きりはりへりをり

あまねそうの短歌ブログ。歌人集団「かばん」所属(16年度副編集人)。歌集『2月31日の空』kindleストアにて販売中

『ショートソング』(コミック版)

2008年02月15日 | 短歌を語る

なんなんだろう、この感覚は。『ショートソング』のコミック版をあらためて1巻から読み直した。2巻で完結。笑える。でも、せつない。いや、笑えるからせつないのかもしれない。小説版を読んでからブログを書こうとしたけれど、感想を書かないと眠れない感じなので短めに。             


まず、掲載されてる短歌がおもしろい。歌会でお世話になっている方の短歌がとりあげられていたが、それも含めてどれもいい歌だ。             

好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君  枡野浩一             

最初から入っている愛の切れ目を歌手は拡大して歌うのだ  笹井宏之             

いつまでもおぼえていよう 君にゆで玉子の殻をむいてもらった  宇都宮敦              


そのしっかりした土台があって、このストーリー。大人になってゆく青年の姿、若いときの輝きを失って落ちてゆく歌人。その時間の流れ方が、無性にせつない。             

また、物語そのものだけでなく、「物語の構成」にもせつなさを感じた。脇役の登場人物が出てきては消えてゆく。脇役に関係するネタが、ふられたままの状態でどんどん話が進んでいって、解決しないままに他の話題に移ってしまう。それが、一過性の人々との出会いや別れに、より深いリアルさを与えているのだ。             

実際自分のまわりでも、すべての人が強い関係で結ばれているわけではない。「一過性」と言ってもいいような出会いや別れの連続である。人に誤解されたまま会わなくなることももちろんある。だからこそ、せつないのだ。特に青春は。             

『ショートソング』を読んで、そんなことを感じ考えた。            

といいつつ、小説版はどうなのだろうか? もしそれぞれのネタについてしっかりと回答がでていたら、コミックとは全く違った感想になるのかもしれない。


「歌人というのはほぼ例外なく 短歌を始めたころが最大級に輝いていて あとはその輝きの残像を追い求めていくしかない」             

「短歌は初心者のころのほうが楽しいんだ つくればつくるほど苦しくなる」             

「あとから短歌始めたやつのほうが勝てるに決ってるじゃん」             

この主人公(歌人のほう)の言葉が気になった。もしかしたら枡野浩一さん(原作者)の言葉を代弁しているのではないか。そう思うくらい、この物語の流れの核心になっている。             

これについては、穂村弘さんのように、最近の作品のほうがおもしろい歌人もいるように思う。ただ、それぞれの個性に注目が集まるのはやっぱり「始めた頃」。そのスタイルが革新的であればあるほどそうだ。

そして、切り拓かれた新たなスタイルは、新たな歌人に模倣されてしまう。いや模倣するくらい影響を与えてしまう。自分がはじめて超えたハードルを、後から出た歌人は簡単にスルーしていく。そういった苦悩がカリスマ的歌人にはあるのだろうと思う。

プロとして仕事に取り組む自分や短歌にむかう自分について、改めて考えさせられた。


●枡野浩一原作/小手川ゆあ漫画 『ショートソング』 集英社 2007-8



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2 コメント

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龍二月号投稿歌より (藤本孝子)
2008-02-19 09:19:40
 黄河のほとりに咲く大いなる菜の花を見ることもなく
 六十代終る

 冬晴れのわが誕生日まあいいか小鍋に沸かすミルクが
 甘い

 言挙げして始むることもないけれど雪降る朝七十にな る

 朝になればみんなに会えて夜になれば独りになれる我 や七十

 逃げ場所はもうない七十になりし朝に食ふてゐるのは 卵かけご飯

 七十になりたればもう化けられぬ顔をあげてゆく寒風 の中
記事にしました☆ (そう)
2008-02-19 14:24:52
短歌を送っていただきありがとうございます。記事にして紹介させていただきました。&カテゴリーに『藤本孝子/『龍』を追加し、見やすくなったと思います。