自動車学

クルマを楽しみ、考え、問題を提起する

オイル管理とスラッジ

2014-02-22 02:53:18 | クルマを長持ちさせる方法
 僕がスラッジの話をあれこれとしたのはこの『自動車学』をはじめて間もない頃である。当時の僕は「こんなこともあるんだョ」といった軽いノリで書いていた。軽いノリのつもりだったから、解説をしても「面倒くさいから覚えなくていい」と書いた。要するに、スラッジで悩んでいる方など今どきそうはいないだろう、と思っていたのだ。
 しかし、スラッジの問題は今でも我々の身近なところにあるのかもしれない。と言うのも、『スラッジ』と検索してこの自動車学を訪れてくれた方がとても多いのである。スラッジ、と検索するということはスラッジに悩んでおられる、ということなのだろう。そこで今回はオイル管理とスラッジの問題を補足していこうと思う。

 以前にも話したように、まずエンジンオイルの劣化を放置し、なおかつチョイ乗りばかりを繰り返しているとスラッジは発生しやすくなる。逆に言えばチョイ乗りばかりしているとエンジンオイルは劣化が進み、その結果スラッジが発生しやすくなる、ということでもある。エンジンオイルの劣化の進行過程については以前に説明したのだが、チョイ乗りがなぜエンジンオイルの劣化を早めてしまうのか、という点については詳しく説明していなかった。そこで、まずはこの問題から話を進めていく。
 エンジンというのは燃料を燃焼した時点で排気ガスとともに水蒸気を発生する。寒い日にエンジンを始動するとマフラーから排気ガスと一緒に水蒸気の煙が立ち上るからよく理解できると思う。そしてチョイ乗り、つまり十分に暖まらないうちにエンジンを停止してしまうと、エンジン内部に留まっていた水蒸気はエンジンの冷たい金属面に触れて水になる。この水がエンジンオイルにとって有害なのだ。さらに、エンジンが冷えているうちはブローバイガスが多量に発生する。ブローバイガスとはエンジンの圧縮や爆発行程でピストンリングの隙間から漏れてクランクケースに流れ込むガス(混合気)のことだが、このブローバイガスの主成分は燃焼前の生ガスである。ブローバイガスが多量に発生するということは、燃焼前の多量の生ガスにエンジンオイルがさらされる、ということになる。多量の生ガスはエンジンオイルの劣化、つまり酸化を進行させることはいうまでもない。ややこしい話だが、チョイ乗りがエンジンにとっていかに過酷であるか、なんとなくでも想像していただけるのではないだろうか。
 もうひとつの問題として、現代のクルマに数多く採用されているアイドリングストップのシステムがある。このアイドリングストップを多用するということは、要するにチョイ乗りを繰り返すのと同じ理屈になるのだ。エンジンが十分に暖まっていれば弊害は無いが、十分に暖まっていないうちにアイドリングストップを頻繁に作動させてわずか数キロ先のスーパーに買い物に行く、というような使い方を日々していれば、エンジンオイルの劣化は早まりスラッジが発生してしまう可能性は十分にある。アイドリングストップシステムによって、今後エンジン内部のスラッジ発生に悩まされる方が増加してしまうのではないか、と僕は懸念している。

