ミラノはミラノ

ミラノ在住のおねえさん(うそ)おっさんの気まぐれ場当たり日記

高額ヴァイオリンの課税にみる日本のお粗末具合

2012-10-11 00:00:53 | 日記

(この画像では、見えませんが、自動小銃を持った警官が警備に配置されているフランクフルト国際空港)

ドイツ・フランクフルト国際空港では8月中旬と9月下旬、バイオリニスト堀米ゆず子さんのガルネリと、有希・マヌエラ・ヤンケさんのストラディバリウスが輸入申告を怠ったなどとして、税関に差し押さえられました。

(最終的にドイツが、非課税相当と判断し、楽器は、それぞれの演奏家に返却済み)

日本でもかなり大きく報道されましたから皆さんの記憶にも新しいことでしょう。

報道の内容をよく確認してみると、ガチガチ石頭のドイツ通関当局が有無を言わせず差し押さえし、日本人演奏家がとてつもない迷惑を被っているという感じを受けます。
(ヤンケさんは、現在ドイツ国籍)

ヤンケさんは、現在ドイツ国籍を有していますから、ドイツ税関は、ストラディバリが輸入されたものと判断し、時価(価値)800万ユーロに対してVAT19%の150万ユーロを課税することを相当と判断し、即金で支払いが出来なかったため、楽器が差し押さえられたということです。

現在ユーロ圏では、各国とも通関検査が厳しくなっていて、背景には、2つの要因があります。

1 課税強化によって、税収を上げる
2 マネーローンダリングと麻薬類の不正持ち込み防止のための水際作戦

では、何故ヤンケさんは、スムーズに通関することができなかったのでしょうか?

商業見本や自分の職業のために必要とする道具(楽器も)は、原則非課税扱いというのが国際的なルールで、各国とも考え方は同じ。
もちろんドイツに限らず日本も同じです。

この場合は、通常「ATAカルネ」と呼ばれる書類(手帳のようなもの)が必須です。
必ずしもATAカルネによることはありませんが、これがないと出発地と到着地での関税申告が必要となり、帰国する際も同じことをしなければならないので、かなり面倒なことになります。
この面倒さを簡略に行おうとするのがATAカルネです。

ATAカルネは、説明すると長くなるので、興味のあるかたは、ググってくださいね。

ヤンケさんは、日本を出発する際に関税申告をせず、ATAカルネも持っていませんでしたから、ドイツ当局から納税を求められたに過ぎません。

また当該ストラディバリには、『所有者』(日本音楽財団)と『一時的な借用者』(ヤンケさん)の関係を記した書類が未添付だったことも課税される原因の1つとなったことでしょう
日本語、英語、ドイツ語並記の書類があれば、事はもっと簡単に済んだはず。

これは、堀米さんのケースも全く同じです。

酷な言い方ですが、「非はヴァイオリニストにあり」なのです。

こういう背景を知ってか知らずか、相変わらず日本の報道ってどこかすっ惚けてますね。

わたくし達旅行者も注意が必要です。
これまでなら、なんともなかった高級装飾品(時計や宝石類)の携行はやめておいた方がよさそう。
男性ならロレックスの金やプラチナ無垢の時計は、身につけない(持っていかない)
女性ならダイヤモンドの指輪やネックレス、高級毛皮は、海外に持って出ない
プロカメラマン以外で、高額デジタル一眼も怪しそう・・・・

もちろん通関申告を最低でも4回やる覚悟があればいいんですけどね。

ヨーロッパのように数カ国を通過する際には、その国毎にそれぞれ申告が必要となりますし、ATAカルネの交付申請には、担保(予納金)を求められる場合もありますので、気をつけたいものです。

 

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (アル)
2012-10-11 03:52:37
前職で通関書類つくってました。
外国って担当者が変わったりすると、いきなり厳しくなったりするんですよね。
企業なんかはきちんとした書類を過剰なまでに作成してますけど、
音楽家さんは慣例によって見逃されていたとコメントしてましたね。
日本では同情的な意見が多数ですが、貿易に関係する仕事をしてたことのある人間ならプロ意識が欠けてると思ってるはずです。
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アル さん (Ulisse)
2012-10-11 06:01:13
そうですよね~
なんか唖然としてます
演奏家にもマスコミにも

それにしても自分が時価数億円の楽器と移動してるって感覚ないんでしょうかねぇ



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何が真実? (masi)
2012-10-15 03:56:43
>また当該ストラディバリには、『所有者』(日本音楽財団)と『一時的な借用者』(ヤンケさん)の関係を記した書類が未添付だったことも課税される原因の1つとなったことでしょう

