「だっていきなり課題曲をやってもうまくいく訳ないじゃないですか。
僕が佐和子さんの演奏に合わせたり、その逆でも意味がないと思います。」
あまりにももっともな事を、はっきりと言われて佐和子は呆然とした。
しかし上原との演奏は初めてではなく、ボーカルの唄伴を二人でしたり、
ラテンの店でもセッションを数回していて、そのステージでも何の問題を感じた事もなかったし、
むしろ、こんなに息が合う人は久しぶりだなあと良い印象しか持っていなかった。
そして第一「一緒にデュオをやりませんか?」と誘って来たのは上原のほうだった。
「はあ、まあそうですね。いいですが、どんな風にしましょうか?」
ここはまず上原のやり方に任せてみよう。
佐和子は、眼鏡の奥の上原の目を見てそう言った。
黒く太いセルロイド眼鏡で相当強い度が入っている。
そのせいか優しそうな細い目ではあるが少し巨大化し、
昔それを売りにしていた、外人タレントをちょっと思い出して笑いそうになった。
「じゃあ、まず、1コーラス目は僕がバッキングを弾くから佐和子さんは主旋律を弾いて下さい。
2コーラス目はその逆で、それをしばらく繰り返しましょう。
メロディーは自分なりに崩してもらったりアドリブでもいいですから、
バッキングのコードとリズムだけは絶対に変えないでください。」
この「絶対に」というところに少しだけ力がこもっていたので、
佐和子は軽い緊張感を覚えた。
「そ、それで、何コーラスくらいやりましょうか」
まずはウォーミングアップがてら気楽にいこう、
最初から身構えてもしょうがないと佐和子は心に言い聞かせて、
譜面を自分の前に置き(この曲くらいは暗譜してるけどね・・)ギターを抱えた。
「そうですね。とりあえず30分くらい続けてから考えましょう。」
「さん!え?そんなにですか!」
佐和子は驚いて思わず大きな声を出した。
上原は、佐和子が驚いた事に自分も驚いたようで、しばらくぽっかり口を開け黙っていた。
しばしの沈黙のあと、又はっきりと、しかし気を使ったのか至って優しい口調で、
「疲れたり、途中でリズムを見失ったら言ってください。休むのは全然構いませんから。」
大事なのは合わせるのではなく、お互いのリズムをつかむ事なんです。」
「はあ、はい・・」
佐和子は自信なさげに答えた。
(まるでずっと前に通ってたギター教室みたいだなあ・・最後にレッスン代取られたらどうしよう・・・)
「じゃあ始めますよ」
そう言って上原はイントロのコードを弾きだし、
二人の小舟は静かに滑り出していった。
外からはのどかなうぐいすの声が聞こえていた。
続く
※このたわいもない物語は全くのフィクションです。
一部、実名と似た名前や同じ名前が出てきますが、
ほんとに、あくまでもフィクションですから~
僕が佐和子さんの演奏に合わせたり、その逆でも意味がないと思います。」
あまりにももっともな事を、はっきりと言われて佐和子は呆然とした。
しかし上原との演奏は初めてではなく、ボーカルの唄伴を二人でしたり、
ラテンの店でもセッションを数回していて、そのステージでも何の問題を感じた事もなかったし、
むしろ、こんなに息が合う人は久しぶりだなあと良い印象しか持っていなかった。
そして第一「一緒にデュオをやりませんか?」と誘って来たのは上原のほうだった。
「はあ、まあそうですね。いいですが、どんな風にしましょうか?」
ここはまず上原のやり方に任せてみよう。
佐和子は、眼鏡の奥の上原の目を見てそう言った。
黒く太いセルロイド眼鏡で相当強い度が入っている。
そのせいか優しそうな細い目ではあるが少し巨大化し、
昔それを売りにしていた、外人タレントをちょっと思い出して笑いそうになった。
「じゃあ、まず、1コーラス目は僕がバッキングを弾くから佐和子さんは主旋律を弾いて下さい。
2コーラス目はその逆で、それをしばらく繰り返しましょう。
メロディーは自分なりに崩してもらったりアドリブでもいいですから、
バッキングのコードとリズムだけは絶対に変えないでください。」
この「絶対に」というところに少しだけ力がこもっていたので、
佐和子は軽い緊張感を覚えた。
「そ、それで、何コーラスくらいやりましょうか」
まずはウォーミングアップがてら気楽にいこう、
最初から身構えてもしょうがないと佐和子は心に言い聞かせて、
譜面を自分の前に置き(この曲くらいは暗譜してるけどね・・)ギターを抱えた。
「そうですね。とりあえず30分くらい続けてから考えましょう。」
「さん!え?そんなにですか!」
佐和子は驚いて思わず大きな声を出した。
上原は、佐和子が驚いた事に自分も驚いたようで、しばらくぽっかり口を開け黙っていた。
しばしの沈黙のあと、又はっきりと、しかし気を使ったのか至って優しい口調で、
「疲れたり、途中でリズムを見失ったら言ってください。休むのは全然構いませんから。」
大事なのは合わせるのではなく、お互いのリズムをつかむ事なんです。」
「はあ、はい・・」
佐和子は自信なさげに答えた。
(まるでずっと前に通ってたギター教室みたいだなあ・・最後にレッスン代取られたらどうしよう・・・)
「じゃあ始めますよ」
そう言って上原はイントロのコードを弾きだし、
二人の小舟は静かに滑り出していった。
外からはのどかなうぐいすの声が聞こえていた。
続く
※このたわいもない物語は全くのフィクションです。
一部、実名と似た名前や同じ名前が出てきますが、
ほんとに、あくまでもフィクションですから~