蓮始華(れんしか)

れんか先生からの心のメッセージ

秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝 第6話

2012-06-11 21:03:56 | 秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝
第6話

「ようこそ、霧山君。私が会長の真堂院だ。」

僕は何だか就職試験のような気持ちになってきました。
ただ、小屋には草刈道具や伐採用のナタなど、多分この森を管理する人が使う道具が沢山ひしめきあって、会長と僕が座っている場所意外は、足の踏み場もないような状態でした。

「霧山健吾と申します。よろしくお願いします。」僕は面接試験の時のようにハキハキと言いました。
「まあ、そんなに緊張しなくてもいいさ。さてこの小屋まではどうやってきたのかね?」
「あ、はい。社殿から離れたところで、巫女さんにヒノキと百目のことを教わり、途中で百目と出会いまして、ここまでたどり着けました。」
「ほっほ~。神使天女様と出会ったのか‥それはそれは‥大変お美しいお方であったろう。」
「はい、まるで天女様のようだと感じましたが、もしかすると本物の天女様だったのですか?」
「ふ~む、君は人ならざる者に気に入られる性質を持っているようだな。」

百目といい、天女様といい、そしてこの本部といい、一体何だかさっぱり分からない。

真堂院会長は続けました。
「君の曾おじ意様は山師だそうだね。君にも、山や自然を愛する気持ちが宿っているようだ。そして君は知らないかもしれないが、君の家系はワタリの血を受け継いでいるんだよ。」

えっ?なんで曾じいちゃんのことまで知っているんだ‥僕は不気味にさえ思えてきました。

しかし真堂院会長は話し続けました。
「ワタリとは、山の神を崇め、祈りを捧げ、その偉大なる恩恵を頂戴し、山から山へと渡り歩く人々のことを言う‥。とうに消えうせたと言われているが、現在でもワタリは存在しているんだよ。山の神は、この日本を支え続けた神様だからな、ワタリの役割は大変崇高なものなんだ。」

そんな話の最中でも、パタパタと百目が跳ね回る音がします。
「百目よ、ちょいと静かにしていておくれ。‥いや、この百目はな、先日の百鬼夜行の時、迷子になって私の力で探し出し、天上界へと送ったのだが、人間に優しくされたのが、よっぱど嬉しかったらしく、またこの地上に戻ってきたのだよ。百目は、1000年以上のヒノキの大木から生まれる妖怪でな、君にもそのうち姿が見えることだろう。」

「さて、霧山君、話を戻そう。君は現在、就職浪人をしているそうだね。」
「は、はい‥」何でだ、何でそんなことまで‥

「この天命の会は、いわば秘密結社。会員たちもその全容は分かってはいないのだよ。
私と何人かの役員はいるが、実は政財界とも繋がりをもち、日本を代表する、あまたのスポーツ選手も会員として存在する。いわば、この日本を陰から支えているといっても過言ではない‥。そしていずれの会員にも特殊な能力が備わっている。山の神と通じる者、海の神と通じる者、天上界と通じる者など、全てのものが神々とコンタクトを取り活動しているのだ。そこで、私から君への提案だが、この天命の会に私の「秘書」として採用したいのだがね。まあはっきり言って「秘書」といっても重労働が多い。しかし君には大変向いていると思うのだよ。何といっても私のもとで修業ができる‥私は今まで何度頼まれても弟子は採らなかった。だが、そうも言っていられなくなってきた。この数年の日本をみれば、いかに危うい状態になっているか、君にも分かるだろう。」

僕は何とも突拍子もない話に驚きました。
意味がわからないぞ‥けれど、今ここにいるのは現実だ。
就職ができるってことなのか?

「その通りだよ。君が今思ったとおりさ。就職が出来、働くのだよ。給料もあるし、住む場所も引っ越す。霧山君、こんなにいい話はないのだよ。これは天からの命運なのだよ。」

運命の歯車が音をたてて動き出したようです。僕はその場で、契約書にサインをし、とりあえず3日以内に引越しの準備をするようにと、言われました。
そして、真堂院会長は僕の後ろにまわり、「君をしかるべき場所まで戻そう、目をつぶりなさい」と言って、首筋をとんとん叩きながら呪文のようなものを唱え始めました。