ヤンケさんは必要書類を持っていたにもかかわらず、ドイツで売却の可能性がある、と疑われた様です。スイスと日本の新聞両方で確認しました。日本の書類はヨーロッパで有効でない、という税関のコメントも有り、それに対して日本政府が抗議した様です。結果としてドイツのショイブレ財務相が激怒し、税関に返還を命じた所、税関吏が脱税幇助の疑いでショイブレを告訴したという記事も見られましたが、検察当局は否定しています。
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masi さん (Ulisse)
2012-10-15 05:36:31
恐らくATAカルネを作成していなかったのが大きな原因なのだと推測します。
所有と使用に関する書類は、日本語のみならず、入国先の言語に英語並記というのが一般的でしょうし、原本であるか謄本であるかによっても審査側の心証は異なります。
全ての書類が揃って通関させるというのが官吏の仕事ですから、類推して臨機応変に対応しなかったとうことなのだと思います。
これまでの報道では、正確に記載された全ての書類が整っていたとは、各国ともにコメントはしていません。

ご存じのこととは思いますが、ヨーロッパは、陸続きですから、空港のチェックが毅然としていなければ、マフィアのマネーローンダリングや麻薬類の密輸を水際で食い止めることができず、ヨーロッパ全土に悪影響を及ぼすことも充分考えられます。
フランクフルト国際空港は、入出国審査と通関の厳しさは、今に始まったことではありませんが、これまでの報道を類推すると、わたくしは、やはり演奏家に責任があるように感じます。

数年前の話ですが、わたくしは、イタリアからブラジルやアルゼンチンに出る場合、仕事で使用する10万円クラスのデジカメにも通関書類を添付しておきましたし、ヨーロッパで国際的な仕事をなさっておられる方々も同様です。

条約や法律を正しく理解し、遵守するということは、逆に言えば、それらが自分の身を守ってくれるということですから、言語や生活習慣が異なる国へ渡航するなら尚更のことだと感じます。

今回の騒動は、わたくしが当事者ではありませんし、あくまでも報道の内容を元にブログを書いていますから、何が真実なのかは、もう少し時間が経過してみないと分からないのだと思いますし、今回のことで、ドイツの通関当局の対応が変わることもないのだと思います。





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Unknown (masi)
2012-10-15 15:12:51
ATAカルネは必ずしも無税の通関を保証する物では有りません。
ヤンケさんの場合、書類上の不備が有ったならば、日本政府も手を出せず、ショイブレが激怒する必要は無かったでしょう。実際,堀米さんの場合は書類不備であったので返還迄一ヶ月かかったのだと思います。

現在読む事の出来る記事は限られていますが、Suddeutsche Zeitung をご参照下さい。

二年程前スイスでも同じケースが有りました。このときはスイス在住のオーストリア人女性ヴァイオリニストがオーストリア国立銀行から借りた楽器を持って来た所スイス税関で関税を要求され楽器を押収されました。ショックを受けた彼女は楽器を返還したのですが、当時の財務相が個人的に謝罪し、『携行する楽器の取り扱いにつて』という通達を出しました。それによると、『借用した楽器は無税で、緑の出口を使用して良い』と明記してあります。この点、税関吏は、高価な物を所持している場合、たとえそれが無税のケースでも赤色の出口を使用し、申告しなくてはならないと考えている様です。

最近フランクフルトでは使用中のノートブックに関税がかけられたケースも有る様ですが、そうなるとほぼ全員赤色の出口を使わなくてはならなくなります。不思議なのは、同じドイツ、ミュンヘンからはそのような問題が聞こえてきません。
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Unknown (masi)
2012-10-15 21:40:35
ショイブレ財務相が記者会見で触れています。約1時間5分30秒からです。

http://www.youtube.com/watch?v=jpiN8YJsxlc&feature=player_detailpage
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masi さん (Ulisse)
2012-10-16 00:56:31
会見動画ありがとうございました。

大臣が仰ってることは、正にわたくしが言わんとしていることですよね?
正しく通関されれば、何の問題もありません。
こういうことだと思います。

ATAカルネは、国際条約に基づくお約束ですから、トラブルを避ける転ばぬ先の杖です。

著名な芸術家であろうが一般人であろうが、法律を遵守すべきことに変わりはないのです。

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Unknown (masi)
2012-10-16 06:09:11
同時通訳の常として、発言が省略されたり若干ニュアンスが違って来るのはやむ終えないでしょう。肝心な点を指摘しておきます。
高価な楽器を持って申告なしの出口を通り、その際見つけられたとき『問題になる』と訳されています。駐日ドイツ大使によると正にヤンケさんのケースであったようで、ショイブレもそれを念頭に置いて話していると思いますが、彼の正確な発言は『その後きちんと申告する様求められる』と言う事です。この事から『ヤンケさんの楽器が押収されたのは行き過ぎであった』と考えている様に受け止める事が出来ます。彼女は必要な書類をもっていたのですから。
官吏は法に従って仕事をしており、の所で、時にはお役所的で『困難な場合が有る』との発言が抜けています。この事からも税関吏の行き過ぎを感じている様に見えます。
又、申告において必要な証明書類に言及しておらず、いかにも様式に記入しさえすれば良い様な言い方です。最後の『我々も今回の事で学んだ』と言う発言、それに大使も、国際的な音楽家が安心して楽器を持って移動出来るシステムの必要性に言及しているので、なんらかの新しい指針が作られる可能性があります。
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