鶏山ゴム  メルヘンの丸焼き

世田谷が産んだ(本当は明子が産んだ)鬼才

池の上陽水=鶏山ゴムの詩や短歌

つまらぬ読み物等を不定期に綴ります

2008年 中目黒の旅 五日目 

2008-11-24 11:50:26 | 鶏山ゴム東京共済病院闘病日記
「鶏山さ~ん。おはようございま~す。朝ですよ~!」
フライパンを叩くかなえちゃんの元気な声におこされる。

めぞん一刻のような気分だ(イメージ)。
誰だってエプロン姿の新妻におこされるのは気分がいい。

よくテレ朝系サスペンスで、それにしか出てこないような妙齢で薄幸そうな女優の奥さんが、ゆっくりとカーテンを開けて、
「あなた、朝ですよ。あなた。あ~な~た……
ひっ。し、死んでるっ!あなた!あなた!あなた~~~!」
とか言われても生き返る気もしないね。

「今日はハムエッグにしてね。ハムは2枚で卵を挟んで。つまりハムエッグハム、良く焼いて!」
と言おうとしたら、
かなえちゃんはエプロン姿ではなくナース服なんか着ていて、ベッドの端にちょこんと座った。
えっ、何?何をしてくれるの?こんな朝から。

「鶏山さん、もうすぐお薬、切れますよね。」
「はい、結構前倒ししちゃって」
「今 持ってるお薬を全部出して下さい」
優しい麻薬捜査官だ。名取祐子とは違う。
僕は引き出しから変なバランスで残っている薬を掻き出し
「爆乳ナース刑事(もちろんデカと読んで下さい)佐藤かなえ」
の前に差し出した。
「これで全部です」

すると、かなえちゃんは急に立ち上がって
「嘘おっしゃい!さあ、全部出すんだよ!脱ぐんだ!もちろんパンツもだよ!早くしろ!この豚野郎!」
とか言ってもらいたかったのだが、意外にも
「今日からお薬の数を数えますね。これがなくなったら1日分づつを出しますから。」と優しく笑って言った。

来た!
これが俗にいうメディシンコントロール、略してメディコンだ。
そして次は体を拘束するフィジカルコントロール(フィジコン)が来るのだろう。そして最後は脳内にチップを埋め込まれるトータルリコール(トリコ)だ。
もしもそれで人格が変われるのならば最高だ。
シュワルツェネッガーが無理なら、
とりあえず「私はB型になりたい」

「鶏山さんがお薬飲み過ぎるから、みんな心配してるんですよ~」
またまた~。みんなだなんて。
どうせ俺は厄介者だよ。でも嘘でもうれしいわあ~

かなえちゃんは、
テーブルに転がる小さなフォックスフェイスをちょこっと触ると
「これありがとうございました。本当にきつねの顔みたいでかわいいですね。でもパプリカみたいだから食べちゃわないのかしら。これが毒だなんて」
そう言って笑いながらひらひらと去って言った。

なんでいつもあんなにきらきらと明るいんだろう。
本当に天性の明るさなのか?
それとも徹底的なブロ根性なのか?
病院を出たらまるで廃人のようなんじゃないか?
目黒銀座の行きつけのバーで毎晩ボトル開けてるんじゃあないか?
やたら毒に反応するというのは悪い薬でもやってるんじゃないか?
麻酔医と出来ているんじゃあないのか?

ところで明るい人って何なんだろう。
いまだ飲食店の求人貼り紙に
「明るくてやる気のある人」とよくあるけど、
そりゃあ「暗くてやる気のない人」とまでは書けなくても、
他に書き方ってのはないものなのかな?

最近は時給よりも
「一時間からOK、おいしいまかないあり、楽しい仲間が待ってます。」とか
「恋人募集中のスタッフ多いです。週一で飲み会あります」
ってのも効果あるようだけど(テレ東調査)。
接客のあの嘘臭い明るさだけに重きを置くのはどうなのだろうか?
最低限、お客さんや同僚に感じ悪い印象を与えないのは基本だけど、

「はい喜んで、喜んで、喜んで、喜んで、こんで、んで~」とか
「ご新規様一名様です。一名様です。名様です。です。」とか
「ボナセーラ、ボナセーラ、ボナセーラ、ボナセーラ、ナセーラ、ペルファボーレ、スィー」とか
「コーヒーいかがですかお二階では世界の食材が」「コーヒーいかがですかお二階では世界の食材が」「いかがですかお二階では世界の食材が」「お二階では世界の食材が」
とか はっきり言ってヤカマシイ!!

