本の声を聴け

2016-05-31 | つれづれ日記
夏には
作った食べ物を冷蔵庫に入れる時に
冷蔵庫の中でさらに保冷剤で冷やすといい
と荻原魚雷が書いていた
暑くなってきました

「本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事」(高瀬毅)を読む




幅充孝は
ブックディレクターつまり
本を選んで並べる=本棚をつくる
という仕事をしている
宮下奈都が本ばかり読んでいる夫を見て
「本読み屋さんという仕事があればいいのに・・・」
と思ったその本読み屋さん+αの仕事なのである
(幅は年間200冊ほどを読むそうだ)

昔からこういう仕事があったわけではない
幅がつくった仕事なのだ

これまで幅に注文したのは
TSUTAYA
東北大工学部のブックカフェ
千里リハビリテーション病院
美容室SARA
スルガ銀行ライブラリースペース
ブルックリンパーラー(レストラン)
羽田空港のお土産屋さんトーキョーズトーキョー
アディダス
・・・・

以前だったら大型のスクリーンがあったような壁面に
この頃は本棚が作られるようになってきているという
(スクリーンの画像には入っていくことはできないけど
本棚には手を伸ばせるからだろうか)

以前「パン欲」という本を読んだとき
名のある職人が焼いたパンも
工場でベルトコンベアーに乗って流れているようなパンも
同じように「わくわくと食べてみる」フラットさに感心した
幅の選書はそんなふうだ

例えばトーキョーズトーキョーには地域ごとに3冊の本が選ばれている
(10冊では旅立とうとするわくわくした気分には重すぎるのだそうだ)
九州は写真集「筑豊のこどもたち」
山陽は写真集「ひろしま」
東北は「風の又三郎」
東京は「池波正太郎の銀座日記」と寿司だねチョロQ
といったぐあいだ
重いものと軽いもの
文学の隣に写真集
・・・・

幅は書店に来ない人のためにこそ棚をつくっている
ひとと本との出会いを
願っているのだという

















暗幕のゲルニカ

2016-05-28 | つれづれ日記
5月らしい晴れた日が続いています
おりしも
オバマ大統領の広島訪問のニュースが流れているなか

「暗幕のゲルニカ」(原田マハ)を読む




暗闇のゲルニカ?
ではなく暗幕の?
暗幕?

1937年のパリ
スペインのゲルニカ空爆のあと
「ゲルニカ」を描くピカソの物語と
2001年のニューヨーク
9.11で夫を亡くしたニューヨーク近代美術館のキュレーター八神瑤子の物語が
交互に語られる

少女のころ
ニューヨーク近代美術館で「ゲルニカ」を見て強く心を揺さぶられた瑤子は
ピカソの研究を生涯のテーマとして取り組むようになる
(その後、「ゲルニカ」はスペインに返還された)
ニューヨーク近代美術館のキュレーターとなった瑤子は
9.11で夫のイーサンを失ってしまう

そんなある日
「ゲルニカ」が話題に上る出来事が起こる
国連安保理で国務長官の記者会見の背後に映った
「ゲルニカ」のタペストリー(ピカソの監修の元複製されたもの)に暗幕が掛けられていたのだ

おりしも瑤子が企画していた展覧会のタイトルは
「ピカソの戦争:ゲルニカによる抗議と抵抗」というものだった
瑤子に取材が殺到する
国連の「ゲルニカ」に暗幕を掛けたのは誰なのか?
ニューヨーク近代美術館にスペインは「ゲルニカ」を貸し出すのか?
瑤子の企画展に「ゲルニカ」は現れるのか?

