蓮始華(れんしか)

れんか先生からの心のメッセージ

第31話(コフィーの物語)最終回

2012-05-31 23:00:25 | コフィーの物語(小説)
第31話

れんかさんの家に着いたとき、今がいつなのかがよく分かりませんでした。
時間はどのくらいたっていたのでしょうか。

きらきらと眩しい光が差し込むところを見ると、どうも朝のようです。
そう、また地上での生まれたての一日が始まったのです。

アリスはこの家にはいません。
わたしとれんかさんは、今日からまた生まれたての人生を歩んでいくのです。

わたしは、ふっとまたさびしくなりました。
アリスの温もりはまだこの前足にも後ろ足にも残っています。

れんかさんの膝の上にのっかりました。
れんかさんはわたしを撫でながら、ふーっとため息をついてからこんなことを言いました。
「昔、あるお坊さんが私に言ってくれたの。

 人間の心の持ちようで、今生きている世界が地獄になるときもあるし、争いの耐えない修羅となっているときもあるし、またあるときは、天に住む人のように穏やかなときもある。

その激しい心の動きを離れて、いつも揺れ動くことのない境地を目指すのが仏の教えなのです‥‥

私は仏教を特に信仰しているわけではないけれど、この言葉は、とても胸に響いたの。

いつも揺れ動くことのない心って、とっても難しいし、私の心の闇はまだ消えてはいないわ。

でも、揺れ動くことのない心を目指して、2度目の生をまっすぐ歩むことが、この世に生まれた私たちの宿命のような気がするの。命尽きるまで、あきらめないで、魂を磨き続けなきゃね。」

れんかさんはわたしに話しかけているというより、自分自身に話しているようでした。
れんかさんらしい、ひっそりとした決意だったのかもしれません。

わたしの首輪につけた鈴はいつも動くたびに、それは美しい音を鳴らします。
まるで天真爛漫にかけまわるアリスが、そこにいるかのようです。
微笑んだアリスの顔が思い浮かびます。

「修行、頑張るんだよ。」
天に向かって呼びかけるとき、わたしもまた、自分の能力を精一杯、磨いていこうと決意するのです。さらなる能力を探しながら、存在するためだけじゃなく、生きるために生きてみます。

第30話(コフィーの物語)そしてお別れ

2012-05-29 20:53:08 | コフィーの物語(小説)
第30話

けれど、時は来てしまいました。
いよいよお別れの時です。もうこれ以上は天上界に地上の人間や動物がいることは出来ません。『赤い鹿』の守護のオーラも切れてしまいます。

アリスは言いました。
「またいつの日か、絶対会えるように、あたし、いっぱい修行するね。
そして、自分の力で地上に飛んでいけるようにする!だかられんかさん、お姉ちゃん、絶対元気でいてね。」

そしてアリスはわたしに小さな鈴をくれました。
「お姉ちゃん、これを首輪につけておいて!」

それを見たれんかさんは、息をのみました。
「これは、もしかすると、天上界の「光美鈴姫神」(こうびりんきしん)様の神器「幸呼朱鈴」(こうこしゅりん)では!?」

「そう、これは光美鈴姫神様から、位上がりのときにいただいた、幸せを呼ぶ鈴なの。いつも首につけておいてね。必ずたくさんの幸運が引き寄せられるからね。」

わたしは驚きました。
「そんな大切なもの、頂いてはアリスが困るでしょう。神様からのプレゼントなんだよ。」

「いいの、お母さんにも許してもらったから。あたしは天上界からいつもいつも、れんかさんとお姉ちゃんの幸せを祈っているからね。」と、アリスは微笑みました。


『赤い鹿』の背中に乗ると、わたしたちは急激な睡魔に襲われました。まるで、天上界の記憶を消せとでもいうような睡魔でした。
けれど、わたしは先ほどのアリスと遊んだ光景を何度も繰り返して頭にたたきこんでいました。絶対忘れない!というわたしの強い意志が睡魔をも屈服させたようでした。

第29話(コフィーの物語)ついに再開

2012-05-28 21:56:40 | コフィーの物語(小説)
第29話

「アリス~~!!」
「お姉ちゃん~~!!!」
アリスは言葉が話せました。
二人は飛びついて転がりました。
「アリス~。会いたかったよ~~!」
「お姉ちゃん~~!」アリスは泣いていました。
コロコロ転がりながら、匂いを嗅いで、前足で抱きしめました。
「アリス、元気だった?」
「うん、でもさびしかったよ。お姉ちゃんにもれんかさんにも会えないんだもん。」

泣きながら微笑みながらわたしは言いました。
「でも、アリスは猫神様の子どもだったんだねえ。すごいね。ただのわがまま坊主じゃなかったんだ。」

わたしは精一杯楽しい話をしようと思いました。
だって、これがアリスとの最後の対面になるかもしれないのですから‥。

「でも不安でいっぱいだよ。神様たちは優しいけれど‥」
「大丈夫だよ。アリスならきっと素敵な猫神様になれる!!コフィーお姉ちゃんが保障する!だって、わたしのえさ食べちゃったり、トイレ勝手に使っちゃったりする度胸があるんだもんね」
「うわ~、ごめんなさ~い!」
「ははは‥いいんだよ。それもとっておきの思い出だわ。れんかさんの所にも行ってあげて。人間はこの草原には入れないから‥」

