クラッシュ

2009-08-02 23:57:24 | Cinema

1996年カンヌ国際映画祭にて賛否両論を巻き起こし審査員特別賞を受賞
交通事故をきっかけに、自らの破壊を通して得られる快感の闇に落ちて行く複数の男女を描いたクローネンバーグの問題作

※注意！物語の核心に迫る部分があるかもしれません。ご了承ください。

CFプロデューサーのジェームズ・バラードと妻のキャサリンは倦怠期を迎え、お互いのセックスでは感じることができず、家庭外で情事にふけっていた。ある日。ジェームズは出張で空港に向かう途中、ハイウェイで衝突事故を起こす。　相手のレミントン夫妻は運転していた夫は死亡、助手席に乗っていた妻ヘレンはジェームスと共に病院に担ぎ込まれる。やがて回復した２人だったが、彼らは事故の衝撃を通して思わぬ性的興奮を感じていた。そんな中、事故の体験により新しいエクスタシーを開拓した人々がいる事を知った彼らは、次第にその世界にのめり込んでゆく…。

先日『日曜日の恋人たち』を取上げた時点で、やはりこの映画のことを思い出してしまいました。デヴィッド・リンチ監督と並ぶ、変態ビザーレ監督（笑）、デヴィッド・クローネンバーグの96年の作品です。
『クラッシュ』というと、2004年に公開された名作と間違う方も多いと思います。レンタル店で、間違えて借りてきてしまった…という方もいらっしゃるんじゃないかと…（笑）。ポール・ハギス監督作品、2004年公開の『クラッシュ』は今後レビューする予定にしていますが、今回はハギス監督ではなく、クローネンバーグの『クラッシュ』です（笑）。

結論から言うとこの作品は、やはりクローネンバーグらしい作品ではないかと思います。　しかも、”超”が付くほどの変態ぶり（笑）。
なんと全編の80パーセント以上がセックスシーンで埋めつくされたこの作品は、通常とは違う性行為の方法でエクスタシーを感じる、世間的にはアブノーマルだとかフェチと呼ばれる人たちが、その倒錯ぶりを見せる映画です。そのなかでもクローネンバーグ監督が特に強調したのが、自動車事故を媒介にして得られるエクスタシー。世の中、色んなフェチの人がるとは思いますが、自動車事故でエクスタシーを得るフェチなんているのでしょうかねぇ（笑）。
私は実際、二十数年前に事故で生死を彷徨った体験があるので、あの車同士がぶつかり合う音は、今もトラウマになっていますが…。　そんなことでエクスタシーを得ようとも思わないし（当然か--笑）、大体思えないですよ（笑）。
でも、この広い世の中、こんな人たちが多分いるのでしょうね。劇中でも、衝突実験の映像をビデオでグループ鑑賞し、互いの股間をまさぐりあうシーンなんてものがあったりしてかなりグロい描写がてんこ盛りでした。
観終わった後、大きなため息と共に、この映画が言いたかったこと…それは何かを一生懸命考えました。なんか、変態さんたちが集まり、「私たちはこんなフェチなんですよ」的なお披露目大会の映画だったのか、それとも…。その中で何を言わんとしていたのか…。

それにしても、このアブノーマルな作品の中で、なんという美しい映像なのでしょう。特にラストのクラッシュ・シーン、大破した車からジェームスとヘレンが外に投げ出され、瀕死の重症を追った妻を犯すという目を覆いたくなるようなシーンで幕を閉じるのですが、その背景が物凄く美しいのです。このアンマッチさがクローネンバーグらしさなのでしょうね。

なんか支離滅裂なレビューになってしまいましたが、この作品、人間の性の渇望を描いたのではなく、生への悲哀を描いたものなのではないかと…。うまく言えませんが（苦笑）。
まぁ、クローネンバーグの趣味がまんま作品になったとでもいえばいいのでしょうか。彼が一貫して描いてきた「肉体の変容と精神の変容の同調」というテーマも、しっかりと表現できていましたし（笑）。

この作品は、全ての方にお薦めはできません。クローネンバーグファンの方、こういったアブノーマルな世界を覗いてみたい方、ずばりフェチの方（笑）はご覧になられては？

--「クラッシュ」関連映像--
Crash (1996) - Trailer