会長。それが繁盛の秘訣ならあんたの正解だ。
どうせマケイヌ氏でキチガイの戯言だからね。

でも僕が大箱の店を作るならこう求人広告出すな。
「食べる事が好きな人、心からの笑顔で笑える人(研修あり)、ちゃんと怒れてちゃんと謝れる人、遅刻は20分まではOK、まかない二食付き、交通費¥540支給。大声不可」
でもやっぱり笑顔って一番大事だよな。
とってつけたような大声を出さなくても、混みいった商談飲みの時
「レモンサワー2つお代わりね」
とオーダーしたらただ一言はいって笑顔で頷いて、持って来たときも笑顔で小さくお待たせしましたと言いながら
「頑張って下さい」と瞳の中に書いてある。
帰りの時もちゃんと目を見て
「ありがとうございます。うまくいきましたか?」
なんて笑顔で言ってくれたら毎日通うね。
なんだったら会社の株を2000株ほど買ってもいい。

鈴木先生登場
「相変わらず、眠れないんだって」
「ええ、でも昨日は南館登山とかして結構疲れたから熟睡は出来ました。」
「何時頃?」
「4時前くらいでしたか」
「3時間か…昼間眠くならない」
「はい~。でもそこで寝ちゃうと今度夜辛いんですよ。昨日もそうでしたから」
「あ、そう。ところであの仕事どうなった?ほら契約がどうとかって」
「はい、おかげさまで。スポンサーが、お好きにやりなさいって」
「スゴいじゃん。そりゃあ良かった」
自分の事のように笑顔で喜んでくれる。

これだ!この人が銀座本店の店長、いや人材統括部長だ。
でも相当な給料もらってるんだろうなあ。
去年のどこかの大病院からヘッドハンティングされたという噂だ。
「でも昨日、著作権の問題とか出て来ちゃってこれが面倒くさくて」
「又かいな。何しろ君は病人なんだから、それを利用しちゃいなよ。仕事は二の次だよ。じゃあね」

いい指導者だ。鈴木ジャパン、予選突破は楽勝だ。

朝食にハムエッグハムは付いていなかった。
人肌のパンとジャムと海鮮サラダと牛乳と麦茶。
「お~い。かなえ~。ハムエッグまだ~?」
と呼びたかったがやめておく。
そういえば朝昼晩通じてまだ一度も卵料理が出ない。
何故だろう?アレルギーが多いからか?
かつて事故でもあったのか?
病院で遺伝子操作して孵化させた卵を作って人体実験をしていたら、
狂人や自殺者が出たのか?

午前中は相変わらず、
デイルームでどうぶつたちとおんがっかい。
そして携帯に転送してもらった契約書類の文面とにらめっこ。
ノートのウィルスソフトが切れてしまい、
フリーソフトもなかなかダウンロード出来ない電波状況も悪いから、もっぱら携帯の使用頻度が高い。

でも この予測変換ってだれが入力してるんだろう?
会社にもよるけれどもどかなり趣味的だと思う。
それとも裏で金が動いているのか?
前にボーダフォンだった頃、「しま」と入れたらトップに「志摩スペイン村」が出て来た。
今はアーウーだが「でぃる」と入れると
「ディルアングレイ」がトップで出る。何故に?
さて「ガン」は何でしょう?
はい青!・・・正解!「ガンダム」でした。

携帯をなくす事にかけては「誰にも譲れないこの想い」で、この2年で十数回なくすばかりか
「安いからボーダフォン(現 孫銀行)」→
「水没して解約し、もう携帯なんかやめたやめた~時代半年」→
「沖縄ツアーの為しょうがなくemobileに加入2週間」→
「アーウー」だ。

emobileなんか猿に騙されて入ってしまったのだが、家でも店でも電波が入らなかった。ありえない!日光なら入るのか!
愛着が無いせいか2週間で無くしてしまい、解約料は¥64000だっていうから、
紛失届け出したままアーウーに新規加入。
新規はタダだからな。

お昼はサワラの西京焼き。ちょっと外は曇っている。
やっと完全に味がわかってきた。
味がわからないってのはやはり辛い。
ひたすら味の濃いジャンクフードばかり食べてしまう。
何かの仕事で店に泊まらなくちゃならなかった深夜、
隣のバーでナポリタンを頼んだんだけど、
食べ終わる頃には気付かずにタバスコ半分使っていた。
マスターがこっそりしまったのを覚えている。
中森明菜の気持ちが少しだけわかる。

