伊勢一風花 落柿の音

もう一人の自分

オオキツネノカミソリ

2009-07-31 | 
 ヒガンバナの仲間では最も早くに花を咲かせる.林床,林縁にある植物で,人が作り出した里山に咲く花だ.キツネノカミソリというおとぎ話のような名前も,人の近くにあった植物ならでは.葉の形が剃刀に似ているからと本には書かれているが,それほど似ているようにも思えない.ヒガンバナと同じく花の頃には,葉はない.ヒガンバナは秋に葉を出すが,キツネノカミソリはナツズイセンなどと同じで春に葉を出す.
 木漏れ日の下の温かい橙色の花は遠くからも良く目立つ.群れて咲く様子は,おとぎ話のキツネの家族のようだ.

オニユリ

2009-07-29 | 
 強烈な印象の花だ.子供の頃庭に咲くオニユリを見て,何か恐ろしさを感じていた.花弁全体にある濃いオレンジの斑点が,どこか病的で,葉のつけにある紫のムカゴにさえ,何かたくらみが在りそうに思えた.
 古くから食用として人のそばにあったユリで,それが野に逃げ出したため,今はいたるところに見られる.梅雨の合間の日差しに輝くオニユリ.子どもの頃庭で見上げた姿とは違い,健全な若者のように溌剌としていた.

キキョウ

2009-07-27 | 
 小学生の一時期,図書館にあった戦国時代の城シリーズに凝っていた.その中で明智光秀の桔梗紋を知る.清和源氏の由緒ある家紋らしいが,その頃テレビで織田信長を見ていたボクは,明智光秀にすっかりマイナスイメージを懐き,庭に咲くキキョウもまた何やら不吉なものに見えていた.
 先日のこと,お花をたしなむ優しい女性からキキョウの蕾を潰すとぷくんと音がしますよね,と言われ驚いてしまった.確かに蕾は風船のようで,英名はバルーンフラワーだ.だけど,子どもの頃とは言え蕾を潰すとは思いもよらなかった.この不思議な驚きをどう伝えたらよいか分からず,意味不明な笑顔でそうなの?と答えるボクが居た.

ゴマの花

2009-07-25 | 
 開けゴマ,これほど意味不明のフレーズが世界中に広がっているのも珍しいのではないか.子供の頃,開けゴマのゴマがお赤飯に振りかけるゴマ塩のゴマにどうしても結びつかず,違和感をもっていた.
 ゴマはインドからアフリカの原産らしいが,その柔らかな草姿は,暑いところの植物のようには見えない.薄緑の葉の間に咲く薄いピンクの花は,どこか弱々しく,儚げでもある.毎年ゴマの花をみるともう梅雨明けかなと思う.ゴマは花後の乾燥にめっぽう強く,暑い夏の間に実を太らせる.外見では計かれない強さがある.こんな女性は魅力的だ.

ドラゴンフルーツの花

2009-07-23 | 世界
 いつか写真を撮ってやろうと狙っていた.友人Kの温室に大きなドラゴンフルーツの株がいくつもあるのを見つけ,これはそろそろ花が咲くぞと待ちかねていた.出張から帰って久しぶりに彼の温室を見ると,驚いたことに花が一つ咲き終わっていた.幸いまだ大きな蕾は沢山あった.夜8時過ぎ,咲いているよと電話をもらい,急いで出かけた.期待通りの大きく立派な花だ.子供の頃,雑誌の写真で見た三角柱の花よりやや厳つい印象だ.サボテンの接ぎ木の台木に使う三角柱と,ドラゴンフルーツは同じ属の植物なのだ.
 いかにも森林性サボテンの花らしく,豪華でしかもどこか艶めかしい.数時間後,朝には力なく萎んでしまう.いっぺんにサボテン少年に戻ったボクは,いつまでも闇に浮かぶ白い花を眺めていた.

実りへ

2009-07-21 | 
 ナシの花は4月下旬に満開を迎える.樹園には,受粉のために種類の異なるナシの樹が混植されている.春のわずかな時間,花の間をハチが忙しく飛び回る.受粉のために飼われてるミツバチたちだ.5月下旬,今度は多くの人が棚下に入り摘果する.そして梅雨の合間の日差しの下,緑濃い葉の合間に秋の実りへの準備は着々と進んでいた.
 先ほどまで激しい雨が地面をたたいていたが,雲が薄くなり薄日が差してきた.ボクは樹齢30年を超えるナシの成木園の棚下にしゃがんで,植物,昆虫,ヒトの合作を眺めながらしばし楽しい気分に浸った.

ハイユニ

2009-07-19 | ヒト
 昭和40年代初めのことだ.小学生だったボクは同級生で文房具屋の息子のマルコから半分以下の長さになった使いさしのハイユニを30円で買った.マルコは鉛筆がハイユニだったばかりか,ハイユニのケースを筆箱として使っていた.その頃ひと月の小遣いが150円だったボクには,とても1本100円のハイユニは買えなかったのだ.そのなめらかな書き味は,使いさしとはいえボクを十分満足させた.家に帰って自慢すると2つ上の姉はバカじゃない,とそっけない対応だった.なにかとても悪いことをしてしまったようにボクは意気消沈し,親にはこのことを内緒にした.
 あれから40年以上たつ.今は何のためらいもなくハイユニをケースで大人買いして使っている.あの時親に内緒にしておいてよかった,と苦笑い.

