神秘の島

これは、日本海域に浮かぶ離島で暮らしていたアカネが、郷里に帰ってからも巻き起こす、陳腐な体験の数々である・・・

神秘の島の初体験

2006年05月27日 | 日々是好日
 アカネみたいにずぼらで中途半端者だと、普通に生活しているだけで「やりかけ」のものが溜まっていってしまう。
 今日はその中の一つ、作りかけだった「手紙入れ」を完成させることにした。

 何のことはない。以前友人からもらっていた、サイズの大きいジーンズにいろんな布を貼り付けて、手紙を入れて飾ってやろうと思ったのが始まりである。
 アカネという生き物はめんどくさがりなくせに貧乏性なので、必要なものがあっても「これ、自分で作れるんじゃないか?」などと考えてしまい、結局とりかかるのが億劫で、何ヶ月もそれがないために不便な生活をおくるのが常である。
 しかも、自分で作ったらほとんど全て失敗して、手間と時間を失って後悔したりするのだ。

 
 さて、余り布などを縫い付けているこの糸、そういえばリンカーン島で買ったものだ。

 リンカーン島に来てまだ間もなかった頃、アカネは12:00の船に乗って買い物に出かけようとして、朝8時に起きたものの、風呂に入ったり服を選んだり化粧をしたりお菓子を食べたり本を読んだり、と悠長に時間を使いすぎた結果、何時間も前から準備していたにも関わらず、12:00の船に乗り過ごしてしまった。
 一便逃すともう次がないのがリンカーン島である。
 アカネは諦めて、港の傍の商店にお菓子を買いに行った。

 その商店は、時が30年は止まっているかと思われるような駄菓子屋だった。
 チップスターを手に取ると、う”っ、賞味期限が過ぎている。
 店の奥にはお婆さんが座っていて、お婆さんの後ろにボタンだとかレースだとか、裁縫道具を収納している棚が見えた。
 アカネはバイトで使っていた「MICAL」のロゴ入りエプロンを、可愛い布をあててリメイクしたいと前々から思っていたのだ。
「あの、ここで糸買えます?」
「糸ね、へぇへぇありますよ。前はねぇ、和裁も洋裁もする人がたくさんいて、ようけ取り寄せてましたけど、最近はねぇ・・・」
 そう言って引き出しを開けて糸を捜してくれるお婆さん。アカネは、その引き出しの中を、長い触角を持った黒い虫がサッと動いたのを見て見ないふりをした。

「へぇへぇ、ありました。青い糸と、ピンクの糸ね。」
「それと、ズボンに入れるゴムもください。長さは・・・」
 今度は、別の引き出しからササッと黒い影が走る。
「ありがとうございました。」
 アカネがそう言って商品を受け取ろうとしたとき、あろうことか、愚かにもその虫がアカネとお婆さんの前にチョロ出てきたのである!
「あ、ゴキブリ。」
 お婆さんは冷静にそう言って、ばしん!!! 
 素手でゴキブリを叩き潰したのである!しかも引き出しの中の商品の上でである!!
「あれあれ、手ぇ洗わなぁ。」
 お婆さんは触覚の痕がついた手を見てどこまでも平静であった。

「ありがとうございましたぁ!!」
 アカネは何故か来たときよりもスッキリした気持ちになって店を出た。
 リンカーン島だもん!イイよね!!

 アカネも、したたかに逞しくリンカーン島で生き抜いていかなければ!

画像UPできたよー!!