 スラッジの発生を防止するためにはどうしたらいいのか。これについては以前にも説明したようにオイル交換サイクルを早めるしかない。僕のサンバーはよくチョイ乗りをする機会があるのだが、オイル交換は三千キロ毎に必ず行っている。ちなみにレガシィのほうはサンバーほどチョイ乗りをする機会は無いので五千キロ毎での交換だ。よく「メーカーの指定は一万キロ毎での交換、となっているんだから一万キロで交換すればいいんだ!!」などと頑なに主張している人を見かける。なかにはネット上で「三千キロでオイル交換なんて、量販店の言うがままのおいしいお客ですね」などと人を小馬鹿にしたような物言いをしている人までいるが、僕はこれらの意見に対して「違う!」と声を大にして言いたいと思う。
 自動車メーカーが指定しているオイル交換サイクルというのは、メーカーが指定しているエンジンオイルを使用して、なおかつメーカーが想定している走行パターンを消化したうえでの距離になっている。つまりチョイ乗りを繰り返す、などという過酷な走行パターンは全く想定していないのである。エンジンオイルの寿命はその使用状況下で大きく異なる。これを理解していない人がとても多い。冷静になって考えればおわかりいただけると思うのだが、例えばノーマルエンジンで自動車レースをやっている方が「このクルマのメーカー指定のオイル交換サイクルは一万キロだから、一万キロでオイル交換をすればいいのさ」などと言っているだろうか。エンジンというのは高温で使用すればオイルに過大な負荷をかける。そして低温で使用してもやはりオイルに過大な負荷をかけるものなのである。同じクルマであっても人それぞれ使用状況は異なる。にもかかわらず、オイル交換サイクルは一律でOK・・・で済むはずがない。
 ちなみにオイルというのはクルマに乗らなくても酸化によって劣化していく。僕がユーノス・ロードスターに乗るのは年に三千キロにも満たないのだが、エンジンオイルの交換は毎年必ず行っている。

 最後に余談だが、ネット上のあるサイトで「ビューエルのXBシリーズのエンジンオイル交換サイクルは八千キロである。だから八千キロ以下でオイル交換などする必要は無い!」と力説している方がおられた。しかしXBシリーズのメーカー指定のエンジンオイル交換サイクルは四千キロ(低温時にチョイ乗りをすることが多い場合は二千四百キロ)となっている。八千キロはミッションオイルのほうだ。僕はマニュアルを所有しているから間違いに気付いたのだが、マニュアルを所有していない方がこのサイトを見たら誤解してしまうのではないか、と心配になったために一言付け加えておく。


スラッジ発生を防止する方法

2012-10-19 04:17:43 | クルマを長持ちさせる方法
 前回までにスラッジが溜まりやすいエンジン、というのをいろいろと紹介してきた。しかしすべてが過去のエンジンだったため、きっと読んでいる方は、
 今現在のエンジンはどうなのよ?
 と思われているだろう。こう質問されたら、残念ながら僕は
 ごめんなさい。分かりません。
 と答えるしかない。クルマの仕事を辞めてから十五年以上経っているし、仕事をしていた時でもエンジンの耐久性というのは六、七年くらい経過しないとなかなか見えてこないものだった。様々なトラブルを実際に目の当りにしたり、いろいろな人からの情報を耳にしてはじめて問題を抱えたエンジンというのはしだいに浮かび上がってくる。いくら過去の経験があるとはいえ、現在の立場ではうかつに『このエンジンはスラッジが溜まりやすく、壊れやすい』などとは言えない。

 ただ、ネット上の様々なサイトを見ていると、スラッジの問題に対して苦慮している方が現在でも多いことに気付く。この前はトヨタのAZ型と呼ばれる四気筒エンジンについて、気になる書き込みを目にしたことがあった。
 そのクルマはトヨタ・ノア。型式はAZR60G、つまり先代のノアに搭載されていた1AZ-FSE(2リッター4気筒)エンジンについてである。書き込みをしたオーナーの方は購入してから五年十か月、距離は九万九千キロでスラッジによってエンジンが止まってしまったそうだ。ディーラーにクルマを持ち込んだら『スラッジが原因だ』という説明をされたそうである。これについてオーナーの方が、「これは構造上の欠陥なのではないか」という質問を掲載していたのだった。
 数分後にはエンジンが再始動できたのだが、異音がひどかった、と書かれていたことから、このエンジンは焼き付きを起こしてしまったのだろう。たぶんクランクメタルではないかと思う。再始動が可能、ということは焼き付きの程度としては比較的軽いほうだと思うが、それでも焼き付きは焼き付き、である。重症であることに変わりはない。焼き付きの原因としてまず考えられるのはオイル管理の不良、ということになるのだが、このノアのオーナーの方は半年に一度、もしくは五千キロ毎にオイル交換を実施。なおかつオイル交換二回ごとにオイルフィルターもきちんと交換していた、との事だった。もしこれが事実なら、オイル管理はほぼ完璧である。このオイル管理を実施していてわずか五年十か月、距離九万九千キロでエンジンが焼き付いてしまったら、『欠陥ではないのか』とオーナーの方が言うのも無理はない。トヨタはかつてのM型やG型のような粗悪エンジンをいまだに作り続けているのだろうか。

