1.教科書上の腕骨・陽谷・養老の位置
針灸学校教育で使用する東洋療法学校協会編「経絡経穴学概論」(旧版)で、小腸経上の腕骨・陽谷・養老の位置は次のようになっている。分かりにくいので図示してみた。
腕骨:手背尺側にあり、第5中手骨底と三角骨の間の陥凹部。
陽谷:手関節後面にあり、尺骨茎状突起の下際陥凹部。
養老:陽谷の上(肘側)1寸で、尺骨茎状突起と尺骨頭の陥凹部。
上記の穴は、経絡治療家は要穴治療として用いるだろうが、症状がこれら局所にない限りは、現代針灸派では、使う機会はめったにない。では、局所になる場合とは、どういうことだろうか。調べてみると、陽谷と養老穴は局所になり得ることが分かった。(針灸で治るという訳ではない)
2.陽谷=TFCC損傷
TFCCとは、三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex)の略である。
尺骨と三角骨の間にある軟部組織で、手関節の尺側の支持性、手首の各方向の運動性、手根骨-尺骨間の荷重伝達・分散・吸収に寄与している。ちょうど膝における半月板と同様にいわゆるクッション役割を果たしている。
TFCC損傷とは、この部の外傷および加齢変性をいう。タオル絞り、ドアノブの開け閉めなどの手関節のひねり操作の際に手関節尺側部の疼痛を訴えることが多い。
現代医学的治療は、安静、消炎鎮痛剤投与、サポーター固定、ギプス固定などの保存療法が中心で、3ヶ月経ても治癒しない場合、手術療法を行う場合もある。
3.養老=尺側手根伸筋筋筋膜症・同腱の腱鞘炎・同腱の脱臼
尺側手根伸筋の起始は上腕骨外側上顆、停止は第5中手骨底であり、手関節の伸展と内転(尺屈)作用を行う。その腱は、手関節付近で腱鞘構造をとり、尺骨茎状突起と尺骨頭の間にある陥凹部を走行し、さらに伸筋支帯にもカバーされている。尺側手根伸筋腱鞘上で、尺骨茎状突起と尺骨頭の間に養老をとる。
尺側手根伸筋腱を触知するには、手掌を下にして手を机の上に置いたまま、小指を背屈させる。すると養老に相当する腱部の動きを感じることができる。
1)支正をトリガーとして、手関節尺側に放散痛
2)尺側手根伸筋腱の腱鞘炎および脱臼
手の回内・回外の際には、尺側手根伸筋腱には、摩擦が加わり、腱鞘炎が生ずることがある。また容易に脱臼し、尺骨茎状突起を乗り越える。脱臼症状とは、尺側手根伸筋腱鞘の腫脹、腱溝に沿う圧痛で、回外時に脱臼した同腱を皮下直下に触れることができる。強い回内外に伴う疼痛を認める場合がある。
保存療法では消炎鎮痛剤、ギプス固定、サポーター固定、腱鞘内ステロイド注射が主となる。
3)尺側手根伸筋腱炎の症例(追加分)
筆者は最近、右養老穴部の痛みを訴える患者(78歳女性)を診る機会を得たので、どういうきっかけで養老部が痛むようになったかの一例を知ることができた。この患者は山登りを趣味としているが、その際、両手にストックを持つことを最近覚えた。今回の下山時、高低差のある処に下りたのだが、目測を誤ってドスンといった感じで飛び降りるようになった。その時、ストックを握った手が強制的に外旋・背屈してしまったとのことだった。
本患者の疼痛痛部局所である養老穴に刺針や運動針しても無効、同部に刺絡すると、やや有効という程度。本筋の上流である筋へ運動針しても、効果なし。現在まで2ヶ月間に4回程度治療したが、痛みは初回治療前の半分程度存在しているという。治療は予想以上に難しいらしい。
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