2006年05月27日 | お気に入り
 今日は夜勤明けだけど眠くなかったから、こんなん作ってみた。
 その名も「手紙入れ」。前から作りかけていたのを完成させたのだ。

 ジーンズは友達からのもらい物。
 布2種類と、よれよれになったキャミソール、頂き物のカットソーをほどよい大きさに切って、ちくちくちくちく……
 カットソーは、わざとボタンのところを持ってきて、変化を出してみた。
 ジーンズのベルトのところと、カーテンレールをスニーカーの紐で結ぶのだ。

 ぜーんぶ手作り
 手作りするのとか、裁縫が好きなわけじゃないけど、お金をかけずに工夫するのが好き。余った切れ端で、布ナプキンでも作ってみよう。
 多分これ、前のほうが前のほうが重くなって、手紙たちを入れたらダラーンって前に落ちそうになると思うけど、まあいいや

 やり残していたことを仕上げるのって、ほっとする。課題を一つクリアした感じ。
 なにしろ、画像のUPの仕方がわかったのが嬉しい。
 まだまだ解らんことあったし、手探り状態やったけど。

 これでリンカーン島の素敵な写真を見てもらえるわ

キャベツたちの鎮魂歌

2006年05月24日 | 日々是好日
 今日は島で農業をしているもりしーのお手伝いをさせていただく。
 今はブロッコリーが収穫期で、以前アオムシを潰したブロッコリーたちは、元気いっぱい、もさもさと蕾を膨らませていた。
 どのブロッコリーも、太くて、こゆい緑色で、すべすべしていてとっても美味しそうだ。アカネともりしーは、朝の七時前から収穫にとりかかった。軽トラの荷台にいっぱい積んできたコンテナがまだ足りないくらい、ブロッコリーはたくさんだ。
 とりあえず、コンテナ分だけ作業場まで持って行き、そこで箱詰め作業に移ることにした。
 途中から職場の先輩でありリンカーン島歴7年のメシハラさんも合流して、三人で葉を落としたり茎を切ったりしてコンテナに並べてゆく。
 
 しかしこの元気いっぱいのブロッコリーたち、どれも出荷できないのだ。
 今年の天候や植えた時期などいろんな条件が重なって、すでに蕾が膨らみかけていたり、房が離れすぎていたりと、出荷できる出来ではないという。お店に並ぶ頃には、すっかり花が咲いている状態になってしまうそうだ。
 そこでもりしーは、丹精込めて作ったブロッコリーたちを、あちこちにおすそ分けしている。(アカネも戴いたのだが、そのブロッコリーは肉厚で、火を通すとほんのり甘くなって、とっても美味しかった)

 そして、最大の決断とも言える、今回彼はキャベツを諦めたのである。キャベツ畑に選ばれた土地が元水田のために、排水に決定的な失点があったのだ。
 キャベツといえば、アカネも一度だけ苗をポットに移す作業を手伝ったこともあるし、畑に定植するのを手伝ったこともある。毎日毎日、もりしーがハウスの中で水をやって、顔色を見て、手塩にかけて育てていたキャベツたちだった。
 キャベツを植えるために、広い草地を何とかして耕し、畝を立てて畑にした光景を、アカネは見ていた。ベテランたちにたくさんアドバイスをもらいながら、試行錯誤でキャベツを見守っていたもりしーだった。
 一番苦しいのは彼だが、このキャベツに関わった人たちももりしーの苦しみを少しは共有している。
 アカネもメシハラさんも、いたたまれない気持ちで、捨てられゆくキャベツ苗を見ていた。

 農業には、諦めなければならない、そういう時もある。だけど、作物に感じるこのいわれも得ぬ愛着はなんだろう。
 アカネのじーさんもばあちゃんも、そのまたじーさんやばーちゃんも、ずっとずっと遡っての先祖たちも、この気持ちをずーーっと味わってきたんだろう。
 芽が出て愛おしいと想う気持ち、天候にはらはらする気持ち、うまくできた作物を誰かに分けてあげたいと思ったり、涙を呑んで苦渋の決断をしたり。
 農業には自然の制約があるから、大昔から、人は天候や災害などで、心を込めて育ててきた作物を諦めなければならないことが、多々あった。泣いても悔やんでも、ほんま生きるか死ぬかって状態になっても、きっと「でも、しょうがないよな。」って空を見て、また天気とにらめっこしながら耕して、種を撒いて、ずっとずっとそういうことを繰り返してきたんだろう。
 農業にたずさわってると、先祖代々の縦の繋がりをしっかり感じる瞬間がある。「ああ、この気持ちDNAに刻まれてるんだな」みたいな。
 
