鶏山ゴム  メルヘンの丸焼き

世田谷が産んだ(本当は明子が産んだ)鬼才

池の上陽水=鶏山ゴムの詩や短歌

つまらぬ読み物等を不定期に綴ります

2008年 中目黒の旅 六日目・前編

2008-11-27 14:27:01 | 鶏山ゴム東京共済病院闘病日記
ちょうど良い目覚め。

いい感じに酔いが残っていて、悪夢も見ずに熟睡できている。

下地は出来ている。さあ二軒目に行こう。
あ、まだ6時半だから吉野家かジョナサンでしか飲めない。
それに、中目黒で、しかも病院だった。

まだ薬に頼っていなかった頃、
下高井戸駅構内の吉野家によく通っていた。
豚皿とおしんこをつまみながら、ちびちび。
あそこはイスラム教経営でアルコールは一人3本しかダメだから、ビール2と日本酒を一合。
去年スーパードライからモルツに変わったのだが、
何故か吉野家の味付けにモルツは合わない。

牛丼の味の秘密は調理に使うのが日本酒でなく大量の白ワインにある、
それがサントリー輸入以外のワインであることに起因するのではないのか?

その頃休みの日は、又は仕事をサボって、一日中飲んでいた。

まず眠れないまま7時半に下高井戸の至宝、
定食屋「よ志み」で、
ミックスフライ270円か豚バラと大根の煮物¥230とビールを1・2本。
ここは安くて本当に美味しい。

定食は470円のコロッケ定食から、
一番高い焼肉定食620円までほとんどが500円代だ。
納豆定食350円ってのもあって、2年前までは270円だった。
吉野家や松家などのチェーン店と真っ向から竹やりで戦っている。
料理単品が200~300円代だし、居酒屋よりも断然安くておいしい。

朝はおもに河岸帰りの商店主たちが一杯やっている。
もちろん出勤前のサラリーマンも多い。
よく見かける中年の老紳士が(?)がいて、単身赴任か奥さんを亡くされたか離婚か独身なんだろう、いつもハムエッグ定食に納豆でささっと済ませて店を出て行った。

ここにはビールの抜き方に独特の流儀があり、お客さんの前にキリンの大瓶どんと置いて、栓抜きでシュポっと音を立て、落ちてく来る王冠をテーブルに着地寸前に左の手のひらで受け止める。
未だに怖くてその理由が聞けない。

ミックスフライは、大き目の鯵のフライ1尾と、もんごうイカだと思うがイカフライが5本、感心するのはイカの切り方だ。
縦の短冊切りにして軽く切れめを入れてるんだろう。
一見、出来た当初のモスバーガー(誰も知らないでしょう)の、フライドポテトくらいの大きさでサクっとしていて柔らかくておいしい。
いつも油が新しく胸焼けした事がない。

あとお気に入りはチンだけど自家製ハンバーグ、
自家製コロッケ、ひじき煮、豚バラと大根の煮物だ。
中でもこの煮物はたまにしかなく必ず頼む逸品だ。
さっと煮てあるのに、互いの味がそれぞれに溶け込み、引きたてあっている。
「情熱の赤、哀愁の青、今溶け合って夢の世界へ。nnn~n そこから先は~」
って感じだ。
by作詞松本隆 作曲筒美 京平 「セクシャルバイオレットNo1」

僕は最近の「豚の角煮」というもの格調の高さに納得がいかない。

確かに作るのはそりゃあ大変だ。
大きな豚バラが柔らかくなるのは時間がかかるし、時間差で大ぶりの大根にも味を染み込ませなきゃならない。
圧力鍋で一気に作る店もあるが、あれって味が一気に入るので、灰汁(あく)や焦げたような味がしておいしくない。

圧力鍋を使う場合は、まず別鍋で葱や日本酒入れて、沸騰させて灰汁(はいとダイヤモンド)をよくとってから、水を足し昆布や香味野菜やら日本酒か泡盛を加えて10分。
それから半分煮汁を捨て、新たに水とお酒とお好きな味付けを足して10分。
大根を入れて1分、あとは余熱。
メーカーごとのばらつきもあるけど大体これでいいと思う。
一晩冷やして置いて、上に張った氷の銀盤のような油を取るとなお良しだ。

たまに料理番組の取材の有名店で、女子リポーターが、
「脂が抜け落ちて、ゼラチン質やコラーゲンがぷるぷる~。口の中で解けてく~」
とか言っているが、それは嘘ですよ~。
いくら煮たって脂身が抜ける訳が無いですよ~。
みんな騙されないで下さいね。

それに高い。高い。高すぎる。だってたかがバラ肉ですよ。
昔は牛も豚も三枚肉、バラ肉は安かった。
庶民の味方でご家庭でも中華屋でもよく利用されてた。
今でも肉野菜炒めはバラ肉じゃあないと美味しくないアルヨ。

でも、昨今の豚の角煮・ラフテー・パーコーロー、人気で、本当に塊の三枚肉仕入れ価格が異常にに高いのです。肩ロースより高いです。
煮込んだら半分になっちゃうのにね。

作るほうも原価が高くて。お客も頼むのに覚悟がいる。

牛バラだって焼肉人気のせいで高値安定だ。
カルビなんて、やっぱり所詮バラ肉なんですよ。
それに骨付きなんて半分骨なのにあんな言い値段取りやがって。
ちくしょう!プリプロを半日かけて録音・編集したのに、なんで打ち上げの焼肉が割り勘なんだよ、豊岡!自分でカルビやらサンチュやら奉行で仕切ってたくせに。
俺は豚や鶏が食いたかったんだ!!

そしてロースよりカルビが高いなんてどう考えても変だ。
お百姓さんに申し訳ない。
やはり需要が多いせいなのだろうか。
最近の「脂が乗っている=上等」思考のせいなのか?

「よ志み」でちょっといい気分になったら、
一年前に改装された松原駅横の中華屋「光竜」へ。

ここは恐ろしく料理が早く、麺類以外は平均2分で出てくるし、その量の多さは本当に半端ではない。
肉野菜炒め、肉ニラ炒め、茄子ピーマン炒めなど全てお勧めだが、単品は殆どが500円だ。
「お、俺は肉が食いたい!」って時は焼肉500円と、ライスを頼んでその活火山の高さと、火口からのジューシーな噴煙にに驚くといい。
ランチ時の人気ランキング・男子部門ナンバー1だ。
女子・老人は・・・タン麺だと思う。

親父さん、おかみさん、いずれ店を継ぐ息子、その嫁、典型的な「渡る世間は」タイプだ。
そういえば改装前はなんだかすごくみんな背中を曲げながら、指のささくれを抜くみたいな店だったな。

しかし改装後のおかみさんはスーパーオオゼキで買い物してる時も、生き生き颯爽としてカートを押している。
花梨な雰囲気のお嫁さんはホール係だが、ちょっとした一輪挿しやミニサボテンが愛らしい。
そしてここから見る世田谷腺の風景が僕は大好きだ。

それに出前も一品からやっている。
1品からですよ!
松原~下高井戸近辺で、一日中スーパーカブをぶっ飛ばしているのはここの若旦那だ。
ちょっと松阪大輔に似ている。
星一徹のような親父さんとは全く似ていない。

その後、徒歩1分の我が家に帰り、ぐりちゃんにご飯を上げて、しばらくグリちゃんとお昼寝。
3時過ぎに目覚めると慌てて下高井戸の重要有形文化財、「坂本そば店」へと急ぐ。

この店はあまりに書くことが多すぎて、単行本が出せるくらいなので、後日詳しく書きますが、初めて入った方は驚きの連続で、潔癖症の人だったら卒倒するでしょう。
ハエ取りやホイホイがいたるところにあるし、実物もたくさんいます。二層式の洗濯機が2個と車椅子がいつもある。

広く雑然とした店内は100席はあろうか、半分はテーブル席で半分はお座敷です。
座敷は30畳くらいの大広間と、細長い8畳ほどの細長い飛び地、大広間の中には人気の3畳の個室がある。
看板に「店内は広いのでご休憩に利用下さい」と書いてあるとおり、タクシーの運ちゃんがアイマスクをして仮眠を取っていたりする。
店内には4箇所にテレビがあって、
お昼時ともなると、「NHK]「みのもんた」[TBS(なんだっけ?)」「いいとも」が爆音で流れ、店主らしき親父のラジオカセットレコーダーからは「NHK総合」か、一日中「花も嵐も」がエンドレスで、つまり3分×20×12だから720回かかっている。

人気の3畳の個室は3時過ぎはほぼ開いている。
一年ほど前は14型くらいのブラウン管テレビと、鏡台、黒電話、将棋盤、壊れたエアコンだったのだが、今年の春、急にソニーの液晶テレビに変わった。
ものすごくびっくりした。儲かっているのか!
春日部市、築40年の平屋に横付けされてたミニカが急にポルシェになった感じだ。
片方を開けると大広間につながり、
しかし一度禁断のもう片方の障子をあけてしまった。
布団がしいてあっておばあちゃんがぐうぐう寝ていた。
一畳の仮眠部屋だった。

僕はそこでほとんど「カツ煮」を頼む。
カツ煮は日本料理の最高傑作だと思う。
塩コショウして丁寧に揚げた肉を煮込み卵でとじるなんて、
大胆かつ難攻不落。
それに七味をかけていただくとコショーとのバランスに驚く。
よく海の無い県に分布される、ソースカツ丼当たり前派、東京に出てきて始めて食べたよ田舎もん系が、
「カツのサクサク感が薄れてね~」とか、
「煮込むと味のポイントがさあ~」とか言ってる奴は、
歌舞伎揚げとか浅草の硬いだけで胸焼けする天ぷらでも食ってろ!と言いたい。

大体いつから揚げたてが最高になったんだ!
僕はコロッケとかメンチカツは冷めたてがうまいと思う。
揚げたては熱すぎて味が解らないし、味が馴染んでいない。
代官山の肉屋の店頭で初冬に熱々をハフハフしながら、
コロッケを食べるのは付き合いたてのカップルだけにしろ!

