市立ノアの方舟

2016-09-27 | つれづれ日記

シュウカイドウを見かけるようになりました

 

「市立ノアの方舟」(佐藤青南・せいなん)を読む

 

ノアの方舟?

と思ったら野亜(ノア)市にある動物園を舞台にしたお仕事ものだった

 

動物園に異動して来た園長の磯貝は

職員たちの冷たい視線の中で就任の挨拶をする

職人気質の職員たちから見れば園長はシロウトのお飾りに過ぎないのだ

でもシロウトだからこそ見えるものもあった

来園者の少なさに意欲を失いかけている職員たち

お年寄りの来園者が多いのにベンチが少ない

食堂の食事が不味い

累々たる赤字・・・・

解決策を考えはじめる磯貝に職員たちの反応は冷たい

 

そんなある日

毎週決まった時刻に老象のノッコが暴れる原因

を推理して取り除いた磯貝に

職員たちの見方も変わってくる

 

磯貝は動物園の改革には

職員たちが充実感を持つことが第一歩だと考えるようになる

そこで

「動物たちを幸せにする取り組み」園内コンテストを開くことにする

 

ホッキョクグマを楽しませるために

餌を氷の中に閉じ込めて与える作戦は成功するのか?

ドール(イヌ科の動物)の餌をラジコンカーに載せて動かして

狩りの本能を発揮させる作戦は成功するのか?

シマウマ舎に鏡を設置して

たくさんの仲間がいるとシマウマたちに思わせる作戦は成功するのか?

 

職員たちが懸命に知恵をしぼる陰では

動物園の廃園の話が着々と進んでいた

・・・・

 

すっきり爽快です

 

 


利き蜜師物語 銀蜂の目覚め

2016-09-18 | つれづれ日記

今年は十五夜の月が見られました

 

「利き蜜師物語   銀蜂の目覚め」(小林栗奈)を読む

 

蜂蜜の品評会で最高賞「天の雫」を受賞する村

(よい花場があるばかりではなく

蜂飼いたちに心を尽くした世話をされている満ち足りた蜜蜂たち

が住んでいる)

そんな村の片すみに

村人たちの尊敬を集める若い利き蜜師・仙道は

守り蜂の月花と

12才になる弟子のまゆ(マユラ)と

ひっそりと暮らしていた

 

ある冬のはじめ

「東の地で銀色の悪しき風が吹いている」

という情報が利き蜜師仲間からもたらされる

 

まるでそれがきっかけのように

長い間音沙汰のなかった友人のカスミから手紙が来る

カスミは大きな養蜂場のある屋敷にたったひとりで住んでいた

 

カスミと仙道は若いころ

(若い仙道の若いころ?)

サフィール学園で

ともに蜂蜜について学んだ間柄だった

 

カスミの依頼と「銀色の悪しき風」とは関わりがあるのか

それはサフィール学園時代の出来事と関わりがあるのか

「どこまでも孤独に生き、いつか許されるなら死んでいく

そう思っていたのに・・・」

とつぶやく仙道の過去に何があったのか

まゆの「絶望にとらわれることのない健やかな心」が

仙道とカスミをどう変えていくのか

銀色の悪しき風の正体は何か?

・・・・

謎に次ぐ謎に

ついつい一気読み

 

作品の芯にある筆者の「磨き上げられた健やかさ」に

勇気づけられます

 

 

 

 

 


人類進化の謎を解き明かす

2016-09-12 | つれづれ日記

残暑が続いています

 

「人類進化の謎を解き明かす」(ダンバー)を読む

 

人類の進化・・・と聞くとついつい手が伸びる

惹句が「人類が生きのびたのは「時間の使い方」がよかったから」となればなおさら

時間の使い方?

現代のビジネスマンではなくて?

 

筆者はまず1日の時間の使いみちを

摂食(食べる)

移動(食べ物を探す、採る)

休息

社交

に分けた

人類が進化するためには

どれもがもっと増えたいたいとせめぎ合っていたという

 

まず脳と体を大きくするためにはもっと食べることが必要だ

となれば移動と摂食の時間を増やす必要がある

 

そこで人類は脚を長くして移動の時間を短くすることに成功した

これで広範囲に動き回ってたくさんの食料を手に入れられるようになった

でも

木ノ実にしろ獣肉にしろ根菜にしろ大昔の食物は食べるまでの処理に時間がかかるし(摂食の時間に数えられている)

消化にも時間がかかる

そこで火を使って食物を処理することによって消化の時間を短縮した

 

