病気の治療においては「自然経過」......積極的な治療はせずに経過を定期的に検査したとき、どういう経過をたどるか、ということを知ることが重要と言われています。例えば風邪は休養をとれば三日から一週間ほどで元気になることがわかっています。この時、風邪薬を服用することで一日で治ったとしたら、その薬は風邪にとてもよく効く薬ということが言えるの可能性があります。(ただし、効果があると断定する為には、例えば同じ条件の風邪の症状の患者さん1000人に、そのクスリを服用してもらい、その1000人のうち......仮に900人としましょう........900人が1日で症状が回復して、元気になった。という医学データが必要です) しかし、それは風邪という病気について「何もしなければ一週間」の休養が必要ということが理解されていることが前提になっています。
・風邪をひいた (熱が38°ある) →→→ 一週間自宅で、十分な水分と栄養と休養⇒⇒⇒ 平熱に戻った
・風邪をひいた (熱が38°ある) →→→ 1日だけクスリを服用 ⇒⇒⇒ 平熱に戻った
特発性側弯症の場合も、この自然経過を知る、ということがとても大切です。
特発性側弯症の治療方針として必ず登場するのが、
◇軽度側弯(25°未満)定期的に経過観察、進行を見逃さない
◇中等度側弯(25°~45°)装具による矯正治療
◇高度側弯(50°以上)手術療法必要
これは世界共通の治療方針です。
ここでなぜ25°未満の場合は経過観察という対応をとるのか? が患者さんやお母さんがたにはとても不思議で、なかなか理解できないことになります。(そこに整体等が入り込んでくるわけですが)
もし、特発性側彎症の原因がわかっていて、ガンの特効薬のようなものが発明されていたらならば、先生方は側彎症と診断したら、直ちにその特効薬を服用するように処方することになります。しかし、残念ながら側彎症にはそのような特効薬は存在しません。
その代わり、医学的事実として判明していることがあります。
軽度側彎の場合は、約7割~8割のこどもたちは、何もしなくても(治療しなくても)自然に真っ直ぐになるか、真っ直ぐまではいかなくてもそれ以上、カーブが進行しないことがわかっています。
仮に、ある大きさを超えなければ悪性にならないガンがあったとき、そしてそのガンにはとても良く薬があるけれど、それは副作用も非常に強いという場合、皆さんは副作用を我慢してでもすぐにその薬をのむことを選択されるでしょうか?
それとも、ある大きさを超えるまでは経過観察していこう、と考えられるでしょうか? そのガンは小さくなる可能性もあるわけです。そのガンは進行せずに、その大きさのままでとどまる可能性もあるわけです。一方、その薬による副作用は、
一日23時間もの長時間ずっと身体を締め付けられることであり、夏の暑い日も、汗もだらけになりながらも、その状態を維持しなければならないとしたら、皆さんは、まだ服用する必要のない薬を、まだ真の治療を必要とする側彎症と決まっても
いない時点で、この薬をのまれるでしょうか?
整形外科の先生がたは、不要な苦しみを患者さんに与えるのが仕事ではありません
適切な時期に、適切な治療を実施するのが先生がたのお仕事です。そして、医学的エビデンスにもとづいて、25°未満のときは「経過観察」しましょう。という指導をされるわけです。
さて、次の段階 ◇中等度側弯(25°~45°)装具による矯正治療
ここで患者さんにふたつのグループがあることがわかりました。
ひとつは、装具療法によく反応して、装具療法が効果的にそくわんの進行を抑えてくれるグループです。そしてもうひとつが、装具をしても進行がとまらないグループです。
この場合も原因が明確ではない為に、先生がたは必死でその原因を究明する為に研究を続けています。このような事態に対して、装具は効果がないのではないか?という疑問が投げられた時期もありました。そこで、装具は効果があるのかどうか
ということを調べるための臨床試験が海外では実施されてきたわけです。
この場合も重要なポイントは、装具をしない場合、患者はどうなるか(自然経過)を知る、ということです。
「装具をしなければ50%の確率でカーブは悪化します No.2」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/fee622a7588131f2f77289c25d19fd2f
これらはカナダとスゥエーデンでの臨床試験結果をご紹介したものです。
いずれの場合も、側わんカーブが進行する非常にリスクの高いこども達が参加して
くれた研究です。試験はこういう具合に進められます。
リスクの高い思春期特発性側彎症患者の女子100名を集めます。全員にくじを引いて
もらい、ふたつのグループに分けます。ひとつのグループ50名は装具療法です。
もうひとつのグループ50名は自然経過を調べるために、まったく何の治療もせず
観察だけをします。
この臨床試験の結果、判明したのが、リスクの高い患者の場合も、約50%はカーブ
が進行しない。ということでした。何もしなくても、50%の確率で、カーブが減少も
しないけれど、悪くもならない。ということです。これが特発性側彎症の自然経過
ということです。
そして、同時に、両方の研究で示されたのは、リスクの高い患者さんでも、装具を