 アカネの前で不平を言わないもりしーの背中に、百姓の重みと覚悟を感じたよ。
 

ヘンゼルとグレーテルの呪い

2006年05月21日 | 日々是好日
 アカネとお菓子作りの関係を一言で言えば、「性に合わん。」ということだ。
 料理は作ってて楽しいと思えるし、逸品ができて顔の緩みを抑えられないこともあるが、お菓子なんて、生まれてこのかた一度も成功した試しがない、そういえば。

 
 あれは高校生の頃だった。焦がれていた殿方に、バレンタインの前日、クッキーを焼いたことがある。数々の恋の歌を心の中で熱唱しながら、勇気を振り絞って渡し、別の機会に感想を聞いた。彼はこう言った。
「妹と食べたよ。あっさりしてたけど。」
 その瞬間、アカネは思い出した。
「砂糖、入れ忘れちょった…!」


 そしてあれは大学生の頃だった。サークルの皆で、クリスマスイブに「シングルベルの集い」を開き(もちろんアカネ企画だ)、友達とクリスマスケーキを焼いて持って行くことにしていた。ケーキ型がないので、牛乳パックでパウンドケーキみたいに焼こうとアカネは考えた。既に開いている牛乳パックしかなかったので、ガムテープで立体にとめて生地を焼いたところ、オーブンから強烈なガムテープ臭が炸裂し始めた。
 何たることだ。その生焼けの生地は、ケチで貧乏性で節約家のアカネでさえも、食べることができなかった。物凄い異臭だったのだ。結局友達の提案により、スポンジを買って来て、さも自分たちで焼いたかのように後輩たちに振舞ったものだ。


 そしてそしてリンカーン島でいろいろとチャレンジした結果が、今までの記事の通りである。こうまでくると、まるでヘンゼルとグレーテルに呪われているような気になってくる。
 しかしそれでもアカネがお菓子を作るのは、職場でや友達と会うときなどにさり気なくお菓子を振舞うことができると、確実にポイントがUPするに違いない、という確固とした下心があるからである。
 そして、夜勤明けの今日も、アカネは「コーヒープリン」にチャレンジしてみたのだ。
 呪いは、カラメルソースを作るときに降りかかった。

 ちょうどいい小鍋がなかったので、アカネは中鍋を傾けて、底の方でカラメルを練っていた。鍋の周りに付いたカラメルがもったいないので、傍にあったスプーンでこそげ落としていた。アカネは意識していなかった。
 
 そのスプーンがプラスチックだったことに。

 ふと手元を見ると、スプーンの先は飴のように鍋の中に溶けてなくなっていたのだ。びびってスプーンを鍋から離すと、溶けたカラメルが糸のように伸びて、そしてそのカラメルと共に、溶けたスプーンが白い糸を引いているではないか!!
 それは本当に恐ろしい光景だった。
「あたしは 毒を 製造して しまった!!!」

 必死で鍋を洗いながら、予感は確信に変わりつつあった。
「アカネがお菓子を作ると、何かが起きる。」
 この呪われた宿命を背負ったアカネを、ヘンゼルとグレーテルは森の中のお菓子の家で、超然とほくそ笑んで見ているに違いない。

ス不レ風ベイ苦怒チーズケー鬼

2006年05月13日 | 日々是好日
 ある日のことであった。
 カリスマが、アカネに囁いた。
「お菓子をつくれる女は、可愛いぞぉ
 その日から、アカネはケーキをつくれる女になろうと決意した。
 痴漢と変質者が増えるという、春先の頃である。