僕はふっと寝てしまいました。首筋を叩いてもらい、大変気持ちが良かったのです。
ぱっと目を開けたときには、原宿のホームのベンチに座っていました。

もう辺りは真っ暗で僕は慌てて山手線に乗り込みました。

秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝 第5話

2012-06-09 23:10:15 | 秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝
第5話

僕はリュックのポケットから軍手を出して、本格的に森の奥へと入る準備をしました。
「百目、君が頼りだ。さあ、本部に僕を連れて行っておくれ」

僕は肩で百目がうなずくのを確認しました。妖怪か、妖精か、はたまた精霊か、人ならざる者であることは確かです。

僕の曾じいちゃんは「山師」でした。山を歩き、鉱脈を探し当てる名人でした。
山を知り尽くしている曾じいちゃんは、時々同じ山道を何度も歩かされることがあったそうです。
そのうちに暗くなり、仕方がないので木に登り、自分の体を紐でくくり付けて寝たそうです。
そんな翌朝は、「狸や狐にばかされちまった」と言って帰宅したとか‥

山や森には不思議な出来事が待ち構えているのです。

「じゃあ、手で行く方向を示してくれよ。」僕は百目の右手を触りました。どうやら真っ直ぐ北へ進めというらしい。僕は百目にも生い茂っている草や木々があたらないように、注意深く手で払いのけながら、まっすくに歩みを進めました。
しばらくすると、また立派なヒノキがありましたが、特に本部らしいき建物は見当たりません。

「ここじゃないのかい?」百目はうなづき、今度は西の方角を指差しました。
「オーケー、了解。さてもう2時55分か‥、あと5分で着くのかな‥まあ、仕方ない。これじゃあ、迷わずたどり着けるほうがよっぽどおかしいよ。」僕は呟きながら、この状況を楽しんでいました。
曾じいちゃんの血なのか、森に分け入る楽しさなのか、冒険心なのか、昔から植物も自然も大好きでした。

しかし、この森はヒノキをはじめ、杉やクヌギ、椎、栗の木、椿など、多種多様な木々が生えている森です。

さて早足でぐんぐん進むと、突然びっくりするくらい明るい場所にでました。
そこには、高い木は一切なく、太陽の光がまっすぐに差し込んでいました。

そして僕はそこで、やっと見つけたのです。古い木造の小さな小屋を!
これしかないだろうな‥「百目、ここで終点かい?」
百目はまた嬉しそうに手足をパタパタしました。かわいいな、こいつ‥
「百目、有難う。案内してくれて助かったよ。」

僕は百目を肩にのせたまま、建物に近づいていきました。扉をノックすると、中から男の人の声がしました。「どうぞ‥」
小屋の中には重厚な椅子に腰かけた初老の男性が一人、「お待ちしていましたよ。15時1分‥。まあ上出来でしょう。」と言いながら、僕を手招きしました。
しかし笑っている、彼の目には鋭い刃のような光が宿っていました。何か奥の奥まで見抜かれそうな目でした。

「さあ、肩から百目を下ろして、こちらに座ってください。」



秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝 第4話

2012-06-07 17:44:04 | 秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝
第4話

「いや、キャンプなんてもんじゃないよな。サバイバルって感じか‥」
しかし、とはいえ、ここは紛れもなく都会の真ん中、救出不可能なんてことはありはしないさ、だってほら、携帯だって通じる‥し‥‥
 
うそ、電源さえ入らない!

「は~」とため息をつきながら、そのヒノキに寄りかかりました。

そのとたん、僕のリュックに何者かが飛び乗ったのです。
「えっ!まさか、猿か?」僕は、必死で振り払おうと手を後ろにまわしてリュックを上下左右にゆり動かしてみましたが、何者かはがっしりとつかまって離れようとはしません。

「一体なにが張り付いているんだ!?」
やがて、その何者かは鳴き声ひとつ立てず、ゆっくりと僕の右肩に這い上がってきました。
背筋が凍りつきました。

ところが、姿が見えないのです。
確かに重さは感じるし、今、僕の首筋をつかんで肩に乗っかっているはずなのに‥

僕は恐る恐る左の手で、肩にいる何者かにそーっと触れてみました。
大きな頭と小さな胴体、手もあるし、足もあります。

その何者かは、くすぐったかったらしく、身をくねらせて声は立てず、息使いだけで笑っていました。
小さな子どものようです。

僕は毎日筋トレもやっていますし、体は鍛えているつもりです。足場は悪いですが、ふらつくこともありません。

「おまえ、もしかしたら百目かい?」

何者かは手足をパタパタさせて喜んでいるようです。

ヒノキ・森・百目・気づきと直感‥
だんだんコマはそろってきたようだな。

秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝 第3話

2012-06-06 18:04:30 | 秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝
第3話