食後、中庭から中目黒公園へと抜け出す。
芝生が気持ち良さそうだ。
家族連れや子供たちがお昼時を楽しんでいる。
走り回ったり寝っころがれる芝生って都心では珍しいと思う。
だらだら一周してローズマリーをお菜箸くらい千切り自分も隅っこに座る。

昔はこの香りが苦手だったけど最近は体が求めている。
酔っぱらって帰ったままキッチンで目覚めた時手に握りしめてたり、
知らないうちに右手に香りが残ってた事があった。

ラベンダーは人が言うほどの鎮静効果はない。
自分との相性なのか?品種のせいかもしれない。
富良野は知らないけど、本州あたりではラヴァンダンという亜種が多いらしいから、河口湖あたりではそれなんじゃないのか?
(違ってたらごめんなさい)
そこのラベンダー村っところに一度行ったのだが、あまりの人工的で強烈なラベンダー臭!例えるなら「消臭力リキッドタイプ」
を間違って倒して紫の液体が全部流れてしまったトイレのようだった。
すぐに具合が悪くなり用も足さずに出て来てしまった。

3時頃、プロデュースが決まった千夏ちゃんから、
今日バイトが終わったらお見舞いにゆきますってメールが急に入る。

初めての面会人だ。

わ~い。千夏ちゃんがくる。わ~い。わ~い。

あれ?でも顔がよく思い出せない。
毎日デモ音源を聴いているのに。
どんな子だったっけ?

確かちっちゃくて子ぎつねみたいな子だったような気がする。
中学生くらいだったかなあ。まさか!
看護学校生だったっけ?
この5日間で新しい人達と話し過ぎて、
昔の知り合いがかなり消去されかけている。
脳とはなんとも無情だ。

入院中お店を任せている健ちゃん(男子)を思い出そうとすると、
何故か小田茜の顔が、
常連さんの服部さんを思い出そうとすると、
なぜか織田信長の顔が、
「永遠の係長」田島さんを思い出そうとすると、
なぜか織田裕二が…いや、そんないい男のはずがない。

それにしても、みんなオダが付くじゃあないか。
何故織田?
何か先祖に因縁でもあるのだろうか?

もしかして鶏山家は石田三成の子孫だったのかしら。
犬山城ってのもあったから鶏山城があってもおかしくない。
生前じいちゃんは、
「信長様は本能寺で死んでないんだすけに~」
っていつも言っていたな。
「天草太郎様と一緒にまだ生きてるでごしなさいじゃ」とも。
いつの間にか雑草をむしっていた。

でも、いったいどうやって歓迎してあげようか。
今さらハイビスカスのレイもなんだしなあ。
やっぱりべッドに後ろ手で縛られて、口にはタオルを詰められ包帯で目隠しかなあ。
それともうつぶせにフルフェイスのヘルメット被され、両手両足をベッドの四隅に縛り付けられてるのもいいなあ。

裸だとセクハラになるのだろうか?
パンツさえ履いてれば大丈夫か。
でも、ちょうど夕食時っていうのがネックだ。
ナースさんに見られたら冗談や変な人では済まないし。

そうだかなえちゃん。
彼女だったら、Gパンのベルトで叩いてくれるぐらいはしてくれるかもしれない
「おまえもこうしてやろうか。このメス豚めっ!とっとと帰りやがれ!」とか。
相談してみようかな。
意外と乗ってきて独房を用意してくれるかもしれない。
全身包帯で巻いてくれて目だけをハサミで切り取ってくれるかもしれない。
あ、いつのまにか芝生をむしっていた。

でも、もう少し早く来てくれれば大樽に行けたのになあ。
そんな大事な事を考えていたら
「何か買ってくるものありますか?」とのメール。
百均で便所スリッパ、ヘアバンド、アイマスクと角のポケット瓶を頼んだ。

しばらくして「お酒はダメです!」との返信。
「じゃあ来るなよ!酒は百薬の長だ。お前だってちょっとは酔っぱらって来い。
じゃないとキチガイが移るぞ!」
とはメールしない。

昔、曙橋の大学病院のバリバリの精神科に通ってた頃は凄かったなあ。

一応予約制のはずなのに、
老若男女、広い待合室にはそんな生き物達がでひしめきあっていた。
ムンク、いやクリムト、いやクリムゾンキングの宮殿とはここの事か。
きっと時間もわからなくなってるから、
朝7時くらいからガラス戸の玄関前でみんなで待っていたんだろうな。