でも天ぷらだけは揚げたてが大事だとと思う。
経験上言うがすぐ料理に手を付けないのはB型に多い。
「これ一本吸ってから」とメンソールとか吸ってたりさ。
もう一度言う。出されたらすぐ食え。

もちろん安い駅弁の常温のかき揚げも大好きだが
(崎陽軒のシウマ弁当を応援します)、箱根の旅館の5時に揚げました、だって7時に帰りたいんだもん、という冷たい天ぷらとぬるい茶碗蒸しなんて、大涌谷に投げ込むか、箱根神社のお賽銭箱に入れた方がいい。

又は「箱根湯煙りコンパニオン殺人事件・名物天麩羅に謎の密室殺人・美人仲居刑事が完全トリックを解く」で、
「この抹茶塩に毒が…」と比企理恵が死ぬぐらいで充分だ。

とにかくこのしょっぱい「カツ煮」は最高だ。
これだけで3時間は飲める。
肉でビール、玉ねぎでサワー、そしてサワー、そしてロック、もし最後に締めたかったら半ライスを頼んで、最後の一葉と雨水で「プチカツ丼」にしよう。

しかしこの「坂本そば店」のカツ丼は超フレキシブルだ。
ある日はうずらの玉子が一つだったり、二つだったり、それが無かったり、それがグリーンピースだったり、ある時は5つに切ってあったり、8つだったり、又はそれが縦に半等分つまり16切れだったり全くレシピが決まっていない。
一度凄く時間がかかってから「豚の角煮」が出てきて、黙って食べた。
チンし過ぎて「ほぼ燻製」だった。

一見さんやもう一方の入り口(二つあるんです)から来る客は、レジで食券を買う。その南口が無防備なんでタダ食い防止策なんだろう。

顔を覚えてもらえると、食券が料理と共に運ばれて来て後払いになる。
オーダーするたび「カツ丼の上550」「サワー400」とか。
帰りにそれをレジに持って行くとおばあちゃんがそろばんを弾いてくれる。

ここでメンバーを紹介すると、店主の「花も嵐も」が好きなおじいさん。
会計のおばあさんオンピアノ。ホールのおばさん。ホールのおじさん。
調理担当で最年長のおじいさんの5人だ。
未だに生きていて来日している、ソニー・ロリンズのカルテットより平均年齢は高いと思う。彼らはなんらかの家族関係にあると思う。

店主は気前がいい。
初めて行った時、食欲がまるでなく、「壜ビールを」と頼んだらお通しに枝豆(もちろん無料)が出てきた。続いて「レモンサワー」をと頼んだら柿ピーが出てきた。最後に「焼酎のロック」を頼んだらキムチが出てきた。
その時だけだったから、気まぐれったのか?
それとも顔色を気遣ってくれたのか?
いや、それは絶対にないと思う。

しばらくして晴れて定連となり、後会計になってから気付いた。
3回に一度はつけ忘れをしている。
ホールのおじさんの小説ミスか、おばあさんのピアノのタッチミスだ。
いつも400円~800円は少ない。
それで僕はつい何度かやってしまった。
伝票を1.2枚丸めてポケットに入れたり、お盆の下に隠したり、
それでも一向にバレナイ。
そして、いつもさんざん飲んで2000円以下の明朗会計の優良店となっていた。

しかしある日、店主にビールを頼むと
「アサヒ?キリン?」
「あ、キリンでお願いします。」

すると遠くのレジの方でホール係の例のハゲ親父が、
耳の遠いおばあさんに大声で言っていた。
「あの人は伝票持って行かずにこっちで付けといて。」
ああ、やはりこの日が来たのね。

でもこのハゲはやる事も激しい。
これはシャレではない本気(まじ)だ。
前にレモンサワーを頼んだらちょっと薄かった、というかチェーン店の居酒屋並みだった。二杯目「濃い目でお願いします」と言ったら焼酎7:サワー3だった。
もちろんレモンは変えない。締めに「ロックで下さい」と頼んだら、サワーと同じ量の焼酎が入っていた。それが全て400円。
親切なのか適当なのかさっぱりわからない。
さすがにその日は店を休みました。

4時から「水戸黄門」を見る。やはり東野英二郎は素晴らしい。
石坂浩二ver.は脚本は良く出来ているがやはり無理がある。
浅野光男の辺りは完全に老人を舐めきっている。
やはり初代の葉山さんの脚本は素晴らしい。

朝食が来る。又同じようなメニュー。
胸焼けしていて殆ど残す。
やっぱり運動してない体に海老ふりゃあとお肉は重かったぜ。

そういえば坂本そば店の定食のセンスも凄かったなあ。
一度興味本位でから揚げ定食を頼んだけど、殆ど下味の無い鶏の竜田揚げに、大量のポテトサラダとフライドポテトが付いていた。

でもあの展望レストラン、味は悪くないけど今一つだなあ。
ひと昔前の国民宿舎の食堂って感じだ。
そもそもこの病院は公務員の共済組合がやってるから、しょうがないのかもしれんが、8時閉店は早過ぎるしメニューが少ない。
病院なのに和食や体に優しいものがない。
もったいぶった特別定食1200円ってのがあったが、
「ポークソテーのなんとかソース添え」にいろいろ小皿が付いてるだけだ。
目黒銀座なら780円だ。

昔オヤジが心筋梗塞で倒れて、もう25年も通っているバカ高い慶應病院も、行き始めの古い本館だけの頃は、地下の薄暗い食堂と、銀座木村屋の小さな売店くらいしかなかったけど、鳴り物入りでオープンした新館の最上階には、
パレスホテル直営の展望レストランがあってその名も「オアシス」だった。
なんともまあ単刀直入というべきか。それとも痛烈な皮肉なのか。

神宮の森を一望できるパノラマビューはいいのだけど、取って付けたようにカロリー表示があるだけで、ほぼホテルのラウンジレストランにあるようなメニュー。
サーロインステーキやビーフシチュー、シーフードドリア、しないけどゴルフ場にあるような豪勢なクラブサンドウイッチ、五目焼きそば、デザートもいろいろ、うな重まである。
そして凄いのがたいがいののアルコール類があるのだ!

店内風景はそれはまあ凄いもんだった。
点滴のカートを背負ったおっさんが、昼間からうまそうにビールを飲んでいたり、
きっと明日大手術を控えたおじいちゃんが、最後の晩餐か、この世の名残りのように、いとおしそうにうな重と日本酒をついばんでいたりする。

片や長野県上伊那郡中川村(別に恨みはあまりありません)から出て来た親族連中がテーブルをくっ付けて、昼間から大宴会を繰り広げている。
夜は全く病院と関係ないようなカップルも沢山いて、信濃町から神宮外苑を抜けて絵画館や銀杏並木をお散歩し、表参道まで、又はその逆はいかにもなデートコースだからだろう。
薄い壁を隔てた隣は照明を落とした喫茶&バーコーナーまであり、バーテンダーが寡黙にシェイカーを振っていた。

そして、一番びっくりしたのはレストランの隅に、小さいながらも寿司カウンターがあるのだ!
食堂に寿司カウンターのある病院って、
日本広しといえどもあそこだけだと思う。でも板さんはいつもいる訳じゃなくて、
その寿司屋の営業時間も解らなかったから、座る機会も勇気もなかったけど、
一度白衣を来た先生二人が、板さんを前にお好みで握りをつまんでいた。
いかにもいまオペが終わったような外科医がまぐろやウニを……(イメージ)