そこに
20世紀のパリと21世紀のニューヨークをつなぐ人物が登場する
スペイン屈指の名門パルド・イグナシオ公爵だ
戦争によって恋人と引き裂かれた青年として現れたパルドは
戦時下のパリでピカソの支援をし
今はスペインに住んで政界に大きな影響力を持つ人物になっていた

瑤子はパルドに会うためにスペインに行く
パルドだったら「ゲルニカ」を動かせるかもしれない
・・・・

祖母の昔話が
何度聞いてもまた聞きたくなるものであるように
既にある「ゲルニカ」の物語を「読みたいもの」にする
筆者の語りの力に魅了されました
キー・マンのパルド・イグナシオも架空の人物だというし・・・









ヤマユリワラシ

2016-05-25 | つれづれ日記
静かな雨の日です

「ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞」(澤見彰)を読む




(供養絵額は
死者を供養するために、家族や友人達によって寺院に奉納された板絵である
江戸時代末期から明治時代にかけて遠野地方を中心に盛んに製作された)

遠野という地名ははアイヌ語の
湖(トー)と丘(ヌップ)=トーヌップからきているという
その湖と丘陵の地遠野には
今も供養絵額が223点も残っている


その供養絵の来歴のものがたり

外川市五郎は
乱心して家族を惨殺した兄に替わって家督を継いだものの
いまだ独り身で
お役目以外は絵ばかり描いている変わり者と言われていた

藩は先ごろの一揆を
一揆衆との約束を全部破って無いことにしてしまうという収め方をしたばかりだった

ある日
市五郎は赤い山百合を求めて行った村で
一揆衆の遺児の桂という少女と出会い
引き取ることにする
少女は監禁されていたこの3年
絵を描くことによってかろうじて正気を保っていたのだった
身を潜めるために桂香と名付けられた少女と市五郎は
依頼された「死者の姿を偲ぶ絵」を一緒に描くようになる
生前の死者の様子を聞き
好みの調度や存在しなかった妻や子を描き入れた
「あの世で幸せに暮らしているひと」の絵
絵はたちまち評判になり
注文は殺到し
2人は絵三昧の充実した日を送るようになる

でも
市五郎には悩みがあった
一揆の残党から
先の一揆の首謀者の弥五衛の絵を頼まれていたのだ
残党はその絵を旗として掲げて新たな一揆を起こそうとしている
自分は絵を描いているだけでいいのか
一揆を告発すべきなのか
ともに戦うべきなのか・・・

悩んだ末に市五郎は一歩を踏み出すことにする
・・・


供養絵額への熱を
抑え気味の文章の下に潜めている
ところに好感が持てます







かわいい夫

2016-05-19 | つれづれ日記
題名に抵抗がある
表紙もみつはしちかこだし(みつはしちかこ自体に抵抗はない)
でも夏葉社だから(ブランド信仰的なもの)
それに「くまくまちゃん」の作者の高橋和枝も薦めていることだし・・・

「かわいい夫」(山崎ナオコーラ)を読む



エッセーです

筆者の視点はまことにフラットで
どうやったらこんなにフラットになれるのだろう
と思うばかりだ
(自分の偏見値をあぶり出される気分になるくらい)

筆者は言う
「大黒柱はわたしだ」
(筆者の夫さんは書店員
結婚した時の貯金は4万円だったそうだ)

「妻子のためにもっと稼ごうなんて思ってほしくない
自分がしたいから仕事をする
その結果お金がもらえたらありがたい」

「タフな人はもちろん立派だ
ただ、そうでない人もこの世に存在するということは
タフではない人も世の中から必要とされているに違いない
わたしは
弱い作家が弱い話を書くことが仕事になる幸せな時代を噛みしめたい」

「世界で一番素敵な本なんて読まなくていい
たまたま出会った本を、自分なりの読み方で読み込んでいく方が
ずっと素敵な読書になる」

「情報とか、人脈とか
自分にプラスになるものを得るために人間関係をつくる時代は終わった」

「売れない本だって
少数派の肯定のために世の中に必要だ」
・・・・


(筆者は最近本が売れていないらしい
他は読んでいないけれど
「ネンレイズム」はよかった
と思う
しかしこの題は・・・)