そして、信じられないくらいの美少女がいつも沢山いた。
手首に包帯を巻いた30キロ代の女の子達が、まるでホラー映画のオーディション会場のように、歩き回ったり、挙動不審の行動を起こしてたり、瞬き一つ微動だにもせず長椅子で固まっていたりしていた。

大体が自分で切った、ロングのおかっぱかベリーショートだ。
売れなかったか落ち目になって、夜の業務用にされてしまったグラビアアイドル、
親バレしちゃたAV女優、ホストに大金をつぎ込んで借金まみれのソープ嬢。
顔だけで人気だったけど急に指が動かなくなった美人バイオリニスト、そんな子たちが死にそうなカナリアみたいな声で
「せんせい~せんせい~開けて下さ~い。ぴー。ぴー。 」
って診察室のドアを叩き続けているんだよ。姉さん。

でも本当にちょうどご飯時だな。どうしようか?
二人で病院食をつまみながら打ち合わせをするのもなんだしなあ
あ、いっその事、寝たきりのまま食べさせてもらおうかな?

「悪いねえいつも。こんな体で。もういいや。病院食にも飽きた。今度カツ丼でも買ってきてくれないか。あと、これを声が出るうちに録音してくれないか。後で編集が来るから。
エッ、アーッ、カーッ、ペッ。行くよ。 
・・・・依子が消えた、いや、やっぱり郁子にしよう。松菊は今夜も第四病棟に忍び混んで・・・・研究室に入るとあの一度だけ見た銀色のピルケースを探した。患者たちはもう誰も喋らず、瞳は色は日毎にに緑色を増していく。・・・・今日の味噌汁のクローバーは七つ葉だった。ゴホゴホッ」
寒いっ。けれどもとりあえず冷たい物を買って来ないと。
特に今日は風をを冷たく感じる。
あ、そうか。今日はまだ何も飲んでないせいか。
でも千夏ちゃんこんな夜に来るなんて、録音前なのに風邪ひいちゃうぞ。

公園から暗くなってゆく川沿いに抜け、水の少ない目黒川をの水上を小走りしながら午前午後へ。
店長はバイトと抱擁していて監視カメラはダミーだったが、一応500mlサワー×二本の代金を置いて俺は闇に消えた。

やはり食事時間を過ぎるようだ。
「アウンサン・スーチーさん軟禁の抗議の為パンストを被ります、じゃなかったハンスト(マックじゃないよ)に突入します」
と書きたかったんだけど、
「お見舞いの方が来るので後ほど食べます。」
と書置きして、残りのヤクと千夏ちゃんの顔型パプリカと、さっき千切ってきたローズマリーを乗せた小皿に乗せた。

夜間外出用校門じゃなかった夜間救急口の近くでしばらく待つ。
中目黒の駅近くに百均を発見して、いろいろ探しているとのメール。
いい子だな。万引きはしないでね。
全科があるからね(あ、僕か)。
それにこっちには爆乳刑事や公安の捜査官ががいる。

いい子だなあ~ほんとにいい子だな~
コーヒーブルースををしばらく唄う。
いい唄だなあ~ほんとにいい唄だな~
でもほんとに渡さんが作ったんだろうか?
良すぎる。

続いて伊勢佐木町ブルース、宗右衛門町ブルース、
Cjamブルース(マイルス)に適当な歌詞をつけて唄う。

するとどうでしょう。
月明かりの下で、こんがりきつね色の子ぎつねが、
背伸びをして門番の欲張りそうすけじいさんと、
何やら話をしているじゃあありませんか。
子ぎつねは言いました。
「びょおきのとりさんにあいに来ました」
しかし欲張りそうすけじいさんは首を横に振りました。
「わるいんじゃが、ここを通るには金がひつようなんじゃ」
それは真っ赤な嘘でした。
「葉っぱのおかねじゃダメですか?」
欲張りそうすけじいさんはまた首を横に振りました。
「そんなの村じゃあ通用せん。金がないなら金目のものは持ってないのか?」
「お金はありませんが、ハッパかハッシシじゃダメですか?」
そう言って子ぎつねは百均の袋にガサガサと顔を突っ込み、