「おはようございま~す」
元気ななつきちゃんが検診にくる。
残ってる薬の数を確かめている。

おそるおそる聞く。
「あの~昨日夜勤でした?」
「はい、そうですよ。もうすぐ明けま~す」
不思議そうな顔をしたが、声は嬉しそうだ。
「あのう~僕、昨日大丈夫でした?」

「あ、覚えてないんですね?やっぱり。」
なつきちゃんは血圧を計る時、細い指で僕の腕をぎゅっと閉める。
気持ち良く、すがすがしい。細腕繁盛病棟午前9時。
「デイルームで『チャンス到来~』とかなんとか唄いながら、
コンコンとかみゃあみゃあとか言ってぴょんぴょん飛び跳ねてましたよ。」

ああ・・・やっぱり。でも何故バービーボーイズ?
「でも楽しそうでしたよ。いつの間にか床で寝ちゃってましたから、起こしてあげたら、自分で戻っていきましたよ。」
なつきちゃんは笑いながら出ていった。
こんなキチ○の事よりもう夜勤明けだから、今夜のデートで頭が一杯なんだろう。
結婚するんならいい男を捕まえるんだぞ。
ナースさんの知り合い、数人いるが皆離婚している。

鈴木先生に会うのが怖い。

しかし夜光虫の再来。
今日は土曜日で先生はオフ日だ。
わ~い。

午前中はアホなメールをしたり、PCで音を聞いてアルバムのイメージを考えたりと、ベッドの上でだらだら過ごす。

小皿のフォックスフェイスとローズマリーと、
お薬たちが大人しく僕を見ている。

ぼうっとしていたらもう昼食だ。
鮭のソテークリームソース、サトイモのそぼろ餡かけ、
わかめの酢の物、もやしの味噌汁、硬派米、麦茶。

朝食べて無かったから美味しくいただく。
試しに千夏ちゃんからもらった梅干と麦茶でお茶漬けにしてみた。
うまい。
食品業界の小林製薬、永谷園の「俺流冷やし茶漬け」って商品があるが、
御茶漬けの素とぶっかき氷とウーロン茶(思いっきりサントリーだった)を、
イケメン俳優が音を立てながらかっ込んでいたが、
まだCMが続いてると言うのはあまりクレームが無かったって事だろうか?
僕なら一発でお腹を壊す。

しかしカキ氷ってのも原価の無い食べ物だよなあ。
氷いちごなんて解けたらただの人口いちごジュースだしね。
あれで600円とかとれるのかあ~すごい。
でもそのうちに、綿飴ならぬ綿氷いや綿雪とか出そうだね。

「蔵王の新雪から出来たパウダー綿雪」とか、
「グリーンランドのダイヤモンドダスト綿雪ミント味」とか、
「オーロラが見える南極圏の綿雪イチゴー」とか。

午後も音楽聴いてたら3時半頃ううちゃんから、これから行きますとのメールが。
ううちゃんは去年CDをプロデュースした、ギター弾き語りのアーティストだ。

ううちゃんの顔もおぼろげだ・・・
ん・・・おぼろ気?おぼろ豆腐?おぼろ月?千夏ちゃんが子ぎつねなら、ううちゃんはお月様だ。
「ゆっくりおやすみよお~」と言ってくれる、絵本のような優しい色調の満月のイメージが。

急に来るってるのは、急に狂ってるって事ではなく、やはり馬肉食ってるんじゃなくて、やはりパニクってるんだろうなあ?
馬肉には相当うるさい僕も躁だがいや欝だが、ううちゃんも相当なビビリンボウ(ブラジル音楽王国「王様ジュンカ・ガミーは陸軍大臣ジンナ・カヤマーのクーデターで亡命中」の楽器、日本でまともに弾ける人はいない)だからなあ。

初めての発作の時は心臓麻痺かと思って床に倒れてたら、店の内装工事のお兄さんが「辛そうだね」ってガリガリ君をくれた。
夏バテだと思ったのでしょう。
あの、世の中が急に白黒になりネガポジ反転になるような恐怖感は、なった事ある人しかわからないからみんななって下さい。
動悸・頻脈・呼吸困難と、死ぬんじゃないかぐらい極度の恐怖感。

次に起きたのはあるライブの日の夕方、ある男性ピアニストに紹介した素晴らしい歌い手の女の子が、優しさと気の弱さを暴言でカモフラージュしている、彼にリハで徹底的にやり込められていて、
「これ、音当たってねえ?これコードおかしくない?これどう展開すんのよ!」
って初登場で失礼なくわえ煙草で、でも全ては彼の勘違いだった。
彼女はリハが終わってからもずっと楽屋で緊張しながら、直前まで必死に譜面とにらめっこしイメージトレーニングをしていた。

いざ本番、彼女もガチガチ・僕もガチガチ。
でも曲が始まるとその緊張の空気はは一気に解けていった。
何か、一輪の睡蓮が水からゆっくりと茎を伸ばし蕾を膨らませ、優しく気高い花を広げ、清浄な香りを辺りに放っていくかのようだった。
急にピアニストの顔色が変わり、タッチも変わり、真剣に演奏しはじめる。
その唄声は儚いくらいに優しく、子供を守る母のように力強い。
障害物をするりと避けながら聴く者の体にしんなり入り込み、
琴線に触れるなんてレベルではなく、心臓をわしづかみにされたまま、でもゆっくりと優しくさすってくれる。
う~ん。素晴らしすぎてうまく言葉で言い表せないや。
日本人のカバーを一曲やったが、ライブで見た本物の彼女よりも良かった。

本番が終わった瞬間、ピアニストが大声で叫んだ。
「この子すげ~よ。すげえ!こんな子がいたんだっ!」
遅い。リハで気付け。1時間も遅刻しやがって。
でも彼も時間に遅れて馬肉食ってたんだろうなあ。
そして家に帰ってからも僕の緊張は途切れず、激しい発作がおきたのでした。

それからは頻繁にライブ後、ライブ中、リハ中を問わず、咳き込んだり、嗚咽したり、動けなくなったり。

要するに大好きな人も大嫌いな人も、意識する、感情を揺さぶられるという点では同じだし、マイナスオーラでもプラスオーラでも、その度合いが大きければパワーとして押し寄せてくる波動としては同じだ。
それに店に出演していただいてるのは大体が好きなミュージシャンか、彼らの繋がりで頼まれてしまいいやいや出演オッケーしたお方や、やや有名でメジャー落ちの態度のでかい下手な連中や、その取り巻きのいかにも擦れた感じ悪い業界人や、妙にテンションの高い女子マネージャー。

本当に疲れる。
頼むリーブミーアローン!アローン、ロー・・・
発作の頻度はどんどんエスカレートして行くのでした。

あ、うっかりしていたらもうすぐううちゃんが来る。
間に合えば渡したいと急に思い立ち、デイルームで動物たちと苦手な譜面書き、
カエル君ダルセーニョが多すぎたら解りにくいかい?
なんだダルせーニョも知らないんだ。
海水の温度が高くなって、
君のバリ島の仲間達が死んじゃうって事なんだよ。

鳥君ダカーポも知らないのかい?
内容がない高島暦くらいの大きさの薄い譜面でねえ。
駅前かタワレコでタダで手に入るような程度の音符なんだよ。

あ、もうお月さまがと思ったらううちゃんが後ろにいた。

続く

2008年 中目黒の旅 五日目 

2008-11-24 11:50:26 | 鶏山ゴム東京共済病院闘病日記
「鶏山さ~ん。おはようございま~す。朝ですよ~!」
フライパンを叩くかなえちゃんの元気な声におこされる。

めぞん一刻のような気分だ(イメージ)。
誰だってエプロン姿の新妻におこされるのは気分がいい。

よくテレ朝系サスペンスで、それにしか出てこないような妙齢で薄幸そうな女優の奥さんが、ゆっくりとカーテンを開けて、
「あなた、朝ですよ。あなた。あ~な~た……
ひっ。し、死んでるっ!あなた!あなた!あなた~~~!」
とか言われても生き返る気もしないね。

「今日はハムエッグにしてね。ハムは2枚で卵を挟んで。つまりハムエッグハム、良く焼いて!」
と言おうとしたら、
かなえちゃんはエプロン姿ではなくナース服なんか着ていて、ベッドの端にちょこんと座った。
えっ、何?何をしてくれるの?こんな朝から。

「鶏山さん、もうすぐお薬、切れますよね。」
「はい、結構前倒ししちゃって」
「今 持ってるお薬を全部出して下さい」
優しい麻薬捜査官だ。名取祐子とは違う。
僕は引き出しから変なバランスで残っている薬を掻き出し
「爆乳ナース刑事(もちろんデカと読んで下さい)佐藤かなえ」
の前に差し出した。
「これで全部です」