 僕がユーノス・ロードスターとレガシィを購入した理由は、単純に『好きだから』というだけではない。ともにエンジンが丈夫だということを経験上知っていたから購入したのである。しかしごく普通の人は購入するクルマのエンジンが丈夫であるかどうか、なんてことは分からないと思う。そして現在の僕もみなさんと同じように分からない人間になりつつある。
 ではスラッジに苦慮しないためにはどうすればいいのか。いくら分からない人間になりつつある僕でも、その方法は伝授することができる。その方法とは、以下の通りである。
 ①新車で購入した時点から五千キロ毎、もしくは一年に一回は必ずオイル交換を実施し、二回に一度はオイルフィルターを交換すること。
 ②ヘッドカバーにフィラーキャップが付いているエンジンであれば、新車時から必ず一年に一度はフィラーキャップを開けてエンジン内部の様子を見ること。
 ③新車時のエンジン音、フィーリングをしっかりと覚えておき、エンジンに変化がないかどうか観察すること。
 ④燃費を計測すること。

 まず①だが、オイル管理は最も重要である。現代のクルマの取り扱い説明書にはオイル交換は一万キロに一度、なかには二万キロに一度、などと明記されているが、これは環境問題を考慮しているためだろう。しかしこのオイル交換サイクルでスラッジとは無縁のカーライフを送れるとはとても思えない。
 ②も重要である。もしフィラーキャップを開けてキャップの裏側やエンジン内部に微量のカスのようなものが付着していれば、それはスラッジだ。スラッジ発生の初期段階である。①のようなオイル管理を実施していてもスラッジが発生してしまったのなら、オイル交換サイクルをより早めなければならない。フィラーキャップを外してエンジン内部を覗いて見ることによって、それまでのオイル交換サイクルが適正であるかどうかが判断できるのである。ちなみに初期段階であればエンジンフラッシングによってスラッジはきれいになる。
 ③はメカニカルノイズが大きくなっていないか、エンジンの吹け上がりが重くなっていないか、などを観察する。
 ④の燃費計測はエンジンのコンディションを知るうえで重要な情報である。

 以前、ネット上で「三千キロごとにオイル交換をしている」と書き込みをされた方に対して、「三千キロでオイル交換をするなんて、量販店の言うがままのおいしいお客ですね」と書き込みをしている人を見かけた。まるで人を小馬鹿にしたような言い方である。三千キロでオイル交換なんて無意味、と言いたいのだろうが、『知らぬが仏』とはまさにこのことだ。世の中には7M-GTEのようなエンジンも存在するのである。
 ちなみに小馬鹿にされた気の毒なこの方はST205に乗っている、と書かれていた。ST205というとセリカ、そして末尾が『5』だから4WDのGT-FOURだろうと思う。エンジンは3S-GTEだ。この3S-GTEエンジンはトヨタエンジンにしては珍しく、相当丈夫である。丈夫だからこそ、僕はユーノス・ロードスターを買う時にSW20のMR2も候補に挙げていた。
 3S-GTEエンジンなら、三千キロ毎のオイル交換は必要無いかもしれない。しかしターボエンジンというのはNAエンジンよりもオイルの環境が厳しい。したがって、この方の言うように僕もターボエンジンであれば三千キロ毎でのオイル交換をお勧めする。転ばぬ先の杖、というやつだ。



スラッジ、って知ってます?

