「東北」の続きです。
「花は根に 鳥は古巣に帰るとて」と、謡にあります。
元々は
漢詩)
-花悔帰根無益悔 鳥期入谷定延期-
書き下し)
-花は根に帰らむことを悔ゆれども 悔ゆるに益なし
鳥は谷に入らむことを期すれども 定めて期を延ぶらむ-
(いらむ) (ごすれども) (ごを)
訳)春が暮れたと思って、花は散ってしまいました。
今年は閏年で春がまだ一月あると知って、
散り落ちたことを悔やんだとしても、もうどうしようもありません。
うぐいすも、三月尽と聞いて谷の古巣に戻ろうと思っていましたが、
きっと出発を一月延ばしたに違いありません。
和漢朗詠集にも収録されており、
「花は根に」「鳥は古巣に」帰るという趣向は、
以後、多くの和歌が引きます。
例えば、以下の崇徳院の和歌が、その代表格です。
-花は根に 鳥はふる巣にかへるなり 春のとまりを知る人ぞなき-
(千載集)
謡曲の謡い本は、
先行する古典を巧みに織り込みながら、
情趣を作り出しているという好例かと思っています。