すると、かなえちゃんは急に立ち上がって
「嘘おっしゃい!さあ、全部出すんだよ!脱ぐんだ!もちろんパンツもだよ!早くしろ!この豚野郎!」
とか言ってもらいたかったのだが、意外にも
「今日からお薬の数を数えますね。これがなくなったら1日分づつを出しますから。」と優しく笑って言った。

来た!
これが俗にいうメディシンコントロール、略してメディコンだ。
そして次は体を拘束するフィジカルコントロール(フィジコン)が来るのだろう。そして最後は脳内にチップを埋め込まれるトータルリコール(トリコ)だ。
もしもそれで人格が変われるのならば最高だ。
シュワルツェネッガーが無理なら、
とりあえず「私はB型になりたい」

「鶏山さんがお薬飲み過ぎるから、みんな心配してるんですよ~」
またまた~。みんなだなんて。
どうせ俺は厄介者だよ。でも嘘でもうれしいわあ~

かなえちゃんは、
テーブルに転がる小さなフォックスフェイスをちょこっと触ると
「これありがとうございました。本当にきつねの顔みたいでかわいいですね。でもパプリカみたいだから食べちゃわないのかしら。これが毒だなんて」
そう言って笑いながらひらひらと去って言った。

なんでいつもあんなにきらきらと明るいんだろう。
本当に天性の明るさなのか?
それとも徹底的なブロ根性なのか?
病院を出たらまるで廃人のようなんじゃないか?
目黒銀座の行きつけのバーで毎晩ボトル開けてるんじゃあないか?
やたら毒に反応するというのは悪い薬でもやってるんじゃないか?
麻酔医と出来ているんじゃあないのか?

ところで明るい人って何なんだろう。
いまだ飲食店の求人貼り紙に
「明るくてやる気のある人」とよくあるけど、
そりゃあ「暗くてやる気のない人」とまでは書けなくても、
他に書き方ってのはないものなのかな?

最近は時給よりも
「一時間からOK、おいしいまかないあり、楽しい仲間が待ってます。」とか
「恋人募集中のスタッフ多いです。週一で飲み会あります」
ってのも効果あるようだけど(テレ東調査)。
接客のあの嘘臭い明るさだけに重きを置くのはどうなのだろうか?
最低限、お客さんや同僚に感じ悪い印象を与えないのは基本だけど、

「はい喜んで、喜んで、喜んで、喜んで、こんで、んで~」とか
「ご新規様一名様です。一名様です。名様です。です。」とか
「ボナセーラ、ボナセーラ、ボナセーラ、ボナセーラ、ナセーラ、ペルファボーレ、スィー」とか
「コーヒーいかがですかお二階では世界の食材が」「コーヒーいかがですかお二階では世界の食材が」「いかがですかお二階では世界の食材が」「お二階では世界の食材が」
とか はっきり言ってヤカマシイ!!

会長。それが繁盛の秘訣ならあんたの正解だ。
どうせマケイヌ氏でキチガイの戯言だからね。

でも僕が大箱の店を作るならこう求人広告出すな。
「食べる事が好きな人、心からの笑顔で笑える人(研修あり)、ちゃんと怒れてちゃんと謝れる人、遅刻は20分まではOK、まかない二食付き、交通費¥540支給。大声不可」
でもやっぱり笑顔って一番大事だよな。
とってつけたような大声を出さなくても、混みいった商談飲みの時
「レモンサワー2つお代わりね」
とオーダーしたらただ一言はいって笑顔で頷いて、持って来たときも笑顔で小さくお待たせしましたと言いながら
「頑張って下さい」と瞳の中に書いてある。
帰りの時もちゃんと目を見て
「ありがとうございます。うまくいきましたか?」
なんて笑顔で言ってくれたら毎日通うね。
なんだったら会社の株を2000株ほど買ってもいい。

鈴木先生登場
「相変わらず、眠れないんだって」
「ええ、でも昨日は南館登山とかして結構疲れたから熟睡は出来ました。」
「何時頃?」
「4時前くらいでしたか」
「3時間か…昼間眠くならない」
「はい~。でもそこで寝ちゃうと今度夜辛いんですよ。昨日もそうでしたから」
「あ、そう。ところであの仕事どうなった?ほら契約がどうとかって」
「はい、おかげさまで。スポンサーが、お好きにやりなさいって」
「スゴいじゃん。そりゃあ良かった」
自分の事のように笑顔で喜んでくれる。

これだ!この人が銀座本店の店長、いや人材統括部長だ。
でも相当な給料もらってるんだろうなあ。
去年のどこかの大病院からヘッドハンティングされたという噂だ。
「でも昨日、著作権の問題とか出て来ちゃってこれが面倒くさくて」
「又かいな。何しろ君は病人なんだから、それを利用しちゃいなよ。仕事は二の次だよ。じゃあね」

いい指導者だ。鈴木ジャパン、予選突破は楽勝だ。

朝食にハムエッグハムは付いていなかった。
人肌のパンとジャムと海鮮サラダと牛乳と麦茶。
「お~い。かなえ~。ハムエッグまだ~?」
と呼びたかったがやめておく。
そういえば朝昼晩通じてまだ一度も卵料理が出ない。
何故だろう?アレルギーが多いからか?
かつて事故でもあったのか?
病院で遺伝子操作して孵化させた卵を作って人体実験をしていたら、
狂人や自殺者が出たのか?

午前中は相変わらず、
デイルームでどうぶつたちとおんがっかい。
そして携帯に転送してもらった契約書類の文面とにらめっこ。
ノートのウィルスソフトが切れてしまい、
フリーソフトもなかなかダウンロード出来ない電波状況も悪いから、もっぱら携帯の使用頻度が高い。

でも この予測変換ってだれが入力してるんだろう?
会社にもよるけれどもどかなり趣味的だと思う。
それとも裏で金が動いているのか?
前にボーダフォンだった頃、「しま」と入れたらトップに「志摩スペイン村」が出て来た。
今はアーウーだが「でぃる」と入れると
「ディルアングレイ」がトップで出る。何故に?
さて「ガン」は何でしょう?
はい青!・・・正解!「ガンダム」でした。

携帯をなくす事にかけては「誰にも譲れないこの想い」で、この2年で十数回なくすばかりか
「安いからボーダフォン(現 孫銀行)」→
「水没して解約し、もう携帯なんかやめたやめた~時代半年」→
「沖縄ツアーの為しょうがなくemobileに加入2週間」→
「アーウー」だ。

emobileなんか猿に騙されて入ってしまったのだが、家でも店でも電波が入らなかった。ありえない!日光なら入るのか!
愛着が無いせいか2週間で無くしてしまい、解約料は¥64000だっていうから、
紛失届け出したままアーウーに新規加入。
新規はタダだからな。

お昼はサワラの西京焼き。ちょっと外は曇っている。
やっと完全に味がわかってきた。
味がわからないってのはやはり辛い。
ひたすら味の濃いジャンクフードばかり食べてしまう。
何かの仕事で店に泊まらなくちゃならなかった深夜、
隣のバーでナポリタンを頼んだんだけど、
食べ終わる頃には気付かずにタバスコ半分使っていた。
マスターがこっそりしまったのを覚えている。
中森明菜の気持ちが少しだけわかる。

食後、中庭から中目黒公園へと抜け出す。
芝生が気持ち良さそうだ。
家族連れや子供たちがお昼時を楽しんでいる。
走り回ったり寝っころがれる芝生って都心では珍しいと思う。
だらだら一周してローズマリーをお菜箸くらい千切り自分も隅っこに座る。

昔はこの香りが苦手だったけど最近は体が求めている。
酔っぱらって帰ったままキッチンで目覚めた時手に握りしめてたり、
知らないうちに右手に香りが残ってた事があった。

ラベンダーは人が言うほどの鎮静効果はない。
自分との相性なのか?品種のせいかもしれない。
富良野は知らないけど、本州あたりではラヴァンダンという亜種が多いらしいから、河口湖あたりではそれなんじゃないのか?
(違ってたらごめんなさい)
そこのラベンダー村っところに一度行ったのだが、あまりの人工的で強烈なラベンダー臭!例えるなら「消臭力リキッドタイプ」
を間違って倒して紫の液体が全部流れてしまったトイレのようだった。
すぐに具合が悪くなり用も足さずに出て来てしまった。

3時頃、プロデュースが決まった千夏ちゃんから、
今日バイトが終わったらお見舞いにゆきますってメールが急に入る。

初めての面会人だ。

わ~い。千夏ちゃんがくる。わ~い。わ~い。

あれ?でも顔がよく思い出せない。
毎日デモ音源を聴いているのに。
どんな子だったっけ?

