美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

「モガディシュ 脱出までの14日間」 映画評

2022-07-16 10:46:24 | Weblog

 スポーツを通じ、世界中が人種や国境を越え一つになる’平和の祭典’とのスローガンで開催されてきたオリンピック。しかし、近年はその意味に疑問を抱く人も多く、オリンピック候補地として積極的に手を挙げる国も減少していると聞く。だが、80年代の韓国で過ごし当時の雰囲気を知る一人として、東京オリンピックに24年遅れたとは言え、1988年にソウルでオリンピックを開催に対する国民のある種の達成感、高揚感とは確実に存在した。そしてまた、軍事独裁から民主化へと向かう歩みと共に、年平均9%以上の高度経済成長を遂げ、新興国が世界に名を知らしめる機会との期待もあった。それ以前は、隣国の日本でさえ、ソウルが韓国と北朝鮮のどちらにあるかを知らない人も少なくなかったと記憶している。今回紹介する映画は、ソウルオリンピックから3年後に起きた実話を基に制作された作品である。国際的なイベントを成功させた韓国ではあったが、未だ国連には加入できずにいたと言う事実を改めて思い知る。勿論、これは国力や知名度の為ではなく、韓国、北朝鮮の停戦状態であり、各々両国を支持するアメリカ、西側諸国とソ連中国の対立が大きな要因であった。作品内で繰り広げられる韓国、北朝鮮の外交官たちによる、既に国連に加盟していたアフリカ諸国への支持取り合戦は、まさに冷戦時代当時の状況をあらわす縮図である。

このような時代背景下、当時ソマリア駐在のカン・シンソン韓国大使(映画ではハン‣シンソン大使)の体験手記から、外交官家族と一行に起きた実際の出来事をシナリオに作品化された映画が「モガディシュ 脱出までの14日間」である。舞台は1991年、ソウル五輪の成功の勢いに乗って、韓国政府は国連への加盟を目指し多数の投票権を持つアフリカ諸国の一つ、ソマリアでロビー活動に励んでいた。ソマリアの首都モガディシュで韓国大使を務めるハン・シンソク(キム・ユンソク)は、現地政府の上層部に何とか取り入ろうとロビー活動に励む。一方、すでに韓国より20年以上早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム・ヨンス大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走し、両国間で妨害工作や情報操作は活動が行われていた。そんな最中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。暴徒化した群衆に大使館を追われた北朝鮮のリム大使は、本来絶対に相容れないライバルである韓国大使館に助けを求める決意をした。韓国のCIAと言われた安全企画部出身のカン・テジン参事官は、北朝鮮外交団を亡命させて己の手柄にしたい含意から受け入れに賛同する。お互いの様々な思惑が交差しながら、南北の外交官一行の命がけの脱出劇が展開されていく。

「生き残るための3つの取引」「ベルリンファイル」「ベテラン」など数々のサスペンスやアクション映画で韓国は勿論、海外でも高い評価を受けたリュ・シオン監督により、本作は内戦で孤立した人々の恐怖や緊張感をリアリティー溢れる物語として完成した。制作当時、渡航禁止となっていたソマリアに対して、入念な資料調査や取材、聞き取りを行い、ソマリア首都モガディシュの雰囲気を出来る限りモロッコの都市エッサウィラに再現、100%オールロケで撮影に臨んだ。結果的に2021年度韓国映画No1ヒットとなり、様々な映画賞を獲得、94回アカデミー賞国際長編映画部門の韓国代表作品にも選ばれる。

この映画を観てすぐ頭に浮かんだのが、昨年8月米軍のアフガニスタン撤退に伴うアフガンの状況だ。タリバンの監視や威嚇のなか、韓国大使館職員の退避に加え、現地の協力者や家族400名余りの救出が必要であった。この作戦は韓国軍が指揮し、「ミラクル作戦」と命名される程困難であった。韓国に到着した彼らと大使館職員が抱き合って喜ぶ映像を思いだす。リュ・シオン監督がこの映画に込めたかったメッセージは何かと聞かれ「果たして戦争と理念は誰のためにあるのか」と答えている。

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