することで、約70%~80%の子供たちは、装具療法によりカーブ進行を抑えることが
できた、ということです。
(注意:この50%の確率でカーブが進行しない、という自然経過が整体等の民間療法
者の宣伝に皆さんが騙される原因でした。ネットを検索すると、ビフォーアフター
の写真が掲示されている、掲示板を見ると整体の体操で良くなったと書いてある、
こういうものを見せられたら、どんなに冷静なお母さんでも試したくなるものです
。しかし、それは単なる偶然でしかありません。50%の確率で起こりえる偶然の結果
でしかなく、進行しないタイプの患者さんの場合は、整体に行こうか行くまいが
進行はしない。ということなのです)
さてネット検索をしていましたら、同様の研究結果を見つけることができました
ので、ご紹介させていただきます。
http://www.emedicine.com/orthoped/topic504.htm
Rowe and his colleagues performed a meta-analysis aimed at evaluating the
efficacy of nonoperative treatments for idiopathic scoliosis (Rowe, 1997).
They calculated the weighted mean proportion of success for 3 nonoperative
treatments: observation, electrical stimulation, and bracing. They were
able to successfully combine data on 1910 patients from 20 different
studies for purposes of meta-analysis. Their main results are as follows
(treatment, success rate):
Rowaと彼の同僚は特発性側彎症に対する非手術的治療(保存療法)の効果について
文献を横断的に集めて研究した。3種類(観察のみ、電気刺激、装具)の治療方法に
ついて点数化した。20件の文献から1910人の患者データを集計することができた。
* Observation, 49%
観察のみ
* Electrical stimulation, 39% ......この治療は現在は廃棄されています
電気刺激
* Bracing 8 hours per day, 60%
一日8時間の装具装着
* Bracing 16 hours per day, 62%
一日16時間の装具装着
* Bracing 23 hours per day, 93%
一日23時間の装具装着
ここでも、自然経過...何も治療せずとも約50%の患者は治療(?)成功がデータで
示されています。同時に、装具装着時間による成功率の差も歴然と示されています
患者の皆さんにはふたつの選択肢があります。側彎症と診断されても、何もせずに
ほおっておく方法。この場合も、約50%の確率で悪化することはないでしょう。
ただし、誰もその保証はしてくれません。どういう因子が50%に作用しているかは
不明です。
そしてもうひとつは、装具装着です。この場合は、着用時間と効果は正比例してい
ます。
これからまた暑い日々が始まり、装具装着は辛いと思いますが、結果を信じて
がんばって欲しいと願います。
参考:医療ルネサンス 早めの装具 悪化を防ぐ
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20060216ik01.htm
(一部引用させていただきます)
聖隷佐倉市民病院(千葉県佐倉市)の側わん症外来では、診察室の隣に義肢装具士
2人が待機。患者から装着感を聞き、「痛い」「苦しい」などの訴えがあれば、装
具の角を丸くしたり、中にパッドをあてるなどの微調整を行う。義肢装具士の岩下
幸男さん(67)は「要望を良く聞いて、心身の負担を少しでも和らげてあげた
い」と話す。
(from august03)
別の機会にも話してみたいと思っていることですが、装具療法の効果を左右する
要素のひとつには、誰が....つまり医師と装具士さんがベテランかどうかという
意味で....作製しているのか、という点を抜くことはできないと思います。
患者の皆さんはできるだけ側彎症専門病院で診察を受けて、装具を作製してもらう
ことが良いと思います。ベテランの先生のおられるところには、経験を積まれた
ベテランの装具士さんが控えておられます。
「側彎症専門医師」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/c98b46ae8347107690bc67a459be65f9
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VEPTRベプターを厚労省に認めてもらうための嘆願運動の窓口
側わん症:VEPTRの会
http://blog.goo.ne.jp/dpkgs302/d/20080314
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