていること、選挙広告という経済構造もかつてとは変わり始めていることを、早く旧来のメディアには気づいてもらいたいものだ。

2 コメント

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いい話です (Harry)
2006-01-04 16:17:20
http://www.ad-bookreview.comという広告・マーケティングの本の書評サイトをやっています広告会社勤務のHarryといいます。

この話知りませんでしたが、印象的な話ですね。



聞くところによると最近は自民党も詳細なデータに基づいたメディアプランを始めているようなので、「朝日の読者は自民党の支持者が云々」の根拠は分かりませんが、自民党の判断として頷ける話です。

これに対して朝日の役員(おっとり刀で自民党に駆けつけた)は情けないですね。紙面で常々自民党批判しているわけですから「改革を止めるな」なんていう主張を載せること自体、読者に対する裏切りや矛盾だと思わないのでしょうか?

これまでの価値観なら「広告の特オチ」は大問題ですが、今回はこの件を「特オチ」と見なして「屈辱」と捉える朝日の価値観の方がより問題だと思います。

こうしたことが積み重なって行き、マスメディアのあり方も党派色の強い欧米型に移行していくのかもしれませんね。
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ふむふむ (takeyan)
2006-01-17 21:35:47
情けないのは朝日の役員が駆けつけたというところですね。

「特落ち」を食らわせたら役員が駆けつけるなんて、まさに記者クラブ依存の大新聞社ならではじゃないですか。

知らぬ顔をして自民党を叩き続けたらいいのに。

まあ、所詮つながっているわけですが。

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