アリスはまた矢のように走って、れんかさんに飛びつきました。れんかさんはアリスを抱きしめました。この温もり。
ラグドール種の毛並みはふわふわで、それだけで人の心を癒します。
「アリス、会えてとってもうれしいわ。」
「れんかさん、本当にありがとう。れんかさんの事、大好きだよ。いつも早朝からたたき起こしちゃって、ごめんなさい。」
「ふふふ、アリちゃんもちょっと大人になったねえ。いや神様らしくなったのかな。いつもいつもお風呂の外で待っていてくれてありがとうね。アリちゃんが来てくれたおかげで、どんな楽しかったか、私を幸せにしてくれてありがとう。」

それからわたしとアリスは光り輝く草原で、追いかけごっこをしました。
陽だまりの草の上で、舐め合いっこをしました。
コロコロ転がりながら、走り回りました。
天上界の草原はどこまでも続き、キラキラと光り輝き、温かく麗しい香りに満ちていました。
バステトもれんかさんも、我が子を見守る母のような慈愛の目で、わたしたちのことをずっと眺めていてくれました。

第28話

2012-05-27 23:36:50 | コフィーの物語(小説)
第28話

「我はその魂を磨いた者にのみ、恩恵を与える。
お主らが、新たな決意をし、命尽きるまで、自らの役割を探し求め、後世にその魂を受け渡す意志があるのであれば、ただ一度だけ、我が娘と会わせることとしよう。その意志はあるか?」

わたしとれんかさんは、宣言しました。
「あります。新たな決意で人生をまっとう致します!」

バステトはうなずくと、後ろを向いて、円を書くように大きく手を回しました。
すると、そこに扉が出来たのです。

そしてバステトの手には、一本の金色の鍵がありました。
扉の鍵穴に鍵を差し込み、回すと、扉は重々しく開きました。


そこには、光り輝く緑の草原が果てしなく広がっていました。
よおく見ると、四葉のクローバーがびっしり生えています。そのどれもが初々しく、風にゆれ、素晴らしい香りを漂わせています。

「ここは猫神の遊び場、赤い鹿神はここには、立ち入れぬ。ただ、この者たちのことは扉の外から見守って頂きたい。そして、れんかよ、お主もここには入り口までしか入れぬのだ。
神聖な猫族の場所であるからな。ただ、娘はここまではやって来れる。今、しばらく待ちなさい。」

れんかさんとわたしは目と目を見合わせ、にっこりしました。わたしたちの懇願がバステトの心を動かしたのです。

すると、はるか彼方から小さな玉のようなものがどんどん近づいてきました。
精一杯駆けてきたのは、アリスでした!
わたしは胸がいっぱいになりました。
思わず、わたしも走って、迎いに行きました。

第27話

2012-05-26 22:29:04 | コフィーの物語(小説)
第27話

わたしたちは、再び、バステトに会いました。
天上界のバステトは、れんかさんの家に現れた時よりも、数倍神々しいオーラに包まれていました。

「何をしにきた?ここは神聖なる場所。人間や動物が来れる所ではないぞ。」

わたしたちは『赤い鹿』のオーラで守られていましたが、それがなければ、胸が苦しくなるような、身がバラバラになるような、そして自我が崩壊してしまうような、空間でした。

わたしは、神の偉大さを心から感じました。
確かに、ここはわたしたちが来るべき場所ではないのです。
けれど、ここにアリスがいるのです。

「わたしはアリスに会いたいのです。」
思いっきりの勇気を出して言いました。
バステトは眉間にしわを寄せ、わたしたちを睨みつけました。
「言うな。それ以上言うと、お主らの身を滅ぼしてしまうぞ。」

背後には『赤い鹿』が心配そうに見守っています。

れんかさんも言いました。
「お願いです。アリスは私たちにとってかけがえのない存在なのです。会わせてください。神の継承者ならば、天界にとっても必要な存在だとは理解します。けれど、せめて少しだけでも。」

「バステト」の顔の毛が逆立ってきました。
もう駄目かもしれない!

わたしは涙を浮かべながら必死に訴えました。
「わたしは、この現世に生まれてよかったって思っています。
それは、れんかさんに出会い、アリスに出会い、愛されたからです。
猫の世界でも能力を隠し、人からも遠ざかり、生きようとしていたわたしです。本当に孤独でした。

けれど、全てを認めてくれた、れんかさんと出会えました。
れんかさんは、いつもわたしに『ありがとう』と言ってくれます。

わたしが素っ気なくても、芸をしてあげなくても、わたしのこと、抱きしめて泣いてくれます。

わたしは自分を丸ごと認めてくれるれんかさんに出会って救われたと思いました。

そして、アリスと暮らし、アリスの良いところも、困ったところも、かわいいところも、全部認められるようになりました。

わたしにとって、アリスは、かけがいのない存在。
わたしに、いろんなことを天真爛漫に振る舞いながら教えてくれたのです。

だから、だから、最後に会って、お礼が言いたいのです。
バステト様、欲は出しません。ひと目だけでもいいから、会わせてください‥!!」
最後は泣き声になっていました。

バステトは、二人をじっと見つめていました。
時がとまったような天上界は、全ての神々がバステトの決断を見守っているかのようでした。