きりはりへりをり

あまねそうの短歌ブログ。歌人集団「かばん」所属(16年度副編集人)。歌集『2月31日の空』kindleストアにて販売中

詠みつがれる戦争歌(短歌研究07年8月号)

2007年08月05日 | 短歌を語る

蝉の声が閑かさをひき立て、湿気の匂いがただよう8月。まもなく広島、長崎の原爆忌や終戦記念日を向かえる。

短歌研究8月号の戦争歌の特集に、「詠みつがれる戦争歌」という比較的若い歌人による作品群があった。それぞれの歌人が異なった視点から戦争を捉えている。今日はそれらの歌を鑑賞してみたい。

「せんそう」を逆引き辞典で引くときに最初に出合う阿片戦争 松村由利子  

「ミルクを満たす」の連作一首目。まずこの歌から特集を読みはじめることになる。戦争は辞典で調べるものという感覚は戦後世代ならでは。

原爆の投下の史実さへ知らぬ若者多きこの国に住む 渡辺幸
戦はぬ勇気を勇気と思はざる「普通の国」に成り果ててゆく            

「イギリスにて」の連作より。イギリスでの出来事や、改憲、イラク問題などを取り上げ未来に警鐘を鳴らす一連となっている。政治や歴史の中での自己の位置づけを強く認識しているからこそ、身近を一歩越えたところで戦争の気配を感じられるのだろう。

地を這ひゐて蟻の巣穴に入りたしと願ひたりける心かなしも 横山未来子
草の穂に夕陽のわづか溜れるを眺めておもふ明日の日のこと                      

「真昼の星」の連作より。横山は現在の視点から戦争を詠うのではなく、戦場そのものを描き出すことによって、追体験として実感を得ようとしている。

戦争をなくして六十年 愛の告白のように「死ね」という子ら 千葉 聡

学校では「死ね」という子どもらの言葉が飛び交う。子どもたちにとって、死はリアルではないのだ。

みづからを群に放り込む儀式なり毎朝きまつて駆け込み乗車す 小川真理子
先頭の女性専用車輛にて飛びこみし者を真つ先に轢く

「戦死者数は本日もゼロ」の連作より。日本は60年以上戦争で人を殺していない。しかし自殺者の増加などもあり、日常はもはや戦場と化している。

東芝がお送りしますサザエさんとロケットシステム指揮装置と 八木博信
目敏きは狙撃スコープ父が遺すカメラと同じNikonの印          

「軍事立国」の連作より。見落としがちな企業と戦争の関係をシニカルに描いている。           


未来2007年6月号より

2007年08月02日 | 短歌を語る


どの人が爆発するかわからない渋谷の街は人であふれて
  西巻 真

上記の西巻真さんの一首は、『未来2007年6月号』の加藤治郎選「彗星集」に掲載されている。

選者の選歌後記には「驚嘆した。現実を半歩超えたリアリティーがある」とある。同感だ。この一首全体はとても抽象的であるにも関わらず、なぜか強いリアリティーを感じる。その理由は、「爆発するのが渋谷である」ということに必然性があるからだろうと思う。

人ごみに自分を見失ってしまうような、人に行く先を遮られているような、そのような思いにかられるのは、なにも渋谷に限ったことではない。新宿、池袋、六本木などでも同じだろう。

しかし渋谷には他の街には無い「幼さゆえの危うさ」があふれている。意識的につくられた明るさが、少年少女の欲望と空虚な心を色とりどりに照らし、おさえられない衝動がうみだされる。

キレる、騒ぐ、売る、買う、打つ。。。

大人でさえも場の雰囲気に飲み込まれてしまうような、そんなニュアンスが「渋谷」に込められているのではないだろうか。「爆発」を誘発するような街=「渋谷」であるからこそリアリティーがあるのだ


プロフィール

2007年08月02日 | ■はじめに

プロフィール 09/06/30 (追記14/01/08)

あまね そう(天昵 聰/AMANE So)

歌人集団「かばん」会員

1976(S.51)年生

【経歴】
・2003年3月 法政大学大学院社会科学研究科修士課程修了
・04年4月-09年3月 公立中学校教諭(社会科)
・09年4月- 心理職

【歌歴】
・07年10月 歌人集団「かばん」入会。
・08年9月 「ファイバーと虚数の世界」(連作30首) 第51回短歌研究新人賞最終選考通過
など
・13年3月 第一歌集『2月31日の空』出版(kindle版のみ)