2012-07-26 04:28:57 | クルマを長持ちさせる方法
 バカにするな、知っているに決まっているだろ!とクルマ好きのかたに怒鳴られてしまうかもしれないが、実はスラッジのことをよく知らない人は多い。スラッジとは早い話、へどろ、である。オイル交換を怠ると、エンジン内部にへどろが溜まってしまうのだ。
 以前、知り合いに頼まれて一緒に中古車店に行ったことがあった。その中古車店には彼が気に入ったクルマがあり、「一緒に見てもらいたい」と頼まれたのである。実際に中古車店に行くと、彼は「一緒に見てもらいたい」どころではなく今にも自分ひとりで即決しそうな勢い。僕はちょっと待て、という合図を送り、ボンネットを開けてエンジンのフィラーキャップを外してみた。すると、走行距離四万キロのクルマにしてはスラッジの量がやや多かったのである。僕は中古車店の店主に「スラッジの量がやや多いですね」と言うと、店主はしばらく沈黙。そして返ってきた言葉は、「すいません、スラッジって何ですか?」だった。クルマの仕事をしていても、知らない人はいるのである。

 エンジンオイルの劣化、というのは酸化を意味している。エンジンオイルはもともとアルカリ性なのだ。ではなぜ酸化するのか、というとこれは水分やガソリン、そして燃焼時に発生する窒素酸化物やカーボンなどの燃焼生成物、さらにはエンジンの熱などによる。このエンジンオイルの酸化をいつまでも放っておくとスラッジの発生につながっていくのである。もう少し具体的に説明すると、すべてのエンジンオイルには酸化防止剤や清浄分散剤などの添加剤が含まれているのだが、これらの添加剤は酸化することによって無くなっていく。無くなっていくことによってオイルの中に不溶解分がしだいに生成されていくことになる。つまり酸化防止剤が無くなるためにオイルの中に硝酸エステルという窒素酸化物が増え、続いて清浄分散剤が無くなるためにオイルの中に不溶解分が生成される、という流れになるのだが、この不溶解分こそがスラッジになっていくのである。そしてさらにスラッジという物質はエンジンが比較的低温運転時に発生する場合が多い(高温時にはカーボンデポジットになる)。早い話、オイル交換をロクにしないままチョイ乗りばかりしているとスラッジが発生してくるのだ。クルマに詳しくない人には信じられない話かもしれないが、チョイ乗りはエンジンにとってとても過酷な使用条件なのである。

 スラッジがエンジンの焼き付き、つまり人間で言う心筋梗塞を引き起こす要因のひとつになることは前回に述べた。これは心筋梗塞の血栓と同じようにスラッジがオイルの流れや潤滑を阻害するために起きる。特にスラッジの影響をまず最初に受けるのがエンジンのヘッド部分だ。カムシャフトやロッカーアーム、バルブなど、エンジンを構成している部品の中で比較的細かい部品が集中しているのがこのヘッド部分なのである。複雑な形状であるがゆえにスラッジは溜まりやすくなるし、細かい部品が多いためにオイルラインもそれだけ細くなり、スラッジが詰まりやすい。特にカムジャーナル部分はクランクジャーナルのような『メタル』が入っていないために、かじりや焼き付きを起こしやすいのである。
 僕はかつて焼き付きによってカムシャフトがねじ切れてしまったエンジンに出会ったことがある。クルマの仕事をしていた時だったのだが、ヘッドカバーを開けてみると溢れ出るほどの大量のスラッジの中でカムシャフトが無残にねじ切れて死んでいた。恐らくスラッジによって寿命が尽きかけていたエンジンを高回転まで回したことによってカムジャーナルが一気に焼き付き、タイミングチェーンに引きずられたカムシャフトは勢い余って自分の身を真っ二つにねじ切ってしまった、ということだったのだろう。僕はその画像を今でも鮮明に覚えているのだが、できることならこの脳みそとパソコンを繋いでみなさんにもお見せすることができればいいのに、と思う。あの無残な画像を見れば、誰もがオイル交換の重要性を認識することができる、と思うからだ。百聞は一見にしかず、ということわざがあるが、もしお見せすることができればこんなに長々と説明する必要も無かっただろう。

 自分で言うのもなんだが、今まで書いてきた説明は面倒くさいから覚えなくていい。「なんだかよく分からないけど、とにかくオイル管理をしっかりやらないとエンジンは大変なことになるらしい」と覚えてもらえれば、それで十分である。