伏し目がちで、原宿の喧騒を抜けると、明治神宮の中は、別世界のように、様々な緑で溢れていました。僕は社殿まで歩きましたが、何も見つけることが出来ず、また更に奥の広場の方へと向かいました。

あまり知られてはいませんが、明治神宮の奥には広大な芝生の広場があり、憩いの場所となっているのです。

その広場に続く道の周囲には、手付かずとも思える森林が広がっています。

はてさて、どうしたものかと考えました。
僕にこのような格好をさせたからには、それなりの理由があるはず。

立ち尽くしている僕の横を、巫女さんが頭をさげながら、足早に通っていきました。

なんてきれいな巫女さんなんだ‥
長い黒髪、整った顔立ち、驚くほど白く透き通るような肌‥この世のものではない、それはまさに、天界から使わされた天女のよう。

巫女さんは僕の横を通り過ぎてから、立ち止まり、こちらに顔を向けて言いました。
「もしかしますと、初のご参会のお方でしょうか?」
僕は答える前に、見とれてしまいました。

「あ、ああ。はい、ええと、天命の会の本部に行きたいのですが‥」

「それではヒノキでございます。」
「はい?」
「ヒノキを頼りに森に行ってくださいませ。あなた様の気づきと直感があれば、百目にも出会えるかもしれせん。どうぞご無事で。」
それだけ言うと、また足早に社殿の方へと立ち去っていってしまいました。

ヒノキ、森、百目‥そして気づきと直感。

この広大な手付かずの森に分け入る、という事なのか‥だからこのような格好をしなければならなかったのか‥
おいおい、待ってくれよ。一体全体どうすればいいんだ。

僕は混乱していました。
もう時計は2時45分を回っていました。

ヒノキ、ヒノキ‥探すしかないか。
僕は農学部の学生でした。ですから植物、樹木の知識は持っていたのです。

「やれやれ、この中から‥」
自分を落ち着かせるために、目を閉じて深呼吸をしました。
「あれ?」
かすかに感じるヒノキの香り‥「あるぞ、あるぞ、この近くだ。」
僕は自分の嗅覚を頼りに森に分け入りました。
足元は下草で覆われ、古い木々の根っこに足がとられそうになりました。

顔にあたる草を払いのけながら、僕はやがて一本のヒノキの木に辿り着いたのです。
それは見事な大樹でした。ここまで来てしまうと、人間の気配は全くありません。
原宿の駅の脇だというのに‥僕は山奥に一人キャンプにでも来た様な気持ちでした。


秘密結社「天命の会」鳳凰伝 第2話

2012-06-04 18:01:24 | 秘密結社 「天命の会」 鳳凰伝
僕は、当時いわゆる「就職浪人」をしていました。
折からの不況で、なかなか目的の企業からは、内定がもらえず、自分の人生がどのように転がっていくのか、目途もたたない不安な日々を過ごしていました。

僕は「天命の会」からの手紙がなんだか嬉しかったのです。
何といっても、手にするのは「不合格」の通知ばかりでしたから‥

時間は有り余るほどあった僕は、デパートの企画物産展のアルバイトを時々しながら、アパートに一人篭る事が多くなっていました。

「行ってみるか‥」そう思えたのも不思議ではなかったのです。

ただし、手紙には最後にこんなことが書かれていたのです。
「場所:明治神宮 服装および靴:登山に適したもの」

明治神宮といえば原宿にある、あの広大な神社ですが、そこに山などないはず‥
意味が分からない‥しかも集合場所さえも書かれていないのです。

けれど、とりあえず家の押入れから、昔使った登山用のズボン、汗を吸いやすい素材のTシャツと、雨も想定してウィンドブレーカー、そして靴箱の奥に眠っていた登山靴を揃えました。

「時間は3時かあ~」原宿の駅前で、登山の格好をした僕を想像してみました。
思わず頭を抱えながらも、これから何かが起きる予感だけは僕の胸を高鳴らせていました。
「冒険の始まりかもな。」
6畳のアパートで一人、つぶやいてみました。