火は摂食の時間を短縮したばかりではない

社交の時間も短縮した

大昔の人類に社交がそれほど必要なの?と不思議に思うけれど

集団が大きくなればなるほど安全になる代わりにストレスは大きくなるので社交の時間は長くなる

のだそうだ

社交は、はじめはグルーミング(毛づくろいなど)だったので1度に1人にしかできなくて時間がかかった

そのうちに笑いも社交に使われるようになった

でも(言葉なしで)笑いを共有できるのは1度に3人くらいまで

(意外に少ない)

さらに歌ったり踊ったりすることで対象人数は飛躍的に増えた

ので社交の時間はますます短縮された

 

火は?

火は明かりとなることによって分母となる活動時間を増やした

それとともに

火の周りで語ることが社交の役割をした

毛づくろいは1度に1人にしかできないが

語ることは何人をも対象にできるし

広い場所もいらない

(これが物語の起源だという)

 

(ちなみにアウストラロピテクスの1日の時間の使い方は

摂食・・・43%

移動・・・18%

休息・・・36%

社交・・・10%

で合計107pになり、時間が不足気味だった)

 

1日の時間の使いみちが

それぞれ何%になるか調べてみたら面白いかもしれない

と思いました

 

 

 

 

 

 


雪に生きた八十年 ②

2016-09-07 | つれづれ日記

「雪に生きた八十年」(猪谷六合雄)を読む

 

家を作って、着るものを縫って、靴下を編んで・・・

ついには自分で車の内装工事をして

その車に住んでしまう

 

猪谷六合雄が車の運転免許を取ったのは70才の時で

それから3代の車に住む

車の中には持ち物全部を収納しておくストーッパー付き引き出しと

コンロと流しとベッドと執筆用の机があって

なんと無いのはお風呂と冷蔵庫だけ

なのだそうだ

 

何冊もの本を出版し

現天皇や皇太子のスキーの指導もし

スキー学校を開き

海外でスキーをした話も出てくる

 

そんな中で

車住居を停めさせてもらった知人の工場地の道を直したことがいきいきと語られている

のが興味深い

「スキーシーズンが終わって帰ってみたら工場までの悪路が舗装されて見違えるようにキレイになっていた

ところが曲がり角が鋭角になっていて通るたびにハラハラしていた

それで私はブロックのかけらを拾ってきてその間に砂利を入れて溝を埋める作業をしはじめた

何となくそれがおもしろいので

毎朝泥だらけになって一週間ばかりその作業を続けた

毎日小一時間ほど働いて

帰ってきて手を洗い汗を拭いて一休みすると

すっかり朗らかな気分になるのだった

私はこの辺りに何か老境の生き甲斐といったものの片鱗の現れを見たような気がした」

 

今年こそは猪谷式靴下を編んでみようかと思いました

 

 

 

 

 


雪に生きた八十年 ①

2016-09-05 | つれづれ日記

「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」という本を読んでいたら

猪谷六合雄のことが出ていた

 

そういえば

「暮らしの手帖」に猪谷六合雄の考えた靴下の編み方が載っていたのを読んで

編んでみたいと思っていた

ことをふと思い出して

「雪に生きた八十年」(猪谷六合雄)を読む

 

(猪谷六合雄は冬季オリンピックのスキーで銀メダルになった猪谷千春の父)

猪谷六合雄は人について学んだわけではないが

家を作ったり直したりすることが得意だった

 

戦時中「スキーができて」「千春が学校に通える」

という2つの条件を満たす場所として

黒石 (青森県)から16kmほど入った要目という所の空家を直して住んだ

車の入る所まで荷物を運んで預かってもらい

それを少しずつ背負って家まで運んでは暮らしを整えていく

という暮らしも楽しげに書かれている

「重い蓄音機を背負い上げた晩は

暗い石油ランプの下で

久しぶりにシンホニーなどを聞いていると

それが前の谷川のせせらぎの音と調和して

時局を忘れるくらい楽しい気がするのだった」

 

大工仕事も得意だったが縫い物や編み物も得意だった

温泉を引いて作った風呂は石油を節約するためか暗がりで入るのが常だったが

暗い中で着替えをしてもやりなおさなくてもいいように

後ろ前なし裏表なしのズボンや上着を縫って

普段着として愛用していた

 

スキー用の靴下もすぐ穴が空いてしまうので

10年ほどかけて編み方を工夫したものを作り出したりもしている