Three frogs which smile.

酒飲みは奴豆腐にさも似たり
初め四角であとは ぐずぐず

ひなたのともだち

2006-01-16 | 日々の種
ただ黙っていることが
今のあたしにできること


歩くことが不自由だったのにチビは歩くことが好きでした。
ちょっとの段差にもつまずき転び、泣いてしまうのに何かが呼んでいる気がして。
鳥もおひさまも自転車のベルも、ブランコが軋む音さえも自分に話しかけているような気持ちになりました。
チビには兄弟がいませんでした。
おうちには優しいおかあさんがいましたが、身体が弱くいつも眠っていました。
チビの住んでいる所は格子戸が多く、窓の位置も低かったから背が低くても家の中が見えました。
「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」
目が合えば、それが知らない人でも外と家の中で挨拶をします。
近所のおじさん、おばさんはチビを見かけるといつも声をかけてお菓子やみかんをくれます。
チビはそれをおかあさんの作ってくれた釣りズボンの大きなポケットに入れて公園に行きました。

少し暖かくなってきた頃でした。
ひなたぼっこをしているおばあさんが公園のベンチに座っていました。
それは朝だったり、昼だったり。
おばあさんはいつも一人でおひさまの光につつまれて、走り回る子供たちを眺めていました。
チビはいつもおばあさんをみているようになりました。
チビとおばあさんはいつしか挨拶を交わすようになりました。
そして隣に座るようになり、一緒にお菓子をたべ、一緒に公園を眺めるようになりました。
チビは拙い語彙でおばあさんに話しかけます。
近所に住んでいること。息子さんご夫婦と一緒に居ること。おじいさんはもういらっしゃらないこと。
ぽつんぽつんとやさしく、まるでたんぽぽの花が咲くように話すおばあさんでした。
おばあさんは左手の薬指に紫の石の指輪をしていました。
細くて皺がありましたが暖かくて子供には大きい綺麗な指でした。
チビが「どうぞ」とお菓子を差し出すと「はい、ありがとう」とおばあさんは飴をとります。
おばあさんからも「どうぞ」とみかんをもらうとチビは「ありがとうございます」と笑います。
おばあさんとチビは毎日少しずつ二人の時間を重ねていきました。
同い年の友達とは全く違った距離感と、安心感がとても好きでした。
おばあさんが話すたびにおひさまを反射してキラキラと光る紫のひかりを眺めているのが好きでした。
「指輪、きれいだね」とチビがいいました。
「これはね、亡くなったおじいさんがおばあさんにくれたものなのよ」
おばあさんは大切そうに指輪を撫でました。
「とてもきれいだね」
チビはもう一度いいました。

ある日、チビしは引越しをすることになりおばあさんとは逢えなくなりました。
引越しをする前の日にチビはいつもの公園に行きそのことを伝えました。
近所の友達と離れるよりも何か寂しく、もう逢えないような気がしていました。
するとおばあさんはチビにハンカチを出すように言いました。
チビがハンカチを差し出すとおばあさんはそこに紫の指輪を乗せました。
「あたしの小さなお友達。お友達のしるしにこれをあげる」
チビはびっくりしました。もちろん貰うことなんてできません。
かぶりをふって指輪を返すともう一度おばあさんは言いました。
「一緒に過ごした時間はこの宝石よりも綺麗だったから」
チビにはあげられるものが無かったけれど大きな声で言いました。
「ありがとう。バイバイ。またあおうね」

チビは大きくなって、もうチビではなくなっていましたが、時々ふとその指輪を眺めてはあのチビだった頃のキラキラした時間を思い出します。
大きくなって分かった事はもうおばあさんに逢うことは出来ないだろうと言うことと、
その指輪の石はアメシストだったこと。
それはチビの誕生石だったこと。
もしかしたらおばあさんも2月生まれだったのかもしれません。

アメシストの宝石言葉は「誠実、心の平和」だそうです。
名前の由来は古代ギリシャ語でa-methu「酒に酔わせない」という意味らしい。
ギリシャ神話の中にも出てきます。
どっちかというと毎日酔いっぱなしのおいら。
アメシストに悪さをした酒の神「バッカス」の方に近い気がします。
水晶に葡萄酒をかけて色がついたと言われたアメシスト。
今夜はもらいもののワインとチーズにしようかなぁ♪


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (クラシマン)
2006-01-16 21:01:12
温かいね。
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え~と (ワン太郎)
2006-01-16 23:19:30
まるで絵本を読むようだ。



‘チビ’って、あなた?



とある誰かへのメッセージ?
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大きくなったチビへ。 (John Doe)
2006-01-17 02:21:18
なんだかね、すごく胸が締め付けられる。

歳とって涙もろくなってるのは確かだけど。

なんてコメントして良いのか解らないけど。

なんて言うか、一票入れておきたくて。

ちゃんと大事に取ってあるんだね。

おばあさんから伝えられたこと。

すごくいいな。
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バッカスは (LOVIN)
2006-01-17 03:35:17
お芝居や歌。、芸術全般の神様でもある。



デュオニュソス(バッカス)劇場とかあるわけだからね。ピッタリじゃん!



カラオケか!カラオケ!(笑)
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そだな (クラシマンへ:あくあ)
2006-01-17 12:42:27
あったかくなってきたね。

たまにはよかろうに(笑)
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そです (ワン太郎さんへ:あくあ)
2006-01-17 12:43:40
「私」としてしまうと・・・

恥ずかしい(笑)



きっと昔を振り返ると誰にでもいろんなちょっとした出会いはあるはずで、そいう鍵に「チビ」がなれたらいいなぁと思ってます。
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そだね (John Doeさんへ:あくあ)
2006-01-17 12:46:08
なんかふと思い出す場面や言葉があるんだよね。

記憶の糸をたどっていくと昔見たものが出てくるよ。



忘れていたことでも、とても大切なこともあって。

今になって考えると意味が分かったり。

それでいいんだと思うんだよね。



逢えない友達でも繋がっているんだって思うよ。
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そっか! (LOVINくんへ:あくあ)
2006-01-17 12:47:22
カラオケか!

芸術面にはとーんと暗いよ。



こないだは面白かったねー。

また行こうね。
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誕生石。 (フジコ)
2006-01-17 15:14:20
フジコの誕生石もアメシスト。

水晶に葡萄酒をかけたのか。

そう思うと舐めたくなるほど愛おしい(笑。



子供の頃は

紫の誕生石なんてイヤだって思ってたけど

今となっては、なんだか落ち着く石になりました。



あくあんぬにとっても

落ち着ける石のひとつかな?w
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一緒♪ (フジコしゃんへ:あくあ)
2006-01-17 15:24:28
そいえばフジコしゃんもともちーも2月だったね(笑)

そしてうちらって並んでるんだったよね・・・



でほ?舐めたくなるほど愛しい気がしてきたでしょう?ギリシャ神話ではバッカスのペット?に追われたアメシストを護るために月の女神がアメシストを水晶に変えたの。

その美しさにバッカスは改心して葡萄酒をかけたら紫に変わったっていう話よ。

紫ってカットによってはとても優しい感じがするよね。

おいらはあまり宝石は持っていないけれど三十路の記念に何か買おうかなぁ・・・

フジコしゃんは何か持ってる?
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