 初めて焼いたケーキは、「スフレ風ベイクドチーズケーキ」である。名前からすると大そうだが、何のことはない、お菓子の本に一番最初に出てくる、初歩的で最も簡単なメニューである。
 日曜日、寮にやってきたばかりの後輩とリンカーン島散策をする約束で、アカネは前日からケーキを焼くことにした。もちろん、「先輩って、お菓子も上手なんですね!」と一目置かれることが目的だったのは、言うまでもないことである。
 そしてまた、言うまでもなく失敗した。
 スフレケーキはまったく膨らまず、やせ衰えた病人みたいに貧弱だった。食べてみると手作りプリン並の濃厚な卵臭さが口中に広がった。
 これがベイクドチーズケーキなのか??卵の質が良すぎたのか!? どう考えても、アカネが失敗したのに間違いなかった。
 敗因は、まずメレンゲにある。
 卵白をメレンゲにしようと、アカネはひたすら混ぜ続けたのだが、白っぽくはなるのだがどうしても硬くならなかったのだ。一時間混ぜたところで、アカネは怒りのあまり「これがメレンゲの正しき姿なのだ!」ということにして生地に流し込んだ。
 この生地も曲者だったのだ。
 まず、本には「ボウルにクリームチーズとバターを混ぜて、云々」と書いてあったのでその通りにした。次に、「②卵黄、ヨーグルト、牛乳を混ぜて、どーたらこーたら」と書いてあったので、別のボウルにそれを作った。「③卵白をメレンゲに、ほにゃらら」と書いてあったので、三つ目のボウルで魔のメレンゲを作ろうとした。
 そして、本にはこう書いてあった。
 「③を、②の中に入れ、さっくりと混ぜた後 型に入れ、オーブンで焼く。」
 ・・・・クリームチーズとバターのボウルはどうなったのだ!?!?アカネはどこかを読み飛ばしたのか!?それともこのボウルはただの鑑賞用とでもいうのか!?
 訳がわからなくなったアカネは、型に入れる前に結局全てを混ぜ合わし、そのまま焼いてしまった。
 焼けた後、箸を刺して火が通っているかを確認すると、箸に生地みたいなのが付いてきた。しかし、生焼けなのか、「スフレ風」だからそれでもいいのか、それすらもアカネにはわからなかった。その時アカネは、疲れ切っていたのだ。夜11時から作り始めて、その時もう3時になっていたから。
 で、たくさんの疑問符を残したまま、寝てしまった。


 それ以来、お菓子作りはアカネの中で禁忌となった。
 カリスマの言葉と、メレンゲの恐怖。この二つが、アカネの中でせめぎ合っていた。
 そして、傷も大分癒えてきた今日この頃、アカネは再びリベンジを決意する。
 冷蔵庫を覗いてみると、「スフレ風ベイクドチーズケーキ」に足りないのは、牛乳くらいであった。さっそく店に買いに行く。
 そして、封印していた魔の夜を思い出しながら、慎重かつ手際よく作っていく。どうやら、クリームチーズと卵黄で別々のボウルを作ってはいけなかったのだ。砂糖も、あの夜は一度に全部入れてしまったが、二つのボウルに等分しなければならなかったらしい。
 そして、メレンゲだ!何人かに聞いたところ、どうやら泡立てるスピードが遅かったのでは?という結論に達した。職場の人によると、手で混ぜる場合、顔色が変わるぐらい必死こいてまぜなければならない、とのことであった。そういえば、アカネは手が疲れるので休み休み混ぜていたな。なんと、その人は家にあったもう使わないハンドミキサー、クッキーの型抜き、ふるいなどを譲ってくれたのだ!
 アカネは右手に気を溜めると、一気に泡だて器を揮った(電動のハンドミキサーに頼るんてやっぱ悔しいやん)。勝負は一瞬、今だけだ!!
 すると奇跡が起きた。ボウルの中に神が舞い降りたのだ。卵白は、ものの10分でメレンゲになったではないか!
 スゴイ!あたしってスゴイ!!型に入れた生地の状態、やっぱり違う!これは成功だ!!アカネは確信した。これで失敗だったら、もう男山の絶壁から飛んでもイイ!!
 よし、明日の夜勤に持っていこう。同僚の感動を独り占めだ!

 自分への賞賛にくらくらしながらオーブンに入れ、ふと顔を上げたとき、流しの上に封を開けてない牛乳が目に留まった。









                   ……………牛乳を入れ忘れていた