美容外科医の眼 《世相にメス》 日本と韓国、中国などの美容整形について

東洋経済日報に掲載されている 『 アジアン美容クリニック 院長 鄭憲 』 のコラムです。

今改めての韓流ドラマ考その2「梨泰院クラス」

2020-08-18 09:56:54 | Weblog

最近の日本での韓国発コンテンツ、特に韓流ドラマの広まりをもって、第三次あるいは第四次韓流ブーム到来と称するメディアがある。しかし、政治的には戦後最悪と言われる状況下での幅広い視聴者への浸透は、既に‘ブ―ム’つまり‘一時的な流行’と呼ぶには当たらず、既にエンターテイメントの一ジャンルとして確立されたと言えるのではないか。実際、既存の韓流ファンの枠を越え、初めて韓国のドラマを鑑賞した視聴者、さらには多少韓流ドラマに抵抗や偏見?を持っていた中高年男性層の高い評価も聞かれる。私自身、韓国映画評は何度か執筆の機会を頂いたが、ドラマを全話通して観賞し、それも前回「愛の不時着」に続いて懲りずまた「梨泰院クラス」評を書いている自分に驚いている(笑)。

 ドラマの原作は韓国の大型ポータルサイト、「Daum」に掲載されたウェブ漫画。主人公パク・セロイ(パク・ソジュン)はある事件をきっかけに高校を退学になり、さらには最愛の父親は非業の死を遂げ彼自身は刑務所に。出所後、その全ての原因となった韓国最大外食グループの御曹司と会長親子への復讐を誓うセロイ。彼を信じる個性豊かな仲間たちと飲食店を立ち上げ、様々な困難を乗り越えながら徒手空拳で財閥グループに挑む若者たちの青春群像劇である。韓国ドラマ、映画で暫し登場する財閥一族。韓国社会においては富と権力の象徴として認識が強い。それゆえ時に憧れの王子様、お姫様として恋愛対象に、またある時は財力と政治力を笠に不正を行う悪役として描かれる。「梨泰院クラス」では後者の存在としてセロイの前に立ちはだかる。その強大な敵に対し主人公は、どんな障害や苦労にも決してひるまず諦めない信念と努力、そして環境やバックグラウンドではなくその人間の内面や志で評価する包容力を武器に立ち向かう。彼に惹かれ支えていく仲間は、ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)の天才少女、トランスジェンダー、元ヤクザ、ギニア人の母を持つ青年。このドラマは彼らマイナリティに属する若者達の復讐と成功物語であるが、その背景にあるテーマは‘ダイバーシティ(多様性)’、そして舞台として選ばれたのが‘梨泰院’という場所である。

 現在の梨泰院は、象徴的存在であった在韓米軍竜山基地も一部を残して移転し、若者たちのおしゃれで国際色豊かなホットスポットとして人気だ。日本で言えば六本木や渋谷に近いイメージだろうか。私がソウル留学中の1980年代も梨泰院は特別な場所として記憶している。当時では珍しい本場のアメリカンホットドッグやバーガー店、革ジャンショップ、スタンドバーが通りに並び、夜にクラブ(当時はディスコ?)を覗くと、スタッフ以外韓国人は誰もいないまさに異国であった。また一見普通の酒場や洋服店も裏ドアや地下には怪しげな空間があり、一般の韓国人には近寄りがたい雰囲気が漂っていた。在韓米軍龍山基地の以前は朝鮮半島を植民地支配していた日本が軍司令部を置いており、日本の敗戦後の混乱から6.25戦争(朝鮮戦争)へとつながったため、旧日本軍 軍司令部はそのまま米軍基地として使用された。しかし更に歴史を遡ると、ここに朝鮮時代の宿泊施設の一つが存在し、周囲に梨畑が多かったことから‘梨’泰院と命名されたという説、壬申倭乱(豊臣秀吉の文禄慶長の役)の当時、朝鮮に残り帰化した日本人が暮らしていたことから「異他人(イタイン)また異胎人」が語源だと言う説がある。その後朝鮮時代末期には中国の清国の軍隊が駐屯する。つまり「ソウルのへそ」と呼べるこの場所は百十数年間常に外国の軍隊が駐屯したことになる。

ドラマで主人公パク・セロイが人生の目標を尋ねられ「自由・・・誰にも自分や仲間が脅かされない為の力をもつこと。不当なことや権力者に振り回されない。自分が人生の主体であり、信念を貫き通せる人生。」と答える。このセリフは強国に囲まれ、時に侵略され支配を受けた「梨泰院」の歴史を示す言葉のように私は思えるのだった。

 

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