確かちっちゃくて子ぎつねみたいな子だったような気がする。
中学生くらいだったかなあ。まさか!
看護学校生だったっけ?
この5日間で新しい人達と話し過ぎて、
昔の知り合いがかなり消去されかけている。
脳とはなんとも無情だ。

入院中お店を任せている健ちゃん(男子)を思い出そうとすると、
何故か小田茜の顔が、
常連さんの服部さんを思い出そうとすると、
なぜか織田信長の顔が、
「永遠の係長」田島さんを思い出そうとすると、
なぜか織田裕二が…いや、そんないい男のはずがない。

それにしても、みんなオダが付くじゃあないか。
何故織田?
何か先祖に因縁でもあるのだろうか?

もしかして鶏山家は石田三成の子孫だったのかしら。
犬山城ってのもあったから鶏山城があってもおかしくない。
生前じいちゃんは、
「信長様は本能寺で死んでないんだすけに~」
っていつも言っていたな。
「天草太郎様と一緒にまだ生きてるでごしなさいじゃ」とも。
いつの間にか雑草をむしっていた。

でも、いったいどうやって歓迎してあげようか。
今さらハイビスカスのレイもなんだしなあ。
やっぱりべッドに後ろ手で縛られて、口にはタオルを詰められ包帯で目隠しかなあ。
それともうつぶせにフルフェイスのヘルメット被され、両手両足をベッドの四隅に縛り付けられてるのもいいなあ。

裸だとセクハラになるのだろうか?
パンツさえ履いてれば大丈夫か。
でも、ちょうど夕食時っていうのがネックだ。
ナースさんに見られたら冗談や変な人では済まないし。

そうだかなえちゃん。
彼女だったら、Gパンのベルトで叩いてくれるぐらいはしてくれるかもしれない
「おまえもこうしてやろうか。このメス豚めっ!とっとと帰りやがれ!」とか。
相談してみようかな。
意外と乗ってきて独房を用意してくれるかもしれない。
全身包帯で巻いてくれて目だけをハサミで切り取ってくれるかもしれない。
あ、いつのまにか芝生をむしっていた。

でも、もう少し早く来てくれれば大樽に行けたのになあ。
そんな大事な事を考えていたら
「何か買ってくるものありますか?」とのメール。
百均で便所スリッパ、ヘアバンド、アイマスクと角のポケット瓶を頼んだ。

しばらくして「お酒はダメです!」との返信。
「じゃあ来るなよ!酒は百薬の長だ。お前だってちょっとは酔っぱらって来い。
じゃないとキチガイが移るぞ!」
とはメールしない。

昔、曙橋の大学病院のバリバリの精神科に通ってた頃は凄かったなあ。

一応予約制のはずなのに、
老若男女、広い待合室にはそんな生き物達がでひしめきあっていた。
ムンク、いやクリムト、いやクリムゾンキングの宮殿とはここの事か。
きっと時間もわからなくなってるから、
朝7時くらいからガラス戸の玄関前でみんなで待っていたんだろうな。

そして、信じられないくらいの美少女がいつも沢山いた。
手首に包帯を巻いた30キロ代の女の子達が、まるでホラー映画のオーディション会場のように、歩き回ったり、挙動不審の行動を起こしてたり、瞬き一つ微動だにもせず長椅子で固まっていたりしていた。

大体が自分で切った、ロングのおかっぱかベリーショートだ。
売れなかったか落ち目になって、夜の業務用にされてしまったグラビアアイドル、
親バレしちゃたAV女優、ホストに大金をつぎ込んで借金まみれのソープ嬢。
顔だけで人気だったけど急に指が動かなくなった美人バイオリニスト、そんな子たちが死にそうなカナリアみたいな声で
「せんせい~せんせい~開けて下さ~い。ぴー。ぴー。 」
って診察室のドアを叩き続けているんだよ。姉さん。

でも本当にちょうどご飯時だな。どうしようか?
二人で病院食をつまみながら打ち合わせをするのもなんだしなあ
あ、いっその事、寝たきりのまま食べさせてもらおうかな?

「悪いねえいつも。こんな体で。もういいや。病院食にも飽きた。今度カツ丼でも買ってきてくれないか。あと、これを声が出るうちに録音してくれないか。後で編集が来るから。
エッ、アーッ、カーッ、ペッ。行くよ。 
・・・・依子が消えた、いや、やっぱり郁子にしよう。松菊は今夜も第四病棟に忍び混んで・・・・研究室に入るとあの一度だけ見た銀色のピルケースを探した。患者たちはもう誰も喋らず、瞳は色は日毎にに緑色を増していく。・・・・今日の味噌汁のクローバーは七つ葉だった。ゴホゴホッ」
寒いっ。けれどもとりあえず冷たい物を買って来ないと。
特に今日は風をを冷たく感じる。
あ、そうか。今日はまだ何も飲んでないせいか。
でも千夏ちゃんこんな夜に来るなんて、録音前なのに風邪ひいちゃうぞ。

公園から暗くなってゆく川沿いに抜け、水の少ない目黒川をの水上を小走りしながら午前午後へ。
店長はバイトと抱擁していて監視カメラはダミーだったが、一応500mlサワー×二本の代金を置いて俺は闇に消えた。

やはり食事時間を過ぎるようだ。
「アウンサン・スーチーさん軟禁の抗議の為パンストを被ります、じゃなかったハンスト(マックじゃないよ)に突入します」
と書きたかったんだけど、
「お見舞いの方が来るので後ほど食べます。」
と書置きして、残りのヤクと千夏ちゃんの顔型パプリカと、さっき千切ってきたローズマリーを乗せた小皿に乗せた。

夜間外出用校門じゃなかった夜間救急口の近くでしばらく待つ。
中目黒の駅近くに百均を発見して、いろいろ探しているとのメール。
いい子だな。万引きはしないでね。
全科があるからね(あ、僕か)。
それにこっちには爆乳刑事や公安の捜査官ががいる。

いい子だなあ~ほんとにいい子だな~
コーヒーブルースををしばらく唄う。
いい唄だなあ~ほんとにいい唄だな~
でもほんとに渡さんが作ったんだろうか?
良すぎる。

続いて伊勢佐木町ブルース、宗右衛門町ブルース、
Cjamブルース(マイルス)に適当な歌詞をつけて唄う。

するとどうでしょう。
月明かりの下で、こんがりきつね色の子ぎつねが、
背伸びをして門番の欲張りそうすけじいさんと、
何やら話をしているじゃあありませんか。
子ぎつねは言いました。
「びょおきのとりさんにあいに来ました」
しかし欲張りそうすけじいさんは首を横に振りました。
「わるいんじゃが、ここを通るには金がひつようなんじゃ」
それは真っ赤な嘘でした。
「葉っぱのおかねじゃダメですか?」
欲張りそうすけじいさんはまた首を横に振りました。
「そんなの村じゃあ通用せん。金がないなら金目のものは持ってないのか?」
「お金はありませんが、ハッパかハッシシじゃダメですか?」
そう言って子ぎつねは百均の袋にガサガサと顔を突っ込み、

「ダメだ~!子ぎつね。監視カメラと刑事がいるから!」
「あ、とりさん」
よく見るとそれは千夏ちゃんでした。

意外とイメージしてたような顔をしている。
人間の記憶力ってのは素晴らしい。ニワトリとはちがう。

「とりさ~ん」ピョンピョンと跳ね跳ねながらこっちに来る。
「千夏ちゃんご飯食べた?」
「いえ、バイト終わってすぐ来たから」
「じゃあ、展望レストランに行こうよ。食堂は狂人が沢山いて危ないんだ」
「いいんですか?自分のご飯があるんじゃあ~」
「いいの、僕嫌われてるから。昨日はご飯に体温計が二本刺さっていたよ。
36度5分の人肌だったよ。アッハツハ、アッハッハ~。ゴホゴホゴホッ」
(すみません。全くのデタラメです。編集部)

一緒にデイルームに行って、
クリスタルガイザー(大)を冷蔵庫から取り出すと、ナースたちがびっくりしたように僕と千夏ちゃんを見た。
ふん、僕にだって人間の友達はいますよ~だ。

そういえば珍しく覗いたこともなかった
(多分一階に張ってあったメニューに惹かれなかったからだろう)、
病院自慢の南館10階の展望レストランへと入った。

割と狭い。それに食券製だ。
又外に出てウィンドウをさんざん眺め、ピザパイを選ぶ。
しかし売り切れている。
さんざん迷った挙句僕は海老ふりゃあ、
千夏ちゃんはカツサンドを選ぶ。

どよーんとした空気だ。
音楽が小さすぎて、空調や冷蔵庫の音がする。
田舎のサービスエリアのように従業員の顔が地味で暗過ぎる。
でも派手でさはなく何気ない夜景がいい。
別れ際のカップルににピッタリだ。
でもメニューがもっと多ければなあ。

