その瞬間、
後楽園ホールは、
割れんばかりの歓喜に溢れる半分の観客席と、
無言で呆然と目を見開いたり、信じられないと頭を降る静かな半分の
真っ二つに別れた。
そして、その両方の観客席の多くの人々の目には、涙が浮かんでいた。
その信じらんない結末に、
明暗の差があまりにも大きかった。
おそらく、逆の勝敗だったら、
こんなに激しい歓喜と、こんなに底の深い落胆はなかっただろう。
ある意味、彼が勝って、彼が負ける予想をほとんどの人がしていただろうから。
おそらく、日本ボクシング界の歴史に残る面白い試合の一つになったのではないでしょうか。
趣味の一つにボクシングがあります。
これは、誤解を恐れてずっと言わないでおこうと思っていたのですが。
まあ、兄がいるので子供の頃から格闘技に慣れ親しんでいましたが、
女性には、“殴り合い”という印象を持ってしまう方も多いと思います。
でも、とくにボクシングは、
厳格なルールに則って行う、オリンピック競技ににもなっているスポーツなのです。(柔道やレスリングのように、多くの格闘技と同じに)
ただ、プロボクシングにはパフォーマンスに走り、派手な言動でアピールする選手などもいるので誤解されやすいのですが、
皆さんもご存知の、内藤選手や内山選手といった、
名実共に真面目で、人間的にも素晴らしいアスリートが行うスポーツなのです。
実際にボクシングに触れて、選手達を知れば知る程、
真摯な姿勢に心を打たれることが多くなりました。
私の通う体育施設のトレーナーの一人も、タイトルを持つボクサーです。
そんな選手達の一人に、
とっても気の優しい選手がいました。
ちょっと気が弱いのが心配だな、と思ってしまうような。
180センチで色黒イガクリ頭。見た目は強面なのに、喋るとかん高い声で、優しさが溢れ過ぎるキャラ。
数年前は、『気が弱すぎて、優しすぎて、彼は大成しないだろう』と思っていたのに、(失礼すぎ)
彼はものっすごい頑張りで、なんと日本チャンピオンになってしまいました。
それだけでもビックリなのに、
何度も防衛を重ね、
確か二回目の防衛戦の後のインタビューでは、
第一声が
『怖かったです~』だったのも、彼らしかったです。
その彼が四回目の防衛戦に挑みました。
でも、誰もが、彼のチャンピオンベルトは、今日が最後だと、ほぼ確信するぐらい強い相手。
名実共に東洋のチャンピオン。
東洋太平洋チャンピオンという数段格上の相手にチャレンジしてしまったのです。
応援席はなぜか暗い空気。
諦め。
そんなものが感じられました。
でも、私はなんとなく勝ったりして、と心の中で思っていました。
そして、周りがあまりにも暗いので、ちょっと言葉に出してみたら、
素人がお気楽なこと言ってるよー
みたいな感じ。
そんなに絶望的なのかと、シュンとなってしまいました。
試合が始まると、
自分の甘さを痛感。
こりゃダメだ、
軽いこと言ってごめんなさい。
素人の私が生意気なことを言ってしまいました。
あー、どうかケガだけはしないで~と祈るのみ。
相手はさすがの東洋太平洋チャンピオン。
戦車のようだ~
強い、怖い。
芯がブレないものすごい安定感。
何時か目を伏せる場面も。
でも、
あれれ?
けっこう巻き返してきた?
まさか!
行けるかも?
と、思ったのは7ラウンド。
8ラウンドでは、その思いが60%になり、
そして9ラウンドでは、
まさかの、
本当にまさかの逆転勝ち!!!
レフリーストップと共に、高々と赤いタオルが投げ込まれました。
ぎゃーー!
勝った!勝った!勝った!
声を限りに叫んでも、夢を見ているみたいで。
でも、間違いない。
現実に起こったこと。
スゴイスゴイスゴイ!
嬉しい嬉しい嬉しい!
本当にありがとう~
雑草と言われた君が、
超エリートの彼を、
堂々のTKOで破るとは。
本当に嬉しいです。
努力が報われる!!!
それを証明してくれて、
ありがとう~~
彼は勝者インタビューで、こうも言っていました。
『これは、自分がとったベルトというより、
みんなでとったベルトです』
彼の壮絶な努力は、
決して彼1人の頑張りではなく、
それを支えてくれた家族やジムのみんな、
そして彼を信じ続けた後援会の人々のおかげだと、
よーくわかっているところがまた素晴らしいと思いました。
努力は報われる。
そして、
周りの人々の支えで、
人は1人では成し得ない領域に登ることができる。
それを証明してくれた、
素晴らしい試合でした。
ありがとう~
そして、
本当におめでとうございます。