真犯人

2016-05-16 | つれづれ日記
ツリガネスイセンが咲きました

「真犯人」(翔田寛)を読む




「警察もの」というと地味なようだけど
意外にも
ページを繰る手が止まらなくなるミステリ

昭和49年に起きた幼児誘拐殺人の時効が1年後に迫った昭和63年
新たな捜査班が立ち上げられる

事件は
引っ越したばかりの家から5才の男の子が姿を消し
身代金を要求する電話が3回
その後身代金要求の手紙が2回
それきり連絡は途絶え
23日後に多摩川に遺体が浮かんだというものだった
事件は解決しないまま
時効まであと1年という時を迎える

新しい捜査班に配属されたのは班長の重藤の他6人
胡麻塩頭の小此木と
巨漢の白石は
被害者の父親で中古車販売業の須藤勲を調べていく
若い間島は
ベテランの辰川と組んで被害者の母親と姉、祖父、を調べることになる
勝田と庄司の組は
新たな容疑者候補を割り出すことになる

なぜ被害者は誰にも目撃されていないのか
なぜ犯人は身代金の要求を5回でやめてしまったのか
なぜ犯人は引っ越したばかりの被害者の家の隣家に脅迫電話をかけてきたのか
なぜ遺体はわざわざ発見されやすい投棄のされ方をしたのか
なぜ祖父は引越しの前の日に新居に来ていたのか

捜査は難航する

そして
平成27年
被害者の父親・須藤勲が他殺死体で発見される
・・・・






下り坂をそろそろと下る

2016-05-15 | つれづれ日記
林檎の花の季節になりました

「下り坂をそろそろと下る」(平田オリザ)を読む




「まことに小さな国が
衰退期をむかえようとしている」
とはじまる一冊
(「坂の上の雲」(司馬遼太郎)の
「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」のもじり)

筆者によれば
この国はもう成長しない
「成熟」と呼べば聞こえはいいけれど
実は長く緩やかな衰退の時間にあるのだ
(そうでしたか・・・)

こういうときに一番難しいのは
衰退の寂しさに耐えることだ
と筆者は言う
そして
勝たなくてもいいから
おおらかに負けない社会をつくらなくてはならない

例としてあげられているのは
コミュニケーション教育に取り組んでいる小豆島
滞在型アートセンターを作った豊岡
身体表現と舞台芸術マネジメントコースを作った四国学院大学
獅子振りを軸にして復興に取り組んでいる女川

下り坂をどうやって下ればいいのかの答えを求めて読むと
あっさりと裏切られる
筆者の専門とする演劇と表現に関する取り組みが語られているだけだからだ
アトハジブンデカンガエナサイ

そうだった
今までにない時代なのだから
(そろそろと
ということはこの坂は相当急なのかもしれない)




君の膵臓を食べたい

2016-05-13 | つれづれ日記
オダマキが咲いている

話題の
「君の膵臓を食べたい」(住野よる)を読む




高校生の春樹は
盲腸の手術後の抜糸のために行った病院で
「共病文庫」と書かれた冊子を拾う
そこにいたのはクラスメートの山内桜良だった
「共病文庫」は桜良の日記だった
桜良は膵臓の病気にかかっていて余命1年と診断されているというのだ
でも
そのことを家族以外の誰にも知らせていない
知られてしまったら腫れ物にさわるように扱われるだろう
桜良は「普通に」暮らしていきたいという

でも
なぜか
春樹にだけは言ってしまう
そして
春樹を強引に誘って「やってみたかったこと」をやりはじめる
焼肉をお腹いっぱい食べること
スイーツバイキングに行くこと
新幹線に乗って旅に出ること
お酒を飲んで酔っぱらってみること
男の子と泊まってみること
・・・・

やがて死は訪れる

桜良は「共病文庫」に書き遺していた
春樹を以前から「凄い人」だと思っていたこと
「君は人との関わりじゃなくて、自分を見つめて魅力を作り出していた」から
春樹も人の中に居る桜良を
「凄い人」だと思うようになっていく

2人の 交わす会話が
動くにつれて色を変えていく石のように変化するところに
魅了されます






テミスの休息

2016-05-08 | つれづれ日記
雀の落し物から咲いたらしい紫のスミレが
さかり

「テミスの休息」(藤岡陽子)を読む




(テミス=ギリシア神話の法・掟の女神)