エンジンは『心臓』、そしてエンジンオイルは『血液』である

2012-07-10 02:56:39 | クルマを長持ちさせる方法
 僕はクルマを所有するうえで最も重要なことはエンジンオイルの管理である、と思っている。なぜなら、このエンジンオイルの管理が悪いとクルマはしだいに調子を落としていってしまうことになるからだ。具体的にはパワーダウン、燃費の悪化、ノイズの増加、耐久性の低下などが起きてくる。そしてなにより怖いのは突然のトラブルだろう。例えばエンジンが焼き付きを起こしてしまえば、クルマは走行不能となってしまう。焼き付き、という言葉にピンと来ない人もいるかもしれないが、これは人間で言えば心筋梗塞を起こして倒れてしまったようなものである。

 エンジンはクルマの心臓、と呼ばれることがあるが、まったくその通りだと思う。いや、その通りどころかそもそも僕はエンジンは機械ではなく心臓そのものだと思っている。クルマは動物であり、エンジンは心臓、そしてエンジンオイルは血液。そう思うのだ。例えば人間の血液は悪玉コレステロール値が高くなると心筋梗塞などのリスクが高まる。心筋梗塞とは心臓の血管に血栓ができて血液が流れなくなるために起こる病気だが、これは先ほども述べたようにエンジンの焼き付きと非常によく似ているのである。焼き付きはオイルの汚れがひどかったり、オイルの中にスラッジの量が多くなってしまうことによって起こる(オイル量の不足という要因もある)。要するに汚れによって細部にオイルが十分に行き渡らなくなってしまったり、あるいはスラッジがオイルラインや部品と部品の隙間、いわゆるクリアランスに詰まることによってオイルで潤滑できなくなってしまうために起こるものなのだ。早い話、スラッジが血栓になるのである。
 それでも、動物には腎臓という優れた臓器が備わっているからまだいい。さすがに血栓の除去は無理だが、血液の汚れは腎臓が自動的にろ過してきれいにしてくれるのである。腎臓があるからこそ動物は血液の汚れというリスクからは解放されているのだが、残念ながらエンジンには腎臓のような機能が備わっていないため、エンジンオイルはこの汚れというリスクを常に背負い続けることになる。つまり、エンジンオイルはエンジンに注入した直後から汚れや酸化によって劣化が進行していく。動物の血液のように再びきれいになることは決して無いのである。だからオイル管理というものが重要であり、なおかつオイル交換という作業が必要になってくるのだ。ちなみにエンジンには一応オイルフィルターというものが備わっているのだが、これは汚れの進行を遅らせるためのもの。腎臓のようにオイル(血液)をきれいな状態に戻してくれているわけではない。

 ついでに付け加えると、人間も腎臓の機能が失われてしまえば、オイル交換と似たような作業が必要になってくる。腎臓の機能が失われることを腎不全、と呼ぶのだが、この腎不全になると人工透析というものをしなければならない。人工透析とは腎不全患者の血液を外部の機械に送り、機械によって血液をきれいにする。そしてきれいになった血液を再び体内へと戻す、というもの。交換こそしないが、理屈はオイル交換とほぼ同じなのである。前にも述べたが僕は生まれてすぐに腎臓病(ネフローゼ症候群)を発症しているから、ここらへんのことも詳しい。幸い腎不全まで病状は悪化しなかったために人工透析を必要とすることはなかったのだが。

 エンジンとエンジンオイルは心臓と血液の関係にとてもよく似ている。繰り返すが、クルマは動物なのである。冒頭でオイル管理が悪いとクルマはパワーダウン、燃費の悪化、ノイズの増加、耐久性の低下などが起きてくる、と書いたが、これらはそれぞれ体力の低下、疲れやすさ、動悸、そして寿命、と表現することができる。オイル管理を怠ると、エンジンはしだいに様々な『疾患』を抱えるようになるのである。
 

