現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

坐骨結節滑液包炎の針灸治験

2014-05-10 | 腰下肢症状

1.症例報告(19歳、男性) 

1)主訴:左殿部痛

2)現病歴
当院初診2ヶ月前から両の殿痛~下肢痛が出現。歩行時は、左大腿が前に出にくくなった。1ヶ月前からは整形受診し投薬治療を受けたが、あまり改善しなかったといいう。
本患者は1年前(高校2年)まで、野球のピッチャーをやっていたが、現在はスポーツはしていない。ピッチャー時代、左上殿部痛や左下腰痛のため、たびたび当院の治療を受け、その度に寛解していた。

3)針灸治療と経過
当初、殿下肢痛は、梨状筋症候群由来と考えて、坐骨神経ブロック点刺針を実施。また左大腿前面が前に出しにくいというのは、鼠径部の圧痛顕著であることから、大腿神経の神経絞扼障害と考え、鼠径部から大腿神経を狙って衝門外方から刺針したところ、症状は大幅に軽減した。 
 
1週間後再来。前回症状は改善したが、椅子に座ると左下殿部が痛んで座り続けることができない。仰向けに寝られないとうった新たな訴えを述べた。坐骨結節を押圧すると跳び上がるほどの圧痛点を発見した。

4)診断
大腿二頭筋起始部腱炎を考え、伏臥位で圧痛の強い坐骨結節のハムストリング筋起始部、すなわち承扶の上方約2横指を取穴。この刺針同筋を伸張状態にさせて刺針して雀啄実施。これで仰臥位での就寝が可能となり、硬い椅子に長時間座ると痛む症状は軽減したとのことだった。しかしそれ以降、数回来院し、同様の治療を実施しても、治療直後改善するのみで、長期的に症状鎮静化させることは困難だった。 
※承扶穴は、教科書的には殿溝中央を取穴する。大殿筋・半腱様筋・大腿二頭筋長頭の交点である。これは坐骨神経痛の治療に使うことはあっても、今回症例には使えない。坐骨結節に対する刺激は、承扶の上方2寸くらいから触知し、刺針する必要がある。 

5)文献検索と治療の再検討
病態把握が甘いかもしれなので、<坐骨結節、疼痛>との複合ワードでネット検索してみると、どうやら坐骨結節の滑液包炎らしいことが判明した。単なる坐骨結節の筋腱付着部症ではなかったらしい。筆者は以前、アキレス腱滑液包炎になったことがあり、アキレス腱部がチクチクと痛んだことを思いだした。いわゆる筋痛とは異なる感覚だった。

坐骨結節滑液包炎は、サッカー選手がかかりやすく、ボールを蹴る際、その軸足となる坐骨結節部に痛みが走るとの記載もあった。痛みがしつこく難治であって、スポーツを辞めることや、手術に至るケースもあるという。
このような知識を得た上で、さらに問診してみると、本患者は高校時代ピッチャーだったが、現在投球動作で、左脚を挙げてふりかぶる際に一瞬、足の右小指側に全体重をかけるが、この時、左坐骨結部がチクンと痛むという点も坐骨結節滑液包炎を伺わせるものだった。

 

2.坐骨結節滑液包炎の針灸治療法

これまでの坐骨結節部の圧痛点治療は、やや有効という程度だったので、今回は同一治療点に運動針をすることを思い立った。単に坐骨結節に刺針するには、伏臥位で構わないが、ハムストリング筋屈伸の運動針をするとなれば、仰臥位で、患側下肢を持ち上げるようにして股関節を屈曲させ、術者は患者の膝窩あたりに首をもぐり込ませて、この肢位を保持しておく。この状態で刺針する。その後針を置針した状態のまま、股関節の伸展と前屈の自動運動5~10回を行わせる。以上のような手技を行ってみた。

すると単に置針や手技針をした時に比べ、坐骨結節部の痛みは軽減し、ピッチング動作時も痛みは大幅に減少する結果となった。
針灸の刺激の与え方によっては、坐骨結節滑液包炎も、針灸適応となることを確認した次第である。  

 

 


 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
質問です (山田)
2014-05-12 11:44:23
運動鍼の部分で質問させてください
私は運動鍼は普段用いないのですが
運動鍼をする場合も刺入は適切な深さまで刺入しますか?
今回の場合であれば坐骨結節関節包付近まで
患者の体格にもよりますが2-2.5cm前後でしょうか?
また、患側の股関節屈曲時には術者の首は抜きますか?
それとも姿勢保持のために首は入れたまま首~90度程度の運動でしょうか?
無知ゆえの長文です申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
山田先生への返信 (似田)
2014-05-13 11:30:32
1.関節可動域は、針を深く入れれば、狭くなり、浅く入れれば広く成ります。まず該当筋中に普通に刺入、関節を動かします。最初から自動運動は行わせる訳ではありません。患者は脱力させた状態で、術者が関節をゆっくりと動かします。その際、痛くなったら教えて下さいと言うのを忘れずに。
2.痛いと言ったら、針を少し引き抜き、他動運動を再開。これを繰り返し、結局痛みを感じない深さまで刺入することになる。その後、自動運動を行う。
3.今回のケースでは運動時、当然術者の首を引き抜く。
4.万一のことを考え、切針予防に太めの針を使うこと。今回は中国針2寸8番程度を刺入しました。

コメントを投稿