「氷の入ったグラスだけを下さい」と言い、
泡の立つクリスタルガイザーを入れ、
「まずは契約が決まっておめでとう」と乾杯。
「と、とりさん…そ、それお酒なんじゃですか?」
「当たり前じゃないか。水でご飯が食べれるかよ。大人なんだから」
「とりさ~ん」 ちょっと怒っている。

スリッパやら、アイマスクやら、可愛いヘアバンドをお土産にくれる。
減塩の梅干もくれる。嬉しい。
おいしい。海老ふりゃあに合う。

さて、とまじめにアルバム制作の打ち合わせをする。
千夏ちゃんもポンポンとアイディアを出して来るし、
何よりもいきいきと嬉しそうで、じいちゃんも嬉しいよ。
すきっ腹で1リットル近く飲んだせいか、割といい気分。

例の眺めの良い場所で夜景を一瞬見てから、
フロアを案内する。ここがデイルーム。
ここが僕のお部屋とベッド。
結構広いですね~と千夏ちゃんは驚く。
こいつがいびきがうるさくて、毎晩死んでは生き返るじいさん。
そことそこのベッドが空いていているのは昨日立て続けに死んだんだ。
窓際の大学生は首吊りだったよ。

ほら、お風呂も広いでしょ?
温泉なんだよ。沸かし湯だけど。
ちょっと背中を流してくれる?
「ああ、そう。ダメかい。じゃあプロデューサー降りるから」
で、ここが霊安室。
ガラ、ドン、キャーっ!ガラ。
出して下さい!キャーキャー!
ば~か、ただの倉庫だよ。(この辺りもだいぶ捏造のはずです。編集部)

千夏ちゃんを村の出口まで送り、
冷たいチキンソテーをつまみながら、
クリスタルガイザーの残りを飲んででいると、
「今日はありがとうございます。お酒は控えて下さいね」
とのメールが。いい子だ。おじいちゃんは頑張るよ。
頑張っていいアルバムにするよ。

じいちゃんはそう言って戸棚の奥から好きだった角壜を出し、
金色のキャップをコップ代わりにして、
おぼろ月を見ながらゆっくりと何杯も飲んでいました。
それがわたしの見る最後の姿でした。

おしまい

これからはあんまり覚えていない。
きっとやっぱり急にどこかで飛んでしまったのだろう。
「今日は絶対外に出ないで下さいよ。」
との声だけが、耳の奥に残っていた。

※鶏山先生の体調がこの辺からおかしくなり始めましたので、
一部誤解を招く表現が随所にあります。
関係者に深くお詫びを申し上げます。
でもあくまでも限りなく現実ですのでどうかご了承下さい。

オヤスミ出版




まだ途中

2008年 中目黒の旅 四日目 

2008-11-20 23:15:00 | 鶏山ゴム東京共済病院闘病日記
どんよりとした目覚め。

天気は薄曇りみたいだ。

薬がかなり残っていて、朝食にほとんど手を付けられない。
今日は牛乳じゃなくヨーグルトだ。

昨日もダブル効果でラリってしまい、
怖いもの知らず(見たさ)のまま探検に出かけ霊安室の前まで行った。
CDのリリースが決まったのが相当嬉しかったからか、サワーと角瓶を飲んで、でもいざ消灯となると神経が高ぶってしまい、眠れないから眠剤を倍料飲んじゃったからな。ゆうこさんの呆然→引きつった笑顔をよく覚えている。

入院四日目ともなると、心身ともに少しは落ち着くだろうと思っていたのだが、
まだまだ緊張の糸が抜けていかない。

「とてもリラックスしてます。」とか
「居心地いいです。」と鈴木先生に言ったのは、従来の生活からの解放感と楽観的な願望から出た言葉だった。気分がいいのは朝~午後3時頃までだ。

特に午前中は感覚が冴えていて、仕事もはかどり曲や歌詞もすらすら出てくるが
(相変わらずロッカーの鍵やらひげそりやらを洗濯しているが)、
日がかげって来ると、邪気が後頭部から何かを抽出してくるような気がして来て、
ついつい目黒銀座へと向かってしまう。

そしていくら薬や酒を飲んでも、眠れないか異次元に飛んでしまう。
運動不足もあるんだろうな。働いてないから疲れないしたった3日で相当体が鈍った。中庭を走ってみようかな?
昔、寝る前に20分くらい自転車で爆走したりして体を苛めてみたが、ひどい金縛りと、ここでは書けないような二度と見たくない悪夢にさいなまれた。

そしてあたり前だが初めての入院はやたらと神経を使う。
どこにいたって対人緊張は変わらないし、特にナースさん達に気を使ってしまう。
社会不安障害やら鬱病だと言ったって五体満足だし、
夕方は飲みに行って、毎晩遊んでいるようなもんだからどうにも居心地が悪い。

感じとしては、女子ばかりの商業高校に入ってしまったファッションつっぱり。
もしくは、初めてキャバクラに連れていかれた新入社員。
指名もしてないのにチェンジが盛んで次々と女の子たちがやってくる。

もともと義理の母親がとても怖かったし、父は母に冷たかった。
そのはけ口が全て僕に来た上に女の人には優しくしろと教育されてきた。
両親の仲の悪さは肉弾戦というよりは心理戦や中傷合戦で続いていたから、
人の顔色をうかがい、たいがいの大人に好かれる小学生になった。

中学校では当たり前のように第一次世界反抗期で、家出したり、授業中に教室の二階から飛び降りたり、生徒会役員なのに弁論大会に飛び入りして先生に殴られたり、超ゆるい高校ではバンドに明け暮れてばかり、エスカレーターのちゃらい大学を辞めて、岡本さんと出会ってからは洋服に命をかけ、岡本さんが死んでからは、芸能人好きの人と会社を起こしてすぐ潰し、狂って広島に帰ってしまったマスターが経営の、下北沢のジャズバーの雇われマスターになり、思いっきり好き勝手に生きていた。

そして三十代後半から、又急に人の顔色が気になってしょうがなく、だんだんと他人が怖くなってしまった。そして最近は特に同年代とやや上の世代が一番怖い。
今最高に落ち付くのは下北沢のサウナミナミだ。
あそこはたまに掃除のおばさんがトイレにいる以外女子がいない。
ヤクザや入れ墨お断りの貼り紙があるくせに、あきらかにヤクザ経営で、
マッチョなスキンヘッドの強面やボクサー志望のバイト君ばかりだ。

24時間飲めるし安くてうまい。焼き魚が350円均一だし、おろしハンバーグ定食も500円だ。ライブの準備中、出演者がやってくる直前に、突然物凄い恐怖感が襲って来てよく駆け込んだものだった。リハの途中や本番中にも突然荷物を持たずに店を出てって、ふらふらと入ってしまった事も何回かある。
「もう店や家へは帰りたくない~」と唄いながら。

尾崎も結局1stを超える事が出来ず大変だったんだろうな。
ソニーの戦略で「アンチ大人らの旗手」に仕立て上げられて、本人も同意の上一気にスターダムにのし上がったが、同じクラスだった高一の頃はそんな曲は一曲もなかった。女を口説くためのベタベタなラブソングばかりだったな。
今生きてたらどんな唄を作って唄うんだろう。
是非聞いてみたい。

そういえばラリり状態でのメールや、悪気はないけどきっとその人には地雷だった一言で、この三年間で三人の出演者をなくした。
いくら謝りのメールを送っても返事がない3人。
その程度の連中だから気はしてないけど、僕は悪くないと思う。

「鶏山さんといるとこちらまで頭がおかしくなる。早く病院に入ったほうがいい」というなんとも恐ろしいメールを2晩連続明け方に送り付け来た人。
みんな一つだけ共通点がある。
B型の女性だ。

4日めにもなって来るとキャバ嬢、じゃなかったナースさん達をやっと把握してきた。全部で14人いる(らしい)。
そのうちの5人が可愛い。
まず人懐っこいかなえちゃん、細いのに元気ハツラツなつきちゃん、ほんわかおっとりなゆうこさん、クールビューティーゆきこさん、この4人が当店のトップ4だ(イメージ)。
相武紗季似で美形なで超天然準看の寺島さんも、ヘルプながら急激な勢いで売り上げを伸ばしている(イメージ)。

みんな優しくて丁寧で親切だけど、それは仕事だからだし、この人気病院(ネット上では常に上位)の社員教育や、鈴木監督の指導が徹底してるだけで、もちろん本心ではないさ。
そんなのわかってはいるけどたまには本音が聞きたい。

