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自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

冷間時のエンジンは注意が必要

2012-06-10 11:01:38 | クルマを長持ちさせる方法
 僕の家は住宅街の中にあるのだが、幹線道路から離れているためにとても静かである。特に朝は小鳥の鳴き声が騒々しく思えるほど静かなのだが、これが通勤時間帯になると一変してしまう。あちこちの家のクルマがエンジンを始動しはじめ、しかもみな始動が終わると間髪を入れずにクルマを発進させて勢いよく走り去っていく。これが毎朝の光景である。
 クルマの音がうるさい、という話ではない。僕はその光景を見るたびにクルマがとてもかわいそうに思ってしまうのである。わずかな暖気運転さえも許さずにエンジンをブン回して勢いよく走り出すことは、確実にエンジンの寿命を縮めていることになっていると思うからだ。人間に置き換えてみると話しはわかりやすい。たとえば、朝目覚めてすぐに100m走を全力でやったらどうなるか。僕は元陸上部で短距離をやっていたのだが、それでも目覚めてすぐに準備運動もしないまま100mを無事に完走できるとはとても思えない。股関節を痛めるか、ひざを痛めるか、筋肉を痛めるか。最悪アキレス腱を切ってしまう可能性もある。万が一運よく完走できたとしても、ゴール後には確実に吐くだろう。人間もクルマも同じで、冷間時のエンジンに負荷をかけると内部を痛めることになるのだ。それでも人間には治癒力が備わっているからいい。けがをしても治るのである。しかし残念ながらエンジンには治癒力など備わっていないから、痛めた箇所はそのままだ。こんな日々を毎日続ければ、当然エンジンはしだいに寿命を縮めていくことになるのである。

 エンジン内部には可動部品の隙間、いわゆるクリアランスというものが数多く存在する。例えばクランクシャフトであればクランクジャーナルとクランクピン、ピストンならピストンピンとピストンクリアランス、エンジンヘッド部分ではカムシャフトのカムジャーナル、バルブのバルブクリアランスなどがそうだ。エンジンの部品は金属製である以上、熱による膨張は避けられない。このため膨張することを想定した隙間、つまりクリアランスというものが必要になってくるのだが、このクリアランスはエンジンが暖まった状態で適正値になるように設定されている。つまり冷間時にはクリアランスが適正値になっていないわけで、そんな時にエンジンに過大な負荷はかけられないのである。
 加えて、冷間時に始動した直後はエンジン各部へオイルが十分に行き渡っていない。特に冬の寒い日や、粘度の高いオイルを使用している方は注意が必要である。さらにヘッドの細かい所、例えばバルブ駆動に油圧ラッシュアジャスターを採用しているエンジンはその内部にオイルが行き渡るまで若干時間がかかることが多い。油圧ラッシュアジャスター内部にオイルが不足していると、エンジン始動後にヘッドからカチャ、カチャ、と音がするのでよくわかると思う。

 昔のように「水温計が動き出すまで暖気運転しろ」などと言うつもりはない。現代のエンジンは品質と精度がとても高いからそこまでする必要は無いし、なにより環境への問題もあるからだ。しかしそれでも最低限の暖気運転は絶対に必要である。せめて一分、いや三十秒でもいいから暖気運転はしてほしい。そしてその後に走り出したら、水温計が動き出すまで極力エンジン回転数は低く保つようにする。これで十分だ。僕はいつもこうしている。
 僕の知人のある人は、昔から暖気運転などせずに毎朝出勤していく。エンジンの始動とオートマの操作が同時なのか?と思うくらいエンジン始動後に間髪入れずに発進し、しかもかなりの勢いで加速して走り去るのである。このため、その人のクルマはいつも十年経たないうちにエンジンのヘッドからガシャ、ガシャと異音が出るようになる。過去三台のクルマがいずれもこんな調子だった。もちろんオイル管理がずさんだったのかもしれないが、暖気運転をしない影響は大きいと思う。少なくとも僕は、過去に乗ったクルマのエンジンから異音を発生させたことは無い。現在乗っているユーノス・ロードスターは14万キロを走破しているが、いまだに快調そのものである。その証拠にエンジンをブン回すことが多くても、燃費は今でもリッター12キロはいく。

 暖気運転をしないことは環境保護になるかも知れない。しかし毎回暖気運転を行いながらクルマをベストコンディションに保ち、長く乗り続けることもまた環境保護になる。そしてどちらがより環境保護につながるのか、と問われれば、僕は後者のほうだと思っている。