冷間時のエンジンは注意が必要

2012-06-10 11:01:38 | クルマを長持ちさせる方法
 僕の家は住宅街の中にあるのだが、幹線道路から離れているためにとても静かである。特に朝は小鳥の鳴き声が騒々しく思えるほど静かなのだが、これが通勤時間帯になると一変してしまう。あちこちの家のクルマがエンジンを始動しはじめ、しかもみな始動が終わると間髪を入れずにクルマを発進させて勢いよく走り去っていく。これが毎朝の光景である。
 クルマの音がうるさい、という話ではない。僕はその光景を見るたびにクルマがとてもかわいそうに思ってしまうのである。わずかな暖気運転さえも許さずにエンジンをブン回して勢いよく走り出すことは、確実にエンジンの寿命を縮めていることになっていると思うからだ。人間に置き換えてみると話しはわかりやすい。たとえば、朝目覚めてすぐに100m走を全力でやったらどうなるか。僕は元陸上部で短距離をやっていたのだが、それでも目覚めてすぐに準備運動もしないまま100mを無事に完走できるとはとても思えない。股関節を痛めるか、ひざを痛めるか、筋肉を痛めるか。最悪アキレス腱を切ってしまう可能性もある。万が一運よく完走できたとしても、ゴール後には確実に吐くだろう。人間もクルマも同じで、冷間時のエンジンに負荷をかけると内部を痛めることになるのだ。それでも人間には治癒力が備わっているからいい。けがをしても治るのである。しかし残念ながらエンジンには治癒力など備わっていないから、痛めた箇所はそのままだ。こんな日々を毎日続ければ、当然エンジンはしだいに寿命を縮めていくことになるのである。

 エンジン内部には可動部品の隙間、いわゆるクリアランスというものが数多く存在する。例えばクランクシャフトであればクランクジャーナルとクランクピン、ピストンならピストンピンとピストンクリアランス、エンジンヘッド部分ではカムシャフトのカムジャーナル、バルブのバルブクリアランスなどがそうだ。エンジンの部品は金属製である以上、熱による膨張は避けられない。このため膨張することを想定した隙間、つまりクリアランスというものが必要になってくるのだが、このクリアランスはエンジンが暖まった状態で適正値になるように設定されている。つまり冷間時にはクリアランスが適正値になっていないわけで、そんな時にエンジンに過大な負荷はかけられないのである。
 加えて、冷間時に始動した直後はエンジン各部へオイルが十分に行き渡っていない。特に冬の寒い日や、粘度の高いオイルを使用している方は注意が必要である。さらにヘッドの細かい所、例えばバルブ駆動に油圧ラッシュアジャスターを採用しているエンジンはその内部にオイルが行き渡るまで若干時間がかかることが多い。油圧ラッシュアジャスター内部にオイルが不足していると、エンジン始動後にヘッドからカチャ、カチャ、と音がするのでよくわかると思う。

 昔のように「水温計が動き出すまで暖気運転しろ」などと言うつもりはない。現代のエンジンは品質と精度がとても高いからそこまでする必要は無いし、なにより環境への問題もあるからだ。しかしそれでも最低限の暖気運転は絶対に必要である。せめて一分、いや三十秒でもいいから暖気運転はしてほしい。そしてその後に走り出したら、水温計が動き出すまで極力エンジン回転数は低く保つようにする。これで十分だ。僕はいつもこうしている。
 僕の知人のある人は、昔から暖気運転などせずに毎朝出勤していく。エンジンの始動とオートマの操作が同時なのか?と思うくらいエンジン始動後に間髪入れずに発進し、しかもかなりの勢いで加速して走り去るのである。このため、その人のクルマはいつも十年経たないうちにエンジンのヘッドからガシャ、ガシャと異音が出るようになる。過去三台のクルマがいずれもこんな調子だった。もちろんオイル管理がずさんだったのかもしれないが、暖気運転をしない影響は大きいと思う。少なくとも僕は、過去に乗ったクルマのエンジンから異音を発生させたことは無い。現在乗っているユーノス・ロードスターは14万キロを走破しているが、いまだに快調そのものである。その証拠にエンジンをブン回すことが多くても、燃費は今でもリッター12キロはいく。

 暖気運転をしないことは環境保護になるかも知れない。しかし毎回暖気運転を行いながらクルマをベストコンディションに保ち、長く乗り続けることもまた環境保護になる。そしてどちらがより環境保護につながるのか、と問われれば、僕は後者のほうだと思っている。