ハス

2009-07-17 | 
 ボクの通った高校はレンコン畑に囲まれていた.初夏の頃,窓から周囲に広がる蓮田を眺めると,風に煽られてハスの葉が揺れるたびに,広い蓮田に波が起きたように見える.ハスの葉は表が濃い青緑だが裏側は白く,風で葉がひっくり返るとさざ波のように見えるのだ.近くで見れば厳つい大きな葉だが,遠くから見ているとはらはらと揺れる緑の小片の様で,蓮田を渡る風が見えるようでそれは爽快な眺めだ.
 まったくもって面白くなかった高校生活だったが,蓮田の眺めだけはとてもすがすがしい思い出,遠く過ぎ去った記憶だ.

アガパンサス

2009-07-15 | 
 アガパンサスを知ったのは大学生の頃だった.北陸で育ったボクは,アガパンサスの様な冬でも葉をつけている球根植物には馴染みがなかった.いや昭和40年ころには,今ほどアガパンサスがどこにでも植えられていなかっただけかも知れない.ブルーの軽やかな花姿は夏前の日差しによく似合う.北タイでは,アガパンサスは人気の花だという.どうして?とタイの友人に聞いたが,はっきりとした理由は分からなかった.
 雨後のしっとりした休日の朝,強い日差しが差し始めている.庭のアガパンサスを眺め,ボクはタイで過ごした遠い日を思い返していた.

カラスウリ

2009-07-13 | 
 子供の頃,早朝カブトムシを捕りに行った帰り,山道を下っていて白いクモの巣のような花に出会った.なんと弱々しい花だろう.カラスウリだと知ったのはずいぶん後のことだ.カラスウリが目につくようになるのは秋,しかも蔓にぶらさがる赤い実がボクの知っているカラスウリだった.種子が大黒さんの形をしていることを祖母から教わった.
 今の職場にカラスウリが生えている.毎年決まって同じ木の枝に蔓が下がり,花が咲く.不思議だなと思っていたらなんとカラスウリは多年草,地下に大きな塊根をつくるのだ.そんなことも知らなかったかと笑われそうだが,あのかよわい花と秋の枯れ蔓にぶら下がる実からして,てっきり1年草だと思っていた.思い込みとは,恐ろしいものだ.

ラムズイヤー

2009-07-11 | 
 一度やると癖になることがある.この植物はまず触ってみることだ.初めての人は何度も触ってみて,その不思議な感触を確かめることになる.ラムズイヤー,見た目ではない,手に触れた感触がこの名前を忘れ難いものにする.
 シソ科の宿根草,初夏に茎を伸ばしその先に目立たない花を着ける.この花序を構成する苞葉も同じく優しい手触りだ.

アメリカノウゼンカズラ

2009-07-09 | 
 種苗商のカタログを見て赤花のノウゼンカズラと思い,庭に植えたのがアメリカノウゼンカズラだった.樹の姿はよく似ているが花序は短く小花はラッパ状であまり開かない.面白いことに,根が伸びた先々から芽を出してくる.しかしそれは狭い我が家の庭ではちょっと厄介ものだ.ある夏のことずいぶん離れた所から出た小さな芽に除草剤をかけたら,大きな本体の半分が萎れ始めあわや枯れかけた.あれほど生育旺盛な植物が意外ともろい,不思議なものだと妙に感心してしまった.
 今年もたくさんの赤い花が元気に咲いている.家を建ててもう20年近くすっかり庭の主になっている.

ノウゼンカズラ

2009-07-07 | 
 古い日本家屋の屋根にノウゼンカズラがかかり,明るい橙色の花を咲かせていた.しなやかな蔓とその先に跳ねるように咲く花が古い家にとても似合っていた.ずいぶん昔,子供のころの記憶だ.ボクの中ではノウゼンカズラはすっかり和の植物なのだが,中国原産の植物.渡来はかなり古いらしいが、これまであまり積極的に品種改良されていないようだ.元の植物が十二分に美しいからだろうか.
 梅雨の中休み,強い日差しに咲くノウゼンカズラは確かにどこか大陸的雰囲気を醸し出している.彼らはもうずいぶんと長いこと日本を眺め続けている.

親子

2009-07-05 | ヒト
 ロボットにも親子があるだろうか.高い人工知能を備えたロボットといえどもある設計書通りに作られる.その設計書通りに作業を実行するロボットも製作可能だろう.あらかじめ子供ロボットにインプットすべき情報が親ロボットに備えられていれば子育てをするかもしれない.あとはロボットが自己増殖を開始する.もし生命の本質が表現型なのではなく,DNAに書かれた情報こそが本質であるとしたら,いつか情報という本質はDNAからタンパクに翻訳しなければならないややこしいシステムに乗っかっているのをやめるかもしれない.
 喜寿を迎えた母は,孫のいるボクにおこずかいを送ってよこす,いくつになっても子供は子供だ.こんな愛情深い表現型をもたらすDNAという情報はいつまでも人に乗かっていてほしい.

サルビア グアラニティカ

2009-07-03 | 
 印象的な青だ.サルビアといえば赤一色だと思っていた頃,植物園で株もとの名札のサルビアというのを見て,ずいぶんと違和感を覚えた.サルビア属の植物は多様な花色があり,ガーデニングブームにのって多くの種が紹介された.ブルーの花を咲かせる種だけで10種以上もある.中でもこれがもっとも青い.メドウセージと呼ばれているのは誤用らしいが,花の世界は名前の誤用が多くやっかいだ.
 梅雨のころ鮮やかなブルーは,濃い緑の庭に映える.青いバラやカーネーションが話題になるが,こんな素敵なブルーがあればもう十分なのにと思ってしまう.