昔働いていた下北沢のレストランバーが、東邦池尻病院のナース達の溜まり場でみんなものすごい酒豪だった。
重労働と相当なストレスを酒で紛らわしていたんだろう。

そりゃあそうだよな。医療ミスは絶対に出来ないし、患者や家族に悪い感じを与えたら病院経営に影響大だ。
でもたまには
「馬鹿っ!どうしてそんなとこ行くの!このいくじなし!」
とか言って欲しい。
「いったい、どれだけ迷惑かければあんたの気がすむの?あたしたちの身にもなってよ!彼とだってなかなか会えないんだから~!このばかばかばか~!」
と僕の胸に顔を埋めて泣いて欲しい(イメージ)。

優しく親切にされるほどなんだか申し訳なく思う。
もう少し事務的でもでいいかな、なんて、なんて勝手な事を言ってるんだろう。

ところで前にあるミュージシャンに言われたのだが、僕は先入観で人を判断し過ぎなんだそうだそしてすぐに人の心を勘ぐったり読みたがるそうだ。
でもだいたいが当たってるからしょうがないよ。
人間なんてファーストインプレッションでほとんどわかると思う。
とりあえず自分との相性くらいは。

鈴木先生が検査の結果を伝えにくる。
なんたらリンパ球と中性脂肪が多い以外は問題ないそうだ。
「君は太ってないのにね」

先生。それはお酒のせいです。
榊原病院の長老、菊の池先生から紹介状を書いてもらった時、
アルコール依存とだけは書かないで下さい!保険がおりないから!
と懇願したけどその頃の電子カルテはすごかったな。

鬱病 ※躁鬱傾向あり。
不安恐怖症 ※かつてPTSDとの診断あり。
社会不安障害。
狭心症の疑いあり(これは誤診か)。
アルコール依存。

「相変わらず眠れないんだって?まあ~、いきなり昼型になるのも大変だけど。頑張ってよ。」
あっさりしてる。きっと今日は忙しいんだ。
確か木曜の午前中はどこかの医院に嘱託で通っているようだ。

午前中はデイルームで録音のスケジュール組みと予算組みをする。
その後正式に録音が決まった事を、エンジニアさんやミュージシャンにメールする。

お昼はブリ照り。
買い置きのビールを頂いたスタバの携帯カップの切れ間からすする。
でもこれは水筒にもならない。
密閉するという工夫が何故アメリカ人にはないんだろう?

そしてあのプラカップの穴は必要なのか?
みんな本当にそこから飲んでいるのか?
それにどういう意味があると思うのか?
初めてすすった時にやけどしなかったか?
スタッフが多いのに仕事が遅すぎるんじゃないのか?
あの銀色の保温台の意味があると思うか?
エスプレッソシングルの量の少なさに驚いた事はないのか?
深入りだけで薄いとは思わないか?
テラス席で犬とお茶をするのがお洒落だと思ってないか?
その犬を車で連れて来てはないか?
いったいどこから来たのか?
血液型。

などを一万人対象にアンケートをしてほしい。
批判等するつもりもないし(してるか)、年寄りだと言われようと僕はドトールが好きだ。早いしうまいし安い。
特にあそこのジャーマンドッグは素晴らしい。

アイスコーヒーならばちょっと高いけど下北沢のモルジブだ。
ジャズバーで働いてた頃は700mlくらいの特製容器で買い(空容器を持ってくと100円引いてくれる)店で使っていた。

昼食をほとんど残す。
「鰤照りおいしゅうございました。達彦はもう走れません…」
じゃなかった。
「ごちそうさまでした。残してすみません」
と書き置きをして実家に帰る。
じゃなかった中庭のベンチに寝転がる。
日差しが強いから腕を日さしがわりにして柔らかな秋の熱気と空気に浸る。
ハーブを沢山植えているんだろう。
本当に風の香りがいい。
「南イタリアで~本場のテラコッタ職人と出会う~」
と下条アトムの口調で言ってみる。

8月の中頃に世田谷の家から鎌倉へと歩いた事がある。
北鎌倉駅で追走の赤十字小田島さんの車に追いつかれたんだが、52キロを14時間15分で歩き切った。
鎌倉のカフェではみんなに変人扱いされたな。
そりゃあそうだ。
既に脱水症状が始まっていて、
何度も水をお代わりしまくった。
そんな小さなデュラレックスにちょびっとじゃなくて、ピッチャーごとよこせ!と言いたかった。

典型的な熱中症に二週間苦しみ、無駄に体をいじめても無駄だという事と、
日光を甘く見ては行けない事を悟った。

でも時期を見てまた歩きたい。
今後は本当に日光へか。

熱いし喉が乾いて来た。
急にラーメンが食べたくなる。

中庭の出口から区立中目黒公園へ抜け出し、大回りをして山手通りへと出る。
公園はローズマリーやラベンダーの異種、
けいとうやベゴニア類がぐちゃぐちゃに植えられてる。
香りの発生元はここだったのか。
帰りにローズマリーでも手折って帰るか。

通り向こうの、例のラーメン屋は仕込みの気配すらない。
隣にカレー屋があるが、
奥様の趣味的でメニューに全くセンスが感じられない。
歩道橋を戻り、
少し南に向かったところにある博多ラーメン店(多分)に入る。

有名店になるぞ!チェーン展開するぞ!と気合を入れて作った店は大体が食券制だ。生ビールと味噌ラーメン行きの切符を買う。
「麺は半分にして下さい」

生ビールがすぐ来る。す、酸っぱい。
洗浄不足以前に古過ぎる。
ということは夜は流行っていないんだろう。
我慢してもうひとくちスーパートライしてみるがあきらめる。
「すみません壜ビールありますか?」
「はい?」不思議な顔をする。
「あの・・・すみませんが、これ味見してください」
察したようだ。
奥から店長がすぐ出てきて大変すみませんですと頭を下げ、
壜ビールに代えてくれる。
いえいえ大した事では。
そんな、チャーシューのサービスなんかいりませんから。
でもやはり出てこなかった。

言いたかあないが、
ラーメン屋は生ビールがまずい店が多すぎる。
とても大事だぞ!
梅が丘の「せいや」を見習ってほしい。
うまいし、小生だが280円だ!
そして驚いた事に先週行ったら、アサヒスーパードライが、サントリープレミアムモルツに変わっていた。
いったいどうなっているんだい?
原価から考えると信じられない。
そしてラーメンも500円で十分うまい。

有名店が950円や1000円取ってもいいですよ。
全部乗っけ1300円取ったっていい。
あきらかにラーメンってパスタより原価高いもん。
でも「せいや」は尊敬する。
味にブレがなく、つまみだけも頼める。
100円のメンマで軽く2.3杯飲んでから、
締めにもやし麺半分というのがマイブームだった。
「もやしダブル、麺抜きで!」
というおかしな注文にも応えてくれた。

ラーメンが出てきた。
まずくはないがおいしくない。
やはり古いんだ。
僕には珍しくほとんどをを残す。
「ごちそうさまです。すみません、食欲がなくて」
「こちらこそ本当にすみません。」
と店長が出口まで送りに来る。
「病院から抜けて来たんです。どうしてもビールが飲みたくて」
とリストバンドを見せる。
「どうぞお大事に」

体裁いい子でいる自分に無性に腹が立って来た。
目黒銀座へ走って向かう。
もちろん大樽はまだやっていない。
お気に入りの定食屋も中休みだ。

どうしよう。

一時間半もの時間をどこで過ごせばいいんだろう?
そうだ、満喫だ。満喫で寝ていよう。
ドラッグストアの上にあったぞ。

値段表をみる。30分150円、普通か。
でも階段を登りかけてふと思う。
あれ?どうして入院患者が自分のベッドがあるのに、
満喫に行くんだろう。
普通に考えてもおかしくないか?
それに、嫌な客やワキガのスタッフがいるかもしれない。
カーペットが足臭いかもしれない。

出直そう。
トボトボと病院に戻る。

午後2時45分の317号室は陽光に満ち溢れ、
東急マンションドエル中目黒の広告のようだ。
ベッドに崩れ混むとあっという間に眠りに落ち、
気が付くと4時15分だ。

行かなくちゃ!
おばあちゃんに会いに行かなくちゃ!
大樽西口店に行かなくちゃ!
雨に濡れ~(快晴だけど)

でも開いていない。
10分待つが気配すらない。
おばあ倒れたか?
もしかして入れ違いで共済に運ばれたか?
しかし、老人と外国人を虐待してる「たるたこ」は行きたくない。

通りを歩くとといつも満席で気になっていた、
串揚げ屋がまだがらがらだ。
迷わず入り、気になっていた、
飲み物3杯と和風料理3品で1680円セットを頼む。

生ビールを頼む。薄いハマチの刺身が来る。
レモンサワーを頼む。ほうれん草のお浸しが来る。
熱燗を頼む。煮込みが来る。
それでおしまい。

酔わないし物足りないが、もう頼む気がしない。
まずくはない。いやうまい。
回転寿司や吉野家みたいなU字型の造作のせいか?
いや回転寿司は週一は行く。照明もちょうどいい。
カウンター内には作りおきの小鉢や煮込みを待つ小鉢が並び、
要するに準備し過ぎなんだと。
なるべく沢山回転させようとの魂胆、
いや工夫に大旅館のような興ざめをしてしまう。
人間回転居酒屋っていうのか?
みんな毎日来てさっと飲んで帰るんだろう。