「ダメだ~!子ぎつね。監視カメラと刑事がいるから!」
「あ、とりさん」
よく見るとそれは千夏ちゃんでした。

意外とイメージしてたような顔をしている。
人間の記憶力ってのは素晴らしい。ニワトリとはちがう。

「とりさ~ん」ピョンピョンと跳ね跳ねながらこっちに来る。
「千夏ちゃんご飯食べた?」
「いえ、バイト終わってすぐ来たから」
「じゃあ、展望レストランに行こうよ。食堂は狂人が沢山いて危ないんだ」
「いいんですか?自分のご飯があるんじゃあ~」
「いいの、僕嫌われてるから。昨日はご飯に体温計が二本刺さっていたよ。
36度5分の人肌だったよ。アッハツハ、アッハッハ~。ゴホゴホゴホッ」
(すみません。全くのデタラメです。編集部)

一緒にデイルームに行って、
クリスタルガイザー(大)を冷蔵庫から取り出すと、ナースたちがびっくりしたように僕と千夏ちゃんを見た。
ふん、僕にだって人間の友達はいますよ~だ。

そういえば珍しく覗いたこともなかった
(多分一階に張ってあったメニューに惹かれなかったからだろう)、
病院自慢の南館10階の展望レストランへと入った。

割と狭い。それに食券製だ。
又外に出てウィンドウをさんざん眺め、ピザパイを選ぶ。
しかし売り切れている。
さんざん迷った挙句僕は海老ふりゃあ、
千夏ちゃんはカツサンドを選ぶ。

どよーんとした空気だ。
音楽が小さすぎて、空調や冷蔵庫の音がする。
田舎のサービスエリアのように従業員の顔が地味で暗過ぎる。
でも派手でさはなく何気ない夜景がいい。
別れ際のカップルににピッタリだ。
でもメニューがもっと多ければなあ。

「氷の入ったグラスだけを下さい」と言い、
泡の立つクリスタルガイザーを入れ、
「まずは契約が決まっておめでとう」と乾杯。
「と、とりさん…そ、それお酒なんじゃですか?」
「当たり前じゃないか。水でご飯が食べれるかよ。大人なんだから」
「とりさ~ん」 ちょっと怒っている。

スリッパやら、アイマスクやら、可愛いヘアバンドをお土産にくれる。
減塩の梅干もくれる。嬉しい。
おいしい。海老ふりゃあに合う。

さて、とまじめにアルバム制作の打ち合わせをする。
千夏ちゃんもポンポンとアイディアを出して来るし、
何よりもいきいきと嬉しそうで、じいちゃんも嬉しいよ。
すきっ腹で1リットル近く飲んだせいか、割といい気分。

例の眺めの良い場所で夜景を一瞬見てから、
フロアを案内する。ここがデイルーム。
ここが僕のお部屋とベッド。
結構広いですね~と千夏ちゃんは驚く。
こいつがいびきがうるさくて、毎晩死んでは生き返るじいさん。
そことそこのベッドが空いていているのは昨日立て続けに死んだんだ。
窓際の大学生は首吊りだったよ。

ほら、お風呂も広いでしょ?
温泉なんだよ。沸かし湯だけど。
ちょっと背中を流してくれる?
「ああ、そう。ダメかい。じゃあプロデューサー降りるから」
で、ここが霊安室。
ガラ、ドン、キャーっ!ガラ。
出して下さい!キャーキャー!
ば~か、ただの倉庫だよ。(この辺りもだいぶ捏造のはずです。編集部)

千夏ちゃんを村の出口まで送り、
冷たいチキンソテーをつまみながら、
クリスタルガイザーの残りを飲んででいると、
「今日はありがとうございます。お酒は控えて下さいね」
とのメールが。いい子だ。おじいちゃんは頑張るよ。
頑張っていいアルバムにするよ。

じいちゃんはそう言って戸棚の奥から好きだった角壜を出し、
金色のキャップをコップ代わりにして、
おぼろ月を見ながらゆっくりと何杯も飲んでいました。
それがわたしの見る最後の姿でした。

おしまい

これからはあんまり覚えていない。
きっとやっぱり急にどこかで飛んでしまったのだろう。
「今日は絶対外に出ないで下さいよ。」
との声だけが、耳の奥に残っていた。

※鶏山先生の体調がこの辺からおかしくなり始めましたので、
一部誤解を招く表現が随所にあります。
関係者に深くお詫びを申し上げます。
でもあくまでも限りなく現実ですのでどうかご了承下さい。

オヤスミ出版




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