10年前に離婚して息子と2人暮らしになった沢井涼子は
その時から10年
弁護士の芳川有仁の事務所で事務員として働いて来た

その事務所に持ち込まれる事件が描かれる

事件は結構重い
長年付き合った恋人に結婚式直前に婚約破棄された女性
絡んできた同級生を誤って殺してしまった青年
亡き夫の愛人の子に山の土地を譲ろうと遺言を書く老婦人
人身事故を起こしてしまった妻のために被害者に謝罪し続ける男
過労自殺をした息子のために10年間戦い続ける父親

物語が進むにつれて
痩せた少年だった涼子の息子は高校生になり
芳川と涼子の距離も近付いていく

「沢井さん、もう六時ですよ。帰ってください」
パソコンの画面を睨んでいた芳川が顔を上げて
のんびりと言ってきた

という冒頭から
もう
この作品の空気感が伝わってきて
この空気感につかまれてしまいました





アンと青春

2016-05-07 | つれづれ日記
5月にしては雨の続く日々

「和菓子のアン」の続編
「アンと青春」(坂木司)を読む




デパ地下の和菓子屋「みつ屋」でアルバイトをしている梅本杏子は
ふっくらした体型からか餡に掛けてアンと呼ばれている

店長の椿
先輩店員の立花、桜井に色々なことを教えてもらいながらの日々
の前作とは雰囲気の違う逡巡する「アン」が
日常の謎をからめて描かれる続編

「飴細工の鳥」という言葉の謎
蓬莱山を注文した客の謎
向かいに出店した洋菓子屋の店員柏木と「アヒル」という言葉の謎
子供にジュースを飲ませない客の謎

いつも穏やかで親切だった立花が
アンに距離を置くようになったのはなぜなのか
休暇を取った立花は何処へ行ったのか
立花のくれた二つのお菓子
「秋の道行」と「はじまりのかがやき」
からアンは考える
「道行」の五色は日、月、里、海、山を現す?
かがやきは湖?プール?

全編を貫く鍵は意外にも「嫉妬」
嫉妬は
自分では意識していない望みを浮かび上がらせてくれる光でもある

和菓子に楊枝を入れる瞬間を愛するアン
炊きたてのご飯を食べる幸福感に満たされるアン
謎を解かずにはいられないアン

これからもお付き合いしたい主人公です







星読島に星は流れた

2016-05-01 | つれづれ日記
雨で
桜もだいぶ散りました

「星読島に星は流れた」(久住四季)を読む




孤島で殺人が起こるというミステリです

訪問医の盤(ばん)は
交通事故で妻とまだ幼かった娘を亡くして
ひとりで暮らしている
朝起きてコーヒーとパンケーキと煙草を傍らに新聞を読み
午後は3軒ほど患者を訪問し
またパンケーキを焼いて夕食にする
という日々

そんな盤に星読島から招待が届いた
星読島は数年に一度隕石が落下する
というので有名な島だ
島には天文台があってサラ博士という若い女性が暮らしている
もし隕石が落下したら招待された者にプレゼントされるという隕石観察会への招待だった

招待されたのは2万人近い応募者から選ばれた7人だった
サラ博士の教え子でNASAの職員のエリス
天才少女科学者の美宙
隕石販売業者のマッカーシー
自称ニートのディヴ
スミソニアン博物館員のアレク
陰気な中年女サレナ

その夜
本当に隕石が落下した

島の森の中から回収された隕石は
次の日姿を消し
同時に姿を消したマッカーシーが遺体で発見された

回線が壊されて通信手段がなくなった島に
7人は取り残される
犯人はこの中にいるというのに
・・・・

盤の孤独な暮らしぶりが
すっと胸に入ってきて
盤に沿って読んでいける
空気感のいいミステリです

なぜ星読島に隕石が落下するのか
なぜサラ博士は全員に
「今日が地球最後の日だとしたら何をするか」という問いをしたのか
などなどの伏線も
きれいに回収されています