比較にはならないが祖師ヶ谷大蔵の城山通り近くに、
素晴らしい居酒屋があった。

夕暮れセット(多分)とかいうのがあって、
生ビールかサワー類と、料理が3品ついて980円!
それもサラダとか、お刺身とかカテゴリーは選べるけど、
そのあとはその日のお任せだ。良く出来たやり方だ。
店は食材のコントロールが出来るし、客側にはワクワク感がある。

僕は生ビールと酢の物、焼き物、揚げ物を頼んだ。
程なく美味しい生ビールと、しばらくして長皿が運ばれて来た。
タコのマリネ、イカのみりん干しの七味焼き、
カレーコロッケの肉そぼろ餡かけ。
どれも美味しそうだった。どれも美味しい。

そして2杯目のレモンサワーを頼んだ時、
「へい、酢の物お待ち」っと小肌の乗ったもずく酢、
「へい、焼き物お待ち」っとひしこ鰯の焼いたのが7尾ほど、
「へい、揚げ物お待ち」っと蓮根と肉のはさみ揚げが二個、
ドン、ドン、ドンっと出てきた。
うひ~っ。さっきのはお通しだったんだ。
吉田君ならあれだけで潰れるまで飲めるだろう。

料理はどれも美味しく、それを平らげるためにひたすら飲んだ。
店内はすぐ満席になり、隣に座ったカップルはシステムがわからず、
半ば店員の女の子と口論になっている。
「ですから!お二人様ですと、6アイテム、つまり6ページ選べるですよ~お」
「?」
結局理解しなかったようだが、しばらくして感嘆の声を上げる。
「うわ、すげ~!」とか「鶏雑炊が最初にきちゃったよ~」とか。
でも相当楽しそうに騒ぎながら飲んでいた。

要するにこの店は感動が足りないんだ。
僕の贅沢なのか。
混んで来たからきっかり一時間で店を出る。
西口店をのぞいて見る。
ばあちゃんが働いている。良かった。
きっと遅刻か、買い物か居眠りだったんだろう。

冷たい風に背中を押されて病院へ急ぐ。
ナースさんたちが「エーピー」と呼んでいるampmにもちろん寄る。
でもコンビニの名前って面白い。
どうして「ローソン」は「ローソン」なんだろう。
社長の憧れの地なんだろうか?

「セブン」や「ファミマ」や「マクド」や「ケンタ」みたいに、
略称や愛称も付けられない。
「ロソ」とかいう人がいるのだろうか?
だからベスト3に入れないんだろう(あれ入ってたっけ?)

でも名前なんて売れたもん勝ちだ。
SMAPが出てきた時、「かっこいい」とか「超クール!」なんて思わなかっただろう。
でも今では誰一人文句は言わない。
文句と言えば「みのもんた」の事を「もんたさん」って呼ぶのはNGなのだろうか?
そんな事はありえないと思うけど、もし僕が万が一文学賞を取って朝の生テレビに出たら、「大ファンだったんですよ。もんたさん!」と絶対言ってみます。

夕食は豚肉の林檎ソースだ。
洒落てるんじゃあないか?
美味しいんじゃあないか?
酒が進む。

デプロメールを飲み、だらだらメールを打ち、
歯を磨き何気に体重計に乗って驚いた。
3キロ増えている。隣のでもう一度計るが同じだ。
至上最高体重だ。でも無理も無い。
三泊四日中目黒の旅で何もしてないからなあ。

慌ててジャージに着替え、早足で階段の昇り降りを20分。
結構な汗をかく。
急いで許可をもらいお風呂に満タンにお湯を張り、
ザブーンと源泉かけ流し、いや沸かし湯に浸る。

お湯って言葉は素敵だ。
聞いただけでもホンワカとして気持ちになる。
英語じゃあ「ホットウォーター」、熱い水、なんて間抜けだ。
じゃあ「温泉で湯豆腐をと熱燗を桶に乗せて飲むってなんだろう?」
Put a hot sake on the pail with boiled beancurd in a hot spring
(byYahoo!自動翻訳)やはり間抜けだ。

英語には「いただきます」とか「せつない」という言葉がないらしい。
日本好きで日本人より胸キュンで切ない歌詞を書く、
スペイン人ミュージシャンのハーマンが言っていた。
あと、アメリカ人の55%はニューヨークがどこにあるか知らないらしい。
空爆してるイラクの位置なんてまるで知らないらしい。

長風呂過ぎた。もうすぐ消灯時間だ。
検診が来る。クールビューティーゆきこさんだ。
ちょっと緊張する。
ゆきこさんは自分からは無駄口をきかない。
僕が嫌われてるだけかもしれない。
黙々と任務を遂行する。
実はナースは仮の姿で公安の工作員なのかもしれない。

「お薬は飲まれましたか?」
「いえ、これからです。」
今日はマスクをしていない。
ゆきこさんはかなりの美形だ。
松島奈々子に似ているが奈々子よりもあきらかにきれいだ。
「間違えないでくださいね」
初めてにこりと笑う。
こっ。これは魔性の笑顔!
「ナースってかなり遊んでますからね~絵文字」
と横浜在住の、もと六本木のディスコキングがメールをくれたが、ヤンエグリーマンやヒルズ族はあの笑顔で即落ちるだろうな。
これがスマイル¥0なんて、あ、入院代に含まれてるんだっけ。
「おやすみなさい」にこり。
「お、やすみなさい」どきっ。

薬2種盛りを飲んでしばらくは寝ようと、メールをしたり音楽を聞いたりするが、
2時間たってもまるで無理、目が冴えてくるばかりだ。

それに隣のじじいのいびきが相変わらず轟音だし、
隣部屋の我がままじじいはしつこく悪態をついて、ナースコールを鳴らし続けている。

しかし今夜は向こう側廊下の部屋が大変そうだ。
きっと昼間親族会議をしていた山形県東出市字観音寺のばあちゃんだろう。
頑張ればあちゃん!死ぬさでねえでケロ。
子や孫があんたの遺産狙っているぞ。

とうとう我慢できなくなりデイルームへ。
ここが一番落ち着く。
自動販売機の灯りで漫画を読みふける。
包丁人味平の牛肉対決は3回読んだ。
この漫画、ちょっと出るのが早すぎたんだよなあ。
10年前だったら何百万部は売れただろう。
深夜に活字は頭に入って来ない。
午前中に見る猫の写真集とかはとても楽しいのだけど。

1時を過ぎるといったんフロアーは静まりかえる。
こっそり非常階段を降りた。
今日は南館へ行ってみよう
スリッパを脱ぎ非常階段を10階まで登山をする。
さすがに下りは膝が痛い。
鎌倉行きの時も下り坂が辛かったな。
長距離走者の痛みが良くわかった。

5回が限界でバテバテとなった。
今度は各フロアーの探索だ。
まず10階までエレベーターで登る。
10回は展望レストランと、なぜかプチ催事コーナー。
婦人呉服市がおなわれているようだ。
しかし白い布を覆わせただけで着物は片付いてはいない。
僕にとって着物とは脱がすものであり、あまり興味はないけど、パクって行くおばちゃんとかいるんじゃあないのかな?
セコムしてますといっても犯罪はまず防止が大切だ。

さっきまでロッキー4をしてた非常階段横の眺めが素晴らしい。
広い窓枠に乗りガラスに顔を付けて風景をしばらく眺めていた。
特に思い出す事もないけどノスタルジックな気分になる。
何も考えないって事がいいらしい。
毎日ここに来よう。

エレベーターで9階に降りると、
そこは病棟らしく立派なデイルームがあった。
一人がけにもなり組み合わせると大きな半円形になるソファーがあって、
ちょっと寝転んでみたがとても寝心地がいい。
理事長。中央病棟にも入れてください!
ご自慢の特別室B(39m2) ¥39,900 もここにあるんだろうなあ。

8階から6階も同じ感じだ。
5階から下は真っ暗なのでやめておく。

いつの間にか3時過ぎだ。こっそりとデイルームに戻る。
「どこに行ってたんですか?」すぐにゆきこさんの声。
「眠れなくて運動していました。南館の10階まで5往復の登山です」
「まあそれは凄い。でも無理しないで下さいね。」
マリア観音みたいな優しい笑顔だ。ドキっ。
これで何人もの証券マンや商社マンの人生を狂わせてきたのか。
「さすがに疲れました。もう眠れそうです。おやすみなさい」
「おやすみなさい。良い夢を」ニコリ。
ズキューン!

続く